かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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魂の接触② 告白

 

「それで、ウルのプランを改めて聞いておこうか」

「神を引っぺがして、それをエンジンにして世界を再生する。結果、方舟と世界が滅んで二つの神が失われる」

「うーん、完全な世界破壊だ。疑う余地もない邪悪の所業」

「否定しない」

 

 ある程度察していたらしいディズでもこの感想だ。全くもって否定しがたい。ウルのやろうとしていることは蛮行と言っても差し支えないだろう。比べる話でもないが、取捨選択をして一方を護ろうとしたディズやシズクの所業の方が、被害数は少ないかもしれない。

 

「被害を軽減することはできる?」

「生きてるヤツ全員の努力次第」

「なるほどね。まさに責任の分配だ」

「そんな世界を強いる俺の責任は重いがな」

 

 結局、上手く行くかどうかを個人に委ねることが出来なくなるのがウル達のプランだ。

 縋ろうにも絶対的な力を持つ神は存在しなくなり、精霊すらも遠くなる。残された者達が自分達の力だけで何処までやれるかの戦いとなる。

 正直、ウルにもそこは計り知れない。激変する世界の環境が、どのように作用するのか読み切れないのだ。

 

 無論、その世界へと踏み出すことを選んだウルは人一倍に、やるべきことをしなければならない。ユーリにも釘を刺されたし、逃げるつもりは無かった。

 

「なら、その責任を私も分配して背負おうかな」

「眷属になって良いと」

「神様にはなれないけれど、皆の事は諦めたくないしね」

 

 それに、とディズは、そんなウルをのぞき込むようにして言った。

 

「ヒトに言っておいて、君は君で色々背負っちゃうタイプだし」

「……互いに監視体制用意した方が無難か」

「そういうものでしょ、君が目指すのって」

 

 ウルは立ち上がると、難しい顔で腕を組み、脅すような口調で言った。

 

「世界が安定するまでどんだけ時間がかかるか分からんとは言っとくぞ、下手すりゃ何百年だ」

 

 既に大幅に人類という形から逸脱したウルは、恐らくは真っ当な死期は迎えられない。眷属となればそれに引きずられるだろう。神のような絶対的な存在からはほど遠いが、人類というには逸脱した、そんな半端な存在となる。

 そんな存在となって戦い続けるのは、決して楽では無いはずだ。もしかしたら彼女が忌避した神になるよりも遙かに過酷になるかもしれない。

 

 だからウルはハッキリと告げた。

 

「その間、ずっと俺の眷族、下僕だ。覚悟しておけ」

「良いね、それ」

 

 ディズは即答した。ウルは訝しんだ。

 

「……なあ、アカネ。ディズどうしてこんななってんの」

「にーたんのせいよ」

「そっかあ……」

 

 アカネがそう言うならそうなのだろう。ウルは反省した。

 

 

 

              ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ディズはウルとアカネが見守る中で、一人目を瞑り瞑想するような姿勢を取っていた。

 だが、しばらくすると彼女の胸元から、昏い灰の炎が吹き上がると、彼女の身体を覆うように周り、鎧のようになった。ユーリが見せた姿と似て非なる姿となった彼女は満足げに頷く。

 

「うん、代わりになってるね。太陽神の力は使えない」

 

 眷属化はひとまずは無事に完了したらしい。ウルは安心したようにため息をついた。ユーリで試してはいるが、やはりぶっつけ本番で在ることに変わりは無い。

 

「あれ、あたしはおいだされんの?」

「あくまでもこれは、対神用の対策だからなあ。アカネには通じないんだろう……多分」

 

 隣のアカネは不思議そうにするが、ウルも確かなことは言えない。リーネかグレーレかシンタニかがいれば説明してくれそうな気もするがこの場にはいない。ノアも今は沈黙しているのでさっぱりだ。

 

「どうあれ、アカネとは一緒にいられた方が嬉しいな」

「んふっふー」

 

 ともあれ、ディズにそう言われてアカネが上機嫌になったので良しとした。

 ひとまずこれで巨大な問題の一つであった太陽神の方はなんとかなった。まだ現実に反映されてはいないだろうが、恐らく目を覚ませば太陽神が彼女から押し出されているはずだ…………問題は――

 

「……」

「ウル?」

「まあ、トラブルがあるかもってくらいだ」

「んまー、にーたんだしすんなりいかんでしょ」

「傷つくぞ」

 

 アカネからの正論が耳に痛かった。これまでの経験を思えば反論の言葉が一つも見つからないのが余計に突き刺さる。

 

「まあいいさ。そっちは後で考える。起こってからだ」

 

 起こってもいないトラブルに怯えて竦んでいても仕方が無い。思考を切り替えるようにウルは首を振ると、そのまま振り返る。

 

「今はもう一つの大問題の方だ」

「うん」

 

 ウルとディズ、アカネが立つ丘の上にいつの間にかぽつんと一つ、扉が存在していた。無機質な、真っ白の扉。魔界のドームでよく見掛けた、触れずとも自動で開く、機械の扉だ。

 

 それが何の扉かは皆分かっている。

 

 月の女神、シズクの魂へと続く扉だった。

 

 

              ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 シズクとディズ、同時に触れて干渉しているためか、3者の魂は現在密接に繋がっている。その繋がりが扉という形で現れていた。

 

「ユーリやディズは、なんだかんだ理性的に話が出来たんだが……」

 

 その扉の前でウルは腕を組み、苦々しい表情を浮かべている。

 

「こっちはなあ……」

「そんなに厳しい?」

「ヤバいもんが出るのは間違いない。何せ魂の接触だ」

 

 ユーリやディズの過去が、魂が容易かったなどと言うつもりはない。むしろ彼女らはそれぞれに鮮烈な過去を持ち、強い意志を放っていた。

 だが、恐らくシズクの魂は彼女たちのそれとは()()()()()()()()()()

 どのような代物が飛び出してくるのか想像もつかない。魂の接触に慣れ始めたウルでも、容易に踏み込もうとは思えぬような気配が、扉の向こうから感じられた。

 

「私は行けないの?」

「今は俺の眷属だ。行けないことはないと思うが……」

 

 物は試し、とディズは扉の方へと手を伸ばした。が――――

 

「む」

 

 次の瞬間、刃のように鋭い氷柱のようなものが扉か飛び出して、ディズの手を貫こうとした。ディズはすぐさま手を元に戻して距離を取るが、明確な敵意を向けてきた扉に、ディズは眉を顰めた。

 

「うん、完全な拒絶だね」

「わたしは?」

 

 続いてアカネが妖精の姿で近づく。が、全く同じだった。扉から放たれた冷気にアカネは吹き飛ばされた。

 

「んにゃー!!?」

「ダメだな」

 

 飛ばされたアカネを抱きかかえながら、ウルは唸る。

 

「彼女にとって私とアカネは殺さなきゃいけない相手。対話の余地がない」

 

 となると、と、ディズがウルへと視線を向ける。ウルはうなずき扉へと近づく。やはり彼女たちに向けられたものと同じ、痛みを伴う激しい冷気が放たれた。だが、弾き飛ばされて拒絶されるほどでは無かった。

 耐えられないほどではない。

 

「痛いが、いけるな」

「むー」

「不満げだな」

 

 アカネはふくれっ面だ。ぷんすこの顔で扉を指さしてアカネは叫ぶ。

 

「いいたいことやまほどある!」

 

 ウルが彼女たちに接触するまでに、本当によっぽど腹に据えかねることがあったらしい。ウルに関わらないことでアカネがここまで明確な怒りを示すことは本当に珍しい。

 だがそれは、親愛から生まれる怒りだった。相手を思うが故に生まれる激情だ。彼女が本気で怒るときは大抵そうだ。ウルはアカネの頭を何度も撫でて、彼女を宥めた。

 

「お前の分も、出来る限り伝えるべき事を伝えるよ。」

「むー………にーたん」

「なんだ」

 

 妖精の姿となったアカネは、その小さな手の平をウルの手に乗せた。

 まるで願いを託すように。

 

「シズクのてを、にぎってあげて。ひとりじゃきっと、むずかしいから」

「ああ」

 

 頷くと、満足そうにアカネは笑って距離を取った。さて、とウルは扉へと改めて近づこうとした。が、その前に、

 

「あ、そうだ。私も」

「ん?」

 

 ディズが思い出したようにウルへと近づいた。

 

「目を覚ましたら多分どたばたになるし、時間ないだろうから今の内」

 

 何?と問う前にディズは近づくと、そのまま淀みなく顔を近づけて口づけてきた。あまりにも自然な動作過ぎて、ウルは一切反応することも出来なかった。

 

「嫌だった?」

「…………いーや、嬉しいよ」

 

 首を傾げて尋ねてくる彼女は大変に愛らしい。が、少し緊張もしているようだった。ので、ウルは素直に受け入れた。色々言いたいことやら聞きたいこともあるが、今は後だ。

 

「貴方のことが好きです。死なないでね」

「精一杯、努力する」

「シズクを助けてあげて」

 

 ウルは頷き、こんどこそ白い扉に手に触れる。目一杯の拒絶を肌で感じ取りながら、念じると、実際のドームの自動ドアと同じように、駆動音と共に扉は開いた。

 扉の先にはディズの記憶の風景から隔絶したような暗闇が続いている。ウルは覚悟を決めるように息を吸い込むと、その中へと足を踏み出した。

 

 

 

              ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 闇の中へと進んでいく。

 

 振り返ってみると、既にウルが入ってきた白い扉は消えて無くなっていた。

 今ウルは、シズクの魂に接触しているのだと感覚で分かった。先ほどまでディズと対話していたとき、ウルは肌に暖かさのようなものを感じた。それは恐らくディズ自身の魂から発せられる彼女の優しさに触れていたからだ。

 

 だが、この暗闇にはそれはない。

 寒い、とウルは否応なく思った。

 

 相手を拒絶するための寒さではなかった。彼女自身をも傷つける寒さが、魂の内側に染みこんでいた。芯まで冷え切った冷たさが、空間を満たしている。

 その中をウルは躊躇わず進む。

 ずっと続く暗闇の中を、どれほど歩き続けただろう。魂の世界で時間の経過は酷く分かりづらい。次第に視界に変化が起こった。

 

「…………ん?」

 

 ウルは眉を顰める。

 

「――――――」

 

 何か、白いものがこちらを待ち受けるように立っていた。

 

 

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