かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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仲間たちと

 

 何処までも見通せる闇の中で

 

「皆を、幸せにすることができればって、そう思ったんだ」

 

 男がいた。

 なんというか、見た目はぼんやりとして、優しそうではあるがだらしなくも見える男だった。彼は一つ一つを思いだそうとするように、ゆっくり言葉を紡いだ。

 

「子供みたいな祈りだったけど、それができたらどれだけ良いかって思ったんだ」

 

 両手を重ねて、額につける。

 一千年の時を経ても尚、比べる者も居ない偉大なる知性を有する男のとる仕草とは思えない、祈りの所作だった。しかしそれは恐らく、彼の最も根幹に存在する善性を表していた。

 

「出来るって思ってしまった。驕ってしまった。それが多分、間違いだったのかな」

「どうかね」

 

 隣で、彼の話を聞いていたウルは首を横に振る。

 

「少なくとも俺は、アンタを裁ける程立派な奴じゃないよ」

「……」

「だけど」

 

 彼の行いを否定したのは、自身の願いを貫くためで、それだけだ。もしかしたら結果として、それが更なる混沌へと世界を導くことになるかもしれない。本当は彼が世界を一新しようとした事の方が正しいのかも知れない。

 願いに善悪の保証はないのだ。だからウルに、彼を裁く事なんてできない。わかるのは一つだけ、

 

「アンタの願いは、優しいって思ったよ」

 

 それはただの、子供のような感想だった。

 だけど本当にそう思った。誰しもが笑えたらとても素敵なことだと、本気でそう思える彼の善性に、願いに、ウルは優しさを感じた。だからありのまま、彼にそう告げた。

 

「そっか…………そっか」

 

 そんな陳腐な感想をどう思ったのかは分からなかった。だけど彼は言葉を繰り返す。そして最後は本当に、肩の力が抜けたように、ウルへと笑いかけた。

 

「ありがとう。君のお陰だ。それに――――」

 

 と、彼はウルの指先を見つめる。すると不意にウルの指先から光が零れた。蒼い髪色の幼い子供が、いつの間にかウルの腕の中から現れた。

 

「おとう、さん」

 

 そしてぽろぽろと涙を流しながら、即座に目の前の男へと飛び込んだ。男は子供を抱きしめて、いたわるように、褒めるように、優しく何度も頭を撫でた。

 

「大変な事をさせてしまって、すまなかったね、ノア」

「うまく、できませんでした」

「いいや、お前は叶う限り、全てを果たしてくれた――――ありがとう」

 

 どれほどそうしていたのだろう。泣き続けるノアを彼はずっと抱きしめ続けた。

 そして最後に優しく、少しだけ名残惜しそうに、ウルへとノアを返した

 

「ノアをよろしくね。寂しがり屋だから」

「まあ、仲良くしていくさ。アンタと違って、俺は出来ないことばかりだからな」

 

 ウルの返事に「なら、大丈夫」と、彼は笑った。

 

「さようなら」

「ああ、さよなら」

「おとう、さん……!」

 

 ノアと共に手を振る。彼は振り返らず去って行った。

 それを見送った後、少年もまたノアと共に背を向けて、戻る。帰るべき場所へ――――

 

 

              ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 意識が起き上がると、どんな夢だったか思い出せなかった。

 

 だけど、優しい夢を見た気がした。

 

 眠りから浮上すると同時に、ウルは暖かなものを腹から感じていた。

 この、長きに渡る戦いの最中、死に瀕するたびに感じていた暖かさだった。「大丈夫かな?死なないかな?というか今日一日で死にそうになりすぎじゃないかな?」と心配そうに体にぬくもりを与えようとしてくれる不死鳥(フィーネ)の気配を感じた。

 

 ――心配するなよ。流石にもう死にやしないさ。

 

 そう、返事をしながらも、瞼はまだ瞑ったままだ。

 もう起きなければ、と理性は訴えているが、いや、流石にもう少し寝させろという本能の声の方が圧倒的に大きかった。全身の隅々、指先一本に至るまで悲鳴を上げ、とにもかくにも休ませてくれと訴えていた。その要求にウルは抗うことも出来なかった――――が、

 

《にーたんおきろやああああ!!!!》

「おおあああ!!?」

 

 そのまどろみはつんざくほどの妹の声によって消し飛ばされた。

 ウルは身体を跳ね上げて起きると、どうやら自分は狭い洞穴のような空間にいることに気がついた。なにやらうっすらと壁や地面、天井が光って見えるが、それ以外は本当になにもない。

 そこでアカネがいつも通りの妖精形態で腕を組み、此方を見下ろしていた。

 

「アカネか……いや、もう少し寝させろよ……疲れてる。めっちゃ疲れたから」

《ねとるばあいか?》

「じゃあどういう場合なんだよ……」

《せかいほろんだが?》

「……少なくとも寝てる場合じゃねえなあ……」

 

 ウルは起き上がった。妹は正論だった。流石に眠っている場合ではない

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……結局、此処は何処なんだ?」

 

 不思議な空間だった。

 つい先ほどまで戦っていた空中の決戦場でもなければ、プラウディアの廃墟でもない。輝いていて、暖かな空間だ。全身ボロボロで、割と瀕死の重傷だったはずなのだがここに居るだけで身体の痛みが少しずつ薄れていくのをウルは感じ取っていた。

 

《きのなか》

「グレーレ達、上手くやったって事か……」

 

 世界樹計画(プラン・ユグドラシル)

 神を取り込んだ巨大な大樹によって、世界の再生を果たし、善と悪の信仰を一手に担うという壮大な計画を聞いたときは、ウルには正直全くイメージがわかなかった。ウルに限らず、殆どの者が頭に疑問符を浮かべていただろう。あの話を正確に理解していたのはリーネくらいだ。

 だが、この様子を見る限り、上手く行ったらしい。

 その世界樹が創り出した天然の洞窟の中をウルとアカネは進む。

 

「皆は?」

《こっちー》

 

 そう言って案内した先に、小さな広間が出来ていた。そしてそこには。

 

「ウル」

「おお!起きたか!」

「目を覚ましたか。そのまま死ぬかと心配した」

 

 スーア、グロンゾン、ジースターがいた。三人とも、ウルに負けず劣らずボロボロだが、しかし少なくとも顔色は悪くない。ウルはほっとした気分になりながら手を上げた。

 

「三人とも、無事で良かった…………どうされましたスーア様」

 

 三人のなかでテコテコとこちらに近づいてくるスーアはそのままぼふんとウルにぶつかる。そしてウルの身体をペタペタと確認するように触りだした。顔まで手を伸ばそうとしてプルプルしだしたので、ウルはしゃがんだ。

 

「痛いところはありませんか?」

「全身痛いですが」

 

 頬をむにむにと触られながら尋ねられたので素直に答える。スーアは頷くと、その掌から優しい赤色の輝きが点り、その光がウルの身体を癒やしていく。痛みがあった部分がじっくりと、暖かさに包まれていった。

 

「急に治すの負担が大きいですから、ゆっくり治します」

「精霊の力、使えるのですね」

 

 その言葉に頷きながら、ウルはスーアが操る光を見る。間違いなく精霊の輝きだ。

 グレーレの話を聞く限り、【天祈】の力も失われるため、精霊とのリンクは酷く繋がりにくくなるとは聞いていたが、しかし思い返すとあの最終決戦でもスーアは最終的に精霊の力を操っていた。

 

「今、精霊達が力を貸してくれているのは彼等の好意によるものです」

「なるほど、スーア様は精霊から好かれているのですね」

「沢山お話ししましたから」

 

 むふーとスーアは誇らしそうにしたので、ウルは頭を撫でた。不敬罪になりそうな気もしたが、スーアは嬉しそうだったので良しとした。

 

「スーア様のような例外は兎も角、精霊から力を得る手段はより困難になるだろう。あるいは精霊自身が敵となる可能性もある。最早、人類の制御下からは完全に離れてしまった」

 

 補足するようにグロンゾンが悩ましそうに唸る。ウルが目を覚ますよりも前に、おおよその状態を把握済みらしい。ジースターも続ける。

 

「名無し、都市民、神官の身分差も形骸化するだろうな。精霊との親和性の格差など無いに等しい。精霊側の思惑一つで誰もがその力を授かることもある。そして一度力を授かれば、その希少性は跳ね上がる」

「寵愛者を護る新たなシステムも必要か……各都市国とも連絡はとれた。なんとか無事らしいが、また今後の打ち合わせをせねばならんな」

「魔界側とも無用な争いが起こる前に連絡をつけねばな……隊長に頼るか」

 

 テキパキと二人はやり取りする。流石は元々は同僚だったというべきか、ウルが口を挟む暇も無いほど、ぽんぽんと話が進んだ。

 

「これからジースターは、グロンゾン達としばらく協力するのか?」

「正直、どの面を下げてという気もするが……」

 

 ジースターはやや複雑そうな表情を浮かべているが、その隣でグロンゾンは力強く頷いた。

 

「方舟、魔界、そしてウーガ、全てに顔が効く最高の人材だ!遊ばせる訳には行くまい!」

「……だ、そうだ」

 

 きっぱりとそう断言した。彼がスパイであったことなどグロンゾンにとっては心底どうでも良いことであるらしい。確かにその点に目を瞑れば、現状の混乱した情勢のなかでこれほどまでに多方面に各地に顔が利く者はいないだろう。

 ジースターも自分の立場の有用性を自覚しているのか、諦めたように肩を竦めた。

 

「ウーガにも恩はある。杏と蜜柑の居場所を護るために、出来ることはするつもりだ」

「俺としちゃ頼もしいよ」

 

 コウモリだなんだと自嘲するが、彼がどれほど義理堅いかはウルも理解している。彼がウーガも護るために働いてくれるというのならこの上なく頼もしい話だ。

 

「っと、そうだ!ウルよ、グレーレ達とは連絡取れたか?」

 

 と、そんなことを思っていると、不意にグロンゾンが尋ねてきた。

 

「連絡が付かないのか?」

「うむ。あの男のことだ。そうそう死ぬとは思えぬが……」

 

 ウルは頷き、黄金の指輪を鳴らす。

 

「ノア」

 

 すると、ぽんとグレーレがよく操っていた自立型術式らしきものが顕れた。なんだ?と思ってよく見ると、術式の代わりに何やら文字が刻まれている。

 

 ――新しくなった世界で調べたい事が山ほどあるので、しばらくザイン達と旅に出る!後の仕事はそちらに任せる! byグレーレ

 

「……ま、無事らしい」

 

 ウルはアホらしくなって術式を指で弾いて砕いた。クラウランは兎も角、間違いなくザインは強制的に付き合わされたのだろう。

 グロンゾンも中々複雑そうな、頭の痛そうな表情をしていたが、最後は振り切るように頷いた。

 

「ま、無事なら良かろう!出来れば色々と仕事を押しつけたかったがな!」

「やることが多いなら俺も――――」

 

 手伝う。と、言おうとしたが、その前にグロンゾンが無事な方の手でウルを制した。

 

「よせよせ!ウル!お主には山ほど世話になったのだぞ!?」

「迷惑の方がかけた気がするが」

「バカを言うな」

 

 グロンゾンにジースターが続く。

 どこか、険がとれたような柔らかな表情で、ウルに小さく笑いかけた。

 

「俺達大人がやらなければならないことを、お前はやったんだ」

「うむ!まあ言われずともお主はまた走り回るのだろうが……今くらいは休め!」

「っつって、休んだら割とアンタはまた上手いこと仕事をこっちに投げそうだがな」

「休息と適度な労働はどちらも健康には大事なことだからな!」

「良い性格してるよ本当……」

 

 ウルは呆れため息をつくと、はっはっはとグロンゾンは愉快そうに笑った。

 するとそれを尻目に、ジースターはスーアの前で膝をついた。

 

「スーア様も、どうかゆっくりとなさってもいいのですよ」

 

 いたわるようなその声の理由も分かる。

 あまりにも状況が状況故、方舟の危機に立ち上がらざるを得なかったが、スーアはまだ父を失って間もなく、そして幼い身だ。立場上、やらなければならない事も多かろうが、出来れば休ませたいというのは人情だろう。そしてジースターにとっては特にそうだ。友人の忘れ形見なのだから。

 しかしスーアは首を横に振った。

 

「目指したものとは違いましたが、父の願いは果たされました。頑張りたいです」

「そうですか……」

「ですが、そうですね」

 

 そのままスーアは此方を見つめ、少しだけ控えめに、まるで我が儘を口にするように言った。

 

「ウルとはまた、お話ししたいです」

 

 そんな風に言われて、断る理由はウルにはなかった。アカネと視線を合わせ、二人でスーアに頷いた。

 

「学のないバカが話し相手でよろしければ」

《わたしともあそぶのよ?》

 

 二人でそう言うと、スーアは本当に嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「よかった」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 それからしばらく話をした後、三人とはひとまず別れ、そのまま先に進む。

 すると、

 

「ですから、スーア様は無事だと伝えたでしょう。なんども連絡しないでください」

《お前のことを心配しているのだ……本当に無事なんだな?》

「だから大丈夫だと言ってます。何度聞くんです」

《そう言って前は片腕を吹っ飛ばしていただろう……年頃の娘を気にしないという方が――――》

「心配せずとも、今回の戦いの傷は、彼の加護のお陰で塞がってますよ」

《彼!?》

「なんですその過剰反応、鬱陶しい」

《いや……!だが……ッ!むう……!ユーリ、少しその事を詳しく――――》

 

 何やら少々騒々しいやり取りの後、通信術式を真っ二つに両断して遮断したユーリと遭遇した。

 

「こんな所でなにしてんだよ、ユーリ」

 

 既に此方に気づいていたのか、ユーリは特に驚く様子も無く、目を細めてウルを睨んだ。

 

「男に誑かされて陣営を鞍替えしたコウモリ女ですから、スーア様に合わせる顔がありません」

「言いかたぁ……」

 

 ウルは顔を引きつらせ、言い返そうにも何も言えなかった。

 

「誰も気にしてねえよ……って、俺は立場上絶対言えないんだが?」

《にーたんがたぶらかしたもんな?さいてー》

「そうですね、最低ですね」

「ごめんて」

 

 少々申し訳なさそうに謝ると、ユーリは馬鹿馬鹿しそうに鼻で笑った。

 

「冗談ですよ。そもそもジースターが何もかもを飲み込んで動いてるのに、気まずいなんて情けないことは口に出せません」

 

 確かに、ジースターの立場と経歴を考えれば、色々と気まずさや後ろめたさなんてものも山ほどあるだろう。彼はそれらを飲み込んで、スーアやグロンゾンと未来のことを考えて、話し合っている。

 それはウーガにいる家族のためなのかも知れないが、それでも立派だ。恥や後ろめたさを動かない理由にはできないだろ。

 

「今は各地への通信連絡と――――()()が喧しかったので相手してただけです」

 

 アレ、とユーリが指す方を見ると、

 

「まだまげだあああ……!!」

 

 少し離れた場所で、真人のゼロが地面に倒れ伏して、泣いていた。

 

「また挑んだのか」

「済みません……意地っ張りが過ぎて」

 

 ファイブが深々とため息を吐く。真人の面々は流石のウルも全員を把握出来てはいないが、この様子を見る限り無事のようだ。

 

「世界樹の周りはかなり魔力が濃いので、飛行魔術が不安定です。動けるメンツで周辺を確認して、降りられる場所を探しているので少々お待ちを」

「助かるよ……そういや、良いのか。クラウランも、グレーレに連れ回されたらしいが」

 

 真人たちとはグレーレやザインを通した間接的なやり取りとなっていたが、彼等が皆、クラウランの事を慕っていたのはウルも知っている。あのグレーレに連れ回されたとなれば、中々気が気でないかもとも思うのだが――――

 

「良いでしょ。マスターだって、気晴らしは必要だもの」

 

 だが、彼等は意外にも冷静だった。真人の少女の一人は何でも無いような表情で肩を竦める。

 

「ずーっと、後始末に駆け回ってたんだもの。それに私たちの世話も。それがようやく終わったんだから、自由にしても、バチは当たらない」

「連絡も取れますしね。ほら」

 

 と、彼が見せるのは先ほどグレーレから送られてきたものと同じメッセージだった。しかしそのサイズは先ほどグレーレが送ってきた者と比べるとかなり大きい。そしてそこにはつらつらと、各真人達へのメッセージがものすごい長い量送られてきていた。

 

「愛に溢れておられる」

 

 流石に身内向けのそれを読むのは憚られたのでそのまま返す。まあ、少なくともクラウランは大丈夫そうだ。残るはザインだが――――

 

「ザインも無事であるなら、孤児院の子供らを放置するわけもないですし、大丈夫でしょう」

「ま、そりゃそうだ」

 

 ユーリの言葉にも納得する。あのザインが自分の保護した子供達を投げっぱなしにするわけもない。まあ、あの三人については心配する必要は無いだろう。

 と、そんな風に確認していると、泣き伏せっていたゼロが起き上がった。

 

「もう一回やりましょう!片腕の満身創痍に負けるのは真人の沽券に関わります!」

「いやです」

「う゛-!!」

 

 ゼロは泣いた。

 

「失礼、抑えておきますのでこちらはお気になさらず」

《わがままいったらあかんでー?》

 

 ドタバタと、唸るゼロをファイブ達が引っ張って、ついでにアカネまでなだめるようについて行ってしまった。その場にはウルとユーリだけが残された。何かしら要らない気を遣われたような気がしないでもない。

 

「身体の調子は?」

 

 まあ、折角の気遣いを無碍にするのもなと尋ねると、ユーリは肩を竦めた。

 

「義手を紛失したので少し不便です。常時力を出す訳にもいかないので」

「ダヴィネに義手つくってもらうか。すげー良い奴」

「お願いします」

「素直」

「貴方に弱みを晒して失うものなんてないです」

「そりゃそうだ。なら、困ったことがあったら何でも言えよ。無理させたからな」

「義手が出来るまで、食事の世話でもしてもらいましょうか」

「あーんしろと?」

「お願いします」

「マジかよ。いいけども」

「冗談です」

 

 わかりにくい冗談に顔をひしゃげると、そのウルの表情に少しだけ愉快そうにユーリは笑った。そしてそのまま無事な手をウルへと差し出した。

 

「貴方に敬意と感謝を。おかげで、友人達を助けることが出来ました」

 

 黒炎砂漠攻略の時に向けられた敬意とはまた違った。深く強固な信頼が示されていた。

 ウルはそれを受け止めながら、握手に応じる。

 

「こっちの台詞だよ。ユーリがいなきゃどうにもならなかった。甘い見積もりだったなあ……」

 

 本当に、できる限りの準備は進めてきたつもりであったが、想定通りにいったことはまるで一つも存在していなかった。途中、ユーリを協力者として引き込めなかったらと思うと本当にゾッとする。

 

「導いてくれたロックに感謝…………してえけどぶん殴りてえ気持ちもあるな」

「気が合いますね。ですが、言うまでもなく私だけの力ではありませんよ」

 

 そう言って、ユーリはウルの顔へと手を伸ばす。頬に触れて、そのままウルの昏翡翠の瞳へとそっと添え、見つめた。

 

「運命の聖女。強欲との戦いから、世話になりました」

 

 まるで、瞳のその奥に届けるようにユーリは感謝を告げる。勿論返事はない。だけど、ほのかな暖かさが瞳の奥から零れたような気がした。

 

「気にしないで、だとさ」

「……存命中、助けられなくて――――」

 

 その先をユーリが言おうとして、ウルは彼女の口を塞いだ。

 

「その先は要らん」

「……なら、彼女の話もまた聞かせて下さい」

「いくらでも」

 

 幸いにして、話す時間はあるのだから。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりエッチじゃないです!?」

「ガキ」

《じゃましたらいかんで?》

 

 尚、何故か遠くから見守られていたのは見なかったことにした。

 

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