かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

723 / 729
泥喰蛇

 冒険者全盛期時代と呼ばれる現代においても新人冒険の仕事はつまらないものだ。

 

 当たり前だが、いきなり迷宮の奥地にて巨大な真核魔石を賭けて、そこの“主”との激闘を繰り広げるわけがない。武器の振り方、道具の使い方、魔物との戦い方、依頼の受け方、その手続きの流れ、その他諸々一つ一つ山ほど学ぶことはある。

 

 そして新人が受けられる依頼のは大抵地味で、誰もが好んでやりたがらないようなものばかり。

 

 当然の話だ。それはわかっている。

 それでも、巷で聞くような黄金級、銀級の冒険者達の英雄譚を聞いて、憧れて、冒険者の道に踏み込んだあと、そのギャップに直面するとがっくりくるものだ。

 

 新人冒険者ビスタのそんな一人だ。

 

 冒険者になったばかりの頃は、夢と希望と野心に溢れていた。語り聞かされていた銀級の英雄達のように自分もなると意気込んでいた。

 だが徐々に現実を思い知らされ、今は絶賛、やる気を失ってしまっていた。

 今も受けている依頼は大変面白みのない依頼だ。都市国の外にある馬車が通行する道の脇に音済する沼地帯、そこに出てくる魔物が馬車を襲ってきたので、始末して欲しいという依頼だ。

 

 魔物の名前は聞いたが、彼は覚えていなかった。冒険者ギルドの教習で聞いた気もするが、殆ど寝ていたので覚えていない。彼が覚えているのは「沼地でうねうねしてて、キモくて、そんなに強くない魔物」くらいだ。

 まあ、認識は間違っていなかった。実際何度も倒したことはあった。

 そういった油断が、二つの失敗を招いた。

 

 失敗その一は、不用意に沼地を進み、足を取られたこと。

 失敗その二は、その状態でムリに剣を振り、滑らせ、遠くに放ってしまったこと。

 

「や、やべ……!」

 

 二つの失敗が重なって、彼はようやく自分の不用意さに気付く。周囲の沼地からごぼごぼと、魔物の蠢く気配がある。例え、あまり脅威でない魔物だろうと、武器を失って、周囲を囲まれた状態であればどうなるか――

 

「ひっ」

 

 足を取られ、身動きもとれなくなった彼は悲鳴をあげるが、できることはない。間もなく沼地から悍ましい姿の魔物達が一斉に襲いかかり、

 

「――油断し過ぎだ」

 

 しかし、次の瞬間その魔物達の首は真っ二つに引き裂かれた。ビスタはその結果に驚愕し、そして魔物達を討ち自分を助けてくれた相手を見て目を見開いた。

 

「あ、アンタは――」

 

 彼の目に映ったのは、ずっと憧れていた目映い銀の指輪を嵌めた冒険者の姿――

 

 

 

               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 さて、満場一致(強弁)によって、魔物を食材とした料理を提供することが決定した【風妖精(フィーネ)食事処(ダイナー)】であったが、そうなると必要になってくるのは魔物の肉である。

 

 まずは狩りに行く必要が出てくるわけなのだが、

 

「心配しないでいいわ。もう用意してあるから」

「アンタにしちゃ偵察に時間がかかってると思ったら……」

「この周辺は十三級前後の狩りやすい魔物ばかりで助かった。地上で長く生存しているから受肉もしているので狩りやすい」

 

 そう言いながらカルメは大きな麻袋の中身を広げた。そこには――

 

「というわけで、早速提供したいのはコイツよ」

 

 黒くて、長くてうねうねとうねった大変に気色悪い魔物が詰め込まれていた。

 

「ギャアア!?」

「なぜナナが悲鳴を上げるのよ」

「あげるわよ!?」

「確かに凄まじい見た目ですね……」

 

 当然、シッカリとシメめてあるが、それでも鮮度が高いためかピクピクと僅かに動いている。絵面という点で食欲をかき立てる要素は皆無だ。

 

「【泥喰蛇(ウナドロ)】。土竜蛇の亜種。この近くにある沼地に生息している」

「ああ、いたね……強くはないけど、足取られるとちょっと面倒なの」

「見た目は凄まじいですが、美味しいのですか?」

 

 ソフィアは問うと、カルメは真顔で即答した。

 

「そのまま食べると地獄」

「地獄」

 

 ひとまず泥喰蛇をそのままにしておくのも鮮度が落ちる。ということで、キッチンに運び込み、ソフィアは調理を開始した。

 まずは水で泥喰蛇を洗い流し、塩で滑りを取る。頭部を固定し、腹を開いて内臓を取り除き、水で血を流す。

 未知の食材、といってもそこは流石、長きに渡って修行を積んできたプロだ。カルメの助言もあって、手際よく処理を進め、ひとまずはそれらしい形に整えることができた。

 そして、問題はここからだ。

 

「それで、地獄というのは……?」

「簡単な話。とてつもなく泥臭い」

 

 カルメは大変苦々しい表情で語る。

 

「肉質はかなり柔らかかったから、かなり期待していたのに、口にした瞬間えづくしかないくらいダメ。悔しい」

「実感が伴いすぎてる……」

 

 実に生々しい、というよりも間違いなく当人の実体験に基づく解説だった。

 

「でも、とある人物がこの肉の処理の仕方を発見したの」

「それもアンタでしょ……で、その方法は?」

「はい【浄化】」

 

 カルメは手をかざし、家庭魔術と呼ばれるものの一種、穢れを払う【浄化】の魔術を切り分けられた【泥喰蛇】にかけた。見た目は特に代わりないように見えるが、相応に鍛えられたソフィアの鼻腔は、切り分けた時点で漂っていた独特の匂いが薄れたのを感じとっていた。

 

「【浄化】の魔術は毒を消したり、血抜きはしてくれない。でも泥は別」

()()として判定されると……」

「生産都市の肉が泥臭いなんて事はまずないからね。案外知れ渡っていない」

「なるほどねえ……って、浄化の魔術は使えるの?」

「あ、はい! 浄化魔術なら大丈夫です!」

 

 実のところ、昔実家にいた頃は浄化の魔術すらも使うのには苦労していた。本当にソフィアには魔術の才能がからっきしだった。

 しかし家を出て、店で修行していた頃

 

 ――皿洗いするのに浄化魔術も使えないんじゃ話にならねえ。

 

 と、店長が教えてくれたのだ。別に彼は魔術師でもなんでもなかったから、教え方が上手いわけでもなく、失敗するだけで拳が飛んでくるような乱暴極まる修行だった。それでもなんとかそれでも身につけることができたのは彼のお陰だろう。

 朝早くから夜遅くまでずっと仕事なのに、そのあと金にもならないのに自分に魔術を教えてくれた店長に今でもソフィアは感謝している。

 

 そして、食材の問題が解消されたなら、後はこちらの専門分野だ。

 

「では早速、これで調理してみます!」

 

 腕まくりしたソフィアは力強く宣言し、調理を開始した。

 

 カルメの言うとおり、浄化した後の泥喰蛇(ウナドロ)の肉質は柔らかく、その上臭味もない上等な肉質となっていた。丁度鳥と魚の中間といった具合で、焼くと脂がのり皮目も香ばしい。茹でて火を通してもあっさりとしている。なかなか料理のし甲斐があった。

 そうしてしばしの試行錯誤の末――

 

「と、いうわけで一通り用意してみました!」

「おお……本当に張り切ったわね」

「素晴らしいわ」

 

 ――思いつく限りの試作料理が、テーブルいっぱいに並ぶことになった。

 

「美味しいわ」

「本当に美味しいわね……タレ香ばしい……酒欲しい……」

「こっちは逆にさっぱりとしていて美味しいわ」

「あ、酢の物にあえるの好き……酒飲みたい……」

「こっちは歯ごたえがあって美味しいわ」

「あ、骨をパリパリに揚げたのか……いいわね……お酒~~~」

 

 そうして始まった三人による魔物試食会の結果は概ね好評だった。(客ではないが、久しぶりに自分の料理に喜んでくれる声が聞けて、ソフィアは泣きそうになっていたのは秘密だ)

 ともあれ、冒険者に提供しても問題ない程度の味と量が用意出来るということが判明した。

 

泥喰蛇(ウナドロ)の素晴らしい点は、とてつもなく狩りやすい所」

 

 冒険者向けの試作料理ということで、なかなかの量を作ったはずなのだが、それらを全てペロリと平らげたカルメは、何でもないという表情で淡々と解説を開始した。

 

「銅級未満の、冒険者もどきの素人でも狩りやすい」

「あー、確かにねー、泥まみれになるけど大怪我負うことはないわよねー、といっても、時々油断してボコボコにされる奴もいるけど」

「いる。いた」

「ああ、沼地に足とられて武器滑らせて?」

「そう。地形次第では弱い魔物も脅威になるという学びにはなる」

「ボコられたとしても、まあ、よほど軟弱じゃなきゃ死にはしないしねえ……後でちゃんと【浄化】しないと病気が怖いけど……うーお腹くるし……」

 

 お腹いっぱい、と椅子にもたれかかるナナもカルメの説明納得するように頷く。

 

「依頼にすれば、白亜の冒険者側にとっても良い金稼ぎにもなる」

「でもさ、依頼費用、生産都市国から食材買った時と比べてそこまで安上がり?」

「ギルドの【白亜への依頼支援】がある」

「あ、それがあったか……!」

 

 カルメとナナの話を聞きながら、ソフィアは手応えのようなものを感じていた。

 まだ最初の食材を触ったばかりではあるが、確かに魔物料理というのは思った以上に可能性を秘めている。しかも、まだ未開拓で、言わば手つかずの鉱脈といってもよい。

 きっかけは藁にも縋る思いだったが、これならば――

 

「カルメさん! ナナさん! 私、魔物料理もっと知りたいです!」

 

 勢いよく立ちあがるソフィアに、カルメは満足げに頷いてみせた。

 

「素晴らしい意欲ね」

「あんま気合い入れて欲しくないんだけどねえ……」

 

 こうして、珍妙かつ奥深い魔物食探求の旅が始まるのだった。

 

「というわけで、次はこれよ」

「「ギャアアアアアアアアア!?」」

 

 あと、悲鳴も湧き上がるのだった。

 

 

               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

  名前:泥喰蛇(ウナドロ)

  階級:十三級

 生息域:衛星都市国メニトから北東の沼地帯。

 注意点:捌いて血抜きを行った後【浄化】魔術をかけること。

     浄化を怠ると、とても食べられたものではない(とんでもなく臭い!)。

 調理法:串で身を貫いてタレを付けて炙る。

     茹でると身が引き締まるので酢の物に和えても〇。

   味:身はとても柔らかく、ほくほくとしてる。見目にそぐわぬ大変な美味。

  メモ:初の魔物料理ということで緊張したが、とても美味しくビックリした。

     もちろん、全ての魔物がそうではないのだろう。

     美味しい魔物を知っているカルメさんの知識にビックリだ。

 

 





次回11/23

次ラノのノミネート中です!よろしく!!
https://tsugirano.jp/nominate2025/
もうすぐ4巻発売よろしく!!
ゲーマーズさんの特典ページ
https://www.gamers.co.jp/pd/10843394/
メロンブックスさんの特典ページ
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3265015
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。