かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~ 作:あかのまに
隠箱と兎の直感
冒険者は、魔力を摂取することで【技能】を得る。
ヒトが本来は持ち得ぬ超人的な能力を取得する。
それは魔術を宿した【魔眼】であったり、それは遙か遠くの音を聞き取る【超聴覚】であったり、極端に皮膚や筋力が頑強となる【剛体】であったり、様々だ。
表面上ではなく、臓器の類いが強くなり、毒や腐敗物を口にしても問題がなくなった、などというパターンもあったりと、その種類は枚挙にいとまがない。
だが、その中でも【直感】とよばれる【技能】は一目を置かれる。
前提として、技能の種類は多種多様であるが、その殆ど全てが身体能力の延長線上に存在する。眼や耳、鼻や口、皮膚、筋肉、あるいは骨、そういったものの機能が魔力によって強化される。
だが、直感はその延長線上に存在しない。
眼で見ず、耳で聞かず、嗅がず、味わわず、触れず、
思考する器官、脳が強化されたとのだという者もいるが、近年の研究にてそれも疑わしいという事がハッキリとしている。身体のどこにも変異の兆候が見られないにも拘わらず、確かに宿っている【技能】
五感でなく、新たに生まれた感覚。
故にそれは第六感と、そう呼ばれるようになった。
過程を経ず、答えを得る能力というのは、強力だ。一種の未来予知の類いに近く、神官達が何年も祈りを捧げ手にする能力を有しているのだとうそぶく者もいる。
「ま、そんな都合の良いことは全然ないんスけどねえ」
それを鼻で笑うのは【白の蟒蛇】に所属する銀級冒険者のラビィンだ。
彼女はその【直感】の技能所有者だ……恐らく。
恐らくと濁すのは、彼女がそれを自分が有していることに明確な確信を持っていないからだ。いい加減な話に聞こえるかもしれないが、これは仕方のないことだった。
なにせ、身体のどこかにそういった特徴が出てるわけではない。眼の色が変わったりだとか、やたら頑丈になったりだとか、そんな非常にわかりやすい特徴は起こらない。
あるのは行程をすっ飛ばして、突如として降りてくる答えだけ。
だからこそ、難しい問題が出てくるときがある。正直ラビィンは厄介とすら感じることもあるくらいだ。しかし、
「ま、考えすぎないようにするのが吉っスよねえ」
ラビィンはそれを顔には出さない。自分の役割ではないからだ。
自分の技能に限らず、悩みや不安や畏れ、迷い。自分の中で渦巻きそうになったそれらの感情をラビィンは意識して自分の中から切り離す。思考しない、と、自分に言い聞かせることでメンタルをリセットする。意識しないと意識する。矛盾してるようだが、存外バカにできない。メンタルのコントロール技術にラビィンは長けていた。
この技術を身につけるのは必用なことだった。
まあなにせ、自分の相方の男は常にむっとした顔をして考えすぎるのだ。
そして必要以上に考え過ぎて、傷を負って、割と長いことくよくよしてしまう。そんな気配を感じたらヘラヘラと楽観的な事を言って、ぽかんと殴られる。それがいつものこと。自分の役割なのだ。
だから、どのような危機を前にしても彼女は笑う。
だから、周囲の空気が沈みきってる場面でも、軽口で場を流す。
だから、難しい駆け引きの場でも考えなしに聞こえる言葉を使って誘導する。
「ラビィンさん、いいですか?」
「なんっスか?」
「……ちょっと判断しかねるモノが出てきたんですが」
「OKっス」
だから、自分が好いていない【直感】が求められても、軽く頷いてみせるのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
竜呑ウーガ。
無数の悪意と陰謀によって誕生したその場所に、奇妙なる経緯の末にラビィン達銀級【白の蟒蛇】は乗り込むことになった。だが、歴戦の銀級冒険者である彼らでもってしても、当然竜呑ウーガという場所は未知そのものだった。
歴戦の彼らでもっても判断がつかないことがあまりにも多い。
それ故、彼らは何かを調べるとき一つの約束を決めた。
――判断がつかないものが出てきた際には必ずラビィンを挟むこと。
「これ、なんでしょうねえ」
「面倒くさいの拾ってきて欲しくないんスけどー」
「俺等も拾いたくはなかったんですけどねえ……」
ラビィンの手元にやってきたのは、両手に収まる程度の大きさの立方体だった。
部下達曰く、ウーガに存在する物資の確認をしている最中に、これを見つけてきたらしい。なんらかの
「魔力があるんですよねえ、うっすら……」
「あるっスねえ、うっすら。めんどっちーっスねえ」
そう、魔力がある。立方体が魔力を帯びている。勿論、天然の素材でそれ自体が魔力を帯びる場合もあるが、これはそんな雰囲気を感じない。
そうなると、何かしらの魔導具である可能性を疑わなければならなくなる。
「ちなみに、もう持っちゃったヤツいるっスか?」
魔導具、となると場合によっては接触しただけで影響が起こる場合がある。ラビィンが確認すると一人が挙手した。
「……すんません、俺が触っちまいました」
「問題は?」
「今のところはなにも。呪いとか、肌が被れる様なこともありませんでした」
彼は申し訳なさそうに状況を説明する。触っても問題ない。と理解しつつ、念のため手袋越しに触って、掲げる。
「んー……」
そうして掲げた立方体を覗き見る。もちろんそうしたところで、中身が透けて見えると言ったことはない。自身の中にある【直感】を刺激するための動作なのだが……別に、こうしたところでコントロールできた試しはない。あくまでもこれはおまじないようなものだ。
結局、今回も【直感】の手応えはなかった。
「……よくわかんねえっスねー」
ラビィンは両手を広げる。部下達もラビィンの能力の扱いづらい部分は理解しているので、落胆することはしなかった。
「すみません、お手数をかけました」
「ま、そんな危険とも思わないっスけどね。サイズも魔力量も小さいし」
ラビィンの直感が最も強く反応するのは命の危機だ。
自分や仲間の命が危ぶまれる瞬間、全身の毛が逆立つような衝撃が走る。裏を返すと、そういった感覚がないのなら、命の危険はない……と、思う。これも残念ながら確定ではない。
本当に融通の効かない
「とりあえず、預かっとくっス。念のため、分かるヤツがいないか聞いておくっス」
「了解です」
もちろん、そんな不安や不満は顔には出さず、ラビィンは軽快に、軽薄に、いつも通りヘラヘラと笑みを浮かべる。
「ま、私がなんか事故ったら、後処理は皆に任せるっスよ」
そんなラビィンの態度に、仲間達は顔を引きつらせて苦笑した。どうやら、場を和ませるのには失敗したらしい。
「ラビィンさんがぶっ飛んだら。俺ら地獄みたいな忙しさになりますよぉ……」
「勘弁してくれよ……それともやっぱ俺等が預かるか?」
「慎重も過ぎると毒っスよ。今は山ほど仕事あるんスから」
しっしと心配そうにする仲間達を手で追い払う。
まあ確かに、何事にも慎重になるのは大事なことではある。だが、警戒心というのは有限だ。全てに対して大ごとのように取り扱うわけにはいかない。取捨選択をしなければならない。
勿論、軽んじて良いわけではないが……現状自分も仕事が多い。となると
「ま、こういう時は、頼りになる仲間スよね」
今、このウーガには頼りになりそうな魔術師が一人いる。
と、いうわけで5巻でまーす!!ヤッター頑張った!!
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コミカライズ化もします!!オッシャー!!!
https://x.com/MFBooks_Edit/status/2109966125295599798?s=20
と、いうわけで外伝始めまーす!
軽い小話でございますので肩の力を抜いてください。よろしく!
次回10/17更新予定