かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~ 作:あかのまに
その立方体は
例えば税金逃れ
例えば盗人対策
例えば秘密裏な取引の帳簿隠し
その特殊な木材の組み方や刻まれる意匠が割り符のような役割を果たすこともある。それに少し後ろぐらいものを隠すために、商人や神官達が利用していたものだ。
「今は流行っていないんスか?」
「ある時、こういったものがあるという情報が大きく広まってしまってね」
ある時、どこぞのパーティでとある商人が酔いに任せてべらべらと喋ってしまったらしい。その話は瞬く間に広まり、結果、その形状をした木箱を狙った泥棒や、それを隠し金庫と偽って売り始める悪徳商人すら沸き始めた。
その秘匿性は破られた。正体を伏せられていたからこそ価値があった隠箱はその役割を失ってしまった。広まったニセモノも摘発され、隠箱という概念、文化は瞬く間に消滅したのだ。
「じゃあ、これもニセモノなのでしょうか?」
「その可能性はあるね。勿論、もう少し精査しないとわからないけど」
リーネの問いに、ディズは頷く。
隠箱が流行り、廃ったのは数十年も前のことで、後の時代に幾度か本物として表に出てきたものの悉くが、詐欺師が真似ただけのニセモノだった。
故にディズは懐疑的な眼でそっと立方体を指でなぞっていたが――
「――や、多分、本物っスよ」
それを聞いたラビィンは、背骨を貫くようなビリビリと来る【直感】と共に、ニヤリと笑った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ラビィンの直感は制御ができない。いつどこで、なにに対して発動しているのかはハッキリとしない。それでも、それが発動した時は、ビリビリとした感覚が身体を貫く。
今回、ディズから説明を受けた瞬間、身体をその感覚が貫いた。
それがなにに対しての直感であるかまでは、やはりラビィンには分からない。だが、話の流れをを鑑みるなら、隠箱とやらが本物であると直感したと見るべきだろう。
――特権階級の隠し金庫! なんと心惹かれる言葉だろうか!
まあ、これが実際にそうだとして、果たしてその財産とやらがラビィンのものになるのかという点については相当怪しくはある。が、それはそれとして気になるものは気になる。
ラビィンは最初これを手にしたときよりも俄然前向きにこれに興味を持ち始めた。こうなってくると、是非とも中身を見てみたいものだった。
なにせラビィンは、お金は大好きだ!
これは何一つ偽らざる本心である!
「基本的に無理矢理空けようとすることはできない。そうしようとすると、仕掛けが起動して中のモノが一気に砕かれるようになっている
「ピッキングとかもムリって事っス?」
「だね。専用のカギが必用だ。だから、アカネが変身してもムリ」
《むぅーん……》
ただし、カギの方が紛失しているようなケースも珍しくはないらしい。しかし、ディズにそう言われても、ラビィンはあまりガッカリはしていない。なんとなく、それもこのウーガにあるような気がしている。
奇妙な確信。それが直感なのか、気のせいなのか判断は難しかったが、ラビィンはそれを探してみることにした。
「で、なんでついてくるんスか? リーネ」
「私もそっちに用があるのよ」
と、ラビィンがカギの“アテ”へと向かおうとすると、なぜかそこにリーネが着いてきていた。ラビィンはわざとらしく“隠箱”を彼女から隠すようにして言った。
「あげないっスよ」
「興味ないわよ。ああ、魔術の研究資料とか素材なら見せて貰うと思うけど……興味というなら、貴女の【直感】の方が気になるけどね」
と、リーネはラビィンの方を見つめる。先ほど、ディズの説明でラビィンが過程をすっ飛ばして、本物と確信したのが気になったらしい。しかし、ラビィンは肩を竦めた。
「んー、そんな便利な物じゃないっスよ?」
「そうなの?」
「何故そう思うのかも分からない。錯覚なのか発動したのか区別も付かない。ただただ面倒くさいんスよ」
「ふうん?」
少しピンとこなかったらしい。ならばと、移動の間の暇つぶしがてら、少し詳しく掘り下げた。
「迷宮で迷って、なんだかよく分かんないけど、コッチの道に進んだら皆助かると思うって、魔物だらけの
「ああ、なるほどね」
一見しても、冒険者の知識と常識で考えても、どう考えても不正解にしか見えないような道を、【直感】という曖昧なものだけを根拠に進むのは、怖い。それが自分だけの問題ならともかく、仲間達の命まで背負うとなれば尚のことだ。
そういった恐怖や迷いは絶対にラビィンは顔には出さないようにしているが、それでもやはり、気分がいいものではないあ。
「根拠は一切ないのに答えが分かるのも考え物ね」
「気持ちが分かってくれて嬉しいっスよ」
もちろん、分かるわけがないだろう。とは思いながら、そうは言わずヘラヘラとラビィンは笑った。対して、リーネはこちらの心中を察してなのか、軽く眉を顰めた。そして、
「根拠の補強が必用な時があったら手伝うわよ」
「ん?」
言ってる意味が分からず、今度はラビィンが首を傾けるが、リーネは続けた。
「要は、回答は分かってるのに証明ができていない状態でしょ? なら、手伝えることはあるはずよ。それができたら安心できるのでしょう?」
「……もしかして、気を遣ってくれてるんスか?」
「余計なお世話ならいいけど」
ラビィンはふぅんとしばらく考えて、笑った。今度は誤魔化すような薄っぺらい笑みではなかった。
「案外いいヒトすね-、リーネ」
「案外は余計よ」
素っ気ないリーネの言葉に、ラビィンはまた笑う。
立場もなにもかも違う奴らと上手くやれるのかと心配になったが、存外、悪くはないかもしれないと、そう思った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
この“隠箱”は、リーネたちが倉庫に物資を運び込んでいる最中に発見した。
だが、これ以外にカギらしきものは一緒に発見できなかった。となると、全く別の所に紛れ込んでしまった可能性もあるが、そうでないなら、それを運び込む前に置いてあった場所が疑わしいだろう。
ウーガという場所の誕生直後、表面上のウーガの都市部は整然していた一方で、物資状況は少々混沌としていた。都市国用の健在やらなにやら、秘密裏にウーガ完成を見越し運び込まれたなにやら、それらが渾然一体となっていた。
故に、それらをまとめるため、一度一カ所にまとめ、整理する作業が必要だった。
そこで、司令塔の周辺に一度、物資の全てを集め、それを必要に応じて振り分ける作業を行っていた。この隠箱が運び込まれた直前の場所もここである。鍵がウーガに存在するとしたら、ここで見つかる可能性は高い。
「という訳なのだけど……」
「なるほど、隠し金庫、ですか」
リーネの説明に、シズクはふむと顎に手を当てた。
「なんかそれっぽいものなかったっスか?」
「量が多いですからねえ……」
確かに、この場に拡がってる物資類は非常に多い。地面に山積みにされ、細かな者も、運び込まれたテーブルの上に幾つも置かれている。それっぽいもの、と言われても探すのは難しいだろう。
「ですが、第三倉庫に運び込む最中に見つかったのでしたよね?」
「そっスそっス」
「鍵の形などは予想できますか?」
「ディズ様から聞いた限り、同質の素材。この立方体の術式に噛み合うようにできているらしいわ」
「でしたら――」
リーネ説明を受けて、シズクは自身の魔本を広げ、その第三倉庫にこれから運び込む予定の物資の山を調べ始める。声を発し、物資の形状を記録し始めた。
その光景をリーネとラビィンは感心しながら眺めていると――
「何やってんだ駄兎」
聞き慣れた声に、ラビィンは振り返る。
巨体の大男、【白の蟒蛇】のジャインはこちらを訝しんだ顔で見下ろしていた。肩には荷物を担いでいる。ラビィンと同じく、ウーガの物資整理作業の最中らしい。
「仕事っスよ。仕事。サボってねっす」
「ついでに宝探しもやってるけどね」
「あ、ダメっすよリーネバラしちゃ」
「あ?」
リーネとラビィンの言葉に、ジャインは首を傾げる。止むなく、ラビィンは状況を説明し始めた。途中から、ジャインは心底くだらなそうな顔になっていったが――
「…………本来の仕事をすっぽかすなよ」
――最後は、そうため息を吐き出すだけで留めた。怒りを見せることはなかった。ラビィンはそんなジャインの反応に「ラッキー」とでも言わんばかりにニッコリと笑った。
「わかってるっスよー! ついでついで-!」
そう言って、そのままシズクの魔本を背後から楽しそうに眺め始めた。
一方で、リーネはあきれ顔のジャインの傍に近づいた。
「……なんというか、意外ね」
「あ?」
「遊んでんじゃないって怒るかと思ったのだけど」
まだリーネは白の蟒蛇の面々との付き合いは短いが、リーダーである二人の役割は飴と鞭であるというのは分かった。ラビィンが緩め、ジャインが引き締める。だが今回はそういう反応とも違った。
するとジャインは再び面倒くさそうに頭を掻いた。
「……ウーガに乗り込んで、色々と立て込んでるからな。特にラビィンには結構仕事を任せちまってる。面倒くさい【直感】も頼みにしてな」
「息抜きがいると」
「文句でもあるのか?」
脅すように睨み付けてくるジャインに、リーネは肩を竦めた。
「あるわけないでしょ。良い
役割以上に互いのことを気遣い、必用に応じて柔軟に対応を変える。
本当に、良いコンビで、良い
「ありました」
そして、話している内に、シズクの報告と、ラビィンの歓声が聞こえてきた。
次回でラストじゃ
発売日の23日に更新予定!WEB版にないグラドル編になりますがよろしくな!!
一応、こちらの短編と地続きにもなってる……ハズ!
メロンブックス様
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3846596
ゲーマーズ様
https://www.gamers.co.jp/pd/10934236/