かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~ 作:あかのまに
かつて、無数に繰り返した冒険の一場面において、
――別に、お前の所為じゃねえよ
血塗れになった、ジャインと仲間達が繰り返しそう言っていた。繰り返し言い聞かせなければならないくらい、ラビィンは酷い顔だったのだろう。
【直感】という技能を頼みにして、失敗したことは決して一度や二度ではない。時に、一行全体を危険にさらしてしまうこともある。
もちろん、その逆に皆を窮地から助け出す機会の方がずっと多くはあるのだけれど、そういう手痛い失敗は、ラビィンにとって強いストレスだ。
それでも、【直感】を使うことをやめる気はない。
様々な脅威、危機に際して、持てる全てを使わないのは愚行でしかない。
彼女はとっくに、その無責任な直感の責任を負うと決めている。ああ、でも、
――頼らなくて済むのが、一番なんだけどね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これが宝の鍵っスか!」
そう言ってラビィンはシズクが探し出した隠箱の鍵を掲げる。
ぱっと見では奇妙な玩具のようにしか見えなかったが、確かに素材も、形状の意匠も、隠箱のそれと同様のものだった。
「それでは、宝箱ご開帳……!! 金銀財宝入ってるっスかね-!」
「宝箱って言っちゃったわね……」
「大分夢見てんな……」
「入っていたら、素敵ですねぇ」
リーネとジャインは呆れた様子で、シズクは微笑ましそうに、そのラビィンの様子を見守った。
ラビィンは隠箱の側面、そこに彫り込まれた模様に、鍵の先端を合わせる。模様と鍵の形はピッタリと合わさり、そして隠箱は自らその封を時、蓋を開いていく。
ラビィンは「おお……!」と感嘆しながら、その中身をテーブル上に広げた。リーネたちも彼女の背後から、それをのぞき込んだ。
「……………………………………んー?」
そして、ラビィンは大変困惑した。
「はて?」
「なんだ、こりゃ……」
ジャインとシズクも困惑に続く。隠箱、その中から出てきたのはどう見ても――
「子供のオモチャ……?」
――非常に愛らしい形をした、子供の玩具だった。
ふにふにと柔らかい小鳥の人形、硝子玉(傷だらけ)、そして勇ましい天陽騎士の鎧を身につけた小さな人形。
隠箱のように、何かしらの仕掛けが施されている様にも見えない、正真正銘、子供のオモチャだった。
「……あれかしらね」
しばしそれを観察し、リーネは半笑いになりながら、言った。
「情報が漏れて、隠し金庫が使い物にならなくなって、捨てようかってなったんだけど、折角だから子供のオモチャとして与えて、それが流れ流れてここまで来たと」
リーネの推測は、あくまでも推測であるが、妙な信憑性があった。この箱の中身と推測があまりにも、しっくりときた。きてしまった。
そしてそれは【直感】を有するラビィンも同じだったらしい。彼女は大きく、深呼吸をするように息を吸い込み、そして、
「しょーもねーーーーーーー……!!」
がっくりとぐったりと、脱力してうなだれた。
「なーんで中身がこんなのに【直感】働くんスかねえ本当、あーおもんねー! バカなんすかね私ぃ! そりゃ箱は本物だったスけどぉー!!」
「全力で自分にぶう垂れてるわね」
「難儀ですねえ」
恐らく、隠箱そのものが本物かどうかを【直感】が判断したものの、それの中身がなんであるかまでは判定しなかったということらしい。道中、ラビィンが自身の直感を「面倒」と言っていた理由を、リーネも理解できた。正解が分かっても、具体的にどの問いに対しての正解であるか分からないのは、あまりにもいい加減すぎる。
ラビィンはそのままぐったりとうなだれたまま、ジャインにしだれかかった。
「はぁー、やる気なくなっちゃったあ、ジャインさん。おぶってぇ……」
「働け」
「働くっスからあ……今はおぶってえ」
「はあぁぁ……」
そのおねだりに、ジャインはやはり怒鳴ったり、怒ったりすることもなく、心の底から面倒くさそうにため息を吐いて、ラビィンをその巨体で背負った。
「悪い、面倒掛けたな」
そう言って、二人は再び貨物整理の作業に戻っていった。リーネとシズクはその二人を見送りる、その途中、リーネはふと口を開いた
「……なんというか、アレよね」
「アレです?」
「なんか、上手くやれそうに、あのヒト達と」
「本当に、そうですね」
リーネの感想に、シズクはクスクスと微笑むのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
直感がもたらしてくれる情報は鮮烈で、強烈で、直接的だ。
そして曖昧で、不確かで、いい加減で、面倒くさい。
これに、頼らずに済むようになりたいとラビィンは思っている。頼らずとも生活が送れる毎日、アンゼンアンシンが欲しいと常々思っているのだ。
それは、小心者のジャインとそこまで違いはない。
だから、お金は好きだ。大好きだ。
金はアンゼンアンシンを買うための強力なチケットだからだ。金さえあれば、食事には困らない。安全に眠れる場所も手に入る。生きていく許可が手に入る。
だから、隠し金庫の話を聞いてラビィンは大変に浮かれ、そしてがっくりときた。本当に、自分でもビックリするくらいに気落ちしてしまった。
そんな自分の反応を客観視して見て、随分と焦っていたことに気がついた。
「……」
ラビィンは、ジャインに背負われながら空を見上げる。
奇妙な狭い空、竜吞ウーガの背中の上、前代未聞の移動要塞の上に【白の蟒蛇】たちはいる。ここにいることになった流れの中で、自分の【直感】による判断が一因になったのは間違いないだろう。ジャインが聞いたら鼻で笑いそうであるが、それでもそれは事実だ。
そして、それが正解であるか間違いであったのかは、分からない。まだ、
その責任から、重責から、一刻も早く逃れたかったのかもしれない。
良くない逃げ方だった。弱った末の逃避行為だった。
「……ジャインにぃ」
「なんだ」
故に、ラビィンはジャインに背負われながら、もたれかかり、甘える。
それが今の自分に必用だと分かっているから。
「私達大丈夫だよねえ」
「大丈夫にするんだ」
ジャインのその言葉に保障はない。ラビィンの【直感】よりもよっぽどない。
それでもラビィンは嬉しくなって、ニッコリと微笑みジャインの背に身を預けた。
時に頼り、頼られ、支え合いながら二人は、白の蟒蛇たちは進んでいくのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なお、【隠箱】それ自体のアンティークとして価値の上がり、高額で取引され始めたといいう事実が明らかになり、後々そこそこの騒ぎになることになるのだが……これは別の話である。
というわけで、ラビィン編でした。
中々、スポットが当たらなかった人物を描くのは楽しいですねえ。
そんでもって、本日5巻発売です!
この話と同じく、WEBでは手が届かなった部分を一杯盛り込めたのでどーか手に取っていただければ幸い!
ではでは!!
メロンブックス様
https://melonbooks.co.jp/detail/detail.…
ゲーマーズ様
https://gamers.co.jp/pn/%E3%80%90%E…