かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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冒険者になろう③

 

 大罪都市グリード、訓練所一階、講習室

 

 グレンは訓練所の部屋の中心で小さくぼやいた。

 

「ああ……めんどうくせえ」

 

 彼の目の前にはおおよそ30人ほどのヒトが集結している。性別もバラバラ、人種も只人、獣人、土人と様々だ。彼らは全員が白亜の指輪の所持者、つまりは冒険者見習い達である。彼らはなんともまあ、悪そうな人相を首の上にのせて、かったるそうに着席している。

 まともな連中には見えなかったし、実際そうだ。名無し、この世界の最下層の住民であり、更に言うとロッズが「コイツは迷宮にそのまま突っ込んだらすぐに死ぬな」と判別し訓練所に言葉巧みに誘導した選りすぐりのクズである。

 正直言って相手をするのも面倒くさい。

 

「こいつら全員早く子鬼どもに食われて死なねえかなあ」

「思ったこと全部口に出てるぞオッサン」

 

 やさぐれた生徒その1に指摘されおおっと、と、グレンは顎髭をさすった。まあ別に本音を聞かれて困るわけではないが。

 

「あーもういいや、とにかくさっさと訓練終わらすぞクソども覚悟し――」

「グレン、追加で2人訓練ついかよー」

「死ね」

 

 そこへ乱入してきたロッズと2人の子供を前に、グレンはうめいた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 訓練所

 

 ウルはその言葉に一も二も無く飛びついたものの、時間が経つと共にその名称と、冒険者という役職の相容れ無さに、奇妙な感覚を覚えていた。訓練、という言葉の響きには地道で、真面目で、堅実な印象を受ける。冒険者という言葉には粗野で、乱暴で、不真面目な印象を受ける。

 ウルの個人的感想ではあるが、大きく外れているとも思わない。実際ここにいる、ウルと同じ冒険者見習い達は、机に座るという事すら鬱陶しそうにイライラとしている。顔には「なんでこんなとこにいなきゃなんねえんだ」という不満がまき散らされている。

 

 そうそう、冒険者ってこんな奴らだよな。

 

 という、妙な納得を得ながらも、ウルは眼前の講師と思しき男を見る。

 

「……めんどうくせえ」

 

 見た目、4、50くらい。只人(タダビト)、無精髭、赤黒いボサボサの頭。やる気という物を全く感じない生気のない眼、教師、という言葉があまりにも似つかわしくなさ過ぎる。ウルでも訝しげな顔にならざるを得なかった。

 ぶつぶつと何か愚痴のようなものをこぼしながら大きく、諦めたような溜息をつくと、男はウル達の方へと向き、皮肉げに顔を歪めた。

 

「ここで指導を行うグレンってもんだ。ようこそクソッタレな訓練所に、クソッタレな冒険者になろうなんて志したバカども」

 

 コイツ本当に指導する気あるんだろうかとウルは思った。他の奴らも多分そう思った事だろう。隣に居るシズクだけは何故か拍手しているがコイツはコイツで何とも思わないのか目の前の男を。

 しかしグレンという男は気にしたそぶりも見せず言葉を続ける。

 

「別にこの訓練所に通うのは義務でもなんでもねえ、今すぐ迷宮に行ったって誰もお前らを咎めやしねえし騎士団もしょっぴいたりはしねえ。……っつーのに此処にいるってことは、まあロッズのバカにそそのかされたって事だろう」

「私たち、そそのかされたのですか?」

「そうかもなあ…」

 

 シズクの問いにウルは生返事する。

 実際ウルはこの話を聞いたときは随分美味しい話もあったもんだと思った。家を持たない放浪の身では、寝泊まりにすら金はかかる。名無し用の不潔で寝心地最悪の安宿であってもだ。寝泊まりと指導をタダでしてもらえるなんてうさんくささしかない。残念ながらウルには選択肢がなかったが。そそのかされた、と言われても納得しかない。

 

「おいコラふざけてんじゃねえぞオッサン!!てめえの話なんてどうでもいいんだよ!」

 

 しかし他の者達は納得できなかったらしい。ウルの隣の男は立ち上がりがなりたてる。五月蠅かった。

 

「指輪をよこすっつーからこっちは来たんだよ!寄越せよ!“銅の指輪”を!」

 

 指輪?とウルは首を傾げ、シズクを見る。シズクも首を傾げていた。

 銅の指輪の意味はわかる。今ウル達が持っている“白亜の指輪”ロッズが言っていた“仮”の冒険者の指輪なんかじゃない、本物の冒険者の指輪だ。それをくれるのだろうか?ここで?しかしそれならなぜロッズはその事を言わなかったのだろうか。

 

「サプライズとかではないでしょうか?」

「サプライズかあ」

 

 と、間抜けな会話をウルとシズクがする最中、グレンが彼方此方から湧き上がる不満の声を鬱陶しそうに無視しながら、懐から何かを取り出す。

 窓の外の太陽の輝きに照らされ眩く輝くその指輪は、ウル達が装着している鈍い白亜の指輪ではない。紛れもない正式な冒険者の指輪だ。

 

「銅の指輪、まあ冒険者ギルドの中じゃ最下位の指輪だが、それでもお前等が渡された白亜と比べりゃその持つ効力はデカイ。権限の一つに、“都市滞在費用”の免除が与えられるって言えばわかるだろう」

 

 その一言で、不満を上げていた訓練所の参加者たちは色めきたつ。一定の費用を支払わなければ都市に居続けることも出来ない名無しには、それだけで魅力的な権限が、あの小さな指輪に秘められているのだ。

 

「っつーわけで、どうせ長ったらしい説明してもおめーらは聞かねえだろ?此処のルールを説明してやる」

 

 そう言ってグレンは指を三つ立てた。

 

「この訓練所を出る方法は三つ。一つは退学、コレはいつでも、自分の意思でそうしたいと思ったらそうすりゃいい。さっきも言ったが、別にこの訓練所は義務じゃねえんだ。望まないなら出ていっても止めねえ」

 

 そう言って一つ指を折る。だが、他の参加者達はグレンが持つ指輪を凝視している。少なくとも今すぐ此処を出ていく気は無いらしい。

 

「二つ目、俺に認められること。俺が許可を出したら指輪をくれてやる」

 

 ニヤニヤと笑いながらグレンは更に指を折る。あ、コイツ許可出す気ねえなという気配がありありと出ていた。しかし参加者たちは未だ指輪を凝視している。全く諦めていない。今にも飛びかかりそうだった。

 そして、グレンは最後の言葉を口にする。

 

「三つ目、俺を倒せ。手段は問わねえ」

 

 それを言い放った瞬間、参加者の何人かががたりと椅子を蹴り飛ばし立ち上がった。見ればどっから持ち出したのか棒状の鈍器をそれぞれ持っている。見た目完全に強盗の類いの男達のリーダーと思しき男がグレンへと近づき、せせら笑った。

 

「てめえをぶちのめしゃ“お勉強会”せず指輪貰えるってか?」

「おーそうだぞ」

「そいつはルールとかあんのかい?タイマンじゃなきゃならねえとかよ」

「言っただろ、手段は問わねえって」

 

 それを聞いた瞬間、彼は仲間たちを顎でしゃくる。そして吠えた。

 

「んじゃあ!ここでぶちのめしちまっても文句はねえってこったよなあ!!!」

 

 古びた長机が押し倒される。男達が飛び出し、グレンを取り囲む。教室から怒号とも悲鳴ともつかない声が響く。

 

「……ぅぉ」

「あら?」

 

 ウルはその瞬間、()()()と何か背中に得体の知れない悪寒が走ったのを感じた。根拠も何も無い直感が、危機を告げていた。それに従いウルは咄嗟に隣に居るシズクの肩を掴んで頭を下げた。

 

 衝撃が部屋全体を飲み込んだのはその次の瞬間の事だった。

 

「っっっっっっっっっハガゴバァ?!!」

 

 同時に、魔物の断末魔でもそうはならないような奇妙な悲鳴がこだました。

 

「………………は?」

 

 恐る恐るウルが顔を上げると、何故かグレンを囲っていた男達の姿が消えていた。右を見ても左を見てもどこにも無い。そして、パラパラと上から何か、石片のようなものが落ちているのを見て、上を見上げる。

 

「……………あ、が」

 

 そこに、その天井に、チンピラ達はいた。頭から天井に頭を突っ込み、胴体近くまで身体をめり込ませながら、つり下がっていた。奇妙な天井のインテリアと化したチンピラ達は、恐怖を通り越してシュールだった。

 

「おーし、ほかに挑戦者はいるかー。全員で来てもらってかまわねーぜ俺は」

 

 グレンがにこやかに訓練生に笑いかけるが、それにこたえるものは一人もいなかった。

 

 冒険者ギルドグリード支部、訓練所、第245期生

 

 参加者三〇名、内脱落者五名、残り二五名

 

「……ええ」

「とんでもない場所に来てしまったのでは?」

 

 シズクののんびりとした指摘は、的確だった。

 




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