11月某日 京都競馬場
「いよいよ菊花賞当日を迎えましたが……なんと朝早くから既に、ここ京都競馬場は満員状態となっております!それもそのはず!本日は特別企画として、あのトウカイテイオーが5年ぶりにレース場に戻ってきます!しかも、VRレース再現機と言う最新機器を使用してあの日の菊花賞を走ります!!」
その日の第一レースは約10時からの開始だが、本日の出走ウマ娘達の邪魔にならないように第一レース前の9時からトウカイテイオーのレースは行われることになった。現在は8時30分……にも関わらず既にここ京都競馬場には満員の観客が集まっている。
それだけではない、特別に地上波でTV中継まで行われている。こんな早い時間から地上波で競馬中継が行われるのは過去に例の無い事だ。このレースに皆が注目していることの現れだろう。
「このレース……奇跡は2度起こるのか」
「どうした急に」
「ウマ娘の全盛期の期間は短い。引退してから5年、しかもG1レース。常識的に考えたらトウカイテイオーが勝利する可能性は0だ。だがかつて……彼女は奇跡を起こした。もしかしたら今回も」
観客席最前では、中年男性2人が熱い会話をかわしている。いや、最前列だけではない。京都競馬場全体……日本全土で本日のレースを心待ちにしている者たちが山のようにいるのだ。
「それじゃあVRレース再現機、作動するよ!」
機器の生みの親でもあるアグネスタキオンがボタンを押すと、パドックに当時のウマ娘達が姿を表す。実写と殆ど差がないその姿に、京都競馬場が大歓声に包まれた。
「凄いねアナタ!本当にみんなその場にいるみたいだよ!!あっ、あそこにいるのはネイチャだ!!若いなあ」
「ああそうだな。……と言うかここレース場だぞ。アナタじゃなくてトレーナーって呼んでくれよ」
「ヘヘッ。良いじゃん、今は2人きりなんだしさ♪」
トウカイテイオーもトレーナーも非常に落ち着いている。レースが決まってからの一ヶ月、トウカイテイオーは現役時代……いや、それ以上にトレーニングに精を出した。食事にも大変気を遣い、大好きなハチミーも最低限に留めた。
「ねえ、アナタ」
「なんだ?」
「みんなの前に出る前に、ちょっと頭撫でてもらっていいかな?」
トレーナーはテイオーの様子にハッと目を見開いた。ごく僅か、声が震えている。ごく僅か、足が震えている。
100人いたら100人が気づかない、本当にごく僅かな震えだ。誰よりも長い間一緒にいて、誰よりもトウカイテイオーの事を想っているトレーナーだからこそ気づけたのだろう。
「まったく……テイオー、まさかこんな大舞台でまた一緒にやれるとは思わなかったよ。もちろん勝利を願っているが……何よりも、悔い無くいけよ!!」
力強い言葉とは相反するように、トレーナーは優しくトウカイテイオーの頭を撫でる。
「ありがとう……ありがとうアナタ!愛してるよ!!」
「バッ、バカ!そんなに大声出したら誰かに聞こえちゃうだろうが!!」
慌てているトレーナーの様子が何よりも愛おしい。声の震えも足の震えも収まった。よし……行こう!!
――――――――――――――――――――
「続いてパドックに出てきたのはトウカイテイオーです!スキップを踏むような足さばき、テイオーステップです!テイオーステップです!!」
今回のレースの実況を担当するのは、ベテラン実況者の赤坂美聡だ。トウカイテイオーが勝利した伝説の有マ記念でも実況を担当しており、感極まったのか早くも涙目になっている。
全ウマ娘、パドックが終わり本バ場入場を済ませた。VR表示される当時のウマ娘達に笑顔は無い。全員が鬼気迫る表情をしている。
「当時のアタシ、すごい表情してるなあ」
「TV中継では見てましたけど、こんなに緊迫感あるレースだったんですね」
「あーあ、もっと近くで見たかったなあ。テイオーさん!頑張れーーー!!」
ここは招待された者だけが入れるVIP席。パドックと本バ場入場の様子を熱く見つめるのはナイスネイチャ・サトノダイヤモンド・キタサンブラックの3人だ。
「君たちが観客席にいたら大騒ぎになってしまうからね」
3人とも現在は引退しているが、現役時代はトウカイテイオーに勝るとも劣らない人気を誇ったウマ娘達だ。そんな彼女達が3人揃って観客席にいようものなら、シンボリルドルフの言うように間違いなく大騒ぎになってしまう。VIP席には彼女達以外にもレジェンド級ウマ娘たちが勢ぞろいしていた。そして……
「本日のメモリアルレース!実況はわたくし赤坂美聡!解説はこの方、現役時代は怒涛の追い込みで数々のレースを盛り上げ、現在は解説担当としてお馴染みのゴールドシップさんが担当いたします!」
「みんなー盛り上がってるかー!?もっともっと盛り上がっていこうぜーーーー!!」
ゴールドシップの煽りを受けて、観客席は更なる熱狂に包まれた。
トウカイテイオーにとって……10年ごしの三冠挑戦が始まった。
次回で最後になります。