食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

1 / 157
理由

北上「……くぁ…ぁ…」

 

大きく欠伸をして、ソファから起き上がる

今日も朝が来た、でも、ここはちゃんとした、他のとこみたいにラッパが鳴ったりしない

ここは、ちゃんとしてないんだ

だから、誰もどこかに集まって、人員の把握をしないし、朝起きたら食堂でご飯が用意されてたりしない

 

北上「…缶詰…残ってたっけ……これもカラ、あれもカラ…せめて一つでも見つけたいんだけどなぁ…」

 

ここいらで、観測者(オブザーバー)にご挨拶でもさせてもらおうかな?

そう、認識できてる

初めまして、あたしは北上、重雷装巡洋艦北上改二

改二が示す通り、実力は折り紙つきで、基地のエースだった

 

北上「…お、豆缶に缶パン…これ二つあれば何とかなる……助かった…」

 

それは過去の話、今となってはこのゴミ屋敷みたいになった基地でその日を食い繋ぐのがやっと…

その理由は…いや、それを語るにはまず二つの事を知ってもらわなきゃならない

 

北上「……んー…よし、チビども起きろ〜、ご飯だよ」

 

艦娘って言うのは、元人間で、そして未だに人間と同じ生理機能を持ち、同じ姿形をしているが、中身は全く違う存在であり、差別の対象にもなる事

 

暁「ふぁ…」

 

曙「……豆缶なんて残ってたんだ…」

 

そして、深海棲艦は…いや、一部の知能のある深海棲艦は…人間の政治家と和平を結んだ事

 

如月「朝からご馳走ね、ほら、睦月ちゃん、食べられる?」

 

睦月「…うん…」

 

北上「食べ終わったら片付けといて、あたしは出てくるから」

 

暁「…北上さんは食べないの…?」

 

北上「あー、ほら、大豆と小麦にアレルギーあるからさ」

 

曙「……」

 

さっきの二つの事を踏まえて聞いてほしい

…艦娘になったら、人間に戻る事はできない

そして、艦娘を運用していた基地は、ほぼ全て破棄された

 

では、今のあたし達の立場について話そう

基地を全て破棄したとはいえ、一応この基地、大湊警備府は国の管理物だ

そこに今は勝手に住み着いている状態

 

この基地にはもう指揮官もいなけりゃ補給も来ない、電気も止まったし水道やガスもない

 

でも手を出してこないのはただ恐れているから

艦娘という、自分たちが生み出した化け物を恐れているからこそ、何とか今も生きられている

 

捕まった艦娘はどうなるかって?

反抗的なら拘束されて留置所だか刑務所だかにぶち込まれる

従順に従ってれば、常に居場所がアップロードされるチップを詰め込まれて監視されるものの、仮初の自由が手に入る

 

…なら何故そうしないのか

艦娘である事は…差別の対象だからだ

 

 

 

 

北上「…ちぇっ…何も流れついてないな…せめて、魚でも流れ着いてくれりゃ……あ、あの貝とかは…食べられるのかな?…生はダメか」

 

食べれる葉っぱをちぎり、口に放り込む

エグくて渋くて、食物繊維たっぷりな食感で

でもこの葉っぱを食べてもお腹を壊さないと知ってから毎日のように食べている

でも…

 

北上「…マッッズイ…」

 

艦娘は街には出ない

たとえ街に出ても、迫害されるだけだ

危険の象徴、機械に侵された体は存在自体が兵器とまで言われる

 

だから、民間人からしたら…怖いだろうね、そりゃ

 

北上「……お腹減ったな…」

 

さて、ところでだけど、こんな生活を始めてもう1年以上経っている

食べ物が尽きたことも何度もあった

 

飢えというのは怖いもので、倫理観なんてそれの前ではチリに等しい

でもお腹を満たしたら、後悔する

食べ物を盗んだことは両手でも足りないけど、生きるためだと言い訳ができた

でも…駆逐達がやった時は、叱ることもできなくて…

それ以来2度とやってない

 

でも、でもだ、コレはどうだろう?

自信を持ってコレは…正しいって言えるよ

 

北上「スゥーー…ッ……いいね…やっとだ、ずっと待ってた匂いがする…

今夜はご馳走にできるかな…」

 

海面に足を乗せ、ゆっくりゆっくりと歩く

そう、艦娘は海の上を歩ける

 

ここが人間と違うところだ

 

 

 

 

匂いを辿って、もう2時間近く歩き彷徨った

そしてようやく見つけた

 

北上「…ひーふー…小物3に…ヒトガタ2か…そして電動の救命ボートが3つ…中身は食料だと良いな」

 

深海棲艦の、輸送部隊

 

深海棲艦は人類との和平以降、偶に物々交換にやってくるらしい

だから、それがここを通るのを待ってた

ずーっとずーっと…

 

チャプチャプと音を立てながら、深海棲艦の艦隊に近づく

ちなみにだけど、艤装なんかはもう整備もしてないし、補給切れで使えるのは残ってない

だからさっき拾った流木だけが武器だ

 

北上「…死んだら、まああたしの肉でも食ってもらうとしましょうか」

 

深海棲艦がこちらに気付き、止まる

 

北上「ナイス、機動力で攻められたらなすすべ無かった」

 

異形の深海棲艦、よくイ級と呼ばれるそれが奇声を上げながらこちらへと突っ込んでくる

それも3体同時に

 

一応、コイツらも砲撃は出来るはずだけど…

だが、近づいてきてくれるならチャンス…!

 

北上「えいっ」

 

振り抜いた流木が音を立てて砕ける

向こうのアホみたいに硬い体には傷一つつかないようだ

 

北上「うそーん…」

 

イ級が飛び上がり、大口を開く

 

その時ようやく悟った、コイツらが撃たなかったのは、喰うためなんだって

そして、その口が腕を少し食いちぎる

ドクドクと血が流れ落ちる

 

北上「……お腹減ってんだ?アンタらも…そっか、お腹減ってたら辛いよねぇ…」

 

折れた流木を捨て、両手を広げる

 

北上「…はぁ…」

 

大きく息を吐き、ヒトガタを見る

チ級と呼ばれるものと、リ級と呼ばれるもの

 

どこかニタニタと笑ってるように見える

チ級に至っては舌なめずりをしたように見えた

 

北上「…お腹、減ったなぁ…」

 

背後からまた大口を開けたイ級が飛びかかってくる

そしてそれを──

 

北上「うん…やっぱさ…」

 

─掴んだ、両手でがっしりとホールドした

 

北上「あたしの方がお腹減ってる」

 

残りの2体のイ級が近づいてくるのを確認し、前に進む

進んで、飛びついてきた方に…

 

イ級の鋼鉄の身体をぶつける

鋼鉄同士がぶつかり、砕けて奇妙な液体が辺りに飛び散る

 

北上「…不味…」

 

柔らかそうな肉を舐めて、即座に口の中の水分を吐き捨てる

 

北上「あー不味い……っと?こんなとこにもう1匹」

 

何故か動きを止めていたイ級を掴み上げ、コンコンコンと殻を叩く

 

北上「どうやって割ろうかな?…あ」

 

バゴン

 

砲撃が直撃した

長く止まりすぎた…

 

北上「かはっ…あー……あんがとね…殻砕いてくれて…」

 

イ級で砲撃を受けたおかげで致命傷は避けられた…

けど、海に寝そべったこの体勢はあまりにも無防備だ

 

北上「見てよほら…この大きい破片…ずっぷし刺さっちゃってまあ……ちっこいのもこんなに…あー…クソッ…」

 

チ級「……」

 

リ級「……」

 

相も変わらずニタニタと…

そんなにあたし達の血が好きか

 

北上「…なら、好きなだけ飲ませてやる…」

 

歪な笑みを向けながら近づいてくる深海棲艦を、じっと睨む

心の中でカウントダウンしながら、覚悟を決めて…

 

あたしを食べるためにその大口を開いた瞬間が、ベスト!

 

北上「射程内!」

 

ぐちゃぐちゃになったイ級の残骸を向ける

そう、イ級にも、砲弾を撃つ機構がある…つまり

 

北上「食らえ!」

 

イ級の残骸から放たれた砲撃は、チ級の頭の上半分を吹き飛ばす

一瞬リ級が躊躇った隙に、破片を引き抜いて首目掛けて突き刺す

 

北上「死ね!死ね!死ね死ね死ね死ね死ね!死ねぇぇッ!!」

 

押し倒して、何度も何度も突き刺す

もう動かないとわかっていても、恐怖心を抑えきれず、入念に、念入りに、徹底的に殺した

 

…一息ついて、落ち着いて辺りを見回した後…嘔吐感に耐えられずに空っぽの胃から体液を吐き出した

酸っぱくて苦くて、気持ち悪かった

 

 

 

 

北上「……さて…戦利品もらってくか…」

 

ゴムボート、アレが目的だ

アレさえ手に入れば、この傷の痛みなんてきっと吹っ飛ぶ…

 

ハズだった

 

北上「…え?」

 

ゴムボートには確かに“食料”があった

どのくらいの期間、それで飢えないのかは知らないが…

いや、もっと早い段階で気づくべきだった

 

ボートにあったのは、縛られた艦娘…の、死体…それも3つ…

 

???「…っ……」

 

いや、1つはまだ生きてる…

 

北上「…どう、したもんかね…は、はは……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。