食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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九食目

どうも〜、北上様だよ

今何してるかってねー、大淀に押し付けられたスマホ使って食べられる野草調べてるんだ

 

悔しいけど文明の力は便利だなぁ…

 

北上「…お、これも食べれるよ、ってかこの前早霜が取ってきた…?」

 

早霜「そうですね、ギシギシって名前みたいです。

あ…こっちも食べられます、ホトケノザです」

 

北上「んで、これが例の大根か……ハマダイコンって言うんだ、へえ…」

 

早霜「あと、それはダメです、スイセンですね、毒があります」

 

北上「ほえー…ニラみたい」

 

早霜「ところで…北上さん、今日は水浴びもして、服も整えて…まさか街に行くんですか?」

 

北上「阿武隈を連れてね、あんまり行った事ないらしいし良い経験だと思うよ」

 

早霜「……辛いだけだと思います」

 

北上「大丈夫だって、身なりも整えてるし、遠めのトコまで行けば顔割れてないし…それにほら、もしかしたら何か買えるかも」

 

資金は一応はある

と言っても、数万円程

なぜ今まで残してたかと言うと、街に入るのが怖かったから

 

ちなみに、銀行の口座にはもっとあるけど…まあ、引き落としたところで使うのは難しい

 

…理解できないと思うけどね

 

北上「早霜…日本にさ、素性隠して生きられる艦娘ってどのくらいいると思う?」

 

早霜「……10%にも満たないと思います、そして…たとえそうやって生活できていたとしても…バレればそこまで」

 

北上「だろうねぇ…」

 

ここで差別についてのお勉強だよ

和平の際、邪魔になった艦娘は全て国の管理下の隔離施設に収容される事になった、あたしらみたいな例外を除いてね

でもその前はさ、人間を守るために戦ってたんだ

 

なのにこの扱い、違和感あるよねー

そもそも、あたしらみんな元は人間、でも、人間時代の記憶はない、外観そのまま中身をまるっと入れ替えられた感じ

 

それで、なんだろう…例え話だけど…家族みたいな人の前に出た時、どう言う反応すると思う?

 

想像通り、悲惨な事になるよね、するとさ、その人達はみんなこう言うんだ、「私たちの娘を返せ」って

…つまり、あたしらは…艦娘は、人間の体を乗っ取った“何か”という認識が世間一般に広まってる

深海棲艦って敵がいた頃はまだ利用価値があったから良かったけど、それが無くなったら…ねえ?

 

北上「早霜、向こうも辛いし、寂しいんだよ

ただ、そう…胸が空っぽっていうかさ…お腹減った時みたいな…そんな感じなんだよ」

 

早霜「理解はできます、でも…私達がなんのために命をかけてきたのか、わからなくはなりました」

 

北上「自分の為でいいんだよ、物流やら漁やら、そんなのがまともに機能してたら普段通り食べ物にありつける。

だから、あたしは自分が食べるために戦ってたって…」

 

思えたら、楽なんだけどな…

 

北上「まあ、せいぜい捕まらない様にするよ」

 

早霜「お気をつけて」

 

北上「…なんかあったらみんなのことお願いね」

 

 

 

 

阿武隈「…バイクですか?」

 

北上「そう、免許とか持ってる?…持ってないか、一応原付だけ持ってるんだ、あたし」

 

基地が放棄された時の残り物は色々ある

衣類やらベッドやら、電気がなくてただ邪魔になった家電やら…

 

で、基地から基本的に出ないから普段は使わないような…原付バイクとかもあるわけだ

といってもコレは元からあたしの私物だけど

 

北上「行くよ、阿武隈」

 

阿武隈「は、はい…でも、グローブにヘルメット…凄い本格的ですね」

 

北上「まあ、安全のためにね、安全運転で一時間くらいかかるし、リラックスしなよ」

 

ちなみに、ウチの基地…元大湊警備府は深海棲艦との戦いで移転してるよ、本来は陸奥湾に面してたんだけど、より早期に対処できる様な位置に移動してる

だから、まあ誰も大湊警備府って呼ばなくなったんだよね

地図で調べたいみんなは青森県の、尻屋埼(しりやざき)灯台で調べてね、だいたいその辺だと思って欲しいな

 

北上「ホントはさー、前の基地の位置だとJRとか通ってたし、そこそこ栄えてたから利便も良かったんだよ、でもそこまで行くのに徒歩だと5.6時間くらいかかるんだよね」

 

阿武隈「…ちなみに目的地は…」

 

北上「そこだけど」

 

阿武隈「…さっきチラッと見えたホテルとかある街は…」

 

北上「いや、あそこ…まあ、それでも良いんだけど…アレ、何も見るモンないよ」

 

阿武隈「ええ……そんなぁ…」

 

北上「まあまあ、おとなしくしてなって」

 

阿武隈「…あの、さっき道の途中にバス停が」

 

北上「バスはダメ、変なとこから乗ると車内でバレて捕まって留置所行きとかもあったからね」

 

阿武隈「…いつの間に現代日本がディストピアに…?」

 

北上「笑い話じゃないんだよ、残念な事にね」

 

阿武隈「じゃあ、そうまでして街に行くのは、私に現実を見せる為ですか?」

 

北上「違うよ、それはついで」

 

阿武隈(ついで…)

 

…実際のところ、街に行く最大の目的は…

 

北上(…ライターとかできるだけ欲しいんだよね…電気式ライターとか雨関係ないらしいし…)

 

とりあえず着火用の道具とか、その辺りが欲しいところ

ホントは発電気とかも欲しいけど…

 

北上(はあ…高望みしたくなるなぁ……)

 

 

 

阿武隈「あ!」

 

北上「お…見えたね」

 

山が畑になり、そしてしばらくした頃、ようやく街が見えた

元々大湊警備府があった街、青森県むつ市

 

阿武隈「うわ…!色々見えてきましたよ!」

 

北上「あんまはしゃがないの、目立つでしょうが」

 

阿武隈「だ、だって…」

 

北上「それに、遊びに来たんじゃないんだからさ」

 

阿武隈(…見たところ平和な感じだし…ちょっとくらい遊びたかったな…)

 

北上「とりあえず、元警備府まで行ってみようか」

 

阿武隈「え?…流石にまずいんじゃ…」

 

北上「大丈夫、今はあそこ一般開放されてるから。

基地を移転した後、国の所有物として管理するために古い機材とか武器の展示してるんだって」

 

阿武隈「武器…それってもしかして、艤装とかも含まれるんですか?」

 

北上「まあ、そりゃね」

 

阿武隈「…じゃあ、それを盗むんですか!?」

 

北上「え、なんで」

 

阿武隈「…だってわざわざ使わないものを見に行く意味なんて…」

 

北上「ああ、別の理由がちゃんとあるんだよ」

 

 

 

阿武隈「…誰もいませんね、隣にコンビニまであるのに」

 

そりゃあ、この施設に飾られてるのは忌み嫌われてる艦娘の艤装とかだよ、つまりだね、誰も観にこない

 

北上「見てよこの寂れっぷり、職員もほぼ居ないし、完璧じゃん」

 

阿武隈「え?」

 

北上「でね、えーと……確か向こうに見つけたんだよ」

 

原付を止めて記憶を頼りに歩く

 

阿武隈「何を…?」

 

北上「不良の溜まり場」

 

阿武隈「…へ?」

 

阿武隈に案内したのは…

 

阿武隈「うわ…タバコの吸い殻だらけ…」

 

北上「そう、ここを喫煙所にしてる人達がゴミをたくさん溜めてるんだよね、で…わざわざここにきた理由は…これ」

 

阿武隈「…ライター!そっか!」

 

北上「まともに買えれば良いんだけど、そうもいかないことが多いからさ、こういうのが非常に助かるわけ」

 

阿武隈「火をつける道具はいくらあっても困らないですよね!」

 

北上「さ、ここの掃除手伝ってね」

 

阿武隈「…へ…?」

 

北上「あと、人が来てもちゃんと話し合わせること」

 

ポケットから袋を取り出し、吸い殻をポイポイと放り込む

 

阿武隈「ちょっと待ってくださいよー…」

 

北上(…来た…って、今日は2人?…いや…違う)

 

明石「ねえ、ちょっといいかな?」

 

北上「…なんですか?」

 

夕張「い、いやー…こんなとこでゴミ拾いなんて偉いなーって思って…よく来るの?」

 

阿武隈「え?ええと…」

 

北上「あたしの姉ちゃんがここで出撃した後戻ってきてないんだって、だから、帰ってきた時…綺麗な方が嬉しいじゃん?」

 

明石「あ…そ、そう…」

 

夕張「ご、ごめんね?邪魔して…」

 

北上「いーよいーよ」

 

明石「…行こう?」

 

夕張「うん…でも……」

 

明石「いいから」

 

うまく追い払えたか…

 

阿武隈「う…うう…」

 

北上「え、なんで泣いてんの」

 

阿武隈「だって…そんな悲しい過去が…」

 

北上「ないよ、確かに出撃して帰ってこなかった球磨型は居たらしいけどね、あたしの着任前に」

 

全く、このピュアピュアガールは…

 

阿武隈「……」

 

北上「嘘は言ってない、だって姉妹艦じゃん?帰ってくるなら万々歳じゃん?興味ないけど」

 

阿武隈「…そう言うトコよくないと思います」

 

北上「よし、コレをゴミ箱にぶち込んで、あとは…最低限だけ見て帰ろうか」

 

阿武隈「はーい………ぁ…」

 

北上(とりあえず、ライター三つ…で、あとはどこかで買って……ん?)

 

阿武隈「……」

 

阿武隈がタバコを捨てたコンビニのゴミ箱を眺めて立ち止まってる

というよりは、捨てられたお弁当の入った袋を…

期限切れだろうか?

 

北上「…みんな通った道だよ」

 

阿武隈「絶対まだ食べられますよ」

 

北上「でも手は出さないで、食べちゃダメだからね」

 

阿武隈「…お腹減りました」

 

北上(やっぱ初回はみんなこうなるかぁ…)

 

北上「…ん?」

 

さっきの二人組…何展示場の入り口でウロウロしてるんだろ

 

阿武隈「あの…北上さん…お願いがあるんですけど」

 

北上「あ、ああ…ごめん阿武隈、わかってるよ、でももう少し我慢できない?」

 

阿武隈「…お米食べたいです…街まで来たのに…」

 

北上「ちゃんと美味しいもの食べさせてあげるって、でもコンビニはダメ、覚えない?セルフレジとかがさ、生体ユニットに反応しちゃう事があるの」

 

阿武隈「…確かに、昔壊しちゃいました」

 

北上「だから、バレにくい手渡しで現金を扱えるお店に行かないといけない、今時はずいぶん減ったけど、探せばある筈だし、そこで食べさせてあげるからさ」

 

阿武隈「え!?ホントに!?」

 

北上(お陰で自販機も使えないやつばっかだし……ん?)

 

…さっきの二人組が近付いてくる

 

北上「なんか用ですか?」

 

明石「あー…そのぉ……」

 

夕張「ちょっとお願いがあるんだけど、お金出すから、お弁当買ってきてくれない?…もちろん、2人の分も買ってきて良いから」

 

北上(ふーん…やっぱか…)

 

阿武隈「あ、えっとその…」

 

北上「いいよ」

 

阿武隈「そ、そうで…えっ!?」

 

片方が差し出したお札を受け取り、店内に入り、目についたお弁当をさっさと四つ手に取り、店員にレジを通してもらう

 

北上(……大丈夫、大丈夫)

 

そして…

 

北上「ほら、コレで良い?」

 

明石「あ、ありがとう!ごめんね、変なこと頼んで…」

 

夕張「…よかったら一緒に食べない?」

 

北上「それは遠慮しとく、行こう」

 

阿武隈「え…あ、はい、お弁当いただきます!ありがとうございました!」

 

夕張「……」

 

 

 

 

北上「あの2人、やっぱ艦娘だね」

 

阿武隈「…だから頼んできたんですね…って、そうじゃなくて!さっきの話は!?レジ壊れませんでしたけど!」

 

北上「うん、試したことなかったけどなんとかなったね、コレで」

 

阿武隈「…バイク用のグローブ…?」

 

北上「厚手のグローブだからなんとかなったけど、あーよかったー」

 

阿武隈「よ、よかったって……あ、それより!コレでみんなにお土産買えますね!」

 

北上(そう上手く行くかなぁ…)

 

弁当の蓋を取り、割り箸の片側を咥えて片手で割る

 

北上「いただきます」

 

阿武隈「わ…チキン南蛮!……懐かしいなぁ…」

 

北上「こっちはノーマルの唐揚げだね、ちょっと交換しようよ」

 

阿武隈「良いですよ!」

 

唐揚げ、チキン南蛮、漬物、添え物のスパゲティにポテトサラダ

どれも魅力的だけど…このお弁当で最初に手をつけたのは…

 

阿武隈「…お米だぁ…!!」

 

北上「米ってこんなに美味しかったっけ……うわ…これとおかず合わせて食べるとか…贅沢でしょ…」

 

噛めば甘みの広がる、安心の味…

 

阿武隈「ん!チキン南蛮凄いですよ!タルタルソースってこんなに具沢山でしたっけ!」

 

北上「ほんとだ…ソースっていうかみじん切りにしたサラダが乗ってるみたいだよね…シャキシャキ甘いからソースだけでも美味しい…」

 

阿武隈「それにこのお肉も美味しいですね…あー……幸せ」

 

北上「肉の前に語彙力が尽きてる……うわ…唐揚げ衣柔らかいやつじゃん…コレ好きなんだよね………ん…なんかめちゃくちゃ久々に醤油の味する…」

 

阿武隈「ポテトサラダってサラダの中で1番美味しいと思うんですよね…」

 

北上「わかる、さすが炭水化物の塊……漬物…あー…ハマダイコンで作れないかなぁ…めちゃくちゃ美味しいんだけど…」

 

この一つの箱の中に、甘い、しょっぱい、酸っぱい、いろんな味がある

 

 

阿武隈「…ん〜〜!!美味しい!コレ凄いですよ!」

 

北上「久々に食べると贅沢に感じるよねぇ…っていうか、これも思い出しちゃいけない味だよね」

 

…美味しかったけど…

ああ…またしばらくは虫かな…

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