食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
大井「…働き口の紹介って…アンタ、どのツラ下げて…!」
青葉「だって、この身体は青葉の物だし?
食べさせとかないと、困るけど…仕事も何もないから稼げなくて、身売りとかよりは…ね」
大井「……チッ…!」
青葉「んじゃ、よろしくね、せーんぱいっ!」
大井「その口縫い合わせるわよ」
青葉「メイドカフェ?」
大井「そう、飲酒の耐性のない青葉に飲ませるくらいならって…思ってたのよ…私の昼の職場」
青葉「やっさしー、大井さん良い人だ」
大井「…とりあえず、それつけなさい」
青葉「なにこの…ネックウォーマーみたいな奴」
大井「本来の用途は日焼け防止よ、でも、今回は」
青葉「首輪隠しと…了解」
薄くて風通しもいいけど、黒い布だから多少透けても首輪は見えにくいか…
大井「他にも、明るい色のチョーカーとかを上から被せて隠すとか、いろんな手段で隠しなさい、お店に入る前には絶対にね」
青葉「…背中見られたらアウトだと思うけどなぁ」
大井「…そこは心配ないわ、名前はよくわからないけど、なんとかクラシックとかいうメイド服だから、長袖のロングスカート、首もかなり上まで布があるし」
青葉「へぇ」
大井「…ちゃんと働きなさいよ」
青葉「勿論!」
青葉(これ以上嫌われたくないしね)
朝霜「…はぁ…なんでハラって1日経つと減るんだろうなぁ…」
…昨日の弁当が恋しくなる
そういえば、あの弁当を置いて行った女の人、あの人…他の大人とは違う感じがした
朝霜(…わざと置いて行ってくれたのかな…いや、まさかなぁ…)
朝霜「…はあ……お腹減った…」
自販機はあるけど、お金が無くて飲み物は買えない
コンビニもあるけど当然何も買えない
朝霜「……どーすっかなァ…」
瑞鶴(…はあ…帰りたい…)
朝霜「……だいぶん街中に来ちゃったな…ここってどこなんだ?」
…辺りをキョロキョロと見回す
朝霜(…夜まで耐えるか…今日は、狙えるとしたら…あーいうご飯屋さんのゴミ…か?)
瑞鶴(あ……まさか…またゴミを食べるつもり?……どうしよう…でも、何も食べないよりは多少マシ…?)
朝霜(…とりあえず、安全なとこで寝るか…)
瑞鶴「あ、ちょ…」
朝霜「ふぁ…あ……」
瑞鶴(呑気にあくびしちゃって…誰が見張ってるから安眠できると思ってんだか…)
朝霜(さーて、ゴミ漁りゴミ漁り…)
瑞鶴「…ふぁ……ねむ…」
朝霜(…あ、あのコンビニの前…)
飲みかけの缶やら、食べかけの焼き鳥とかが捨てられてる…
しかも、人の気配も無い…
朝霜「……いい、かな…?…いいよな、よし…」
近付いて、串を拾い上げる
…少ししか残ってないけど、これだけでも…
朝霜「…ぁ……あ?」
口を開けて食べようとした時、串を持ってた手を掴まれる
「ゴミ拾いとは関心だねガキンチョ、汚いから食べるのはやめときなよ」
朝霜「ぇ…あ、ごめんなさ…い…」
…誰だ、この女の人…
なんか、威圧感あって、怖い…
「…首輪…やっぱ艦娘か…ほら」
串を取り上げられ、缶やら食べかけの何かやらをゴミ箱に突っ込まれる
「逃げずに待ってなよ?…おーい、店員さん居るー?」
朝霜(…何だ、あの人)
少しして、出てきた女の人に袋を渡される
朝霜「え?」
「首輪付きがゴミ食わなきゃいけないなんて、おかしい話だよ…それは“あたしら”の方だ
首輪付けてんのに、そこまで否定されるのは、間違ってる」
朝霜「…アンタも、艦娘…?」
「まあね、とりあえずそれ食べて…お腹減ったら…あー…どうしよ、とりあえず2、3日はこの辺にいるから…いや、いないかもだけど」
朝霜「…なんで…優しくしてくれるんだ…?」
「…あたしと同じ事してたから、まあ、また会ったら声かけてよ」
朝霜「同じ…って…そうだ!名前!」
北上「北上、よろしくね?ガキンチョ」
朝霜「…朝霜」
北上「ん、じゃあね」
…見送り、袋を開く
お水と、小さいおにぎりのお弁当
朝霜「……ツイてる…じゃ、ダメか…
あ…ありがとうって言うの忘れてた…」
北上「あ、やば、朝ごはんのお金足りない…まあいいや」
那珂「それで、見ず知らずの子にお金使ったから1人で草食べてるって…?」
春雨「はい…」
北上「ん…むぐ…いやー、ごめんごめん」
那珂「…いや、いいんですけど…」
春雨「私たちも食べづらいので、普通に食べてください…このトマトとか、もうすぐ悪くなっちゃいますから」
北上「んー…じゃ、遠慮なく…」
トマトに齧り付く
もう食感が無いな、確かに悪くなり始めてる
那珂「わ、このかぼちゃ美味しい!」
春雨「生でも美味しいですけど、本当は火を通したいですね…」
北上「流石にこの辺じゃね、焚き火しても煙見て通報されるよ」
…まあ、とりあえず今日はライブもあるし
大人しくしておくしか無い
北上「…んむ、おかきみたいで美味しいね」
生のかぼちゃってこんなにポリポリなんだ
春雨「ちゃんと甘さもあって美味しいです」
那珂「よーし、那珂ちゃん補給完了!ライブも頑張っちゃうよ!」
北上(那珂のスイッチの切り替わるタイミング、未だにわかんないな)
那珂「今日はお願いしまーす!」
記者「こちらこそお願いします、本日は期待してますので」
北上「…ハコ貸切でその上費用もそっち持ちって、本当にいいの?」
記者「はい、勿論です、言われていたライブ配信の用意もできてます」
北上(…至れり尽くせりだ……ま、なんでもいいけどさ…でも…)
ステージにビニール敷いてるのは若干怪しいかな
那珂「…わあ…」
北上(…目、キラッキラじゃん…)
…期待してる那珂には悪いけど、そう上手くはいかないだろうなぁ…
那珂「…よし!やるよ!」
北上「はぁ…ほんとにあたしまでステージに立つの?用心棒でよく無い?」
那珂「いやいや、せっかくならやらなきゃ!」
北上(…本当、恥ずかしいんだよね、これ…)
紹介の音声が流れて、2人揃ってステージに出る
…ガラッガラだ
50人は入る部屋なのに、春雨と記者除いて10人もいない…
…これじゃ、予定よりも悪い…
那珂「みんな来てくれてありがとー!!」
北上(……)
でも、思ったよりは、那珂は強いか
北上(っと)
那珂に向けて投げられたコップを掴み取り、ステージに置く
那珂はあたしを信じて、笑顔のまま挨拶する
…まあ、ボディーガードくらいはしてやらなきゃ
曲が始まり、ダンスが始まる
北上(…にしても…ほんと)
那珂「〜♪〜♪」
楽しそうにやる…
北上「?」
急に那珂がこっちを向いて…
那珂「…にひっ!」
北上(…観客席向いて笑いなよ…って)
…上手い
ついこっちまで笑って、顔背けちゃったけど、上手い事笑顔を観客席に向けさせられた…
那珂(計算ど〜り!ってね!)
…那珂が場を支配してた
ぜーんぶ、上手くやって…そう、こっちとしては大成功、何投げられても
那珂はずっと笑顔だったし、嫌がらせしてた観客も諦めたのか、何人かは笑ってた
北上「…いい気分でしょ、那珂?」
那珂「うん!もうサイッコー!!」
北上(ま、このくらいで終わりなら何事もなかったって言えるか…)
那珂「北上さん!付き合ってくれてありがとう!」
北上「…まあ、川内には外に出してもらった恩があるからね」
那珂「はー…さて」
那珂が再びマイクを口元に運ぶ
那珂「帰る準備をしてるみんな、ごめんね!あとほんの少しだけ時間を分けて!
…特に、もし、私と同じ艦娘がこれを見てるなら、よく聴いてほしいな」
北上(…え、何、何を…?)
那珂「…私、私は夢を叶えたよ、やりたい事やって、ここに来てくれた人を、もしかしたら画面の前の人を笑顔にできた…だから、私は、言える…
艦娘は、幸せになれる権利があるし、夢を叶えられるんだよ!…いままで、誰かのために、守る為に、辛い思いをたくさんして戦ってきた!でも、今、戦争が終わったなら…どんなに辛くても腐っちゃダメ
私みたいに、チャンスはいつか来るから」
北上「那珂…」
那珂「…艦娘じゃ無い、皆さんにも聞いてほしい
私達は家族や友達を、そして故郷や好きなものの記憶まで失って、誰かを守る為なのか、強いられたのか、生活のためなのか、お金のためなのかもわからないまま戦ってきた
だから、みんな自分を犠牲にしてまで戦ってきた優しい子達だから、お願い…みんなの事を、受け入れてあげてくれないかな…!」
北上(もしかして、このために…?)
那珂「…春雨ちゃん、どうだった?」
春雨「わかりません…でも、ライブ自体は300人の視聴者がいました、最後のスピーチは50人くらいしか見てませんでしたけど」
北上「多いの?それ」
春雨「少ないですね…でも、動画化してSNSに上げたものは凄く拡散されてます」
北上「…そっか」
那珂「みんな、わかってくれればいいけど…」
春雨「…絶対にうまくいきますよ、はい!」
北上「かもね」
青葉「…凄かったね、良いライブだったね、青葉!」
空っぽのクローゼットに声をかける
青葉「観に行けばよかったぁ…配信じゃなくて、ちゃんと観に行けば…でもいつか会えるもんね?
今じゃなくても良いよね?」
スマホをベッドに投げ出す
楽しくて楽しくて笑ってしまう
青葉「……ふふっ…あははっ!
やる事たくさんあるよ!お仕事も沢山して、美味しいものも沢山食べられるようになって…
このライブで何か変わるなら、きっと幸せになれる、最高のタイミングだよね…首輪付きが、幸せになれるチャンス、巡ってきたよ」