食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
夕張「…由良、食べなさい」
ツ級「……」
由良が口を開き、人差し指と中指の付け根に歯を当てる
夕張「…時間かけなくていいから、早く」
…歯が閉じていく圧力がかかる
そして、中の筋肉がちぎれる音が、皮が裂ける音が響き、骨が砕ける感触が…
夕張「っ……ぐ…!」
由良の口が離れた瞬間、即座に手の甲に注射器を突き刺し、薬液を注入する
夕張「っ!…あぁ…いっ…!」
ツ級「……夕張」
夕張「…今回も、成功……か」
…指はゆっくりと、新しいものが生えてきている…
今注射したのは、私が新しく作った、修復剤
製造法が不明な従来の物は安定供給できないため、真似て作ったけど、今のところ小さい欠損なら修復可能な上、生産性も高い、自信作
まあ、効果は今のところ問題ない
夕張「……」
痛い、痛くて、熱い…
傷口から新たな何かが這い出す感覚
ツ級「夕張…モウ、ヤメヨウ…?ネ?」
夕張「…黙って、由良、次は腕いくわよ」
ツ級「マ、待ッテ?…モウ、オ腹イッパイ…」
夕張「そんなので足りるわけないでしょ…嘘はいらないから」
ツ級「ヤメテヨ…今日ダケデ10回以上…コレ以上ハ、夕張ガ壊レチャウ…」
…確かに、これを繰り返せば廃人になる
間違いなくそうなる、痛みに耐えきれない脳が変な物質を出してるのも、感じるし…でも
夕張「…正直に答えて、今の由良はどれくらい飢えてるの」
ツ級「……」
夕張「なら食べて」
ツ級「…モウ、無理…コッチマデ
夕張「飢えがどれくらい怖いものか私はよく知ってる、由良が教えてくれた、暁ちゃんが教えてくれた、北上が教えてくれた、みんな飢えの辛さはよく知ってる
極限まで追い詰められたら、盗みでも、殺しでも、同族食いでも、なんでもやる、それが生き物でしょ」
ツ級「ソレハ…」
暁ちゃんが大湊の時のことを語ると、いつも申し訳なさそうに言っていた
唯一一度、自分で盗みを働いた時のことはずっと後悔していると
…盗みは一般的には軽犯罪だろうが、軍においては重罪、その上形成された個人の倫理観に反する行為
罪悪感というブレーキを壊して進む
それが“飢え”の怖いところだ
夕張「由良にはもう、私以外の誰かを食べさせたりしないから」
ツ級「……」
夕張「言ってなかったけどね、艤装の開発が最終段階に入ったのよ」
ツ級「…!」
…コレが完成したら
私たちの置かれている状況は一変してしまう
夕張「他の深海棲艦に伝えてもいいわ、その時は…敵になるけど」
ツ級「…選べ…ッテコト…?」
夕張「…由良1人なら、今こうしてるように、私が匿うこともできる…それ以上は言えない」
ツ級「……本当ニ、戦争スルツモリ?」
夕張「…それは、わからない…
でも、那珂が、北上達が、世論を変えたとしたら、それは戦争の引き金にもできる」
ツ級「……相入レナイモノ、ネ」
夕張「…人を喰らわなければならない存在である以上、仕方ないのよ…どちらかが絶滅しなきゃならない、じゃなきゃ、人間は安心して暮らせない」
ツ級「……」
夕張「…明日、腕を切り落として持ってくる、それでどのくらい我慢できる?」
ツ級「……1週間」
夕張「…そんなに短いのね…」
夕張(ヲ級は、どうやって耐えてたのかしら…
……いや、私は由良にヲ級を求めてるわけじゃない、落ち着きなさい…由良は由良なんだから)
ツ級「…夕張?」
夕張「なに?」
ツ級「…他ノ、深海棲艦ト過ゴシタ事ガ有ルノ?」
夕張「……まあ、事情があって、捕縛した子と」
ツ級(子ッテ事ハ…)
ツ級「悪イ関係ジャナカッタノネ?」
夕張「なに、妬いてるの?」
ツ級「……マアネ…羨マシイッテ、思ウ…」
夕張「由良…」
ツ級「……ア、ゴメン、私…」
夕張「気持ちは同じ、由良とも…そうなりたい、今の…お父さんやお母さん達とだけじゃなくて、みんなにも紹介したい
……だからって、どうしたらいいか…」
ツ級(……夕張…ソンナノ…)
由良が膝をつき、顔を手で覆う
夕張「由良?どうしたの?…お腹痛い?」
ツ級「…ウウン」
ツ級(…夕張…ダメヨ、ソレジャダメ…深海棲艦ハネ…大事ナ人モ、ミンナミンナ、食べテ、恐怖ニ染メル事シカ考エラレナイノ…
今ダッテ、心ノ奥底デ、私ハ…)
夕張「…お腹が減ったときは、いつでも言って、再生できる範囲で私を食べて」
ツ級「……」
ツ級(…次モ、止マレル…?…モウ、自信ガ無イ…夕張…)
夕張「…由良…?」
ツ級「…夕張、艤装、完成サセテネ、早ク」
夕張「……うん」