食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
暁「まあ、お察しの通り昔話になるわ、まずはあのレ級についてね」
川内「えーと…レ級レ級…これだ…識別コード、レ、艦種戦艦?…あんなちっこいのに?」
夕張「“あの”レ級ってことは、同じ個体とやり合ったの?」
暁「そうなるわね、北上さんが来てすぐの任務だったから、忘れもしないわ」
阿武隈「へー!来てすぐの北上さんのお話!聞きたいです!」
暁「いいわよ?昔の北上さんの悪口なら永遠に喋れるもの、折角だし来た時のお話もしてあげる」
夕張(…あれ?さらっと北上より先輩って言わなかった?今…)
暁「あれは…何年前かしら、北上さんもそろそろ18だし、5年?ギリギリ経ってないかどうかくらいね」
夕張「えっ」
暁「どうかした?」
夕張「い、いや…」
夕張(す、少なくとも5年以上は、在籍してた…?見た目的には小学生なのに…もしかして既に中学生になってる?
…いやー…怪しいような…2年…いや、1年なら…背が伸びてないで…)
暁「…夕張さん、いい?」
夕張「え?あ、はい」
暁「それでだけど」
北上「ってわけでー、今日から配置になりました、よろしく〜」
みんなが拍手する
龍驤「よろしゅうな、ウチは龍驤、とりあえずの取りまとめ役やな」
北上「へえ、アンタがまとめ役ね…そっちにいる4人って、例のやつ?」
北上さんが私達の方を向く
北上「アンタらでしょ?最小年齢で教育部の学科主席突破の
響「え?…そんな風に言われてるのかい?」
電「ちょっと照れるのです」
北上「でも、戦闘の適性はてんでダメ、だからこんな
暁「何が言いたいの?」
北上「いろいろ聞いてるよ〜?…そっちの軽空母のアンタは旧式の艦載機しか扱えないから、そっちの戦艦のアンタは訓練はできるのにビビりすぎて前に出ないから
落ちこぼれの集まりなんでしょ?ここ」
榛名「えっ…」
龍驤「…何のつもりや」
北上「いやー…悪いね?青函トンネル防衛戦で半分消えて、その補填があたし1人でさぁ」
暁「アンタ、喧嘩売りにきたの?」
北上「いやー?」
摩耶「まあまあ、良いじゃねえか?…整備過程の主席だったのに、いきなり前線に放り込まれて不安なんだろ?」
暁「整備過程?軽巡が?」
雷「人不足とは聞いてたけど…」
北上「…とりあえず、あたし仲良くするつもりないから、お構いなく?」
夕張「なにそれ!北上整備できたの!?」
川内「というか、感じ悪ぅ…」
阿武隈「うーん、そんなに険悪だったのに、あんなに仲良くなれたんですか?」
暁「最初はね、でも…あれは北上さんの自衛策だったから」
夕張「自衛策?」
暁「北上さんは、ちょっと“特殊”だったから…
それに、メインの仕事になった整備はちゃんとしてたし、その時は摩耶さんが面倒を見てくれてたの」
夕張「摩耶って、あの島で戦った?」
暁「そうらしいわね、昔は仲良かったのよ?」
摩耶「おう!北上、お疲れサン!」
北上「……」
摩耶「ンだよ!また無視かよ!なんか飲み物持ってんのか?飯は?ずっとそこで座ってたら苔生えるぞ?」
北上「ほっといてよ、仕事の邪魔」
摩耶「…ったく…なんか欲しいもんは?」
北上「要らない」
摩耶「……あー、わかった、また来る」
北上「来なくていい」
暁「よくやるわね…」
摩耶「あいつが来てから何人死んだ?」
暁「…3人ね」
摩耶「このペースでそんだけ死ぬのは、おかしい事じゃねえ…どうやったって何かのミスで
それこそ制服のボタンひとつかけ違えば、それが艤装に引っかかるだけで人は死ぬ、意識外から撃たれても死ぬ、真正面から殺されることもある」
暁「…どうしたの?急に」
摩耶「アイツ、死んだやつの艤装までメンテしてるんだよ」
暁「…なんで?」
摩耶「わかんねぇよ、あいつから“仲良くしない”って言ったんだ、誰とも仲良くもなってねえのに、なんで綺麗に
…少なくとも、死んだ奴らに敬意を持ってるなら、アタシはあいつの面倒見てやる」
暁「…そう、でも、鳥海さんに重ねたら、後悔するわよ」
摩耶「誰が重ねるかよ」
北上「ねえ」
暁「何よ」
北上「あんたらさ、自分で整備とかしない訳?やり方習ったでしょ」
暁「苦手なのよ、それに汚れるし」
北上「駆逐みたいに修理単純なやつはなんとかなるだろうけどさ、龍驤にはやるよう言っときなよ、じゃなきゃ死ぬよ」
暁「どう言う意味よそれ」
北上「そのまんまだよ、旧式使いのくせに整備もちゃんとしないし、この前みたら脚もガタついてた、“本番”でどんな故障が出るかわからないよ」
暁「その本番も経験したことないくせに」
北上「そう言うこと言うんだ?ならもう知らないよ」
暁「…一応、伝えておくわよ…」
北上「ん、よろしくね〜」
龍驤「ホンマや、脚がダメになってる」
暁「…そうなの」
榛名「あの、どなたか私の艤装、修理してくれましたか?電探の不具合が治ってて…」
摩耶「北上だろ」
榛名「…お礼…言い難いなぁ…」
暁「良いんじゃない、向こうが仲良くする気ないって言うんなら」
摩耶「そう言う問題じゃねえ…とは思うが、無理にいう必要もねえよ、代わりに言ってやってもいいしな」
榛名「なら…お菓子でも買ってくるので、一緒に…」
摩耶「おう、いいぜ!」
摩耶「って訳で、いろいろ持ってきた!」
北上「……要らないよ、あたしお菓子とか食べないし」
暁(そう言えば、食堂で食べてるのも見たことない…)
暁「あなた、普段何食べてるのよ」
北上「食堂に置いてある、持ち出し用の菓子パン」
摩耶「栄養ねぇなぁ…ちゃんとしたモン食えよ、倒れるぞ?」
北上「かもね、気をつけとくよ、もう終わり?あたしまだ仕事…」
摩耶「よし!榛名!」
榛名「はい!持ち上げます!」
北上「え!ちょっ!?」
暁「どこにする?」
摩耶「んー、車ちょっと走らせたところにサイゼできたしそこで良いだろ?な?」
北上「行かないって!こら!下ろせ!!」
暁「大人に勝てる訳ないじゃない、黙って連れ去られなさい?」
北上「やだ!離せー!!」
川内「北上がそんなに暴れてわめくイメージないんだけど」
暁「だって当時の北上さん、思春期真っ盛りの12歳よ?」
夕張「イメージつかない…」
阿武隈「…ところで、北上さんが特殊なのって?」
暁「あー……実はね、北上さんは、ほんの少しだけ艦娘になる前の記憶が残ってたのよ」
夕張「それって…たしかに全く聞かない話じゃないけど、かなりレアなケースじゃない?」
暁「うん、でも、家族とか、友達とか…覚えておきたいことほど忘れてたって…でも、今ではその覚えてたことすら忘れてるわ」
阿武隈「…もしかして、北上さんの食べるものが変なのって…」
暁「虫の事?北上さん、地元でイナゴの佃煮を食べてたって言ってたから…」
阿武隈「やっぱり…」
暁「まあ、そんなこんなでなんとか付き合っていけてたのよ、少しだけ打ち解けてきた頃に、来たのよ」
暁「またハンバーガー?」
榛名「だって…美味しいもんね?」
龍驤「せやで、片手間に食べられるしな!ほら、北上、あーん」
龍驤さんが差し出したポテトを北上さんが頬張る
暁(いつの間にかべったりになってるし…)
北上「むぐ…ごくん、ねえ、こんなとこで食べない方がいいよ?あたしも整備中だし、臭くない?」
龍驤「なら食堂で食べよか?」
榛名「私たちは北上ちゃんと食べたいの!」
暁「すっかりデレデレね…」
響「摩耶が、なかなか懐かなかった猫が懐いたみたいだって言ってたよ」
電「そう思うと面白いのです!」
北上「そこ、聞こえてるから…ん?」
サイレンが基地に鳴り響く
暁「緊急出動?!」
榛名「そんな!摩耶さん達は出払ってるのに…」
暁「響、雷と電に摩耶さん達の艤装を用意させて、摩耶さんが帰ってきたら一緒に出て」
響「わかった」
北上「……あたしも出る」
龍驤「本気か?実戦は初めてやろ…!」
北上「頭数足りないし、摩耶さんにやり方は教わったから」
暁「…気をつけなさい」
龍驤「正面!距離300!弾着観測いける!」
榛名「…はい!撃てます!主砲!砲撃開始!」
榛名さんの主砲から放たれた砲弾が深海棲艦の付近に着弾する
龍驤「東2メートル!」
榛名「修正良し!もう一度!」
次は、直撃…
暁「これで3匹!…榛名さん、大丈夫?」
榛名「ええ、ちょっと…気が焦っちゃったけど…」
北上「ねえ、なんであの深海棲艦はさっきから1匹ずつ出てくるの」
龍驤「え?」
北上「…引っ張られてない?これ以上追いかけると、また青函トンネルの辺りまで行くと思う…あそこ、ギリギリ警戒網の外だよね?」
暁「…怖いの?」
北上「怖いと言うか、これ以上はまずいと思う、警戒域に入ってきた深海棲艦は全滅したんだし、下がって体制を…」
龍驤「ちょい待ち!艦載機が……落とされた、分体全滅!2つ目出すで!」
龍驤さんが式神の艦載機を発汗させる
北上「や、ダメだ、やっぱり下がった方が…」
榛名「敵艦載機!北東方向から!」
暁「対空射撃用意!」
北上「もう、遅いか…」
深海棲艦の艦載機にむけて対空射撃を始める
でも、当たらない
バラけたり、まとまったり、落としても落としても…
北上「…あー、もう!」
榛名「直上!」
暁「きゃあっ!」
龍驤「航空劣勢…!戦闘機が、どんどん落とされて…!」
榛名「三式弾装填!…撃ちます!」
艦載機が火の塊になって、いくつか落ちる
北上「動きが乱れた!」
暁「対空射撃を緩めないで!」
龍驤「っ!アカン!前方から来とる!新手の深海棲艦…!」
榛名「ぁ…!」
…気づいた時には、榛名さんの頭に黒い何かが覆いかぶさっていた
いや、蛇のような何かが食いついていた
北上「……な、にこれ…」
小さなヒトガタの深海棲艦から尻尾のように伸びる艤装が、榛名さんの頭に食らいついている
暴れる榛名さんの体が徐々に持ち上がり、何かが砕ける音共に、手脚がだらりと垂れる
…海面が、赤黒く染まり出して…
龍驤「…っ……こいつ…!」
暁「榛名、さ…ん…」
レ級「キシシッ…!中途半端ジャ復活スルシ、再生デキナイヨウニ…モット、モット…」
どんどん榛名さんの身体が飲み込まれて、潰されて…
レ級「ン?…ブッ!?」
深海棲艦の顔面が爆発する
龍驤「北上!?い、いや、怯んだ今のうちに…!」
北上「龍驤さん、空任せたよ…あたしがこいつをやる」
暁「何言って…!」
北上「黙っててよ…!もう1人やられてるんだ、引き下がれる訳ないでしょ…!!」
北上さんが主砲を撃ちながらレ級を誘導する
レ級「…キシシッ…スグニ殺シテヤル…!」
北上(やっぱ動きながらじゃ上手く当たらない…!やっぱ艤装の扱い教えてもらっただけじゃちゃんとは戦えない
なら、相手に当たってもらうようにするしかない…!)
北上さんが両脚の発射管から魚雷を射出する
暁「ぜ、全部撃った!あんなことしたら再装填に時間が…!」
レ級「コンナノ、当タルワケ…!ッ!?」
レ級に砲撃が直撃する
北上「やっぱり、これだ…!」
北上さんの砲撃が何発かレ級に当たり出す
レ級が砲撃を嫌って横に飛び出したところに…
レ級(グギッ…!?)
魚雷が炸裂…
北上「やれる…!」
レ級「ナ、ナンダ、今ノハ…!チィッ!!」
レ級が尻尾の大口を開け、中から主砲を向ける
北上「!」
北上さんが正面からレ級に向かって進む
暁「なにを…!」
レ級「ナンダ!ナンナンダコイツ!?」
…レ級の砲撃が、
暁「な、なんで…?」
北上「お前なんか、怖くない…!」
北上さんが手に持った主砲を大きく振り上げて…
暁「えっ」
龍驤「な…ななっ!?」
レ級を主砲で殴りつけた…
レ級「ブハッ…!?」
北上「
全部、全部取り上げて!全部奪って…!!返せよ!!」
北上さんが両手の主砲を突きつけて、引き金を何度も引き続ける
北上「死ね!このっ!お前なんか…っ」
レ級の尻尾が北上さんの左茹でに食らいつき、持ち上げる
レ級「痛イナァ?……ア?何ヲ…」
北上さんが左肩に主砲を突きつけて、発砲する
ベシャリと音を立てて、“本体”が落ちて、立ち上がり、まだ仰向けのレ級にゆっくりと近づく
レ級「ナンダ、オ前…ナンナンダ、オ前ハ…!」
北上「…腕一本くらい、今まで奪われたもの考えたら、なんでもないよ……返せよ…全部…!」
右手で魚雷発射管を立ち上げ、レ級に振り下ろす
持ち上げて、何度も振り下ろす
ぐちゃぐちゃと、肉と血が混ざるまで
何度でも、何度でも…
龍驤「……なんや、これ…」
暁「……私…何……なに、を、見てるの…?」
コントロールを失って墜落する艦載機の炎と、血煙と
…その真ん中で、顔面が肉塊になった深海棲艦を未だに襲う艦娘…
北上「………」
ドチャリ
一際大きい音と共に魚雷発射管が振り下ろされ…そこで、北上さんの動きも止まった
龍驤「…おい、北上…?」
暁「……気絶、してる…?」
…意識を失うまで、振り下ろし続けたということか
その後、遅れてきた摩耶さん達に回収してもらえたおかげで、私達はなんとか帰ることができた
暁「…酷かったわ、あの時は…」
夕張「ここにきたレ級って、ほんとにそのレ級なの?」
暁「うん、見間違いなんてしないわ…絶対にそうよ」
川内「なら目的は?北上への復讐?」
暁「さあね…でも、条約違反だとか言ってたり、昔だって誘い込むようなことしたり…
頭も回るみたいだから、気をつけないとね」