食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
暁「次は青い目の深海棲艦ね」
夕張「…そうね」
夕張(私にとって覚えがあるのは、あのヲ級だけど)
暁「これについては、北上さんのお姉さんになるの」
川内「えっ」
夕張「…あー…」
暁「なに、その反応」
川内「あ、いや…なんか、重たいのの後にヘビー級のボディブロー控えてたなって…」
夕張(もはやソコしか無いとは思ってたけど…ね)
川内「あ、でもあたし的には摩耶の事も気になる、なんで抜けたの?」
夕張「他のメンバーとか、今いない人も居るのよね?」
暁「…まあ、だいたい同時期だから、
多摩「軽巡、多摩です、元呉艦隊の5番隊旗艦ですニャ」
龍驤「よろしゅうな」
摩耶「おー!待ってたぜ!多摩さん!」
北上「あれ?知り合いなの?」
摩耶「入ってすぐに教育受けてた頃の先輩でさ!一緒にしょうもねえ事やったよなぁ…!」
多摩「余計なこと言うのはやめるニャ、ここでは真面目キャラでとおすつもりなのに…」
暁「5番隊旗艦…って言うと、かなりの実力者じゃ無いの!?」
摩耶「おうよ!戦闘適性バッチリだぜ!」
多摩「なんで摩耶が自慢する…」
北上「…へー…軽巡…ふーん……」
摩耶「っと…そうだ、多摩さん、こいつ北上、同じ球磨型なんで、使ってやってくれ」
多摩「…ふーん…“妹”かニャ」
北上「え?妹?」
摩耶「お前…そうか知らねえのか、確かに同型居ない奴らばっかだしな…」
暁「球磨型や暁型、高尾型みたいに艦娘の艤装は種類があるでしょ?その種類が同じ艦娘を結束を高める為に姉妹として扱うのよ」
北上「…へえ、じゃあ…姉ちゃんか…」
暁(…そういえば、北上さんにはほんとのお姉さんが…受け入れられるのかしら…)
北上「ねえ、試していい?」
摩耶「あ?」
暁(やっぱり…!)
北上「あたしの姉名乗るんなら、実力見てみたいじゃん」
摩耶「おまえ…」
多摩「構わないニャ、こっちとしても自分より強い奴に面倒かけたく無いし…実力は見せるべきニャ」
北上「へえ、自信満々じゃん」
暁「ちょっと北上さん…」
北上「黙ってなよギフテッド、あたしにはあたしの考えたやり方があるんだよ」
暁「それはそうかもしれないけど…」
暁「北上さんが食ってかかったのは、“また姉が死ぬ”事態を恐れてのことだったと思うわ」
川内「ふーん…」
夕張「ねえ、一個質問…今更だけど、川内は多摩を知らないの?」
川内「知らないわけじゃ無いけど、わかんないかな…殆ど話したことないと思うよ、だってあたしら1番隊だし」
加賀「強いのね」
川内「とーぜん、でも演習で飛ばされた話は、その…タブーみたいな感じかな、耳に挟んでも誰も喋らない話だし、誰がとかも伏せられてて、急に居ないことにされててさ」
夕張「呉の規模だと全員は覚えてられないから、誰が消えたのかすらわからないか…」
川内「うん…特に5番隊はかなり関係ないところだから…各隊に20人は居たし、旗艦同士の交流も、あんまりなくてさぁ…提督がみんな仕切ってたし、隊ごとの関わりなかったんだよね
それこそ多摩が元呉ってのもこっちとしてはあんまり…」
加賀「そう…薄情ね」
夕張「いや、大きい基地なら割と普通よ」
暁「そんな事よりなんだけど」
川内「北上と多摩の勝負だっけ?」
暁「うん…それが…」
北上「…なんで撃って来ないの?」
模擬戦が始まって数分、多摩さんは一発も撃たず、全てをかわし続けてる…
多摩「四の五の言わずに、当ててみるニャ」
北上「…ウッザ…」
北上(なんでこうも当たらない…!あたしだってちゃんと訓練してきたのに…ちゃんと、ちゃんと…!)
多摩(来る…)
北上さんが魚雷発射管から全ての魚雷を放つ
多摩「!」
暁(…でた、有線式の魚雷…!でも、コースが…)
多摩(やや外れて…いや…)
北上「…行け!!」
多摩さんのやや右側を通るかと思われた魚雷群が…多摩さんの方に進路を変えた
多摩(っ!!)
北上「もらった!」
暁「…また、手の内増やしてたのね…」
…魚雷で立ち込める水煙が少しずつ晴れる
多摩「…思ってた以上にできるニャ、お前はもしかしたら多摩より強いかもしれないニャ、でも…それじゃあ旗艦にはなれないし、味方は守れないニャ」
北上「…っ…?…当たって、ない…?いや…」
暁(装備してた艤装が、壊れて浮かんでる…)
多摩「艤装を盾にしてなければ、負けていた
十分実力はわかったニャ」
北上「じゃあこれで…」
多摩「だから、今度はこっちから行くニャ」
北上「は?」
暁(艤装もなしで…?)
多摩さんが水面を蹴って走る
北上「なっ…!」
…艦娘は海の上を歩ける、とはいえ、わざわざ走るなんて選択肢…
暁(というか、武器は…!)
北上(速度は落ちてるのに、小回りきかせてくるせいで変速的に動かれて…!)
北上さんが狙いをつけようとする間に、もはや距離はない
となれば…
多摩「…ふっ」
北上さんが顔面にパンチをもらって崩れ落ちる
暁「…やっぱり…」
多摩「立て、選ばせてやるニャ、ここで終わりか、気絶するまで殴り合うか…一度近づいた獲物からは仕留めるまで多摩は離れない、この距離じゃ主砲も魚雷も無用の長物、さあ、どうするニャ」
北上さんがゆっくりと立ち上がる
でも、顔は俯いたまま…目線は、足元を見据えて…
北上(選択肢は?何がある?…魚雷を抜き取って直接突き刺す?それとも魚雷発射管を盾にして、巻き込んで自爆する手段…何ができる?手札は?誘導用のワイヤーなら…)
多摩「コイツ、まだ……はぁ…わかったニャ」
多摩さんが北上さんの頭に手のひらをポンと置く
北上「っ」
多摩「もう多摩の負けでいいニャ」
北上「…え?」
多摩「コイツこれ以上やると死ぬまでやりかねない、飛んだ大イカれニャ」
暁「…いいの?」
多摩「構わんニャ」
北上「……」
多摩「北上、姉として扱う必要はないからどこか美味しいお店を教えてほしいニャ、動き回ってもうお腹ぺこぺこニャ」
北上「…わかった」
暁「2人は少しずつ仲良くなり始めた
最初は姉妹とかじゃなかったけど、ゆっくりと関係を築き始めたの」
川内「流石に呉の旗艦は強いよね?」
加賀「いいから」
暁「それからしばらく、二、三ヶ月先の話になるんだけどね」
多摩「暁、ちょうどよかったニャ」
暁「なぁに?多摩さん」
多摩「一緒にご飯行くニャ」
暁「……いいけど…?」
多摩「ちなみに北上も一緒ニャ」
暁「うげっ……」
北上「…もぐ」
北上さんが無言で黙々とドリアを口に運ぶ
暁「あの、多摩さん、この空気になるのわかってて呼んだ?」
多摩「想定内ニャ」
暁「なんで」
多摩「北上を大湊の旗艦にするためニャ」
暁「はぁ!?」
北上「ぶふぉっ!?」
多摩「北上には才能があるニャ、でも、今の北上じゃダメニャ、今の北上は個人としては強くても、艦隊としては最底辺ニャ」
北上「な、何言ってんのいきなり!」
多摩「1人で自由に戦えと言われれば、その身を犠牲にして最大限の戦果を上げようとする…それは、部隊としては正しくないニャ」
北上「…どう言う意味」
暁「確かに、動きが“合ってない”のよ」
北上「むっ」
暁「北上さん、こう思った事はない?「こいつら邪魔だ」って…」
北上「……」
暁「あるわよね、あのレ級とやった時も、あたしは結局足引っ張るだけだったものね
…でもね、確かに私は弱いけど、北上さんに非が無いわけじゃないのよ、私は邪魔にならない立ち回りをしようとしてたの、援護をずっとしてたの」
北上「だから何?流石ギフテッドだね、文句は一流だよ!
だけど結局アイツを仕留めたのはあたしだし、その前にあんな痛手を負ったのは…!」
多摩「北上」
北上「っ…」
暁「ごめんね、嫌な思いをさせたいわけじゃないの、でもね…理解して、今の北上さんについて行ける人はいないわ、だから艦隊の戦果が振るわない」
北上さんが参加した作戦は、深海棲艦との戦闘になるまでは問題なく進行できる
ただ、戦闘になってからが問題
北上さんの撃破数は少なくはないけど、他のメンバーが誤射やリスクを嫌うから、撃破できてない
部隊として動けてないから、力で優勢な深海棲艦に連携すら劣っている
多摩「北上、暁が嫌いなのは知ってるニャ、でも何故嫌いなのか、今ここで言ってみるニャ」
暁「えっ」
北上「…それ、は…」
多摩「…理由なく嫌う事はないはずニャ、それに暁は苦手意識はあっても嫌ってる様子は無い
2人の間には何があるか知りたいニャ」
北上「……言いたくない、言えない」
暁(…自然と仲が悪くなった…としか、言えないわよ…でも、何か理由はあるはず、生理的に気に入らないとか…そう言う理由が…)
暁「あ…」
多摩「どうしたニャ?」
暁「……北上さん、もしかして…あの話を聞いたから、それで避けてたの…?」
北上「……」
多摩「どう言う事ニャ、暁は北上の秘密を聞いたのかニャ?」
暁「…これは、誰にも言えない話よ、だから多摩さんにも言えないわ」
多摩「……ふむ…」
暁「北上さんを問い詰める事もしないで、あんまりにも…難しい所なの…
でも、思えば、私もあれ以来…あなたにどう接していいかわからなくなってた、ごめんなさい」
北上「いや、急に謝んないでよ…!」
多摩「北上、暁はこう言ってるニャ」
北上「わかったって…!…こっちこそ…ごめん、いつ誰に言いふらされるか…気になってさ…嫌な態度ばっかとって…」
多摩「これで仲直り、問題ないニャ」
北上「…あのさ…ほんと、なに?なんでこんな…」
多摩「北上、将棋のルールは知ってるか?」
北上「え、いや…しってるけど」
多摩「暁、北上と将棋の相手してくれニャ、みんな暁が1番強いって言ってるニャ」
暁「えっ」
北上「あー………あはは…あのさ、あたし暁に勝てないよ」
多摩「にゃ?」
暁「今93勝22敗だから」
北上「ちなみに93連敗」
多摩「…将棋の基礎を知ってるならもう将棋はいいニャ、でも将棋ができるのにあのワンマンプレーはいただけないニャ」
北上「へ?」
多摩「将棋の特徴は、1つの
北上「……ああ、確かに、コマひとつならトレードで損だもんね」
多摩「でも、実際は1人が全滅させる事もある現実とは違うニャ、でも、旗艦にとっては将棋の盤面じゃないけど戦場を理解する適性が必要ニャ」
北上「なら暁でいいじゃん」
多摩「違うニャ、そこの優先度は低い、多摩が認めたのはあの演習の時、確実に勝ちの可能性を潰されて尚、諦めなかった
演習で諦めないやつは実際の戦闘でも諦めないニャ、だからこそ、死の境地でも仲間を引っ張れる…そんな奴こそ旗艦にしたいニャ」
北上「…それが、あたしの…評価ってわけ?」
多摩「…言ってしまえば…普通に周りの人間が死に続けるこんな職場でその精神性は異常なんだニャ
かといって、どこか考え方に変な部分があるわけじゃない、あの演習の時もまるで多摩を仇のように襲いかかってきた…その異常さが、仲間を守る事もできるんだニャ」
北上「ふーん…」
暁「でも北上さんが艦隊指揮ねぇ…」
多摩「別に指揮をする必要はないニャ、旗艦はリーダーくらいの意味でいい、考える頭脳は別でも構わんニャ」
北上「…あたしバカって思われてる?」
暁「そうじゃなくて、無茶な戦い方しそうだから」
多摩「北上は暁の思っている以上に臆病で繊細だニャ」
暁「え?」
多摩「多摩は最初に会った時から、ずーっと観察してたニャ、いきなり食いついてきたのも…すぐ死ぬような奴と親密になりたくないって感情の現れだニャ」
北上「…わかったような口を…」
多摩「わかってるニャ、色々な姿を見てきたニャ、艤装の整備した後に確実に作動点検をして、みんなの艤装の安全を確かめて…
居なくなった仲間の艤装もちゃんと点検して…磨いて…北上の“過去”は知らないとしても、“今”と“想い”については、理解してるつもりニャ」
北上「……」
北上さんが目を丸くして、多摩さんを見つめる
暁(まだやってたのね…)
多摩「そんな奴が無茶な動きをして仲間を殺すような真似はしない…そう思うニャ」
北上「…隠れてやってるつもりだったんだけどな」
多摩「自然と知られるもんニャ」
北上「と言うか、多摩さんがやれば?」
多摩「…多摩は、もうやった後ニャ」
そう言って悲しそうに笑うから…きっと、失敗したんだって思った
だから、もう自信も無くて、戦うのが辛くて
多摩「…やってくれるかニャ?」
北上「……やるからには…ちゃんと面倒見てよね、多摩姉」
多摩「もちろんニャ、暁、北上にいろんな戦術を教えてやってほしいニャ」
暁「…わかったわ!」
暁「時間はかかったけど、北上さんは多摩さんを認めてたし、特別な絆があった
だから、2人が組んでる時は強かったのよ」
夕張(…そんな仲の相手が居なくなればおかしくもなる…それも 姉を失うのが2回目)
加賀「今更だけど、わざわざ青い目の深海棲艦のためにその話をするのは…」
暁「そうよ、多摩さんが…青目の深海棲艦」
川内「…酷だね」