食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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暁と北上⑤

暁「2人が抜けた後、北上さんはすっごく落ち込んでた…当然、そんな中でも出撃はあるし、死者は出た、だから北上さんは…自分を変えた」

 

夕張「変えた?」

 

暁「北上さんはね、それまで個々の能力ではなく、部隊としての連携を意識した動きをしてたの、でもそれをやめて、みんなの感情をコントロールするようにしたのよ」

 

川内「コントロールって…感情を?どうやって」

 

暁「難しい話じゃないの、単純に自分が強いってことをアピールして、先頭で絶対に負けずに、恐れずに、引かずに戦う

それだけで周りの士気を維持できる」

 

夕張「…まあ、単純だけど…確かにそれされたら深海棲艦怖がる暇はないわね」

 

川内「むしろ北上の方が怖いねそれ」

 

暁「そう思う子が出てくるとは思ってたわ、だから北上さんは積極的に周りの子達と仲良くなってたの、その後にそういう姿を見せる

すると、恐怖よりも尊敬とか、そういう感情になる」

 

夕張「はぁ〜…よくやるわね、それで士気を維持…」

 

暁「もちろん、それだけじゃ無理よ、食糧や備品が枯渇し始めてたの…北上さんは自費で用意したりして、士気の低下をできる限り防いでたの

ハンバーガーとか、テイクアウトしやすいメニューをたくさん買ってきてはみんなに食べさせてた

 

川内「…それ提督の仕事じゃ?」

 

暁「“そういう人”だったのよ、うちの提督」

 

夕張「……ダメなやつだったのね」

 

暁「保身のための人だったのよ…大淀さんが実務もこなしてたしね…その分、無茶な仕事も取らないから北上さんは「やり易くていい」なんて言ってたわ

実際、北上さんの思惑通り、ほとんどの子は北上さんに(なび)いてた」

 

川内「…らしいっちゃ…らしいのかな」

 

暁「…みんな着実に敗戦に進んでるのは知ってた、だけど北上さんが前に立ってくれてたから頑張れてたのに…」

 

 

 

 

 

北上「…え?任務?今日オフでしょ、緊急?」

 

大淀「はい、太平洋側の方に出ていただく事になります」

 

北上(…長丁場になるか……キツイかな、今日は…でも、ようやく軌道に乗ったのに体調悪いとか…無いな)

 

北上「…わかった、編成はー…」

 

 

 

暁「…あの日の任務は、太平洋側に墜落した有人機の生存者捜索だったわ、よく撃ち落とされてたでしょ」

 

夕張「おかげで空輸も絶望的だったもんね」

 

暁「…この時も、無理な空輸の為に犠牲者が出てる…落とされた機体の周りには大量の深海棲艦が(むら)がるわ

けして生存者は居ないとわかりながらも、出撃は義務…その上この手の任務は危険度も跳ね上がる」

 

川内「…北上頼りの大湊は危険な任務を北上に任せるしかない、か」

 

暁「多摩さんは絶対的なリーダーを作ることで統率を取り、犠牲を局限(きょくげん)する事には成功した、想像以上の成果と言ってもいい

でも.それはあくまで北上さんの調子に左右されるもので…この日の北上さんは体調を崩してたらしいの」

 

加賀「体調?」

 

暁「コンディションの不調は気力の乱れや様々な不安要素につながる

そして、本人がそれを自覚していれば…どんな形でも伝播(でんぱ)して行く…

わかるものなのよ…それで…」

 

夕張「…それで?」

 

暁「……現場に向かい、安全を確保して捜索したけど…もちろん生存者なんていなかった、帰り道に少数の深海棲艦を倒して…少し安心した頃かしら…

まるで待ってたかの様に深海棲艦が湧いて出てきた

多摩さんは北上さんの代わりを果たそうとして前に出て戦ってた…北上さんの不調を見抜いていたんだと思う」

 

 

 

 

北上「多摩姉!前出過ぎ!暁!響!両脇から魚雷出して!とにかく退くよ!」

 

多摩「大淀!聞こえるかニャ!援軍を要請するから早く出してほしいニャ!」

 

大淀『今艤装を装備しているところで…!』

 

多摩「遅いニャ!敵は待ち伏せだった!このままじゃすり潰されるニャ!」

 

北上「焦らなくても良いから!とりあえずまだ距離はある、あたしが道を切り拓ひらくからみんな…」

 

多摩「そんなリスクは取れないニャ!北上1人が無茶をする作戦は間違ってるニャ!

大淀!こう言う時にお前が指示するべき、早く!」

 

大淀『っ…あぁ…!えぇと…!!』

 

響「左舷新手だ!」

 

 

 

 

暁「…大淀さんも、普段発生しない不測の事態には弱かったとしか言えないわ

ああも簡単に崩れるなんて誰も思わなかったわ…私達は、無理にでも撤退する為に救難機による回収を試す事になって…」

 

 

 

 

多摩「飛行機が見えたニャ!もう少し!」

 

大きいけど細身の水上機、救難機…!

 

北上「っ…そう…か、あれだと砲撃受けるのはヤバいね…!」

 

暁「全速で!進んで!早く!」

 

大淀『機体から視認しました!援護します!』

 

多摩「お前、後で殴ってやるニャ!」

 

大淀『後ででお願いします!』

 

北上「…っ…」

 

暁(北上さん、やっぱりおかしい…)

 

曙「うぁっ?!」

 

北上さんと曙をつなぐロープが、砲撃で切れる

 

北上「っ…?」

 

北上さんがロープが切れた衝撃で転ぶ

 

多摩「北上!…全員乗り込むニャ!暁!援護!」

 

暁「わかってる!」

 

即座に振り返り、速度を落として援護に専念する

 

北上 「…あ、れ……」

 

曙「大淀さん!北上さんが…!」

 

大淀「わかってます!パイロット!すぐに出せる用意を!回収次第出して!」

 

暁「響!艦載機を狙って!」

 

響「わかった!」

 

多摩「暁!ロープ引っ張るニャ!」

 

暁「無理よ!両手が使えないの!」

 

両手は攻撃で手一杯、攻撃の手を緩めたらみんなが危ないのは明白…

 

北上「っ?……あー…誰…の、声?」

 

多摩「連れて行かせるかニャ!北上!しっかりするニャ!」

 

曙「2人とも!早く戻って!これ以上はもたないって!」

 

暁「誰かロープを!」

 

多摩「大淀!!」

 

大淀「はい!」

 

多摩(これ以上は、機体に近づかせるわけには…!)

 

北上(…あ、多摩姉…ダメな、顔してる…それは、ダメな時の…だよ)

 

大淀「北上さん!聞こえますか!北上さん!」

 

暁「多摩さん!北上さんはもう回収できるから!早く!」

 

多摩「…大淀!離脱させろニャ!…ここは、多摩が抑える…!」

 

大淀「…え…」

 

多摩「お前の失敗だニャ、もう2度と見誤るニャよ…!発進させるニャ!」

 

曙「無理よ!」

 

多摩「全員共倒れする気かニャ!行け!行くニャ!」

 

多摩が機体から離れ、敵の方へ…

 

大淀「あ…!……っ…う…ぁ……発進、させてください…」

 

ハッチが閉じて、機体が進む

全く安心できないまま進んでく

 

深海棲艦がいつ艦載機を追い付かせるか

それとも先に陸地のそばにたどり着けるのか

 

暁「……」

 

誰も何も言葉を発さず、武器を手放さず、いつでも戦う覚悟だけを持って、その時を待って…

 

大淀「……安全圏です…」

 

…機体が着陸態勢になっても、機体から降りた後も、誰も何も言わなかった

悲壮感あふれる表情の北上さんと、何も言えず、罪悪感に(さいな)まれてる大淀さんに、何も言えなかった

 

 

 

暁「思えば、あの時すぐ、北上さんに対して大淀さんが謝罪を伝えるチャンスをあげられなかったのが良くなかったわ…」

 

川内「…そこまで暁が面倒見る理由もないんじゃない?」

 

暁「当時は13の女の子よ?それに北上さんも17…もう18だっけ、そのくらいだし…

できるケアはお互いにするべきなのよ」

 

加賀「…今16だものね…え?16……そう…そうね、そう考えると…恐ろしいわね、数年したらどれほどの人になるのか」

 

暁「年下の上司って複雑そうね」

 

夕張「それよりも!…この時北上の記憶が消えたのね?」

 

川内(露骨に歳の話さけるなぁ…)

 

暁「…多分違うわ、この時おかしくなったのは…大淀さんの方よ」

 

川内「えっ」

 

夕張「大淀ちゃんが、おかしい?どういう事?」

 

暁「むしろ何も思わないの?確かにあの利発(りはつ)さは生まれ持ったものだけど、16歳にしてあんな精神性…おかしいと思わない?」

 

夕張(暁ちゃんがそれ言ってもなぁもっとおかしいもんなぁ…というか、北上もみんなもヤバいし…)

 

加賀「何が言いたいの?」

 

暁「大淀さんはね、来てすぐの頃から艦隊の運営を提督に丸投げされてたの」

 

川内「13の子供に…?」

 

暁「でも、死者はいなかったわ、北上さんが上手くやれてたから…そう、要するにいつか来る、多摩さんが最初の1人だったのよ」

 

夕張(…暁ちゃんみたいに異様に成熟した精神でもない限り、“自分のミスで殺した”という罪は重すぎる…か)

 

暁「大淀さんはね、普段は…まともだったけど、発作がひどかった…1ヶ月の間に6回の自殺未遂、8回の腕や脚が吹き飛ぶレベルの自傷行為に及んだわ、ちなみに止められなかった回数ね」

 

加賀「止められなかった?」

 

暁「そう、みんなが居ないとか、つい1人にしちゃって実行した後、首吊ってぷら〜んってなってる状態とか、薬物過剰摂取、身投げ…挙げだしたらキリがないけど」

 

夕張「うわぁ…」

 

川内「…なんで?そんなことする理由がわからないんだけど」

 

暁「それは…」

 

 

 

 

 

 

暁「なんで、こんなに何回も死のうとするのよ…!あの事は大淀さんだけのせいじゃ…」

 

大淀「夢を見るんです、あの日の事をずっと…

あれ以来先輩は会う度に優しくしてくれます、「あの時調子が悪いのを言い出さなかった自分の責任だ」って寂しそうに笑うんです…!

…誰もが…そうです、私を誰も責めてくれないんです、だから、私が、私を…罰しないと…!」

 

暁「…そんなの、違うわ…」

 

大淀「だって!多摩さんが死んだのは私のせいなんですよ…!なのに…北上さんは、私に前と同じ様に接するんです…

私は、恨まれたいのに…私を許してほしくないのに…」

 

暁「それはあなたのエゴよ…本当に贖罪(しょくざい)の気持ちがあるのなら、やるべき事くらいわかるでしょう…?」

 

大淀「……私にはもう無理なんです、何もできません、消えたいのに、死ぬ事すら許されない…」

 

暁「無理にでも生きて、罪の意識があるならそれがあなたのやるべき事」

 

大淀「……」

 

暁「北上さんを1人にしちゃダメなのは…わかってるでしょう?あなたが死にかけるたびに北上さんがどんな思いをしているか…」

 

大淀「…逃げ出したいんです、先輩の前から」

 

暁「えっ」

 

大淀「もう、あの人のそばにいるのが嫌なんです、私は与えられてきたのに、傷つけることしかしてない、もう無理なんですよ」

 

 

 

 

暁「…大淀さんは立ち直れなかった、1ヶ月間みんなが監視して…少なくとも、最悪の事態は避けた」

 

夕張「その1ヶ月の後に…ってことか」

 

暁「そうよ、多摩さんが帰ってきた……青い目の深海棲艦として」

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