食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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十一食目

実は好物がたい焼きの北上様だよ

尻尾からでカスタード派、もちろん小豆も好きだよ、つぶあんこしあん両方好き…

ただ、頭から食べるのは納得できない、そんなこだわりがあります…

 

北上「よし、これで新品のライターも手に入ったし、マッチも2つ貰えたし、今回滅茶苦茶ラッキーだよ!」

 

阿武隈「着火物があればいつでも火が起こせますもんね、お水を作るにも、何かを焼くにも、絶対要りますし」

 

北上「んふふふ…阿武隈…実は、実はなんだけどさ…」

 

阿武隈(笑い方…)

 

北上「たい焼き、焚き火で炙ったら外サックサクで美味しいんだよ!」

 

阿武隈(うわあ…好きだなぁ、たい焼き)

 

北上「…お、あの商店、めっちゃ缶詰売ってるじゃん」

 

阿武隈「買えそうですか?」

 

北上「んー…多分いけるかなぁ……ん?」

 

なんか、向こう騒がしいような…

 

北上「予定変更、騒ぎが起きてるなら巻き込まれる前に帰ろうか」

 

阿武隈「た、食べ物は…」

 

北上「栄養価と見た目に目を瞑れば毎日一食摂れるくらいは手に入るよ」

 

阿武隈「ええぇぇ……」

 

北上「早く、バイクまで戻らないと」

 

阿武隈「はい…」

 

 

 

 

北上「っ…と?わざわざ待ってたわけ?…夕張さんだっけ」

 

最初に止めたところから動かしてなかったからか、待たれてた…

ってか、顔こわ…何されんだろうね…

 

阿武隈「あわわ…絶対怒ってます、怒ってますよぉ…!」

 

北上「っていうか、もう1人は?確か…明石さんだっけ?」

 

夕張「っ……お願い!…助けて欲しいの!」

 

夕張が突如膝をついて頭を下げる

 

北上「…何なのさ、一体」

 

夕張「明石が、撃たれて……手当が必要なの、お願い、助けて…!」

 

北上(…よく見たら、手の平に血……嘘じゃないのか)

 

夕張「助ける理由がないのはわかってる!でも、なんだってあげるから…!」

 

北上「ほれ、そのバイクのキー」

 

夕張「え…?」

 

阿武隈「き、ききっ北上さん!?」

 

北上「運転できるよね?…北の県道まっすぐ進んで、そしたらそのうち見えてくる、一時間はかかるよ」

 

夕張「っ……いいの…?」

 

北上「さっさとしなよ、あたしらも帰んなきゃ行けないし」

 

キーを夕張の前に捨て、シートを開けてヘルメットを取り、たい焼きとライターを突っ込む

 

北上「ほれ、さっさと行く!わかんなかったらコレ見て良いから!」

 

ヘルメットを被せて、大淀のスマホを夕張のポケットに突っ込む

 

夕張「…ごめん!」

 

夕張が走り去るのを見送り、大きくため息

 

北上「ごめんねぇ阿武隈、帰り面倒になったわ」

 

阿武隈「…良いですけど……あの…良かったんですか?」

 

北上「……意外?」

 

阿武隈「そりゃあ…その…ほとんど見ず知らずの人の為にそんな…しかもさっき揉めた相手ですよ…?」

 

北上「…みんな、お腹が減ってるだけなんだよ、苦しくて、辛いだけ。

あたしはさ、望んで悪党になる奴なんていないと思うんだ」

 

阿武隈「……北上さんって、実は優しいんですね」

 

北上「なにさー、あたしは普段から優しいでしょーが」

 

しかし、困ったのは帰りのルート…

 

阿武隈「…ふふふ、どうやら私の出番のようですね…!」

 

北上「なんで」

 

阿武隈「実は私…路線バスとか電車が好きなんです」

 

北上「…ほう?」

 

阿武隈「私なら、帰りのルート、バスを使うルートが分かりますよ…!多分!」

 

北上「おお!やるじゃん!」

 

阿武隈「えへへへ」

 

北上「確かにバスなら電車の券売機みたいなのないから壊さない…!いける!」

 

阿武隈「よし、帰りましょう!」

 

 

 

 

という阿武隈の言葉を信じてバス停に来たものの

 

阿武隈「うーん…これが…こっちだから……ええと」

 

北上「まだぁ…?」

 

阿武隈「待ってくださいよー、どうせあと5分は何もこないんですから」

 

北上「帰れるバス、何で来ないかなぁ…」

 

阿武隈の言ったバスの出発時間からもう20分近く経つけど、全然来ない…

信じて良かったのかな…

 

阿武隈「ここで降りて、ここからこれに乗れば大丈夫な筈なんだけどなー……むむむ…でもそもそも来ない…」

 

北上「…あ!来た!」

 

阿武隈「良かったぁ…随分と遅れちゃいましたね」

 

北上「あのスマホなり見せれば早霜か曙が対応してくれると思うけど、急いで帰るには越したことないからね」

 

バスに乗り込み、空いてる2人がけの席に座る

…やはり遅れがあったからか、妙に乗客もイラついているような

 

北上(…待って、普通あんなに遅れないよね…バスの遅れた理由って…)

 

北上「……」

 

阿武隈「わっ、な、何…」

 

阿武隈を倒して、膝枕の形にする

 

北上「しー……降りる時教えてあげるから、寝てて

 

阿武隈の耳を塞ぐ

 

そのちょっと後に、誰かが言った

 

乗客A「何であんなとこに艦娘が出てくんだよ、おかげで帰りが遅くなっちまった…!」

 

乗客B「全くだ、まだ全部捕まえてないのか?…さっさと処分すりゃ良いのに」

 

北上(始まったか…)

 

すぐ後ろの席の人は呟くようにこう言った「艦娘って元の人間を殺してその姿を乗っ取るんだ」って

…そんなことした覚えないんだけどな

 

きっと、あたし達は何も変わらず、あたし達なのに

 

北上「……」

 

阿武隈(…他の人たちが何言ってるか良く聞こえないけど……北上さん…すごく、悲しそうな顔してる)

 

乗客A「しっかし、逃げたって艦娘はまだ捕まらないのか?どうせあの灯台のそばの奴らだろう?」

 

北上「!」

 

乗客B「最近じゃ山に入って熊を撃ってるって話だ、猟師たちもカンカンになって見つけたら撃ってやるって息巻いてたよ」

 

北上「……そんな…」

 

…確かに、山に入って鯉を獲ったり、木の実を採ったり

時にはキノコやいろんなものを勝手にもらって行った

でも確かあのあたりは普段猟師が立ち入らない区域だ

ちゃんと調べたし、一年もいればどの辺りまでが人に見られない範囲かくらいわかるようになる

 

なのに、それでも…ダメなのか…

 

乗客C「ウチの家は海の漁師なんだけど、艦娘がいるせいで魚が減ったって」

 

北上(違う…)

 

乗客D「船を襲う輩がいるから仕事に行けないって話だ」

 

北上(やってない…!)

 

乗客A「さっさと全部居なくなればいいのにな」

 

北上「…っ……ぁ」

 

思わず、俯いてしまった

…阿武隈と、目が合った

 

北上(寝ててって言ったのに…情けないとこ、見せちゃったなぁ…)

 

阿武隈「……」

 

阿武隈は何も言わずに、笑顔であたしの耳に両手を当ててくれた

 

北上(…ごめん、心配かけて…でも大丈夫、あんた達が居るからあたしは大丈夫)

 

乗り換えのバス停になり、阿武隈を起こして降りようとする

…途中で腕を掴まれた

 

乗客A「おい、お前艦娘じゃないよな?」

 

乗客B「背中出してみろよ、お前らさっきから随分静かだったじゃねえか!」

 

北上「…は?」

 

顔面一発殴ってやろうかと思ったけど…

 

阿武隈「こんなところでセクハラして良いんですか?」

 

乗客A「なんだと?」

 

阿武隈「今、いろんな人がカメラをこっちに向けてますけど、堂々と女の子にセクハラして良いんですか?公共のバスの中で」

 

乗客B「うるせえ、みんなお前らが艦娘かどうか…」

 

阿武隈「違ったらどうしてくれるんですか?

あなた達は裸にひん剥いた私達がたくさんの人のカメラに映る事に対して何も思わないんですか?!

私たちを全世界に(はずかし)めるにあたって、貴方たちが間違ってたときにどれだけの謝罪をしてくれるんですか!?

このバス中のカメラの前で宣言してください!」

 

北上「お、おぉ…」

 

乗客A「…ち、違うならいいんだよ…さっさと行け!バスが動かねえだろうが!」

 

北上「あんたらのせいだけどね」

 

乗客B「チッ…!」

 

バスを降り、動くのを見送った後、阿武隈がペタンとへたり込む

 

北上「……あー!スッとした!」

 

阿武隈「怖かったぁ…!怖かったですよぉ北上さん…!」

 

北上「本当に?あんだけ大勢の前で啖呵切っといて?」

 

阿武隈「…怖くない訳……いや、北上さんも、ですよね」

 

北上「……」

 

…なんか、阿武隈に負けた気がして癪だから…

阿武隈の髪をくしゃくしゃに撫でてから、あたし達は次のバスに乗った

 

阿武隈「私の前髪っ!!」

 

 

 

 

北上「さっきのは遅れてたからみんなピリピリしてたんかねー」

 

阿武隈「ですね…」

 

さっきよりも少ない乗客、そして静かな車内

…よかった、おかげで落ち着いて乗れる

 

北上「……さっきはありがとね」

 

阿武隈「……」

 

北上「…あぶ……寝てるし」

 

…そりゃ、さっきの場面じゃずっと緊張してただろうし

安心したら…眠くも…

 

乗客E「おい、アレ事故じゃないか?」

 

北上「!」

 

…あの倒れてる原付、あたしの…!

 

でも、2人の姿はない…

あたりは森、吹っ飛んで行った?

いや、もしくは…

 

北上(徒歩に切り替えた…?)

 

でも、ここからじゃまだ一時間以上はかかる…

まだ着いてない事に…

 

北上「居た!」

 

道路脇をほんとに明石を背負って歩いて…

ってか、夕張もフラッフラ…

 

乗客F「ありゃあ街で暴れてた艦娘だ!」

 

乗客G「なんだよ、艦娘かよ騒がせやがって…」

 

北上「っ…!」

 

…次のバス停までは後どのくらいある?どのくらいで……

 

阿武隈「北上さん」

 

北上「…阿武隈」

 

阿武隈「行きましょう」

 

北上「……ありがとね、ちょっと!運転手さんバス停めて!」

 

乗客F「おい、何言ってんだ、ありゃ艦娘だぞ!」

 

北上「うっさい!いいから停めて!アイツら怪我してたじゃん!」

 

乗客G「あんなの死んだ方が良いに決まってる!庇うなんざお前らも艦娘か!?」

 

阿武隈「っ…!」

 

乗客の1人が阿武隈に伸ばした手を掴み、投げる

 

北上「あたし合気道10段だから…その子含めて手、出さないほうがいいよ?」

 

乗客F「な、なんだよお前ら!」

 

バスが止まり、扉が開く

 

北上「ごめんね運転手さん!でもあたしらさ!艦娘も人間で!生きてると思うんだ!」

 

阿武隈「と、停めてすみません!」

 

一万円札を運転席に放り込み、バスを降り、2人の方へと走る

 

 

 

夕張(…ダメだ、頭痛いし…だんだん身体の感覚が…あ……倒れ…)

 

倒れかけた夕張を、掬い上げる

 

北上「間に合った…?」

 

阿武隈「大丈夫ですか!?」

 

夕張「……ありが…と…っ…」

 

北上「意識が落ちた…!阿武隈!できるだけ急ぐよ!」

 

阿武隈「はい!」

 

 

 

 

 

 

北上「…どうかな」

 

霞「さあ…ウチの医薬品も尽きてるし、アレで治るかどうか、どうなの?早霜」

 

早霜「明石さんの方は、3発、二の腕、ふくらはぎ、肩に銃撃を受けてました、肩には銃弾が残ってたので、摘出もしました…

あとは…多分本人の生命力次第です」

 

北上「包帯は?まだあったっけ」

 

睦月「…残ってたみんなの制服…」

 

如月「もう着る人が居ないから…割いて使っちゃった」

 

北上「それでいいよ、その方がいい…きっとみんなが、生かしてくれる」

 

曙「でも、どうすんのよ、アレに何食べさせるつもり?」

 

暁「栄養のあるものなんて、出せないわよ?」

 

北上「…それは後で考えるよ」

 

…バイクの中のたい焼きとか、ライターとか

全部放棄してしまったのは…惜しいな…

 

携帯はポケットだったから唯一無事だったけど

 

北上「……どうしよっかなぁ…」

 

阿武隈「…あの、私も一個、ライターとマッチあります…」

 

北上「おお…よかった、けど…」

 

早霜「…野草のスープならありますよ」

 

北上「ああ!今朝取った!?すっかり忘れてた!」

 

早霜「晩ごはんにしましょう…看病のために、私達も元気をつけなくては」

 

 

 

北上「……」

 

薄い…

つい阿武隈と目があい、2人で苦笑いしてしまう

 

霞「美味しくない?……んー…そんな事ないと思うけど」

 

阿武隈「いえ!とってもおいしいです!」

 

北上(…チキン南蛮、唐揚げ、漬物にスパゲッティ…そしてたい焼き…ああ、あの味が思い起こされて…)

 

暁「北上さん達…もしかして、たい焼き食べてきたんじゃないの?」

 

曙「ああ、じゃあ薄く感じるのかもね」

 

阿武隈「ンンッ!?ごほっ…み、みなさんしってるんですか?」

 

霞「最初に街に行った時、睦月に買ってあげたのよ、その時にみんなの分も一緒にね」

 

如月「甘いものは貴重だから、みんな嬉しかったんです」

 

早霜「阿武隈さんにも、きっと食べさせたんじゃないかと」

 

北上「…バレてたか」

 

ほんとはもう少し色々食べたけどね…

でも…

 

北上(これはこれで、安心するかも…)

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