食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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開戦

北上「……よっと」

 

…片手でも相手にならないくらい弱かったな…

勝ち目ないと悟るや否や、逃げ出したし

 

那珂「…ごめん、歩き疲れてて…反応遅れちゃった…」

 

北上「いいよ、なんとかなったしさ」

 

北上(にしても、一瞬とはいえあの騒ぎでもみんな起きてないのか…歩き疲れてるうちの連中はまだしも、この青葉ってのは…いや)

 

朝霜「……」

 

北上「朝霜」

 

朝霜「んぇっ?」

 

 

 

 

 

 

 

北上「いただきます」

 

メロンパンを裏返し、パン生地の部分をちぎって口に含む

 

朝霜「な、なあ…?」

 

北上「何、あんたはあんぱん持ってるでしょ、あげないよ」

 

朝霜「…なんで2人だけで出てきたんだ?」

 

深夜、団地の前の公園

そのベンチに2人でのんびり座ってる、となりにある自販機でぼんやり明るい

 

北上「なんでって…見張りだよ、見張り、安心して眠れないからさ」

 

朝霜「……勝手にパン持ってきて良かったのかな…」

 

北上「良いでしょ、天龍の買ってきた奴だし」

 

朝霜「……」

 

北上「あの青葉って奴、嫌いなの?」

 

朝霜「っ!違う!…けど」

 

北上「…けど何?」

 

朝霜「……青葉さんが、青葉さんじゃない…みたいでさ」

 

北上「意味わかんないんだけど」

 

朝霜「…アタイがさ、ここで一緒に居た時の青葉さんは…料理なんかまるでできなくて、お世辞にも料理が得意とはいえなくてさ…

でも、一生懸命に作ってくれて…」

 

北上(成程、確かにあの手つきは随分慣れてた、朝霜と合流したのが2週間経たないくらい

その期間で料理下手がさっさとパスタを7人前も作れるかって言われると…)

 

朝霜「…あたいが家出してから、半月(はんつき)は経ってる…でも、あそこまで上達しちゃうかなぁ…って思ってさ…

いや、そんなの…違うよな…勝手だ、アタイの自分勝手、青葉さんが頑張ったの…認められてないだけだ…」

 

北上「あのさ、話が変わるんだけど」

 

朝霜「……」

 

北上「あの部屋のクローゼットって、なんかあるの?」

 

朝霜「えっ……な、なんでだよ…」

 

北上「うっすら…ホントに微かにだけど、深海棲艦の匂いがする」

 

朝霜「…深海…?…いや、いやいやいやいや!!ンなわけ無ェよ!あそこにあるのは…その…」

 

北上(有る?)

 

朝霜「…あそこには、仏壇があるんだ…青葉サンの姉妹の…」

 

北上「へえ…なんでそこから深海棲艦の匂いなんか」

 

朝霜「わかんねぇ…」

 

北上(…はあ……よくわかんないなぁ…)

 

朝霜「…ただ、あの…」

 

北上「ん?」

 

朝霜「青葉さんは…まだ衣笠って人が生きてると思ってる…死んだのを、受け入れられてない…」

 

北上「……(おっも)…」

 

朝霜「な…アタイも最初はめっちゃ気ィつかった…

ホントにたまに、クローゼットに喋りかけてる時なんか…その、言葉失っちまった…」

 

北上「大変だね」

 

メロンパンを半分に割り、差し出す

 

朝霜「…別に欲しく無え…って!なんだよコレ!?」

 

北上「え?メロンだけど?」

 

朝霜「メロンパンの中身だけほじくったらメロンになるって…どんな理論だよ!」

 

北上「文句言うなら返してよ、せっかく美味しい食べ方なのに」

 

朝霜「…あーもう、食うっての」

 

北上「あむ……んー、サクサクで美味しい」

 

朝霜(…まあ、当たり前だけどウマい…ウマいのが悔しい…)

 

北上「ふかふかのパン生地と合わせるのはあたし好きじゃないんだよね、でもこの風味のクッキーなんて売ってないからさぁ…

表面だけで欲しいんだけど…」

 

朝霜「偏食なんだな」

 

朝霜「……」

 

朝霜が自分のあんぱんを一口かじる

 

朝霜「これ、中身クリームパンだ」

 

北上「え?でも袋にあんぱんって…」

 

朝霜「…うん、やっぱそうなるよな…うん…そうだよなァ…いや、そもそもあり得ンのか?」

 

北上「……何、どうしたの」

 

朝霜「……」

 

朝霜が何も言わずに、もう一度あんぱんを口に含む

 

北上(…クリームパンが良かったって意味?……じゃないよね、なら…わかりきった嘘をつく理由は?)

 

北上「朝霜…っ?」

 

…不安がっている

いや、今にも泣きそうな顔で、何かを押さえ込んでいる

 

…朝霜、そういえば、この家に来てからずっと様子がおかしかった

青葉が青葉じゃ無いみたいだとも言っていた

…もしかしたら?

 

北上(…まさか、青葉の中身だけ、入れ替わったって言いたいの?

そんなことあり得る?いや…あり得たとしたら…そんなの…いや、思い出せ、最初に青葉と会った時、天龍が入ってきて…)

 

天龍『で?今のお前は、どっちだ?』

 

“どっち”?

 

北上「…まさか」

 

では、本物の青葉は?

 

…わからない、でも…もしかしたら

 

北上(…どっちにしても、朝霜に伝えるのは……酷か…)

 

なんにせよ、天龍に確かめなきゃいけないな

 

北上「…って…」

 

朝霜「……すぅ…くぅ…」

 

北上(お腹膨れて寝てるよ…これだから、子供は…)

 

北上「にしても、まだ夜は冷えるなぁ…」

 

 

 

 

 

 

北上「…ぶぇっくしょい!!…うぅ…」

 

朝霜「ずび…」

 

那珂「…見張りはありがたいけど、外で寝ちゃダメでしょ…?」

 

天龍「しかも風邪って…」

 

北上「……我ながら、情け無い…っくしょい!」

 

春雨「豪快なくしゃみですね…」

 

山雲(北上さんが体調を崩すと…あの時のことを思い出して…うう…)

 

北上「…ごめんね?転がり込んで、こんなんで」

 

青葉「あ、あはは…お気になさらず…」

 

青葉(…弱ったなぁ…とりあえず、仕事は休む連絡して…どうしよう?どうするのがゴールとして正しいんだろう)

 

那珂「ねえ、食材買いに行かない?お金はあるから!」

 

天龍「あ!?無え!オレの財布!?」

 

青葉「え、あ、あの」

 

那珂「いいからいいから、みんな行くよー」

 

春雨「はい!」

 

山雲「お手伝いします〜」

 

天龍「おい待て!置いてくなよ!」

 

北上「いや、天龍はいてよ…誰かいないと困る…」

 

天龍「クソッ!…全財産が…好き勝手使ったら容赦しねぇぞ…!」

 

北上「……へっくしゅん!!……ぅあー…」

 

天龍「お前も朝霜みたいに大人しく寝てろよ…」

 

朝霜「ずび…ずずず…」

 

北上「寝てんの?これ…」

 

天龍「多分」

 

北上「……ところで、聞きたいんだけどさ…青葉に会ったとき、“どっちだ”って聞いたよね?あれ何?」

 

天龍「…んや、あれは…」

 

北上「体は青葉だけど、中身は衣笠…なんてオチ?」

 

天龍「……なんで知ってるんだよ」

 

北上「ははははは…嘘じゃん、マジ?」

 

…思わず笑っちゃったけど、そんなとんでもない予想が当たるなんて

 

北上「いや、あってるにしても普通に意味わかんないわ、説明してよ」

 

天龍「…チッ…カマかけられたわけだな…朝霜は…マジに寝てんのかな…うりうり…起きる気配はないな…よし

簡単に説明してやる、青葉と衣笠は実の姉妹で、衣笠は死んで深海棲艦になった、そんで衣笠を青葉が食ったら意識が内部に取り込まれたらしい、それが表に出てたんだと」

 

北上「いや…え?何それ、意味わかんないって言うかざっくりしすぎでしょ、食べたって何?」

 

天龍「うるせえな、2時間もの映画のくらい語ってやろうか?」

 

北上(…天龍に頼るのは間違いだったかなぁ…)

 

北上「でもまあ、とりあえず今も体は乗っ取られてるの?」

 

天龍「いや、今は青葉だろ」

 

北上「……ホントに?どうやって証明できる?」

 

天龍「あ?何言ってんだよ」

 

北上「青葉ってやつはさ、朝霜曰く、少し前までろくに料理もできない奴だったんだってさ」

 

天龍「……それがどうしたんだよ」

 

北上「短い期間にあんなに上達して、まるで人が変わったみたいだって…朝霜は気にしてた、あたしも気になる

…朝霜と青葉の関係、ホントにあれが正しいのかなぁって…もし、衣笠が青葉のフリしてるなら…何か理由があるよ、あたし達を騙すだけの理由がね」

 

天龍「青葉も衣笠もそんな奴じゃ…!」

 

北上「確かに、あたしはその2人のこと知らないよ…でも、知らないから疑うしかないんだよ」

 

天龍「……」

 

立ち上がり、クローゼットの前に行く

 

天龍「おい…」

 

北上「…鼻が効かないから、今はわからないけど…ずっと変な匂いがしたんだ、深海棲艦みたいな、磯臭い匂い」

 

開く

…何もない、空っぽだ

 

天龍「どうしたんだよ、何が…」

 

北上「無い、朝霜の話と違う」

 

天龍「はあ?」

 

北上「ここに衣笠の仏壇があるって聞いてたのに…なんで無いの?」

 

天龍「…仏壇?」

 

北上「知らないんだ?…なんで?移動したの?それにしてはなんでこのクローゼット空っぽなわけ?

仏壇って普通処分しないよね?」

 

天龍「…まあ、そうだな」

 

北上「…あたしは、利用され…っしゅん!!…ごめん、利用されるのはやだよ」

 

天龍「……オレが問いただす」

 

北上「わかってる、任せたから」

 

北上(…仏壇を処分したのなら、それはなんらかの意思表示だ、精神が入れ替わるなんてオカルトが過ぎるけど

だからこそ、たとえば…青葉の精神をその仏壇に閉じ込めた、なんて空想もあり得る)

 

…なんにしても、青葉の、もしくは衣笠の企《たくら》みを確かめなきゃならない、朝霜を置いていくか決めるために

 

 

 

 

那珂「案内してくれてありがとう、おかげで色々買えたよ」

 

青葉「いえ…」

 

那珂「ごめんね、あんまり長居はしないから」

 

青葉「ああ、いえ、お気になさらず……ぁ」

 

…まずい…

 

春雨「どうかしましたか?」

 

青葉「……すみません、先に戻ってください…」

 

山雲「え?」

 

青葉「ちょっと、用事が…」

 

那珂「いや、待って、私も残る…2人は…いや、2人も離れない方がいいかなぁ…」

 

山雲「なんですか…?」

 

那珂「正面のガラの悪いおじさん達、知り合い?」

 

青葉「多分、知り合いの知り合いだと思います」

 

那珂「…悪いのこっち?」

 

青葉「少なくとも、向こうは悪党です」

 

那珂「ならいいよ、春雨ちゃん、山雲ちゃん、最悪ついて来れなくても、2人は固まって自分の身を守ること優先してね」

 

春雨「は、はい…!」

 

青葉(…どうしよう、私は……)

 

龍驤「青葉」

 

青葉「……」

 

ガラの悪い男達の中から、1人だけこっちに歩いてくる

…考えるのをやめる、そうだ、この人を叩き潰すんだ

 

那珂「…誰?艦娘?」

 

青葉「らしいです」

 

槍を振って展開する

 

龍驤「…やる気十分やな?…ったく…お前がそんなんやから…ウチがやらなあかんくなってしもた…」

 

青葉「自業自得です」

 

龍驤「……」

 

龍驤さんが拳銃をこちらに向ける

そして引き金に指を…

 

青葉(こんな街中で…!)

 

銃声が何度も、何度も響いた

 

龍驤「……アカン、ウチやっぱ射撃のセンスは無いかもなぁ」

 

青葉「っ…」

 

太もものかすった部分から血が(にじ)

 

龍驤「…どうしたんや青葉、お前が始めた事やろ?…もっとやる気出せや!」

 

青葉「言われなくても…!」

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