食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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決行の日

空母棲鬼「何ノ用カハ知ラナイケド、私ヲ呼ビ出スナンテ…随分ト偉クナッタワネ」

 

大淀「すみません、私も命令を受ける立場なもので

それに、同胞が居なくなったと呟いていたのはそちらでは?」

 

空母棲鬼「…戦艦棲姫ノ居場所ガワカッタトデモ?」

 

大淀「はい、なのでお呼びした次第です」

 

空母棲鬼「……案内ヲ」

 

大淀「ええ、私が、ついてきてください」

 

空母棲鬼「……」

 

…空母棲鬼に背中を向けた

地面に伸びる影をチラリと見る

振り上げられる空母棲鬼の腕…

 

大淀「……ふふっ」

 

砲撃の音と共に、空母棲鬼が痛みに悲鳴を上げる

 

阿武隈「打ち合わせ通りにお願いします…交戦、開始…!」

 

空母棲鬼「(タバカ)ッタナ…!?」

 

大淀「攻撃の意思を見せなければ、撃たれないはずだったのに…これでは自業自得ではありませんか」

 

空母棲鬼の方を向く事なく、スタスタと歩く

 

阿武隈「右!艦載機対処!」

 

銃声と爆発音

 

阿武隈「正面に火力を集中させてください!あたしが行きます!」

 

砲撃音と、銃声が混じり合う

 

大淀「しかし、予想外でしたね…」

 

チラリと振り返り、様子を見る

 

阿武隈「正面散開!左右から艦載機の対処!」

 

指示を飛ばしながら、ほとんどインファイト状態で砲撃を何度も何度も直撃させ、空母棲鬼が体制を崩したところに両足で飛び蹴り、そしてその蹴りの反動で離脱…

 

大淀「……リーダーとしての適性があったのでしょうね、広報官をやっていたというのが信じられません」

 

阿武隈「今!!」

 

爆発音が響き渡る

 

大淀「…夕張さんの作った艤装の力でしょうか?

いや、それを使いこなしている阿武隈さんも十分過ぎるほど評価の対象か…」

 

…空母棲鬼は気絶しているものの、死んでいない

そうだ、そうでなくては…まだ役目がある

 

 

 

 

川内「作戦開始」

 

無線に呟いて、建物の間の路地に飛び降りる

 

川内「…あー、各自、一撃離脱せよ……こんな風に」

 

…飛び降りた際に踏みつけてしまった足元のチンピラから拳銃を取り上げる

 

川内「しまった…急に背後(うしろ)下がらないでよ…あー、死んでないか、頭蓋骨も無事そうだし…首も、うん、大丈夫そう」

 

拳銃の弾を全て抜き取ってあたりに()てる

 

…各地で悲鳴や呻き声が響く

 

神通「……」

 

川内「早いね」

 

神通(…出てきた)

 

団地の扉が開いて、北上達が出てきた

 

川内「全員、撤収するよ」

 

 

 

 

 

 

北上「…どうなってんの?無事に駅まで来れたけど」

 

天龍「おかしいだろ、何で襲ってこねえんだ」

 

那珂「監視の目も無かった…変だよ…?…あんな白昼堂々と襲ってきたのに、何も無いなんてあり得るの?」

 

北上「戦わなくて良いならそれに越したことはないよ、さっさと行こう」

 

北上(でも、流石に何か…裏を感じるな…)

 

青葉(……誰かに、見られてる?)

 

 

 

川内「…とりあえず、団地と駅周辺のチンピラは仕留めたよ」

 

大淀『流石に仕事が早いですね、状況了解しました、では予定通り北上さんを確保、最終的にこちらに合流させてください』

 

川内「…半殺しにするんだよね?それで?北上が納得してくれれば良いけど」

 

大淀『…手は考えてあります、奥の手も用意してます』

 

川内「あ…勝手に切らないでよ……ったく…」

 

 

 

 

北上「っ…?」

 

春雨「どうか、しましたか?」

 

北上「……何だろう、知ってる匂いがする」

 

山雲「知ってる匂い?」

 

北上「…うん、節足動物焼いた時みたいな匂い」

 

那珂「せっそく…?」

 

山雲「え〜と…バッタとか、そう言う事ですね…」

 

春雨「こんな時にふざけないでください…」

 

北上「いや、ふざけては…」

 

天龍「…おい、なんか来たぞ」

 

…誰か、こっちに来る

 

青葉「あ……大井さん…!?」

 

大井「見つけたわよ…!アンタ、急に仕事辞めてどこに…」

 

北上「敵?」

 

青葉「いいえ、すみません、ちょっと朝霜ちゃんを預かってください…」

 

青葉から朝霜を押し付けられ、抱き抱える

 

大井「…アンタ、朝霜を見つけたの…?!…というか、その人達誰…?」

 

青葉「……大井さん、すみません、今は話してる時間がありません、いつかまた連絡しますから…」

 

大井「そんなの認める訳ないでしょ、何?何に巻き込まれてるの、アンタは1人で何をしようとしてるの、朝霜を見つけたなら戻れば良いじゃない…

ようやくマトモな仕事をして、お給料だってちゃんともらって…それの何が不満で出ていくのよ…!」

 

青葉「……不満は、ありません、でも、ここにはもう、居られないんです」

 

大井「…何を……アンタ、もしかして…衣笠じゃ…」

 

青葉「はい、私は、青葉です」

 

大井「……」

 

青葉「……」

 

大井「そういう事なら、とりあえずこれ」

 

青葉の方に小包が差し出される

 

青葉「これは…?」

 

大井「…中身は、“パスワード”よ」

 

青葉「パス…?」

 

大井「バイトを始めた衣笠が前々から言ってたのよ、「いつかお金が溜まったら、青葉に」って…

でも、その話聞いた後競艇で大金ゲットしたから私が買っておいたのよ」

 

青葉「……」

 

青葉が手を伸ばそうとした瞬間、小包が落下する

 

青葉「…へ…?」

 

大井「っ…ぁ…?」

 

北上(撃た、れた…?)

 

青葉「大井さ…!」

 

天龍「待て!あぶねぇ!」

 

バイクが突っ込んできて…!

 

北上「っ…!無事!?」

 

那珂「うん!でもさっきの人が!!」

 

天龍「…拉致られた…?…撃って、そのままバイクで拉致っていきやがった…?」

 

北上(計画的すぎる、だからここまで襲ってこなかった?)

 

青葉「そんな…私の、せいだ…!

…やっぱり、戻ってきちゃいけなかったんだ…あの時どこかに行ってれば…消えてれば…!」

 

北上「那珂!」

 

那珂「わかってる!こっちから連絡するから鳴らさないでよ!?」

 

那珂がバイクを追いかける

 

天龍「無理だ!向こうは法定速度なんか守ってねぇぞ!」

 

北上「大丈夫、とりあえず身を隠さないと撃たれるよ!」

 

 

 

 

川内「ねえ、話と違うんだけど?誰か返事してよ…」

 

瑞鶴『川内、聞こえる?』

 

川内「瑞鶴だっけ?何、そっちは待機でしょ?」

 

瑞鶴『ごめんごめん、こっちのプランが合流しちゃってて、今の人にも用事があるの』

 

川内「…あれ、何者?」

 

瑞鶴『詳しくは聞いてない、けど、確実に追ってくるから』

 

川内「……那珂から逃げられると思わない方がいいよ」

 

瑞鶴『むしろ振り切られるようじゃ困るって』

 

川内(…大淀の狙いがわからない、何のために、あんなこと…そもそも、このやり方の理由がわからない…

というか、なにか…あたしら、今を受け入れてるだけでいいのかな)

 

 

 

 

大淀「さて、すみません、お待たせしました

友人と長話をしてしまいまして」

 

空母棲鬼「…クタバレ」

 

椅子に縛り付けられ、両側から銃を向けられた空母棲鬼がこちらを睨みつける

 

大淀「私のセリフですよ、深海棲艦さん」

 

…万事は順調だ

 

大淀「しかし、阿武隈さん、よくやりましたね」

 

阿武隈「え、あ…いや…私1人じゃ無かったので…」

 

大淀「それにしても、充分な強さでした…夕張さんの作った艤装も、生体ユニット採用の艤装と変わらない、充分すぎる性能…

これなら、ちゃんと訓練を受ければ兵は使える…そして、原種の深海棲艦をも狩れる」

 

空母棲鬼「……真正面カラ戦ッタ訳デモ無イ癖ニ、ヨクモソンナ事ガ言エル」

 

阿武隈(うう…確かに、ほとんど不意打ちだったし…正面からやり合ったらとても…)

 

大淀「不意打ちの何が悪いんですか?」

 

阿武隈「へ?」

 

大淀「強い者を弱い者が倒すためには…ありとあらゆる手段を模索して、ありとあらゆる方法を試す…それの何がおかしいのでしょうか?

重要なのは、“通用した”と言う事実、一般の兵隊でも深海棲艦を倒せると言う結果…このデータがあれば、国も重い腰を上げます、ようやく深海棲艦をこの世界から消し去れる」

 

空母棲鬼「……オ笑イダ、深海棲艦ヲ消シ去ル?

…消エルモノカ、深海棲艦ハ無限ニ産マレルゾ、私達ガ産マレタノハ…」

 

大淀「海に積もった怨念ですか?…構いませんよ、何度現れても駆除するだけです、どのみちこの世から戦争は消えません、未来永劫の平和なんて夢のまた夢、人間同士よりは外敵も戦う方がマシでしょう

それに今の私が欲しいのは、一時(いっとき)の平和です、しかし、それを実現するには…深海棲艦を排除したと言う“実績”が必要なんです、世界を動かすほどの実績が

駆除を諦めた世界が、もう一度駆除に乗り出すだけの後押しが」

 

空母棲鬼「…ソノタメニ世界ヲ犠牲ニスル気カ?…気狂イメ…!」

 

大淀「…人間を利用して、食べて、(たの)しんで…良い人生だったではありませんか?

その代価を払いなさい、幸せを得るには、不幸を払う必要があると言うだけです、アナタはどれ程の幸せを手にしたのか、計算すると…とてもとても、アナタ1人の命では足りません」

 

空母棲鬼「他ノ仲間ヲ売レトデモ…?」

 

大淀「必要ありませんよ、戦艦棲姫が既にあなたの仲間を売りました、全員ね」

 

空母棲鬼「…ェ………嘘…」

 

大淀「嘘ではありませんよ」

 

空母棲鬼「…会ワセナサイ!戦艦棲姫ニ!」

 

空母棲鬼(ソウダ、裏切ッタノナラアイツヲ殺シテ…!アイツノ死体ヲ作レバ、キット…!コンナ奴等、スグニ(ミナゴロシ)ニシテ…!)

 

大淀「……」

 

遠くを指差す

 

空母棲鬼「……何…?居ルノ?…ドコニ…?」

 

大淀「あそこの床、この前焚き火をしたんですが、どうも床が焼けこげてしまいまして

ほら、一箇所だけ黒ずんでいるでしょう?…丁度、あの辺りです、わかりますか?」

 

空母棲鬼「………」

 

阿武隈「……ぁ…もしかして…」

 

空母棲鬼「ッ…!?」

 

大淀「見えませんか?貴方も幽霊なのに?その辺に立ってるんじゃ無いですか?脚のない怨念が」

 

空母棲鬼「…待ッ…テ…?…嘘…嫌…イヤ…イヤイヤ…!ダメ…」

 

…ここで殺してしまえ

ここで、消し去ってしまえ…

 

大淀「……わかってるのに、私の心はこうも幼いとは…まだまだですね、まだ」

 

阿武隈「…?」

 

大淀(…この深海棲艦を利用して、残りを(おび)き寄せなくては……終わらせるために…)

 

大淀「…ケース」

 

両側の兵士達が一歩近寄り、空母棲鬼の両肩にそれぞれ銃口を押し当てる

 

空母棲鬼「ヒッ!?」

 

連射、弾かれて変形した銃弾があたりに散らばる

次第に腕とその周りの肉が弾け飛び、骨が(あらわ)になる

そして次は脚を同じように

そして、最後には斧でむき出しの骨を何度も叩く

 

阿武隈「な、何を……!」

 

手慣れた手つきで、両手両脚を失った空母棲鬼がスーツケースに詰め込まれる

 

大淀「…私達は、いつでもこうできた…そうしなかったのは、直接戦争の火蓋を切るわけにはいかなかったから

街中に蔓延(はびこ)る深海棲艦が無闇に民間人を襲う事態を避ける必要がありましたから

…でも…もう、待つ必要はなくなりました…」

 

…深海棲艦の習性を利用する

 

大淀「1秒でも長く生きていたければ、この国に入り込んだ全ての深海棲艦を集める事です」

 

原種なら、下位の深海棲艦を全て、支配下における…

全ての深海棲艦を炙り出し、全て処刑する

 

大淀「阿武隈さん、私たちは横須賀に向かいます、横須賀の地下プールに深海棲艦を集めさせて処理します

北上さんが片付いたら皆さんを連れてきてください」

 

阿武隈「……は…はい…」

 

大淀「…あなた達の計画を、利用させてもらいます」

 

閉じられたケースに向かって話しかける

 

大淀「世界中に深海棲艦を浸透させて、元に戻せなくなったタイミングで戦争を再開、ゲリラ戦を起こして各国の機能を完全に停止させようとしていた…よーく知っています

国家と交渉せず、小さな村から、町から、少しずつ少しずつ入り込んで…そしてついには自由に歩けるほどとなった

…それにしても、人間のテリトリーでよくもまあ警戒せずに過ごせましたね?暗殺してくれと言っているようなものではありませんか」

 

…残りの原種を倒して、国中の深海棲艦を殺して…

 

空母棲鬼「……ワタ、シガ…命令スレバ…ソノ深海棲艦ドモハ無闇ニ人ヲ…!」

 

大淀「構いませんよ、それでこそ、国も重い腰を上げる理由になる」

 

空母棲鬼「ナ…!?」

 

大淀「何人死のうが、何でもいいんですよ、どうでもいい

もう遅いんです、沢山死にすぎました、今からいくらか増えても変わりません、戦争を終わらせなければじわじわと人知らずに死んでいく人が増えるだけです」

 

空母棲鬼「キサマ、ソレデモ…!」

 

大淀「北上さんは、今は忘れてしまいましたが、過去に失ったお姉さんのことで苦しんでいました…実に辛そうでした…

だから私は決めてたんです、もし、また同じ想いをする人が身内に現れたら…その時こそ、決行の日(エックスデー)だと」

 

阿武隈「…大淀さん…?」

 

大淀「深海棲艦は、やはり消えるべきなんですよ」

 

阿武隈「…どうしたんですか…?大淀さん…なんで、何で泣いて…」

 

大淀「阿武隈さん、貴方はここに残って、他の人たちと一緒に横須賀へ…私たちは先に向かいます」

 

阿武隈「……はい…」

 

大淀「それでは、先に行っていますよ」

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