食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
大淀「遅くなりました、状況は」
加賀「突入はかろうじて待ってもらえていますが、そろそろ限界です」
艦娘の居住区として使わせてもらっていた倉庫だが…
壁に張り付くように大量の隊員が配置しており、いつでも突入作戦を実行できる状態
それもその筈、この無人のはずの倉庫で戦闘音が響いたというのだから
その上、その戦闘による被害が自衛隊の建物にまで…
大淀「後一歩遅ければ…か…ギリギリでしたね、私が行きます、突入部隊、用意」
兵士を引き連れ、倉庫の方へと歩く
…無音
大淀「入りますよ」
兵士が倉庫のシャッターのスイッチを押す
音を立てて上がり始めるシャッター…
…今の所攻撃は無い
大淀「……」
無言で、誰よりも先に入る
止められる事も無視して、足音を立てたまま進む
大淀「…ああ…これは、そんな…」
取り囲み、銃を構えた兵士たちを手で制止する
大淀「問題ありません、下がりなさい」
兵士A「ですが…」
大淀「下がりなさい、ただ従えば良いんです、決して誰も入れないでください、身内でも、誰であっても」
兵士A「わかりました」
ゆっくりと近づく
…頭の無い女性の死体と血溜まり…
そして、その前に力無く座っている、呆然とした様子の夕張さん
…よく見ると、両手から大量に血を流している
大淀「大丈夫ですか」
夕張さんが濁り切った目で私の方を向いて笑う
夕張「…?…ああ、大淀ちゃん!いらっしゃい、来るなら言ってくれれば…」
大淀「すみません、単刀直入に聞きます、後ろの死体は?貴方がやったんですか?」
夕張「し、死体…?」
夕張さんがチラリと振り返り、何事もないように笑う
夕張「どこにも無いけど…」
大淀「……」
夕張「何?もしかして大淀ちゃんは私が北上みたいにおかしくなったとでも…」
大淀「いいえ」
近づき、夕張さんの頬に手を当て、こちらを向かせる
…じっと目を見つめる
大淀「貴方は北上さんとは違う、狂っていない」
夕張「……っ…なに、を…」
大淀「楽になりたかったんでしょう、わすれてしまえれば、きっもらくになれるとおもって忘れてしまえれば、きっと楽になれると思っていたんでしょう?
…でも、うまくいかなかった」
夕張「っ…な、んで…」
大淀「……本物の狂気ほど、
夕張「………」
黒く濁り切った目がこちらをみる
大淀「何があったのか話してみませんか?貴方を救う手立てが見つかるかもしれませんよ」
夕張「……要らない…要らない!助けなんていらない…!もう何もかも遅いのよ!」
立ち上がり、私を突き飛ばす
大淀「待て」
夕張「…っ…?!」
夕張さんの全身に、赤い点が現れる
大淀「撃つ必要はありませんよ、私はこの人を失う気はありません」
立ち上がり、もう一歩夕張さんに近づく
夕張「…な、に…」
大淀「死ぬのはまだ怖いですか?よかった、お話はできそうですね?」
大淀「すみません、司令部の会議室しか使わせてもらえなくて…取調室はどうやら盗聴器が仕込まれてましたので」
夕張「……」
大淀「…報告は聞いています、ご家族の件は残念でした、何と申し上げたら良いものか」
夕張「…私、1人だけ…幸せになろうとしたから…」
大淀「いいえ、それは違います、人にはそれぞれ幸せになる権利が…」
夕張さんが机を叩いて立ち上がる
夕張「だったら!なんで私は…!」
大淀「…権利はあります、
…貴方に降りかかった悪意を、私たちは知る必要があるんです」
夕張「……」
大淀「仇は打てたんですか?それとも、諦めたんですか?」
夕張「…違う…大淀ちゃんは何も知らないだけよ……私は…私が…」
大淀「知らないというのなら、話してください」
夕張「……わかった…」
夕張「…なに、これ…?」
…みんなが横須賀を出る前、私は…家族の元に遊びに行って…
いつもみたいに、玄関のカギを開けて、中に入ったら…すごく強い鉄の…血の匂いがして…
走って中を見に行ったら…
夕張「っ……あ………嘘…」
血管や神経、骨だけで胴体とかろうじて繋がった首が3つ、並べられていた
よく知った顔が、ひどい苦痛と恐怖で歪んだ表情を向けていた
…声も出ない…
目が動き、口がぱくぱくと開いていることから、死んではいない…
夕張「っ…」
自然と探していた
ネ級「…ヒヒッ」
コレをやった犯人…
夕張「お前かぁ!!!」
…今思えばあまりにもバカだったと思う
武器もないまま、掴み掛かろうとして、簡単に蹴り飛ばされ、転がされ
何度何度も掴みかかって、でも、深海棲艦の力にまるで敵わない
向こうも艤装すら使わないのに…一切敵わない
夕張(…艤装を展開してないとしても!)
ネ級の艤装の制御を…!
ネ級「無駄」
夕張「……ぇ…干渉、できない…?」
ネ級「ヤッパリ、2度モ同ジ手ヲ見セテマダ通用スルト思ウ?」
夕張「っ…!」
殴りかかったところを捌かれ、地面に転がされる
ネ級「…イイ気味…!覚エテル?覚エテルヨネ?」
夕張「くッ…うぅ…!」
立ちあがろうとしたところにツカツカと寄ってきて蹴られる
ネ級「覚エテルノカ、聞イテルンダケド?」
夕張「…海賊してた、深海棲艦でしょ…!あと、三宅島でも…!」
ネ級「ソウ、正解…!ズットズット、復讐シテヤリタカッタ…!!」
夕張「そんなの、アンタらが悪い事ばっかしてるから…!」
ネ級「人間ハ豚ヤ鶏ヲ家畜トシテ育テ、殺シ、食ベル…コノ行為ハソレト何ガ違ウ?」
夕張「そんなの…!」
ネ級「人間ハ特別カ?」
夕張「っ…!?」
ネ級「ダヨネ?誰シモ自分ハ特別ダト思イ込ム…オマエモ、私モ、何モ変ワラナイノニ」
夕張「同じ…?…ふざけないで…!」
ネ級「同ジ!同ジダ!オマエハ私ノ同胞ヲ沢山殺シタ!仲間ヲ奪ッタ!…ナラ、私ハオ前ノ家族ヲ奪ウ!
コレデ平等ダ!何ガ違ウ?!言ッテミロ!」
夕張「っ…んな…の…」
ネ級「…ク、クククッ…!
ソウダ…ソノ顔ガ見タクテ、ココマデ来タ…!」
夕張(…コイツを、殺さなきゃ…でも、どうしたら…素手で戦っても勝ち目なんかない…)
ネ級「1ツ、質問ヲスル」
夕張「え…?」
ネ級「オ前ノ家族ハマダ完全ニハ死ンデイナイ
ソシテ、私ハ…アル物ヲ持ッテイル」
ネ級が黒い液体の入った瓶を見せる
ネ級「……コレヲカケレバ、オ前ノ家族ハ身体ヲ再生スルダロウ…タダシ、深海棲艦トシテ」
夕張「…な、に…それ…!」
ネ級「人トシテ死ナセテヤルカ?ソレトモオ前ガ散々殺シタ深海棲艦ニスルカ?ドウスル?
選べ!オ前ノ好キナ方ヲ選バセテヤル!サアドウスル!?」
こめかみを踏みつけられる
夕張「ぅ…く…!」
そんなの、選べるわけがない
人として死ぬ?深海棲艦として生きる?
私には、どうすれば良いのか…
夕張(家族をもう一度失くす、誰かを失うなんて嫌…!
でも…でも、普通の手段じゃもう遅い、深海棲艦にしなきゃ助からないなんて…)
ネ級「サッサトシロ、ジャナキャ私ハオ前ヲ殺シテココヲ出ル」
夕張「…っ……」
ネ級「何ヲ迷ウ?共存ノ可能性ガ有ルト思ッタンダロウ?」
夕張(…ヲ級…)
ネ級「人ヲ喰ラウノナラオ前ノ肉ヲ喰ワセレバイイ」
夕張(由良…)
ネ級「…ソウダ、ソレデイイ」
瓶を手に取り、蓋を開ける
そしてそれを、家族の傷口へと流し込んだ
ネ級「コレデオ前モ、コチラ側ダ」
夕張「……」
言葉も出ない
私は、今、何をしている?
“つい”、“仕方なかった”、“家族だから”
…言い訳をしたくても、言い訳をする相手がいない
…そもそも、誰もそんな言い訳受け入れてくれるわけがない…私の弱さだ、逃げてしまった
夕張「っ……」
…その結果がもたらしたものは…
目の前のソレは、まさしく…
ト級「ギ…ギャギ…!」
ロ級「ギア…ギ…!」
ニ級「ギジャアァァァッ!!」
…化け物で…
ネ級「マサカ都合ヨク人型デ理性ノアル深海棲艦ニ成ルトデモ思ッタノカ?
ハハハハハ!!……オ前ヲトコトン苦シメテ殺ス為ニ用意シタンダ、救イナンテ無イ」
夕張「…!」
大口を開き、私を食い殺そうと飛びかかってきて…
夕張「ぁぐ…!」
飛びつかれ、のしかかられる
そして、肉を食われ、ゆっくりと死んでゆく
ネ級「最高ダナ、全テヲ諦メキッタソノ顔…絶望ノ中ニ残ッタ後悔、オ前ノ感情ハ実ニ甘美ダ…!」
……なにも、かもが…間違っていた
こんなところで死んで
みんなにも迷惑をかけて
何も、何も残せず…
…ただ死んでしまうなんて
夕張(…こんな…こん、な…)
ネ級(ン…?…味ガ、変ワッタ…)
ポケットの修復材入りの注射器をかろうじて掴む
夕張(まだ、死ねない…やらなきゃいけないことが、沢山有る…
家族を人喰いの化け物になんかさせてたまるか…!…なんとか、生きて…生きてやる!!)
ネ級「フン」
夕張「ぃぎいっ!?」
注射器ごと…右手を踏み潰される
まるで麩菓子みたいに、ペシャンコに…感覚すらも、ない…
ネ級「何ガオ前ノ心ヲ支エテイル?
全テ砕イテヤルゾ?後ハ何ガ残ッテイル?言ッテミロ、全部全部奪ッテヤル」
夕張「…こ、の…!」
ネ級の艤装に残された左手を向ける
ネ級「無駄ダト分カラナイノカ?」
夕張(ジャックできないのは、向こうがその対策をしてるから…でも、それは何…!?
それさえわかれば、きっと活路が…!)
ネ級「…フッ」
ニ級「グアァァァッ!!」
腕を噛みちぎられる
夕張「……ぁ…?」
痛く、ない…
…いつの間にか、脳が痛みをシャットアウトしていた
それはつまり、もう身体の耐えられる限界を超えている証明でも有る
痛覚の機能が失われた…
夕張(…あ…もう遅かったんだ…終わった)
ネ級(ソレデイイ、ソノ絶望ノママ…!)
ネ級「ッ!?」
玄関が爆散する
夕張(…誰…?)
ネ級「ナンダ、貴様…」
夕張(……ぁ…)
そこで、意識が暗転した
夕張「っ……あ、れ…」
次気がついた時
私は…廃墟と化した、その部屋の中にいた
…失った両手は、ちゃんとあった
全てが夢だったかのように思えたのに…
夕張「……なんだろう、ここ…」
壊れたその景色が間違いなく現実で有るという事実を突きつけてくる
夕張「……あ、はは…ほんとに…なんだろ、これ…なんで、こんな…」
「夕張」
夕張「…え?」
声に反応して振り返る
夕張「…由…良…?」
由良「……」
夕張「…なん、で…?あ、あれ…私、おかしくなった?…由良が、深海棲艦に見えない…」
由良「…夕張、私、色々…」
夕張「由良…?何?よく聞こえない…」
由良「……」
由良が俯く
夕張「…どう、したの…?」
由良「…結局…私ハ、何モ変ワラナイノ」
夕張「…え…?」
由良「コノ姿ハ、夕張ノ修復材ヲ投与シ続ケタ結果…
人ニ見エルデショ…?デモ、中身ハ深海棲艦ノママ」
夕張「…どういう…」
由良「勝手ニ使ッテゴメン、デモ、体内ニ人間ト同ジ成分ヲ注入シテ、人ヲ食べズニ済ムカ、試シタカッタノ…デモネ…
ダメダッタ、人ト同ジ姿ナノニ、人ヲ食べタクテ仕方ナイ…欲求ハ前ヨリモ増シテルノ」
夕張「……待って、意味がわからな…」
由良「深海棲艦モ、修復材デ再生デキル」
夕張「っ…?」
由良「実際ニデキテシマッタノ…夕張…」
夕張「だ、だから由良が…?」
由良「貴方ノ、家族ヲ…手ニカケラレナカッタ」
夕張「……っ…!?!?」
…そうか、つまり、そうなんだ
理解した
してしまった
夕張「……どこに、いるの…」
由良「会ワセラレナイ、理性ノナイ、怪物ニナッテシマッタカラ」
夕張「…それでも…私は、家族で…!」
由良「次ハ人ノ姿デ夕張ヲ喰ラウ…良ク知ッタ、大好キナ姿デ……ソレデモ耐エラレル?」
夕張「……それ、は…」
由良「夕張、私ハオ願イニ来タノ」
夕張「…願い?」
由良「深海棲艦ヲ、人ニ戻ス手段ヲ探シテ…時間ハ無イケド…外見ダケジャナイ、中身ヲ戻ス手段ヲ…」
夕張「……」
それが、残された唯一の道
夕張「…わかった」
夕張「そこからの私は、1人で司令部の部屋を貸し切って、引きこもって研究し続けたわ…
でもね…時間が経つにつれて、思い知らされるのよ
腐った肉が新鮮な生肉、いや…生きた生物に戻せる?…ううん、無理…それでも諦められなかった」
大淀「…途中、明石さんが訪ねてきたはずですが」
夕張「明石…?」
大淀「出会ってないのですね?」
夕張「っていうか…そもそも、誰?」
大淀「……はぁ…なるほど、後でいいですか?続きを聞かせてください」
夕張「……私は失敗した」
大淀「…そうですか」
夕張「深海棲艦を人に戻すなんて、土台無理な話なのよ…なのに私は、タイムリミットが来るまで、必死に研究を続けたのに…!」
夕張さんが机に
大淀「タイムリミット?」
夕張「……深海棲艦は、人を食べなければ体を保てず崩壊する…」
大淀「…なるほど」
夕張「私の家族のそばで…ずっと面倒を見ていた由良は…最期に…私に殺されることを選んだ…」
大淀「では、あの遺体は…」
夕張「…そう、由良…最期だからって…本気で、全力で殺しに来て…笑ったまま死んだ」
大淀「……」
夕張さんがゆっくりと顔を上げる
話し始めた時の、死んだような顔ではなく、憎しみに満ちたような顔…
夕張「……アイツを…あの深海棲艦を、絶対に私が殺す…!」
大淀「…支援はします」