食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
那珂『もしもし、聞こえてる?』
天龍「ああ、待ちくたびれたぜ」
青葉「大井さんは、どこに…!」
那珂『そこから8キロ東の地点、大きいホテル?…商業施設みたいなのの中に連れ込まれたよ』
天龍「こっから8?オイオイ、乗り物無しでよく追えたな…」
北上「そんな事より、人目のあるところに連れ込まれたの?」
那珂『うん、近くには…あ、大阪駅があるよ』
北上「大阪まで戻らなきゃいけないんだ?…にしても、流石に大胆すぎない?」
那珂『それはずっと思ってた、ターゲットが騒いだら即アウトな場所に連れ込む理由、わからないんだよね』
天龍「考えたってわかんねぇ事はあとだ、さっさと行くぞ、ココもいつ見つかるかわかんねぇんだから」
那珂『…ちなみに今どこにいるの?』
北上「多目的トイレ」
那珂『えぇ…?全員で…?』
北上「春雨達を残して合流するね」
天龍「朝霜と山雲、あとこの怪我人もか」
北上「追いかけっこお疲れ様」
天龍「…ヨドバシじゃねぇか…あんなとこに逃げ込んだって?」
那珂「うん、とりあえず搬入口を見張ってたけど、怪しい車の出入りはなかった、多分動くのは深夜じゃないかな」
天龍「ホントか?どっかの業者のトラックとか出入りしてただろ」
那珂「そっちにヤマ張ってたんだけどさ、一台も無かったんだよね」
北上「…一台も?」
青葉「30分くらいかかったので、あり得ない話では無いと思います…」
那珂「実はさ、そもそも大井って人…ここに来た時には意識のある状態でね?拉致した人と2人で普通のお客さんの入場ゲートから入って行ったんだ」
北上「えっ」
青葉「それって…自分から…?」
那珂「…あと、もう一つ…入場ゲートが客用だから、複数有る客用駐車場から出入りしてたら間違いなく見逃してる、あと駅も直通だから徒歩でもアウト…」
天龍「ダメダメじゃねぇか…!」
那珂「ワンオペなんだから無茶言わないでよ!天龍ちゃん本当バカなんだね!?」
天龍「んだとテメェ!」
北上「待った」
天龍と那珂の頭頂部に肘を落とす
天龍「いぎっ!?」
那珂「ひ、肘鉄はダメでしょ!?」
北上「2人とも頑丈だからヘーキだよ、それよりも、あたしの予想ではその大井って人、まだ中にいるんじゃない?」
青葉「…どうしてですか?」
北上「理由は2つある、1つ目はそもそも既に出られてたら終わりだからって諦め」
天龍「オイ」
北上「納得できない?じゃあ勘でいいよ」
那珂「もっと悪いよそれ…」
青葉「2つ目は…?」
北上「あそこで
那珂「……追わせたって言いたいの?」
北上「うん、だってあんな駅前で狙う理由ないでしょ、普通にちょっと待てば少しは駅から離れるだろうし
例え大通りでも、確実にカメラがある駅前よりはそっちの方が監視カメラが設置されてないところもあるから、全然リスクは減ると思うな」
天龍「それはそうかもしれねぇけど…」
那珂「でも、中にまだいる理由には…」
北上「なるよ、あの人エサにしてあたしら誘い込む作戦なら」
天龍「……なるほどな、おもしれぇこと考えやがって」
北上「…自分で言っておいてなんなんだけどさ、割とこれ辻褄が合わないっていうか…変なんだよね」
那珂「変?」
北上「青葉を追っかけてるヤクザがって話だったのにさ、なんか…話がでかくなりすぎてる気がして
青葉1人にこんなことする?それこそ本人撃つなりさあ…というか、撃たれたやつ拉致ってどうするの?艦娘って確信あったの?人間なら死ぬよ?」
青葉「…たしかに」
北上「どう考えても罠だと思うんだよねぇ…追って来い、一網打尽にしてやるって…
しかも、相手は多分艦娘である前提で動いてて…」
並べていくほどに異常さが増す
今の状況を悲観的に捉えた結果だけど、これが真実ならあたし達を仕留めるための作戦だと思う
北上(巻き込まれたのは青葉の方だった?)
北上「…とりあえず、春雨達のところに戻らない?」
那珂「なんで!?」
北上「こんな真っ昼間からやれないよ、深夜に行こう…誘われてるなら、その誘いに乗ってもいい」
青葉「正面から行くんですか…!?」
天龍「それはいいけどよ、深夜までに逃げられたらどうするんだ?」
北上「そんときは、諦める」
那珂「そんな適当な…」
北上「適当じゃないよ?…あそこまで計画的に、完璧に攫ったんだ、ここに連れ込んで受け渡しするならもう終わってるよ、そしたらどのみち追えない
それに、そうじゃなきゃ急に
天龍「いや…わかんねぇけど…」
那珂(合理的なのかなぁ…わかんない…機械みたい)
青葉「……深夜に戻ってきましょう」
北上「みんなで行こう、そこまでにゆっくり作戦立てて、ダメならまた別の作戦を」
…とは言ったけど
正直これは賭けでしかない
向こうはいろんな手段が取れる、それこそ建物に入ったのは那珂を
那珂の言う通り、電車で逃げられてたら終わり…乗用車に乗り帰られても…なんなら地下鉄、高速バスもある…
大井って人が意識のある状態で、騒ぎも起こさず自分からこの中に入ったのなら…全ての手段を取れる
要するに、この中で止まってる可能性はかなり低い
北上(…逃げられてたら、諦めてくれるかなぁ…)
実際諦めるしかない
このアテの無い旅の目的が一つ消えるだけだ
那珂「北上さん」
北上「ん?」
那珂「北上さんと青葉さんでこの施設見張っててよ」
北上「えっなんで」
青葉「私もですか?」
那珂「お願い、どのみちここに戻ってくるんだからさ」
北上「みんなで動けばいいじゃん」
那珂「…北上さんなら、何かあってもなんとかできるでしょ?それに…意識がある大井さんを、説得できるのは…ね?」
青葉「……はい、私、残ります」
北上「…チッ…」
…面倒ごとを押し付けられた
北上「なら、中はいるよ…外暑いし、だるい」
青葉「は、はい!」
那珂「あ、青葉さん、これ私の番号、登録しといてね!」
天龍「オレのも、ちゃんと出ろよ?」
青葉「わかりました、あの…私からもなんですけど…」
北上「ねえ、ホントに?嘘じゃない?絶対?」
青葉「は、はい、だから好きなだけ頼んでいただいて結構ですから…!」
北上「よし、じゃあ…どうしよう、迷うなぁ…ハンバーガー2個、ねえ、何が美味しいの?メニュー変わりすぎてよくわかんなくてさ」
店内を見回ったけど、落ち着ける場所なんて無い
なので結局大阪駅の地下にあるハンバーガーショップで休むことにした
青葉「え?あー…チキンとチーズのバーガーのセットが私は好きです…」
北上「じゃあそれも!サイドはナゲットで、バーベキューソース…ドリンクはスプライトね
あ、単品でポテトのL2つ!あ、コーラも追加して!」
青葉「私はアイスコーヒーを…あの、やっぱりサイドポテトにして、単品のポテトひとつで…
それから15ピースナゲット追加お願いします…はい」
バーガーやドリンクをこれでもかと載せたトレーをテーブルに置く
北上「いやぁ、悪いねぇ」
青葉「大丈夫です…その、ガサが貯金してくれてたので…お金はちょっと余裕があって」
北上(それを贅沢に使ってて良いのかねぇ)
ポテトをつまみ、コーラで流し込む
青葉「…あの」
北上「ん?何?」
青葉「…大井さん、大丈夫でしょうか…?」
北上「ダメかもね」
青葉「えっ」
北上「あたしにはわかんないよ、大井って奴の価値が…
誰でも良かったんなら、すでに捨てられてるかもしれないし…何もわからない…
そもそも、なんだってこんな大事になり易い…っ…?」
ハンバーガを口に含みながら窓の外を見る
青葉「……深海棲艦…?」
北上「人の格好してるけど、“群れ”だ」
空母、戦艦、巡洋艦…
服を着て、艤装を格納して…無害なフリをしてる深海棲艦だ
だけど、これは…
北上「…20匹は居る…?…青葉、那珂に連絡」
青葉「は、はい!」
深海棲艦がこれだけの数で来るなら、間違いない
北上(大井はまだ無事だ…それに、深海棲艦が絡んでる…!)
ナゲットを口に放り込む
青葉「ど、どうしますか…!?」
北上「大丈夫、深海棲艦が出てくるなら、向こうの動きを待てば良い…これ食べ終わったら追いかけよう、あんなに大勢なら目立つしさ」
ポテトをバーベキューソースに突っ込み、マスタードソースにも突っ込んで頬張る
北上「んー…初めてやったけど、この食べ方1番美味しいかも」
青葉「そ、そんな呑気な…」
北上「…今下手に動いたら全員お縄だよ、特にあたしらは首輪してないからさ…艦娘だってバレたら最悪人間に撃たれる…
イヤでしょ?」
青葉「は、はい…」
北上「……」
隠し持った拳銃を意識する
…使わずに済むならそれが1番だけど、やる事になるなら…
北上「あぐ」
チキンとチーズのハンバーガーにかぶりつく
北上「ん!これ美味しいじゃん、なんだろ?レモンかな、ちょっとツンとしてるのが良いね」
青葉「えっと…そ、そうですね」
青葉(なんでこんなに落ち着いてるんだろう…)
北上「ねえ、ナゲットってこんなんだったっけ?」
青葉「へ?」
青葉のぽかんと開いた口にナゲットを押し込む
北上「もっとさあ、プリッとした食感だった気がするんだけど」
青葉「もぐ…んー…
北上「ならもう一個食べなよ、わかるまで食べて」
青葉「ええと…はい…」
青葉が黙々とナゲットを食べる
青葉「……言われてみれば、ちょっとパサついてるかも…」
北上「ね、やっぱそうだよね」
ニッと笑う
北上「青葉、人生なんてこれで良いんだよ」
青葉「へ?」
北上「目の前の“美味しい”とか、“楽しい”に集中しても良いんだよ、ずっと先のことばっかり考えてるみたいだけど、そんなのあたしに任せなよ」
青葉「……」
青葉がキョトンとする
北上「…そう言えば、あのさ」
青葉「はい…?」
北上「パスって、何のこと?」
青葉が小包を取り出す
青葉「…わかりません、その…今の私は、ガサ…衣笠と一緒の身体に二つの意識があるような状態なんです」
北上「二重人格ってわけだ」
青葉「…なので、記憶も、大体ぼんやりとはわかります…でも…コレの中身だけは、想像もつきません」
北上「開けてみようよ」
青葉「……」
小包の包装に手をかけたまま、青葉が止まる
青葉「…ダメみたいです」
北上「ダメ?なんで?」
青葉「…大井さんがくれたものなので、大井さんを助けて、目の前で開けてって」
北上「ありゃりゃ、気になってたんだけどなぁ…中身」
一体なんのパスなのかは知らないけど
使えるものかと思ったのに
青葉「……大井さん…」
北上「……」