食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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保護色

大淀「……そうですか…はい、わかりました……夕張さん」

 

夕張「…何」

 

大淀「私からも一つ、耳を塞ぎたくなる様なお話が」

 

夕張「どんなお話?」

 

大淀「以前、北上さんの過去を聞いたそうですね」

 

夕張「それがどうしたの」

 

大淀「…北上さんは艦娘になる前、深海棲艦の襲撃を受けて、深いダメージを負ったそうです」

 

夕張「お姉さんが助けてくれたって聞いたけど」

 

大淀「はい、だから一命を取り留められた…

しかし、それはさておき…何故艦娘になったのでしょうか?」

 

夕張「…憎いから?」

 

大淀「…憎しみは確かにあるでしょう、しかし、誰も知り得なかった事実があります

艦娘になる手段は、わかりますか?」

 

夕張「生体ユニットを…」

 

大淀「その前です」

 

夕張「前…?コレより前って、何?」

 

大淀「意思の話です」

 

夕張「意思の、話?…でも、艦娘は…自分自身の申し出が無きゃ……まさか…

北上は、“望んで”艦娘になったわけじゃないって事?」

 

大淀「深海棲艦の襲撃による犠牲者は数え切れません、手を尽くしても死んでしまう人はどれ程いたか

…と、なると…死んでしまうよりは、と考える人が現れてしまうものです」

 

夕張「……なんでそれを今…」

 

大淀「この話には、続きがありまして…」

 

夕張「…続きって」

 

大淀「その時の、北上さんのお姉さんの話です…」

 

 

 

 

 

 

青葉「…大井さん、一体どこに……っ」

 

人の死体の…山…?なんで、こんなの…初めて見た…

深海棲艦は人を食べる、だから、こんなのを作ることは基本的になくて…

 

青葉「…動いた?」

 

今…死体の山が、動いたような…

あり得ないと否定しようとしたけど…

 

青葉「っ…そんなの…」

 

死体が、変貌(へんぼう)していく…

どんどん、深海棲艦の姿に…

 

青葉「……ガサが深海棲艦になった時の記憶から、想像はしてたけど…実際に見たら…」

 

槍の筒を取り出して、展開する

…奇形の深海棲艦たちが、奇妙な呻き声を上げる

 

まるで何かを訴える様な…怒りの様な…悲鳴の様な…

 

青葉(…そう、だよね…この人達も、被害者で…)

 

キュッと目を閉じて、息を吸い、目を開く

 

青葉「っ」

 

深海棲艦は、もう目の前まで迫って、飛びかかっていた

 

天龍「ボサッとしてんじゃねぇ!!」

 

飛びかかってきた深海棲艦が蹴り飛ばされる

 

青葉「天龍さん!?やられたんじゃ…」

 

天龍「目的忘れんな、必要に応じてやられたフリするくらいの頭は回る」

 

青葉「そ、それよりも…!」

 

天龍「無視だ無視!そんな雑魚に構ってる暇はねぇだろ!」

 

天龍さんに手を引かれてフロアの中を逃げ回る

奇形の深海棲艦はまだちゃんと動ける様子じゃなくて、逃げ切ることは容易だったけど…

 

青葉(アレと戦うのは…殺すのは、つまり…人を…)

 

天龍「何考えてんのかはわかる、でも、今は考えんな」

 

…どうすれば…

 

天龍「…ここは、レストランフロアか…隠れるとこは山ほどあるが…武器らしいのは無えか」

 

青葉「…この槍を…」

 

天龍「ダメだ」

 

青葉「えっ」

 

天龍「…それを…龍田を言い訳にするな、武器が無いからって自分の手を綺麗なままにしようとするな、選べ、お前自身で」

 

青葉「……」

 

天龍「深海棲艦の正体が死体の成れの果てだってんなら…オレらはみんな死体をいたぶってメシ食ってた外道だ

もうその事実は変えられねえ」

 

青葉「…はい」

 

オマケに、私は…

 

天龍「…オイ」

 

天龍さんに肩を叩かれる

 

天龍「あれ見ろ、どうやら…アイツらが親玉らしい」

 

青葉「へ…?」

 

人間と、深海棲艦…?

 

青葉「…いや…違う」

 

天龍「気づいたか、こんなとこに無事な人間がいるなんて有り得ねえ…それこそ、深海棲艦と繋がってなければ」

 

青葉「…人間が、深海棲艦と…」

 

天龍「…今更だろ…ンなもん…」

 

人間と一緒にいた深海棲艦がこちらを向く

 

青葉「!」

 

青葉(気づかれた…!?)

 

天龍「……なんだ、この感じ…アイツ、ヤバいぞ…!」

 

レ級「…キヒッ!」

 

 

 

 

 

川内「流石に粘るなぁ…大湊のエースはやっぱ伊達じゃないね」

 

北上「……バカにしてる?…こんなあからさまな時間稼ぎ…」

 

川内「…さっさと引き上げなよ、これ以上は命の保証はないよ」

 

北上「お互い様でしょ」

 

拳銃を構えて川内の腰を狙って撃つ

 

川内「おわっと!?…危ない危ない…狙いは、コレ?」

 

川内がグレネードを見せびらかす様に取り出し、放り投げる

 

北上「…やっぱ、ガスか」

 

放り投げられたグレネードを撃ち抜く

あたりに白煙が蔓延する

 

北上(…狙いは…戦術的勝利のみ、勝つ事じゃない!)

 

息を止め、白煙の中を駆け抜ける

 

川内「…ちょっと甘いんじゃない?」

 

北上「っ!」

 

拳銃のスライド部分で短刀を受け止める

 

川内「逃がさないよ」

 

北上(ガスマスク…やっぱ、これ…吸い続けるとマズイね)

 

即座に逆方向に切り返してとにかく煙を抜けようと…

 

川内「だから逃がさないって」

 

北上(え…?)

 

正面から、クナイが…

 

クナイを左腕で受け、正面に発砲する

 

北上(…当たってない…しかも、川内は後ろにいたはずなのに…どうなって…?)

 

川内「止まってる暇あるの?」

 

脇腹に蹴りが入る

 

北上「ふぐっ…!?…ぐ…!」

 

拳銃を落として口元を抑える

 

川内「呼吸もそろそろキツイでしょ、吸っちゃいなよ、死ぬもんじゃ無いしさ」

 

北上(前、後ろ、横…分身でもしてるみたいだ、どうやって…いや、やり方は読める、でもほんとに息がまずい…)

 

川内「……そろそろ限界?」

 

北上「っ…う…」

 

片膝をつく

頭がダラリと垂れる

 

川内「……」

 

川内が近づいて来てるのがわかる

…ダメだ、もう限界…ホントに、これ以上は…

 

川内(…知ってるよ、どうせ煙を吸ってないんでしょ…

でも、辛いのはほんとだよね?…ただの煙なのに我慢してさ…)

 

北上(…今)

 

左腕のクナイを抜いて川内の脚に刺す

 

川内「っ!…まだここまで動け…このっ!」

 

川内に蹴り飛ばされ、距離が空いた瞬間、ひと呼吸だけして煙を抜ける

 

北上「……ピリピリしない…ただの煙幕(スモーク)か…息止めて損した」

 

川内「あーあー…よくもまあ、こちとら機動力がウリなのに」

 

川内が脚の傷口を押さえながら近づいてくる

 

北上「自業自得でしょ、あたしの邪魔したのが悪いんだよ」

 

川内「……」

 

北上「ねえ、なんで深海棲艦を放っておいてまであたしらを狙うの?」

 

川内「それが北上の為だから」

 

北上「…意味わかんないよ、あんたら」

 

川内(…“受け渡し”が失敗した以上、北上達にこれ以上知らせるわけにはいかないんだよね)

 

川内「…っと…瑞鶴?…うん、“パッケージ”は?……うん…うん、わかった」

 

川内が短刀を鞘に収める

 

川内「ここまでだってさ」

 

北上「…あたしが終わると思う?」

 

川内「こっちは撤退するよ、後でゴミ掃除はするけど」

 

北上「……ゴミ掃除って?この瓦礫の山を片付けるだけじゃ無いよね」

 

川内「深海棲艦狩り、北上(アンタ)らのせいで二の次になっちゃったからさぁ…」

 

拳銃を拾い上げて川内に向ける

 

川内「……いや…気持ちはわかるよ?」

 

北上「別に、理解者になって欲しいわけじゃ無いから、単純に、アンタらが死ぬほど気に食わないだけ…

順番もわからなくて、悪戯に人が死ぬ事も気にせず…挙げ句の果てに人のせいにしてさ…ホント、ほんとに…無理」

 

川内「……どーしようもないじゃん、コレでもまだ少なくした方なんだよ…北上だって何も知らないでしょ?」

 

北上「知らないなら教えてよ…アンタらは、何をしようとしてんの?」

 

川内「……上手く行ってたら言えたんだけどね…っと!?」

 

天井が崩れ落ちて…!?

 

北上「っ…?!」

 

…瓦礫は幸いにも当たらなかった

でも…

 

川内「神通は…上はどうなってんの…!?」

 

…深海棲艦が、溢れ出して…降ってくる

 

北上「…は…っ…?……はっ…はぁっ……はぁっ…!」

 

川内「北上!何止まって…!?」

 

…体が、動かない…?

息、うまくできない…何コレ…

今、あたしが見てるのは、何…?

 

視界にモヤがかかって…

 

北上「…う……ぁ…?」

 

イ級「ギシャアァァァッ!!」

 

北上「っ…うあ…!」

 

 

 

 

 

レ級「アハハハハハ!!」

 

天龍「ク、ソ……なん、だ…こいつ…」

 

青葉「天龍さん…!」

 

レ級「立テ!ホラ!早ク立タナイト…ワカルダロ?…コンナ街中デ暴レマワッタラドノクライ殺セルカナァ!!」

 

天龍「ふざけんな…!」

 

天龍さんが瓦礫(がれき)を掴んでなんとか立ち上がる

 

天龍(クソッ…クソクソクソ!!!なんだよコレ…震えが、止まらねえ…!)

 

青葉「……っ…」

 

槍を構え直し、レ級にゆっくり近づく

脂汗が(にじ)んで、脚も震えて…

 

青葉(…逃げ、たい…逃げたいけど…)

 

レ級「オッ?先ニ…死ヌ?」

 

青葉「っ…死なない…!わ、私は!絶対死なな…」

 

…見えなかった、気づいたら目の前に…爪が…

 

「そこまでにしろ」

 

レ級「……アー…?」

 

…両目の間から、血が流れ出す

 

「…荷物は受け取った、これ以上は全面戦争になる」

 

レ級「…勘違イスルナ…私ハ全面戦争ガシタインダ!!

コンナクダラナイ制約(ルール)ニ縛ラレルノハ、ゴメンダ!!」

 

レ級が人間の方に振り返る

 

「だとしても、お前は私に従うだろう?」

 

レ級「……クソッ!」

 

顔面を殴られ、地面に崩れ落ちる

 

天龍「青葉!!」

 

青葉(…あれ……痛くない……あ……身体、動かない…?)

 

レ級「コンナ雑魚何匹殺シテモ!何ニモナラナイ!早クアノ雷巡ヲ殺サセロ!!」

 

「わかっている、だから“アイツ”を手に入れたんだろうが」

 

レ級「…ジャア、サッサトシロ…!」 

 

人間がこちらへと歩いてくる

 

天龍「待て…!青葉に手を出すな!」

 

「殺しはしない、私としても、これ以上は望むところでは無いからな」

 

首を掴まれて、持ち上げられる

…掴まれた位置がビリビリ痺れて…

 

「…ああ…そもそも助からないな、コレは…レ級、顔面を砕いてる…表面こそ壊れてないけど骨も中身もぐちゃぐちゃだ」

 

レ級「…脆スギル、ヤハリツマラナイ」

 

「…また…自分勝手を言う…」

 

天龍「お前ら…!」

 

「おっと、余計なことは考えない方がいい…こんな姿だが…」

 

首を掴んでいる手がどんどん灰色に染まっていく

 

天龍「…馬鹿力だとは思ったが…!」

 

「保護色、と言うものが…アル…知ラナイノカ?…愚カナ、人間」

 

首を離され、捨てられる

 

「…フゥ……私は、人間と敵対するつもりはない、だが、襲われたなら自衛はする…その際にお前が死んでも…」

 

天龍「っ…」

 

レ級「…ツマラナイ、向カッテクル勇気モナイカ……クソッ!!ソウダ!人間ハコウナンダ!弱クテ臆病デアルベキナノニ!!

ナンデアイツハ!!アアアァァァッ!!」

 

レ級が壁を殴りつけて砕く

 

「……暴れるな、引き上げる…」

 

レ級「ケッ…ワカッタ、了解シタ…」 

 

レ級がもう1人を抱き抱えて壁の穴から飛び降りる

 

天龍(…青葉…)

 

春雨「大丈夫ですか!?」

 

天龍「は…お前…!」

 

春雨「那珂さんに隠れる様に言われてて…!これ!」

 

天龍「修復材…青葉だ!青葉に使え!早くしないと死ぬ!」

 

春雨「はい!」

 

 

 

 

 

 

川内『聞こえる?大淀…悪いけど、北上はダメそうだよ』

 

大淀「…どういう事ですか」

 

川内『…小物の深海棲艦相手に、無抵抗に喰われちゃった…死んで無いけど、身体もう再生しないんでしょ?』

 

大淀「…そんな、事…」

 

川内『左目、左腕、右脚は完全にダメ、脇腹もかじられてて、うん…』

 

大淀「……そうですか…また、失敗してしまいましたか…私のせいで」

 

川内『後悔してる暇はないよ、選んだんだよね』

 

大淀「……」

 

川内『…大淀?』

 

大淀「…なんでも、ありません…」

 

川内『後悔しても遅いんだよ、進んだら、進み切るしかないんだから』

 

大淀「…言われるまでも…いえ…わかっています」

 

電話を切る

 

夕張「…どうなったの」

 

大淀「……こんな筈では…こんなことになるはずは…北上さんは…戦えなくなるどころか…もう…」

 

夕張「……お互い、失敗したもの同士ね」

 

大淀「…桁が違いますよ」

 

夕張「同じよ」

 

大淀「民間人も、たくさん殺しました」

 

夕張「…そこは擁護できないけど…でも、何かを成そうとして、失敗したなら、それを…糧にしなくちゃ…」

 

大淀「…お互い、切羽詰まったもの同士ですか」

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