食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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混濁

暁「龍驤さん」

 

龍驤「よお…久しぶりやな」

 

背後から声をかけられた…

目を合わせる事なく声を返す

 

暁「久しぶりね、ちょっと時間いい?」

 

龍驤「…今はしんどいわ、子守りの途中やからな」

 

暁「その子と、山雲も…連れてきて」

 

龍驤「……暁」

 

暁「何」

 

龍驤「ウチな…今、お前のこと見たないねん」

 

暁「私も、あなたのそんなにみすぼらしい姿見たくなかった」

 

龍驤「……キツイなぁ…」

 

暁「…今の貴方とは喋ってるのも辛いわ…早く来て」

 

龍驤「…わかった」

 

暁「……連れて行って」

 

何人かに囲まれる

 

曙「変に動かないでよ」

 

龍驤「心配せんでも走る力もないわ」

 

暁「こっちの寝てるのが、朝霜…山雲は?」

 

山雲「ここに…」

 

暁「……久しぶり、色々話したいけど、まずは移動するわよ」

 

山雲「…あの」

 

暁「何、別に怖い目に合わせたりは…」

 

山雲「北上さん達は…?」

 

暁「…まだわからないわ」

 

 

 

 

龍驤「…怪我人に対する対応がコレかいな」

 

両手を後ろで縛られて

その上目隠し…まるで一昔前の処刑場に並べられた囚人

 

龍驤「……つまらん人生やったなぁ…」

 

暁「事情聴取ってだけなのに、人生振り返るのやめてくれる?」

 

龍驤「にしてはえらい拘束キツイやんか」

 

暁「深海棲艦と繋がってたんだから、仕方ないでしょ」

 

龍驤「……なんやと?」

 

暁「知らなかったで済む話じゃないのよ、もう何人も殺されてる、それも信じられないほどの苦痛を伴って」

 

龍驤「…そんな、はず…」

 

暁「龍驤さん、こんな事言いたくないけど…あなた、大人でしょう…?

お金のことしか頭に無い連中と組んでなんとも無いとほんとに思ってたの?

…だとしたら、あまりにも…愚かすぎるわ」

 

龍驤「暁…頼む」

 

暁「……」

 

龍驤「……聞かしてくれ、誰がどうなったんか…今更もっともらしいこと言ってもしゃあないけど…ウチはそれを知る義務がある」

 

暁「…被害者に会ってもらうわ」

 

龍驤「被害者…?」

 

近づいてくる足音、目隠しを外される

 

龍驤「…?……っ…!」

 

…言葉を失った、知っている筈なのに…

一瞬誰かわからないほど憔悴(しょうすい)しきっていて…

 

龍驤「…荒潮…か…?」

 

荒潮が頷く

髪は、ところどころ白髪が混じり、ボサボサと言うよりは…生え方がおかしい

顔にも引っ掻いた様な傷、痩せこけた頬…

 

龍驤「……ウチ、か…?ウチが、そんな…苦しい思いさせてもうたんか…?」

 

荒潮「……」

 

龍驤「…なんか、言うてくれ…頼む…」

 

暁「龍驤さん」

 

龍驤「暁…荒潮に何があったんや!それに、他に…!」

 

口を抑えられ、言葉を遮られる

 

暁「それ以上はダメ、また錯乱しちゃうから」

 

龍驤「っ…」

 

…居ない…?

朝潮達は、もう居ない?それはつまり…

 

龍驤「……そう、やな…ウチは、愚かやな…

こんな筈やなかった…こんな筈やなかったのに…」

 

暁「…ホントに、馬鹿な人…」

 

荒潮「……龍驤さん」

 

龍驤「…荒潮」

 

荒潮の手が頬に触れる

 

龍驤(…こんなにガサガサの手になってもうて…)

 

龍驤「好きにし…荒潮にも、ウチを好きな様にする権利がある」

 

荒潮「……なら、青葉さんに会わせてください…

ずっと会いたかった…私の事を思ってくれる人に… 」

 

龍驤「青葉…?」

 

暁の方を見る

 

暁「…まだどこにいるかわからない、もしかしたら」

 

龍驤「……そんなタマやない…アイツは生きとるで…荒潮、約束する、会わしたるわ…青葉に」

 

荒潮「お願いします…」

 

 

 

 

 

北上「……」

 

川内「…酷いもんだよね」

 

瑞鶴「あの北上がこうなるなんて…」

 

左腕は肘までなくなった、右足は太腿まで

顔も瓦礫が突き刺さって左目が潰れたし、脇腹も食いつかれてる

緊急手術を行い、骨を削り、止血して、輸血までしてなんとか生かしているけど…

 

川内(……あの時、動きを止めた時…北上は完全に怯えていた)

 

北上『っ…うあ…!』

 

怯えて、動きを止めて、無抵抗に食べられた

 

…信じられない、まさか北上が深海棲艦相手に怯えるなんて…

何かしらのきっかけがある筈だ、何か、何かが原因な筈だ

 

北上「……」

 

瑞鶴「目、覚まさないわね」

 

川内「覚ますわけないでしょ、無理に決まってる…ありえない量の投薬もしてるし、このまま目を覚まさなくても何も不思議じゃない、それどころか死んだって…

こんな筈じゃなかったのに…」

 

…プランとは違った、深海棲艦の乱入さえなければ、あの大井って奴を引き渡して終わりだった

あとは北上を適度にボコボコにして、もう戦いの場に出てこない様にすれば…

 

瑞鶴「……明石さんに聞いたけどね、修復材受け付けてないんだって…手術の時に整体ユニットのパーツも一緒に外したらしくて」

 

川内「えっ…そんな事したら即死するんじゃ…!」

 

瑞鶴「全身に浸透してる整体ユニットも反応が無いって…だから、拒否反応すら起こさず、外れたみたい…」

 

川内「……北上は、もう艦娘じゃないんだ…」

 

…艦娘の証を失った、ただの人間…

人間に戻れたんだ…でも…

 

川内(そんな姿で戻っても…)

 

瑞鶴「……大淀さんから、言われてたんだけど」

 

川内「何」

 

瑞鶴「…かなり、酷な話なんだけど…」

 

 

 

 

川内「…嘘でしょ…?何、そんな事のためにこんな…」

 

瑞鶴「……ホントは、万事がうまく進んでハッピーエンドって筈だったんだけどね

…いつ爆発するか分からない爆弾を抱え続けるわけにはいかなかったから」

 

川内「大淀は何がしたいの」

 

瑞鶴「…ただ、北上に幸せになって欲しかったんだと思う、でも、悪い方向に進んだ

……失ったものを取り戻そうとしたせいで、より多くを失った」

 

川内「万事が上手くいくわけじゃない」

 

瑞鶴「今回の失敗は、想定を大きく超えてる…深海棲艦も、かなりの数が入り込んできた…いや、そう、それ…!そうだ!」

 

川内「何」

 

瑞鶴「しまった!やらかした〜……今更気づいたなんて…絶対怒られる…」

 

川内「……はあ、何が」

 

瑞鶴「…あの場に原種が居た可能性があったのよ!」

 

川内「原種が?」

 

瑞鶴「…各監視カメラで深海棲艦の出入りを確認したところ、20匹前後があの施設に入ってたの」

 

川内「いや…でも」

 

瑞鶴「そう、実際はその数倍以上…つまりね、あそこで増えた」

 

川内「増えた?」

 

瑞鶴「…最近わかった事だけど、原種には人間の死体を深海棲艦に変える力がある、あそこで殺された人達が、深海棲艦に変えられたの」

 

川内「っ!!」

 

…だとしたら、例えば原種1匹町中に入り込めば簡単にあんなテロみたいな事が…

 

瑞鶴「…そう言う事、“その気”があれば、大量殺戮が可能なの、私は急いで報告してくる」

 

川内「うん…っ?」

 

携帯にメッセージ?

 

川内「…神通…“那珂が消えた”…?……仕方ない、アタシも探しにいくか…」

 

……

 

………

 

北上「……」

 

…右目を開いて、右手をベッドについて、なんとか起き上がる

 

北上「…何これ、頭ぼーっとする…」

 

右手でバランスを取らなきゃ、座ってる事も難しい

体のバランスの問題だろうか

 

北上「……っ…ふう…なんか、寝てないとちょっと良くないかも…し、しんど…」

 

ゆっくりとベッドに倒れ込む

 

北上「はあ…は、はー……うぅ…」

 

…この状況は、なんなんだろう

 

北上(なんで片手ないの?片足も無い…それに、もしかして片目もないのかな…全身ビリビリして、感覚もない…)

 

北上「…(わたし)、一体どうなって…って言うか、何があったんだっけ…」

 

最後の記憶を手繰り寄せる

 

…そうだ、買い物だ、特別な日だったから

2人で、モールに買い物に行って…そしたら爆発が起きて、モールが崩れて

見た事ない化け物が、降ってきて…

 

北上「…っ…?…ふっ…は…あ…あー…」

 

心臓がうるさい

頭が痛い

 

鼓動がバクバクしてる

 

北上「…もう、思い出したくない…」

 

目を閉じて、身体の力を抜く

何もかもを失ってるんだ、私には何も残ってないんだ

 

北上「……」

 

どうすればいいんだろう

これから、どこに行って、どうやって生きればいいんだろう

 

北上「…はあ……これじゃ田植えもできないね…

畑の作業もできないし、何も…ご飯も食べられない…」

 

…色々食べてみたかったなぁ…でもやっぱり…

 

北上「……イナゴの佃煮とご飯食べたいなぁ………はぁ…」

 

 

 

 

 

 

大井「……」

 

レ級「コイツガ欲シカッタノカ?…コイツニ一体ドンナ価値ガアル?」

 

「…こいつは、人間として死の(ふち)に堕ち、それを無理矢理蘇生した事で艦娘となった、だが、コイツには“素質”がある」

 

レ級「素質?」

 

「そうだろう?お前自身がわかっている筈だ」

 

大井「わからないわよ、なんであんなことになってるのかも、なんで同じ人間に売り渡されるのかも」

 

「……なら、教えてやるまでだ」

 

大井「な、何を…!う…ぁ…!」

 

「目覚メロ、死ヨ」

 

大井「…っ…?」

 

レ級「……コイツ…深海棲艦ナノカ?」

 

「正確ニハ違う…違ったと言うべきか、コイツは生体ユニットという機械によって、死を止められていた

だが、死に直せば…もう終わりだ」

 

大井「………」

 

レ級「…深海棲艦ニシテドウスル?」

 

「不意打ち騙し討ちは…戦いの常套手段だろう?」

 

レ級「他ノ艦娘モ深海棲艦ニデキルノカ?」

 

「まだ無理だ、コイツは特に死が近かったらしい…まあ…他にも同じ様な奴がいればそうする…

結局殺してから血を注げば変わらないがな」

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