食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
北上「…え?北上?」
暁「そうよ…思い出せる?」
北上「……ううん…だって私の名前は…あれ…なんだっけ…」
暁「…思い出せない?」
北上「うん…」
暁「……そう、仕方ないわね、ならもうしばらく北上さんって呼んでてもいい?」
北上「うん、いいけど…これからどうすればいいの?」
暁「これから…とりあえず戸籍を新しく発行して…新しい住む場所を…」
北上「え?元の家に帰らなくて良いの?」
パッと顔が明るくなった…
暁「帰りたくないの?」
北上「…んー…わかんないな、でも今ほっとした」
暁(…嫌な思いをしてたのかしら)
北上「…あ、そうだ、脚とか手ってさ…」
暁「義手と義足なら提供してくれるって、とりあえず簡単なものから慣らしていきましょう?」
北上「ありがとね、小さいのにすごいなぁ」
頭をポンポンと撫でられる
暁「……」
…払いのけたかったけど、その手は、昔と同じで、優しくて温かい手で…
暁「…もう12よ…小さくなんてないわ」
北上「12…かぁ…ほんとすごいよ、私じゃ無理だよ」
暁(…いつもの北上さんなら、「まだガキンチョの癖に」とか言うのに…)
北上「…はー…どうしよ…でもこれじゃ学校行っても受け入れてもらえるのかなぁ…ひまわり学級みたいなの、中学にもあったっけ…」
暁「中学?……あ」
暁(…北上さんの中では、まだ…大湊に来る前の…そっか…)
北上「…どうしたの?」
暁「なんでもない、きっと受け入れてもらえるわよ…もし中学から行くなら、来年、一緒に行きましょう?」
北上「え?…いいね、それ楽しそう!」
…ほんとに嬉しそうな笑顔
今の北上さんにとっては生きる事自体が不安に溢れてる
だから、1人でも寄り添ってくれる人が居ることは重要で…
暁「…改めて、友達ね」
北上「えへへ」
暁「って感じで、北上さんは記憶も完全に消失してる
生体ユニットを外したせいだと思うけど…聞いてる?」
大淀『……はい』
暁「ショックを受ける気持ちはわかるわ、でも…あなたの望みは、歪んだ形で叶った…
深海棲艦との戦争を終わらせればきっと…」
大淀『…そうですね…ええ、そうです…なんとかしないと…私が…』
暁「気負いすぎよ、1人じゃ何もできないでしょ
みんなで協力して乗り越えるの」
大淀『……』
暁「…ところで、言ってた検査、進めてるわ…パズルのIQテスト、平均で105、空間を脳内で認識するのが少し得意みたいね
でも、突出してる何かはないわ」
大淀『そうですか…では、これからの人生は、きっと苦しいモノでしょう』
暁「自分を責めるのはやめなさい、責任を背負うにしても、潰されてはダメよ、それにIQなんかで人生決まらないもの」
大淀『暁ちゃんはいくつでしたっけ』
暁「160くらいだったかしら?…5年前くらいだけど…」
大淀(だからそんな事が…)
暁「だからそんな事が言える…って思ってるなら大間違い、私は…北上さんより弱いのよ?」
大淀『……』
暁「弱くても、前線に立つ…
逃げるなんてできない、明らかに、適性は他にあるはずなのに…みんなそうだった…
この才能があるとか、うまく行くかいかないかとか、関係ないのよ…必死に足掻くしかないのよ」
大淀『今の北上さんに、私は…』
暁「一度会いに来なさい…何もわからないままに、それでも受け入れてくれると思う
自分の罪を噛み締めて、やるべき事を…もう一度見直しなさい」
大淀『……今はまだ行けません』
暁「…どうして」
大淀『増幅器を、開発してるんです』
暁「増幅…?」
大淀『深海棲艦の原種の出す命令信号を増幅させる事で、一般社会に溶け込んだ深海棲艦を全て引き摺り出します
それにより、民間人への被害を出来る限り減らして、殲滅するんです』
暁「……うまく行く自信は」
大淀『ありません、しかし他に手段はありません
…レ級を始めとした危険な深海棲艦が沢山います、各地で…戦闘が始まっている』
暁「…国の対応は後手後手だものね」
大淀『もう一点苦しいところとしては…他国からの援護は受けられません』
暁「え?」
大淀『深海棲艦はその気になればたった一体で辺りを埋め尽くす程の深海棲艦を創り出せる…そう言って、他国を脅しています
それに対応する策がでない内は迂闊に動けない』
暁「……そう」
大淀『ですが、共通見解として…死体を深海棲艦にする行為は、大規模には行えないモノだと考えています
何故なら、それができるなら人類は圧倒的敗北を期して、既に滅んでいるはずだからです』
暁「食べるものを残すためじゃないの?」
大淀『空母棲鬼は言いました、“人間を食べるのは下級の深海棲艦だけだ”と…本人達も食べることはできますが、マズイので好まないそうです
実際、戦時中から、缶詰などを深海棲艦が奪う事例がありました、特に…北上さんが輸送艦隊を襲った時なんか…』
暁「…確かに、毎回人間の食べ物を輸送してた…」
大淀『つまり、上位の深海棲艦、原種達にとっては人間は嗜好品のために存在するものなわけです
居てもいなくてもいい存在…しかも仲間までたくさん殺されてる』
暁「元々は深刻に考えてなかったんでしょ?だから決起したんじゃ…?」
大淀『その可能性は捨てきれませんが、深海棲艦の数が少ないです、その上…イ級の様な形をしていますが、砲撃すらもできない“奇形”の深海棲艦も多い…
血の量によっては奇形にすらできない可能性がある』
暁「…可能性、ね……要するに、その可能性に賭けるしか無いのね」
大淀『…ええ、情けないですが』
暁「……そう、わかった」
大淀『実際、際限なく深海棲艦を生み出されたら詰みです、日本に原種があるとわかっている以上、強行手段に出る国があるかもしれません、国一つが消えるほどの』
暁「…たとえば、空からとんでもないものが降ってくる…とか?」
大淀『
暁「もしそうなら…撃ち込まれる頃には防空システムも機能しない様になってるわ、なら…それがリミットって考える?」
大淀『北上さんがよく言ってましたよね…深海棲艦と延々と戦ってるとゾンビもののゲームみたいだって』
暁「…実際に今の状況はその通りなんじゃないかしら、やった事ないけど」
大淀『…やっぱり、私にはもう少し余裕があるように思えます
深海棲艦を際限なく作り出せるなら、こんな電話をする余裕もないでしょうから』
北上「深海…棲艦…?」
暁「そう、聞いたこともないと思うけど」
北上「うん…その怪物が私の手と脚…目まで?」
暁「そうよ」
北上「……怖いな…どこに現れるかわからないんでしょ…?すごくヤダ…」
暁「不安になるのはわかるけど、生きていく上で知っておかなきゃならないわ、明日にも襲ってくるかもしれないから」
北上「…そっか、わかった」
暁(……?)
暁「…ねえ、深海棲艦の事、どう思う?」
北上「え?」
暁「あなたの意見を聞かせて?」
北上「いや…意見って言われても、怖いなーとしか…」
暁(…現実として受け止めてないの?…ほんとに、思考回路まで一般人になってるのね…)
暁「……まあ、これはこれでいいのかもね…」
北上「え?」
暁「…なんでもないわ」
北上「…あの」
暁「何?」
北上「さっきの話がほんとならさ、もう日本滅んでるんじゃないの?」
暁「……やっぱそこに行き着くわよね」
北上「昔見たゾンビパニック映画は、3日でアメリカ滅んだりもしてたけど…現実ってそうはいかないのかな?」
暁「そうさせないために私達が戦ってるのよ」
北上「ああ、そっか…じゃあ暁たちがすごいんだ!」
暁「…はあ……そうかもね、任せて、ちゃんと世界を守るから」
そう言って病室を出る
北上「……」
北上(…暁を見送る時…なんだろう…何か、嫌な感じ…
何、この…既視感…私…)
那珂「見て、これ」
青葉「…新聞……さっきのニュースですか?」
春雨「ホントに、深海棲艦が…」
那珂「大学の研究室から発生だって」
天龍「大湊なんか行ってる暇ねえんじゃねえのか?」
青葉「……こっちに行くって事ですか?」
那珂「艦娘としての本懐はそこだと思うけど…今の私達じゃ、武器も碌にないしね…」
春雨「武器なら大湊にあります」
天龍「あ?」
春雨「大湊の移転前の基地に、たくさん艤装を貯蔵してあるんです…それを使えば、きっと戦えます」
那珂「うーん…」
青葉「…行ってみてもいいんじゃないでしょうか?」
天龍「…確かめたい事もある、そっち行こうぜ」
那珂「確かめたい事?」
天龍「武器が貯蔵されてて、国が深海棲艦と戦う気なら絶対取りに来る、合流するならそこで合流すりゃいい
ホントに敵だったら正面から会いに行くのはリスクだしな…」
那珂「……バカなのか賢いのかわかんないこと言うね?」
天龍「んだと!?」
春雨「移動手段は…?」
天龍「ヨドバシの駐車場にな、山ほど車が落ちてる
どうせ持ち主はほとんど死んでるんだ、使えそうなやつ借りてこうぜ」
那珂(世紀末的発想…あれ、ここ地獄かな?)