食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
大淀「現在の私達には明石さん捜索に人員を割く余裕がありません、しかし、彼女の力は必要です」
夕張「…それで」
大淀「……撃たれるぐらいの覚悟をしての提案なのですが」
夕張「聞かせて」
夕張「…死体も再生できちゃうのね」
大淀「ええ…夕張さんの証言だけを信じるわけにはいかず、個人の特定のために再生を試したところ…」
夕張「……本気なのね」
大淀「明石さんは貴方の友人であると同時に…彼女の友人でもあります…
何かを知っている可能性はある」
夕張「…由良の…」
再生された由良の遺体を見る
大淀「……」
夕張「でも、由良は完全に死んでるのよ
…いくら形を元に戻したところで…死者を生き返らせるなんて、そんな無理な話…」
大淀「深海棲艦は、人魚姫と蘇りの二つの伝承とともに語られます」
夕張「…深海棲艦なら、生き返るって?」
大淀「元々が死んでる存在です、なぜ動くのかもわからない…」
夕張「そうね、動く気配もない」
由良は、身体は戻っても、もうぴくりとも…
夕張(……)
大淀「どこへ行くんです」
夕張「ちょっと待ってて」
少しして、由良の遺体の前に戻り、口元に手を当てる
夕張「…深海棲艦って、機械なのかしら」
大淀「……」
夕張「車なら、燃料がいるように、それが人間を食べることにつながるのなら」
由良の口を開ける
そして、さっき取ってきたハサミを自身の腕に突き刺し、貫通させる
大淀「なにを…」
夕張「由良、燃料よ」
血を由良の口に流し込む
夕張「…起きなさい…アンタに山ほど言いたいことがある
それに私…アンタのこと、まだブン殴ってないじゃない!自分勝手なアンタを、絶対殴ってやるって決めてたのに…!」
ハサミを抜き、傷口を押し当てる
夕張「飲みなさい!飲め!!!」
由良「……」
大淀(…やはり、そううまくは…)
夕張「!…今!喉が…っぁ!?」
腕に、由良の歯が食い込む
大淀「夕張さん離れて!」
夕張「大丈夫だから…そのまま、飲み続けなさい…!」
由良の目が開き、こちらを見る
大淀(…生き返った…しかし、これで、話が聞けなければ…)
夕張「っ…う…!」
ブチブチと音を立て、腕の肉が引きちぎられる
由良「…ヴ……ァ…」
夕張「随分と、寝起きが悪いじゃない…!」
目の焦点もあってない、コチラを見てないけど、意識はしてる…これは、理性が残ってるかと聞かれたら…
由良「…ユ……バ…リ」
夕張「…そうよ、私…ねえ、聞こえてるんでしょ…ちゃんと応えなさいよ!」
自作の修復材を傷口に投与する
夕張「目、覚ましなさい…足りないなら好きなだけ私を食べればいい…死んだりしないわよ
私は、死なないから…好きなだけ食べなさい」
大淀「自分自身を削るつもりですか、いくら修復できるとはいえ北上さんのように…」
夕張「そうなるわよ、北上みたいに、最後は再生できなくて、死ぬしかなくなってやるわよ
私だって…自分の信念のままに生きて死ぬ」
由良「……」
夕張「とりあえず、腕一本…その口に捩じ込むから
ちゃんと食べなさい!」
天龍「…下道だと岐阜まで遠いよな」
那珂「運転できるの天龍ちゃんだけだから頑張ってね〜」
春雨「お願いします…」
天龍「自分らには関係ないですって顔しやがって…」
青葉「岐阜まで行ったら、どうするんですか?」
天龍「オレの車で高速に乗る…ほら、今金も無えし…とりあえずガソリンが持ちそうなのが救いだけどよ」
那珂「持つの?この車メチャクチャ遅いよ」
天龍「法定速度って知ってるか?ホントにお前イカれてるよな」
那珂「みんな守ってないって!」
天龍「そんなんで捕まるほどしょーもねー人生送りたく無えんだわ」
青葉「あの、喧嘩は……あ」
那珂「…あのさ、今追い越してったバス…見た?」
天龍「…その反応が出るって事はオレの見間違いじゃなさそうだな」
…チラッとだけ、窓から見えたけど…
春雨「北上さん…?」
那珂「…な、何やってんの!?さっきのバス捕まえなきゃ!」
天龍「いや、見ただろ」
青葉「…片手がなかったです…片目も」
那珂「だから!?」
天龍「そんな奴連れてくだけ無駄だ」
那珂「…修復材が貰えてないだけかも…!」
天龍「……確かめるか?」
那珂「…何、その感じ…」
天龍「雰囲気がまるで違っただろ」
春雨「……」
青葉「確かめるだけ、確かめてみませんか?方向は同じみたいですし」
春雨「私は…嫌です」
青葉「え?」
春雨「…確かに北上さんなのに…何かが、あまりにも別人でした…あの人は、私達の知ってる北上さんじゃ…」
那珂「話してもないのにそんな事わからないよ!?」
天龍「話すにしてもどうする、どこで捕まえる…いや、バスならどっかで降りるか?」
青葉「そうですね…少し距離をとって…いや、この路線だと…大きな駅に止まりますし、そこで待ち伏せますか?」
那珂「そうしよう」
北上「ありがとうございました」
運賃箱にお金を入れて、松葉杖を使いながらなんとかバスを降りる
義手も義足も、つけ始めて2日目だからまだなんの役にも立っていない
見た目のバランスを取るためにあるようなものだ
北上(…すごく、視線を感じる…)
…というか
那珂「北上さん!」
北上「え…?私?」
きょとんとして声をかけてきた人の方を見る
天龍「……はあ…」
その人の知り合いらしい人がため息をついて、他の人と顔を見合わせて何かを喋ってる
どうにも、何か期待外れみたいな反応をされてるけど
那珂「北上さん、どこに行こうとしてるの?」
北上「え…いや…どちら様ですか…?」
那珂「へ…?」
青葉「っ……」
北上「……もしかして、私を知ってるんですか?」
春雨「いいえ」
北上(…この女の子、この子も、私と同じで、義足だ…?)
那珂「ちょっ…」
春雨「これからどこに行くんですか?」
北上「えっと、病院に…」
春雨「電車に乗って?」
北上「うん…」
天龍「…行こうぜ」
春雨「はい」
青葉「すみません、それでは」
北上「……?」
那珂「なんで!?ねえ!」
天龍「黙れ!無関係になった奴まで巻き込むな!」
那珂「無関係じゃないでしょ!?ここまで来たのは…!」
青葉「艦娘の北上さんであって、あの人ではありません」
那珂「同じ北上さんじゃん!」
春雨「…整体ユニットが破損してるんだと思います
北上さんはもう体を再生出来ません」
那珂「っ…」
青葉「これからの戦闘で、たった1回の怪我が致命傷になるかもしれません…」
天龍「居ても…足手纏いだろ」
那珂「わかった…もう、忘れる」
春雨「…生きててくれて、よかった」
青葉「はい…」
由良「……」
由良の目がこちらを向く
夕張「さあ、答えなさいよ、アンタが私の頭いじったのはわかってるんだから」
由良「……」
夕張「何も言わないつもり?…そんなの許さないわよ」
由良「…ゴメン」
夕張「…もう遅いのよ」
由良「……明石ノコトモ、夕張ノ家族ノコトモ、全部私ノセイ」
夕張「明石の記憶を消した理由は、何?なんで私から記憶を奪ったの」
由良「全部全部、知ラレテル…私ノ頭ノ中ハ全テ筒抜ケ
ダカラ…知ラナイ方ガ…イイ、苦シムダケダカラ」
夕張「……そんなの、アンタに決める権利なんてないから」
由良「……」
夕張「私からこれ以上奪うなんて、絶対に…絶対に!許さない!」
由良の胸ぐらを掴み上げる
夕張「記憶を返しなさい、明石を助けに行くから」
由良「…ダメ…絶対ニ……傷ツクダケヨ」
夕張「関係ない!…そんなに傷つくような友達を…由良は勝手に消しちゃったんだよ!?
その明石はどうなるの!誰にも、気にもされずに…死んだ事も認識してもらえないなんて…そんなの、酷すぎる…!」
由良「……」
夕張「…私と明石が仲良かったって事だよね?それを知ってたんだよね?…由良も、もしかしたら…大事な友達だったんじゃないの?」
由良「…ソウ」
夕張「だったら…」
由良「ソウダヨ…!大事ナ友達ダッタ…!ナノニ、ソノ友達ヲ……私ハ売リワタシタノ…ネ?
ワカルデショ…?私ハ、明石ヲ…」
手を固く握り、振りかぶる
夕張「馬鹿!!」
由良「ッ!?」
…由良の頬の前で止まった手を、開いて、由良の肩に置く
夕張「……望んでしたわけじゃないんでしょ…?
謝る機会すら、失うのよ…由良、道を正すなら、今じゃないの?」
由良「…夕張…」
夕張「アンタを殴るのは、明石に譲る…明石は殴らないと思うけど」
由良「何モ覚エテナイノニ、言イキレルノ?」
夕張「私みたいなものぐさと仲良くなるやつが、優しくないわけないじゃない…
アンタみたいに…ね?」
由良「夕張…」
夕張「だから、明石を…助けに行くわよ」