食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
北上「……ぅ…」
北上「っ……?……ここ、は…」
深海海月姫「実験室」
北上「うわっ!?な、あ、ば、バケモノ!?」
深海海月姫「…人ノ顔ヲ見ルナリ、バケモノ…ネ」
バケモノが人の姿へと変わる
深海海月姫「これならちゃんと話を聞いてくれる?」
北上「ひ、人に化けた…」
深海海月姫「そう、私たちは人ならざる存在、怨念の渦、最も深い場所から生まれた存在…
そしてその存在は、人間を壊し尽くすことをただ望んでいる」
北上「……人を…?」
深海海月姫「それが深海棲艦と呼ばれるバケモノの存在理由」
北上「…私にそれを話して、どうしたいんですか」
深海海月姫「手伝ってもらおうと思って」
北上「手伝う…?」
深海海月姫「深海棲艦と呼ばれる存在には2種類ある
“原種”、そしてその原種が生み出した、“その他”の深海棲艦、私はその原種で、その他の深海棲艦を生み出すことができる…支配する事も」
北上「それと手伝うって話は、何が…っていうか、何を…」
深海海月姫「あなたを深海棲艦にしたい…でも、無理矢理深海棲艦にするのは、効率的じゃない
あなたは死に切っていない、生きている、だから…殺して深海棲艦にするか、自分から“生きる事”を手放させるしかない」
北上「……えっと」
深海海月姫「その他の深海棲艦にも、分類がある
人の形をしているかどうか、これだけでも大きな差がある、知能の有無と、自我の有無
あなたには自我のある深海棲艦になってほしい…その力を、活かすために、より効率的に、ヒトを支配するために」
北上「…私に、人を滅ぼす手伝いをしろって…事ですか…?」
深海海月姫「端的に言えば、そうね」
北上「…嫌です!絶対に嫌…なんでそんな事…!それに、そのバケモノに私もこんな目に遭わされて…!」
失った手脚を、左目を意識する
深海海月姫「そう、でも人を恨む気持ちはあるんでしょう?」
北上「え?」
深海海月姫「…みんなそう、何かへの
「なぜ私は不幸なんだ」「なんであいつだけ」「どうして私を見てくれないのか」…誰かを恨む気持ちは、平等に存在する、貴方の身内にもね」
北上「身内…」
…何?身内…そうだ…
北上「…姉ちゃんが、いない…探さなきゃ…」
…早く探しに行かなきゃ、まだあの瓦礫の中に…
北上「ね、ねえ、出してくれませんか?…私…探しに行かなきゃ…」
立ち上がり、歩こうとしてこける
義足も、義手も、ちゃんとは動けない
深海海月姫「……」
それでも、すがりよって…
深海海月姫「なぜ憎しみの感情を見せないの?」
北上「へ?」
首を掴まれ、持ち上げられる
北上「か…ひゅっ…!?」
深海海月姫「憎しみや怒りより、不安や心配が先に出てくるのね、でもそれじゃない、私が欲しいのは…っ?」
天井が崩れて何かが落ちてくる
レ級「フ…グゥ…!」
…両手がない
その上、頭も半壊してる深海棲艦…体もぐちゃぐちゃだ
深海海月姫「レ級、随分と手ひどくやられたのね」
レ級「……キハハ…クソ、最悪ダ…ダガ、1発カマシテ…ン?」
深海棲艦が目を丸くしてこちらを見る
レ級「何故ソイツガココニイル!ナンダ、ソノ姿ハ!」
深海海月姫「拾ったの、遠くに行こうとしてたから…殺したいの?」
レ級「…ナンダ、ソイツハ…ナンナンダ、手モ脚モ、無イノカ?
私ガ恐レタ存在カ?ソレガ…」
深海海月姫「そうよ」
北上「あうっ!?」
地面に捨てられる
レ級「…コンナ、ゴミミタイナ…
レ級の尻尾が近づいてくる
北上「……」
食べられる…
レ級「……何故ダ」
深海海月姫「どうかした?」
レ級「…味ガシナイ…恐怖ノ味ガシナイ…!!ナンダオ前!気持チワルインダヨ!!」
腹を蹴り上げられる
北上「がひゅ…は…」
レ級「恐レロ!オ前ハ死ヌンダゾ!!」
北上「……うぅ…」
右手を使ってなんとか、体を起こす
レ級「ドウシテダ、ナンナンダコイツ!!暴力ニ恐怖シテナイ!何故恐レナインダ!ク、喰エナイ…気持チ悪イ…!」
深海海月姫(…何かが欠落しているのかもしれない…だとしたら、感情を煽る事で深海棲艦にするのは、不可能…?
いや、さっき見せたすがりつく様子はまさしく恐怖…)
レ級「ヤハリ、ヤハリ!!オ前ダケハコノ手デ!」
こちらへと伸びてきた尻尾が大量の触手で止まる
レ級「ナニヲ!」
深海海月姫「…これは私の、欲しければ自分の手で捕まえなさい」
北上「うっ!?」
左足を触手で掴まれ、持ち上げられる
深海海月姫「…深海棲艦になれば、目も足も、手ですら元に戻るわよ」
北上「……やだ…私は…人喰いの怪物なんかになりたくない…!」
深海海月姫「はあ……あなたの力を買っているのに…」
レ級「余計ナ事ヲ考エルナ!ソイツハ今殺セ!ジャナイト後々滅ビニ繋ガルゾ!」
深海海月姫「…殺して雑兵にしたくはないのに、やむを得ない…か」
北上「!」
レ級が降ってきた穴から、何か落ちてきて…
レ級「ッ!!」
深海海月姫「?…っ!」
北上(な、何が…目が見えない…耳も…!)
一瞬の閃光で、視覚、聴覚が無くなって…その上、感覚も曖昧に…
北上「ぅ…うぁ…!…な、に……うぅ…!」
何が起きてるのかわからない、わかるのはただもみくちゃにされてることだけ…
目も開かないし、耳がキーンとして、ちゃんとした後は聞こえないし…
北上(何が起きてるの…?)
バチン!
頬を叩かれた、体に音が響く
「生きてるわよね!?」
「動いてたので大丈夫だと思います!」
…声が聞こえてきたけど…誰?
暁じゃない…それに、この感覚、運ばれてる…?
ゆっくりと目を開く
…眩しくて、薄くしか開かないけど
葛城「こちらアルファチーム!こちらアルファチーム!目標地点で要救助者発見!」
瑞鶴「聞こえてる!?北上いたんだけどどうなってんのよ!!」
北上(…私を、知ってる…?)
瑞鶴「多分間に合ってる!生きてるみたいだし…!」
葛城「先輩!後方から深海棲艦が追って来てます!」
瑞鶴「わかった!」
瑞鶴が一瞬振り返り、何かを放つ
そして、爆発…
葛城「聞こえてますか!?このままじゃこちらも危険です!脱出の支援を…できない!?…横須賀を襲撃された…!?」
瑞鶴「このままじゃマズイわ!とりあえず隠れるわよ!」
瑞鶴「…ふ…はぁ……」
葛城「この辺の街一体、廃墟ですね…これが日本だなんて」
瑞鶴「…一緒に来たチームは?」
葛城「……ダメです、応答ありません」
瑞鶴「あの原種のアジトを特定して突入したまではいいけど…レ級まで戻って来たなんてね」
葛城「ほとんど死にかけだったみたいですけど…」
瑞鶴「…あの状況で北上を見捨てられるわけないでしょ」
葛城「……」
廃墟の中で降ろされる
瑞鶴「あれ、目が覚めてたの?」
北上「えと……はい」
葛城「ほんとに、聞いてた話とは雰囲気が別人ですね」
瑞鶴「……なんであそこに居たのよ」
北上「えっと…病院を移るために新幹線で移動してたら、新幹線が襲われて…」
葛城「…そういえばニュースになってました、でもまさか…」
瑞鶴「なんで送らないのよ…!」
葛城「今一般人扱いですし、病院側の対応が悪かったとしか…」
北上「……」
瑞鶴「…脱出手段は無いし…」
葛城「辺りは深海棲艦がウヨウヨしてるし…」
2人が顔を見合わせてため息をつく
瑞鶴「…歩ける?」
北上「立つのさえ手伝ってもらえれば…まだ練習中ですけど…」
葛城「ほら、手を貸して…」
立たせてもらい、その辺の棒切れを支えに歩く
瑞鶴「…この辺りは、漁港地帯なのね」
葛城「福島の1番東のあたりです」
北上「福島…ついてたんだ」
瑞鶴「…とりあえず、歩きましょ?」
天龍「ついたか、大湊警備府…じゃなくて、記念館ってなってるけど」
青葉「入場は自由みたいですね」
春雨「どうしますか?持ち出すにしても警備が…」
那珂「なら私がとって来るよ…あ」
龍驤「あ」
青葉「龍驤さん!?な、なんでここに…」
暁「春雨久しぶり、あとは初めまして、ようこそ元大湊警備府に」
春雨「あ、あかっ…!?」
霞「そんなに驚く事?」
天龍「…横須賀の艦娘連中か」
暁「ここに来たってことは…春雨に聞いて艤装を取りに来たんでしょ?…何をするつもり?」
天龍「……そっちこそ」
那珂「深海棲艦と戦うんだよね…?私達もそのつもりで来たんだけど」
暁「…そのつもりだったけどね、横須賀が壊滅したのよ」
天龍「なっ…?」
暁「だから、今から深海棲艦の対策本拠地をここに設置するの、手伝ってくれる?」
天龍「……おい」
暁「何?」
天龍「随分とさっぱりしてんな、お前、仲間やられてんだろ」
暁「よかった」
天龍「あ?」
暁「そう見えるならよかったわ…こっちは何人も後輩やられて…我慢の限界なのよ」
天龍「……」
春雨「暁さん…」
暁「大丈夫、もう、誰も死なせない」
葛城「…これ」
瑞鶴「破棄された、艤装の山…?葛城!生きてるのがあるか調べて!」
葛城「はい!」
北上(…すごい量…暁たちはこれを使って戦ってたんだ…)
葛城「……生きてるのは、ありますね、私たちの残ってる艦載機で高速航行さえできれば…!」
瑞鶴「よし、これで一度離脱できる!北上、準備するから一度隠れてて」
北上「はい」
言われた通り、物陰に避難する
瑞鶴「…このブーツ」
葛城「どうしたんですか?」
瑞鶴「……名前が彫ってある、艦娘としての」
葛城「…赤城……ここに、眠ってたんですね」
瑞鶴「ようやく一緒に帰れる…」
葛城「北上さんはどうしましょう、立ったまま…は無理ですよね」
瑞鶴「何かボートみたいなものを…あ、あの沖に浮いてるの…!」
葛城「救命ボートですね!やった、これで…!」
北上「!」
何か来るのを察知して、息を殺す
すぐ横を、何かが通った
瑞鶴「…葛城!」
葛城「えっ」
間一髪だった、2人が堤防から海に転がり落ちる
レ級「逃ガスカァ!!!…キ、キハッ…」
北上(こいつ、さっきのバケモノ…)
瑞鶴「マズイ…回復してる!」
葛城「先輩!ここは…」
瑞鶴「見捨てるの!?」
葛城「今行けば、全滅します…高速航行なら、もしかしたら逃げ切れるかもしれない…それに、まだ気づかれてないようですし、私たちが注意をひけば…」
瑞鶴「っ…そんなの、助かる保証は…」
葛城「…どの道あの人はもう戦えませんよ!ここで戦力を失えばどんどん苦しくなります!」
レ級「ヒソヒソ話カ?…マダ話シテタイノカ?…アノ世デ好キナダケ話セ」
北上(…私は、バレてない…?)
レ級がゆっくりと堤防へと近づく
北上(今なら、逃げられる…きっと、その方が…2人のためにもなる)
ゆっくりと立ち上がり、倉庫の方へと進む
北上「……いや」
何かが言った、私の中で、何かが…「それじゃダメだ」って
手に持った棒切れを振り上げて、倉庫の壁に投げる
ガシャン
レ級「アァ…?」
瑞鶴「な、何の音…!?」
北上「…こっち…!」
葛城「っ!なんで!」
レ級「…ソノ目ダ、私ノ心ヲ乱ス、クソノ様ナ目ェ!!殺ス!!」
砲弾が少し離れた位置を貫く
北上(あ、危な…これ…もしかして、ホントに死ぬ…)
今更になって湧いて来た現実味を噛み締めながら、ゆっくりと逃げる
葛城「…先輩、今しかありません」
瑞鶴「北上は私達のために…!」
葛城「それを無駄にできません!」
北上(…どうにかして、逃げなきゃ…)
ヨタヨタとゆっくりだけど、確実に進む
振り返る余裕なんてない
ただ、逃げて、逃げ続けて…
レ級「待テェ!!」
北上(来た!)
次弾がすぐそばに着弾し、炸裂する
北上「!」
…体が吹き飛ばされた…
今私は、上を向いてるのか、下を向いてるのかすら…わからない
北上(…姉ちゃんに会いたかったな…あと、美味しいもの、たくさん食べたかっ…た……)
ベシャリと落ちて、意識はそこで途切れた