食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
摩耶「北上!頭下げてろよ!」
北上「う、うん!」
頭を手で隠し、小さくうずくまる
銃声と爆発音が響く
摩耶「っ!…危ねえな!クソが!!」
イ級「ギィッ!!…ギ…ギギ…」
ホ級「キィィィィッ!!」
摩耶「邪魔だ!!」
摩耶「クソッ…キリがねぇ……戦うたびに敵が増えやがる…このままじゃ逃げ延びる前に死ぬぞ…」
北上(…私のせいだ…)
私の中の恐れが、バケモノを呼び寄せ続けている
私の中から溢れ出す、恐怖を求めて、バケモノがやってくる
北上(怯えちゃダメ…怯えちゃダメなのに…!)
震えは、止まらない
摩耶「…チッ…」
…どうしたら良いんだろう
摩耶「…マズイな、来たルートを戻る筈が、どんどん奥へ奥へと追い込まれてる…
このままじゃ完全に退路を潰される、となると…どうする?どこに行く…」
北上「……あの…摩耶さん…」
摩耶「あ?」
北上「…お腹減った」
摩耶「……」
呆れた顔をされた
摩耶「…お前、この状況で腹減ったって、お前…怖かったんじゃねえのか?」
北上「怖くても、お腹減る…っていうか…もう丸一日何も食べてないし…」
摩耶「……予定より遅れてんのに、ったく…そこの建物さえ確保できたら飯にするか」
北上「うん…」
摩耶「ほれ、ブロック食」
北上(…少ない…)
パサパサとしたクッキーを口に含み、
喉が渇くけど、飲み物なんて無いし…
北上(美味しいんだけど…余計にしんどくなる…)
摩耶「ほら、ここ、缶のジュースあるぞ」
北上「ぬるい…」
摩耶「文句言ってんじゃねえよ、ガキか…いや、ガキだったな」
摩耶(頭の中だけ)
北上(…なにか、私にもできることはないのかな)
北上「あ…そうだ、もしかしたらこの辺りって…」
摩耶「あん?」
北上「…その、もう少し進んだら漁港があって…そこに…なんて言うんだっけ、艦娘の武器が…」
摩耶「艤装か?なんでそんなこと知ってる」
北上「そこで、逃げようとして見つかっちゃったから」
摩耶「……艤装で海を渡る…か…陸地がこうじゃな、そりゃあ面白えかもな…よし、行くぞ」
北上「え、ほんとに?」
摩耶「陸地が深海棲艦だらけなんだし、しゃーねーだろ」
摩耶「…で、来てみたらコレ、か…」
北上「…ダメなの?」
摩耶「全部錆び付いてるだろ…錆びた機械なんて動かないって、わからないか?それに燃料も弾も…風化しててダメだな」
北上「…そっかぁ…」
摩耶「……ま、お前にしちゃよく考えたよ、うん…上出来だ、他にも役立ちそうなこと思いついたら教えてくれ」
北上「わかった…」
摩耶(…錆びてるし、燃料も切れてる、コレじゃ動かせないし、武器にするにも弾薬…ダメだな、全部ダメだ)
北上(うーん…そうだ、もしかしたら)
辺りを見回す
何か確信があるわけじゃ無いけど…
摩耶「何探してるんだよ」
北上「ここ漁港でしょ?詳しく無いけど、船直す道具くらいあると思うんだ」
摩耶「それで船を治すのか?」
北上「艤装って船と同じように直せるんじゃ無いの?」
摩耶「……マジか、ああ、マジなのかこいつ…」
摩耶(…まあ、だが…少し腰を落ち着けるのも、悪く無え)
摩耶「工具箱くらいはあるだろ、探そうぜ」
北上「うん」
北上「あった!」
摩耶「意外と簡単に見つかったな、とりあえず辺りに敵はいないし、少しいじってみるか?」
北上「え、私がやるの?」
摩耶「…あん?」
北上「摩耶さん、軍人さんなら直せるんじゃ…?」
摩耶「……っははは!…はぁ…こいつに一ミリでも期待したアタシがバカだった…」
北上「な、直せないの…?」
摩耶「むしろお前、機械いじりの経験は」
北上「無いけど…」
摩耶「……なあ、一回分解して、掃除して組み直してみろ」
北上「えぇ…!?」
摩耶「良いからやれ、お前は絶対できるから」
北上(か、片手無いのに…)
北上「…えっと…これ分解するんだよね?」
摩耶「ああ、錆び付いたりしてるけど、大きい傷はない、最悪中のパーツ生きてるやつかき集めれば…」
北上「う、うん…」
ゆっくりと分解作業を始める
摩耶「そうだ、その調子だ…時間はある、ゆっくりやれ」
北上(いつ敵が来るかわからないのに…)
外版を外し、中の構造を少しずつ分解し…
北上(うう…よくわかんないけど…)
どんどんどんどん分解して…
北上(でも、ちょっとだけ楽しい…かも…?)
いつの間にか、分解し終えて、錆を落としたり、固まった油を落として…
摩耶「ほら、これ塗れ、潤滑油だとよ」
北上「うん…」
摩耶「どうだ?組み直せるか?」
北上「大丈夫…覚えてるから…」
摩耶(……やっぱ…こいつ、向いてるな…)
北上(ええと、次はこうして…)
摩耶「おい?」
北上「何?」
摩耶「…もう組み上げたのか?」
北上「うん…ほら」
完成した艤装を渡す
摩耶「…動く、だが…いや、他のパーツも修理できるか?」
北上「多分…」
摩耶「時間はかけて良い、頼む」
その後、私はクッキーブロックをたまに齧りながら、黙々と作業を進めた
北上(…あそこにひっくり返ってるボート、穴空いてる…)
時々、気が逸れたり…
北上「あ、これ…」
何かを探してみたり…
完全に作業が終わったのは…2日後のお昼過ぎだった
北上「できた!」
摩耶「…ほんとに1セット完成させやがった…新品ほどじゃねえが、キレイで…あん?…なんで重いんだこれ」
北上「え?」
摩耶「……そうか、生体ユニットのサポートが効かなくなってるのか…チッ…」
北上「あ、それと、これ…」
摩耶「……艦載機!?お前、これまで直してたのか…!動くのか…!?」
北上「わかんない…」
摩耶「…これが動かせるなら、簡単に離脱でき…っ?」
北上「今の、銃声…?かなり近いよ!」
摩耶「まだ生きてる奴が居たのか…だが…」
北上「…摩耶さん、行こう」
摩耶(……仕方ねえ、アタシの役目を捨てるわけには…いかねえからな)
摩耶「わかった」
北上「はやく!」
摩耶(弾も何もないコイツじゃ、見た目の脅しにしかならねえし、置いてくか)
摩耶「この辺りか?」
北上「銃声、止んじゃったけど…生きてるかな」
摩耶「わからん」
摩耶(…だが、確かにこっちから……っ!)
北上「うわっ!?」
首根っこを掴まれ、引っ張られ、投げ飛ばされる
ゴロゴロと地面を転がり、顔を上げる頃には、金属がぶつかり合う音が響いていた
北上「っ…う…?」
摩耶「顔上げんな!!…見るんじゃねぇ!」
…もう遅かった
人の姿をしていながら、生気のない顔
虚ながらに殺意を主張する視線
摩耶「クソッ!…クソォッ!!」
多摩「……」
北上「…何、人…?」
…生気の無い人が手に持っている銃は…摩耶さん持って来たのと同じ…
北上(…あの人は、何?人じゃないの…?)
摩耶「考えるな!罠だ!時間を稼ぐ、さっさと逃げろ!!」
北上「えっ」
摩耶「お前が居たら戦うことも…うぐっ!?」
摩耶さんが蹴り飛ばされ、そして体勢が崩れたところを撃たれる
摩耶(クソがクソがクソが!!なんでこんなに戦えるんだよ!…無理だ、どうすればいい!)
北上(…そうだ、アレなら…!)
摩耶「ああ…!クソッ…頭が痛くなって来やがった…!」
顔面から垂れる血を拭った、が、その隙に蹴りを受ける
多摩「……」
摩耶(張り付かれたら隙がねえ、吹っ飛ばされたら即座に追撃、チクショウ…!知ってるせいで、戦えてるが…)
摩耶「…っ…!」
摩耶(引き金が、引けねぇ…躊躇うな…ただでさえ隙なんかないんだ、躊躇ってたら…)
多摩「!」
摩耶「っ!銃が!」
蹴り飛ばされた銃を視線でつい追ったしまった
その瞬間腹部への蹴り、動きが止まった瞬間、銃が…向けられて
ズドン
摩耶「っ……」
摩耶「……っ…?」
つい閉じてしまった目を、ゆっくり開く
摩耶「…な、なんだ…どこに…っ!?」
脇腹が抉れた状態で多摩さんが転がって…?
北上「ぁ…当たっ…た…?」
摩耶「…北上…!?…それ…!」
艤装…主砲を撃った?
なんで…弾も何も残ってないスクラップだったハズ…
北上「た、弾も一回分解して…使えそうなやつ詰めてみた…!」
摩耶「…先に言え!それよこせ!」
北上からぶんどるように主砲を奪い取り、動けなくなった多摩さんに近づく
摩耶(…1発でこの傷…馬鹿みたいに火薬詰めたのか?…明らかに威力が上がってる)
多摩「……」
目が合う
摩耶「…っ……見ないで、くれよ…」
多摩「……」
摩耶「なんでバケモノの姿じゃねえんだよ…なんで、そんなちゃんとしたカッコで…アタシの前に出てくるんだよ…!」
多摩「……」
…どうすれば、よかったんだろうか
真っ黒に淀んだ目は、アタシの間違いを写してるみたいで
多摩「……」
暗く淀んだ目の中に、一瞬青い炎が見えた気がした
摩耶「っ…!?」
一歩飛び退き、武器を撃つ
摩耶(っ…反動が…!いや、それより…!)
多摩「……」
効いてない
傷が再生して、青いオーラが全身を包んで…
摩耶「そんなの、無えよ…多摩さん」
多摩「……」
…“やれ”って事なんだろう
運命が“やれ”って言ってるんだろう
そうだ、やらなきゃならない
銃声に誘き出されたアタシらを狩る、この獣から…妹分を守らなきゃならない
摩耶「…クソが…アタシは…」
反動を受けたせいかバカみたいに重く感じる艤装を、向け直す
摩耶「……アタシは!…アンタを、殺す」