食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
北上「……あった」
川だ
黒く濁ってるけど、もともとは澄んでいたんだろうな
北上(水は…今は使えない…でも…いや、やれるかな)
片手でなんとか服を脱ぎ、泥水を含ませる
北上「…えっと…どうしたっけ……うう…あ、そうだ」
北上「…ごめんなさい、これ、借りるね」
水を濾過するために服を脱いだけど、そもそも車のトランクにはキャンプ道具らしい水や装備があった
ので、服を脱いだのは全くの無駄になってしまった
北上(…ええと、そう、この辺りに多分…あ、あった)
竹のようになっている茎の先端を手折る
柔らかい部分だけを集めて、一つかじる
北上「…ぷぇっ…しぶい……ええと、あとは…根っこ?」
土を掘り、根を引きちぎって取る
それから、周りにある山菜を…
北上「こっちはアザミかな?…あとは…ええと、わかんないな…ヨモギ?…あ、ダメ、毒かもしれないからこれだけにしておこう…」
片手いっぱいに山菜を取り、車の近くに戻る
大きい石をさっきの泥水を含んだ服で磨き、最後に綺麗な水を流して、そこに山菜を乗せる
拳ほどの石を拾い、山菜に振り下ろす
ゴスッ…ゴスッ…ガッ…
繊維がほつれてきたら、それをすりつぶして…
北上「これをお水に入れて、煮込めば…」
摩耶さんのポケットからライターを取り出し、枯れ木に火をつける
そしてトランクにあったペットボトルの水にすりつぶした山菜を入れて、焼き石の上に置く
北上「…もう、日が暮れちゃったな…」
爆撃も止んで、追いかけてくる敵もいない
しっかりと今のうちに体を休めないと…
摩耶「…ん……ぅ…」
北上「摩耶さん、これ飲んで」
摩耶「…なんだこれ…」
北上「いいから」
摩耶さんが山菜を煮詰めた汁を飲む
摩耶「ゴホッゴホッ!なんだ、これ…クソマズイ…!」
北上「火傷に効くはずだから、我慢してね…」
摩耶「あぁ…?クソ……口ん中が…」
北上「それと、これも食べて」
摩耶「……なんだこれ」
北上「片手だからさ、あんまり取れなかったけど…ほら、ミミズ」
摩耶「ミミッ…?!…いや、え…なんの罰ゲームだ…しかもバカでかいし…」
北上「他に食べられるものないんだよ…ほら、食べて…?」
摩耶「いや、いい…」
北上「確かに美味しくはないと思うけど、栄養取らないと…」
摩耶(…マジか、こいつマジで善意なのか)
北上「…ほら、私も食べるから…」
ちなみに、ミミズは焼いても臭い…
特に泥臭さはどうしても消せない…
だからほんとは山菜とかをメインにしたかったけど、とてもそんな余裕はなくて、ライターで炙るしかできなかった…
摩耶(うわぁ…ほんとに食ってるよこいつ…)
北上「…ん…んむ……うん…美味しくないけど…食べなきゃだから」
摩耶「……チッ…貸せ!」
摩耶さんが焼きミミズに齧り付く
摩耶(食わなきゃ死ぬ食わなきゃ死ぬ食わなきゃ死ぬ!……ゔっ…脳が拒否してやがる…いや、だが…)
なんとか、えずきながら、なんとか一口呑み込んでくれた
摩耶「…クソ…2度と食いたくねえ…ってか、後ろの2人は…」
山城「……」
桐島「……」
摩耶「顔死んでるぞ」
北上「ミミズ食べなきゃいけなかったのがショックみたい…」
摩耶(もう食わされたんだな…)
摩耶「…くそ、全身痛えな…」
北上「もう少し休もう?攻撃も止んだし、一回落ち着いて…」
摩耶「……攻撃が止んだ?…なんでだ」
北上「え、いや…見失ったからじゃない?」
摩耶「んな訳あるか?ここまで一本道だぞ…!…何が起きてる?何か別の目標でもあるのか?いや…とにかく急いで逃げるしか…」
山城「だ、大丈夫なの?」
霧島「私達…まだ体が動きません…」
摩耶「…確かに、この状態じゃ…運転なんてとても…」
北上(やっぱり、摩耶さんもだいぶん追い詰められて…)
北上「っ!」
今、影が…
目の前を通り過ぎた?上に…
北上「うわっ!?」
摩耶「北上!」
何かがぶつかって、道路から吹き飛ばされる
北上「っ…う…」
時間がかかったものの、ゆっくりと立ち上がる
北上「…っ」
摩耶「オイ!北上!どうした!?」
北上「……」
山城「返事がないわよ…」
霧島「やられたんじゃ…?」
摩耶「ふざけんな!オイ!北上!」
北上「…っ……っ!…摩耶さん!」
摩耶「北上!どうした!」
北上「…ゴメン、私、一緒に行けないよ」
摩耶「お前、何言ってんだ!」
北上「……ゴメン、動けるようになったら、逃げて、私のことは、探さないで」
北上(…できるだけ、時間を稼ぐから)
車と真逆の方へと進む
遅い、だけど、確実に
北上(…これは、そう言う事なんだよね?…私は、これで良いんだよね?)
後方から、枯れ枝が踏みおられる音が響く
ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる
北上「…っ…ふ…は…!」
義足を地面に垂直に突き立てるように体重移動する事で、少しだけ走ってるみたいに動ける
けど、バランスが取りづらくて…
北上「わぶっ!?…ったた…」
転げながら、なんとか、なんとか逃げ続ける
どのくらい移動したのかわからないけど…もう、叫んでる摩耶さんの声も聞こえなかったし、十分だと思う
だから、ようやく振り返れた
北上「……頑張って逃げたよ、でも鬼ごっこはもうおしまい、だってもう子供じゃないからね」
…なんでこんな事になったんだろう
北上「いつからそんな感じなの?…あの時?私が、ダメだったから?…いや、そんな訳ないよね、そんな事思いもしないよね…?
…なんて、私の理想だけど」
大井「……」
北上「…覚えてるよ、確かに覚えてる…ちょっと色が変わったくらいであの時と変わらない…あの時に、ほんとに死んじゃってたんだ」
俯いて、目を閉じる
北上「ごめんなさい、ごめんね…でもさ、私はまだ生きてるから…だから、ごめん…」
目を開いて、溢れ出た涙を右手で
北上「…謝ってたらキリ無いよね…私……私、まだ生きたいよ、お姉ちゃん」
大井「……」
足元の棒切れをよろよろと拾い、向ける
北上(なんでだろ…死ぬってわかってるのに…不思議と怖く無い)
北上「…ふー……生きて…美味しいものたっくさん食べるって…決めたから…!」
暁「そう…わかった、今の報告で全部隊作戦完了よ、
川内「“炙り出し”は成功、か…作戦の第一段階としては上々じゃない?」
大淀「そうですね、しかし、まさかこうまで上手くやるとは」
暁「ここまではみんなの力、私が忙しいのは今からよ、それぞれの報告を聞く限り…指揮系統は統一されてるの」
川内「指揮系統?深海棲艦に?」
暁「そう、決められた戦術を守ってるのよ、戦艦を通路の真ん中に配置して囮にして、周囲から包囲殲滅…よく被害が出なかったわ」
川内「そんなことできるの?」
明石「深海棲艦は簡単な命令なら記憶できるようですから」
暁「しかも、無闇に領土を広げるでもなく、どうやら拠点とできる場所を確保したらそのあとはテリトリーを広げる動きを見せなかったらしいわ」
大淀「……そもそもその拠点がオトリ?」
暁「だと思う、だから先に潰したの…予想通り戦力もそこまで大きくなかった」
川内「じゃあ、本命は?」
暁「これをみて」
大淀「…やはりここですか」
川内「なにこれ、爆撃の跡…?」
暁「…海沿いの街一つが占拠されてるし、実際原種やレ級の交戦報告も上がってる、あまり時間の経ってない状況でこれ
通信設備も壊されて、陸上なのに携帯も使えず、取り残された人も多いって話だった…そこにこの爆撃、まだこの周辺に敵の本隊がいる」
大淀「その様ですね」
川内「じゃあ真っ先にそこを叩くべきなんじゃ…」
暁「囮の基地を叩かないと、本隊に集中した際に突如湧いて出てきた深海棲艦に対応できない…
…それに敵は敢えて他所で深海棲艦を暴れさせる事で、戦力の分散を狙ってる、敵の作戦を先に潰したの」
川内「…じゃあ」
暁「川内さんに残って貰ったのは、少数で現地に向かって欲しいから」
川内「……いいよ、ちゃんと生きて帰れる作戦にしてね」
暁「これ、衛星通信のできる携帯、これならちゃんと連絡が取れるでしょう?
かけるのはそっちからだけよ」
川内「わかった」
夕張「それと、武器も完成してる」
川内「武器?」
夕張「神通ちゃんと来て」
川内「へえ」
一本の短刀を持ち上げる
…身体の細胞が震える様に反応する感覚
川内「生体ユニット対応か」
夕張「そう」
神通(私の刀、前より長くなっている様な…)
川内「神通が刀伸びてないかって」
明石「そう!刃渡は130センチ
夕張「はいはい、ゴメンゴメン、ちょっと長いけど大丈夫?」
神通「……」
神通(コクリ)
夕張「要求通り、鞘も仕込みはバッチリ、研ぎも完璧なつもりだけど」
神通が爪の先端を刀で斬る
神通(…上等です)
川内「最高だって、いいね、佐世保が毎回こんなにいい武器持ってきてたら…どうりで演習苦労する訳だ」
夕張「ま、とりあえず、残りの武器はこっちで調整するから…とりあえず、暁ちゃんの指示通り、2人の仕事は偵察、可能なら救助」
川内「……わかってるよ」
小刀を全て鞘に納め、体の至る所に仕込む
夕張「武器は使い捨ててもいいわ、特に川内の小刀は予備を用意しておくから」
川内「ありがと、そうはならない様に善処するけど」
神通(これほど上等な武器があれば、殲滅も可能だと思いますが)
川内「まあね」
明石「…余計な事考えてません?」
川内「ま、多少はね…でも、仕事は仕事、自分たちの役目を果たす為以上はしないって」
神通「……」
川内「それじゃあ、行くよ」