食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
海月姫「……大湊で待つ、か……なんとも…ウザッタイ…!」
レ級「キシシッ…ドウシタ?丁寧ナ仮面ガ剥ガレ落チタカ?」
海月姫「黙レ!…ハァ…ふぅ……こんなのもうごめんだ、そうだ、戦争を望んだのは向こうだ、支配を望んだのは私だ、ぐちゃぐちゃにして殺し尽くしてやる」
レ級「数デ押シテ勝テル相手デハ無イゾ?アノ忍者、強カッタナァ!」
海月姫「……艦娘全てが上等なわけじゃ無い…足手纏いはたくさんいる、策は有る…!
それに、そうだ、次はもっとうまい手法がある」
レ級(アア、所詮ハソウダ、私達ハ化ケ物デ、クダラナイ考エノママ、チカラヲ振ルウ事シカ頭ニ無イ
建テ直ストカ、ヤリ直シナンテモノハ、毒デシカナイ…上手クイカナイ我々ニトッテハ)
レ級「殺シ尽クスシカ、道ハ無イ、ドチラカガ滅ブマデノ戦争ダ!」
摩耶「お前はなぁ!なんで勝手なことばっかすんだよ!昔っから!!」
北上「いだいいだぃっ!やめてよ!」
北上の両こめかみに拳を押し付け、ぐりぐりと頭を押しつぶす
摩耶「生きてたから良かったけどな、死ぬとこだったんだぞ!?」
北上「でも!みんな死ぬよりいいじゃん!」
摩耶「っ…だとしても、お前が揺動に出る必要は……いや…」
実際、あれ以上の選択肢は存在しなかった
わかってる、わかってはいるんだ
ただ、自分よりずっと弱い筈の…自分よりずっと不安で押しつぶされそうになっている筈の北上に守られたことが許せない
そして、自分の命を軽く見ている事に、自分に意味を見出せていない事に、苛立ちが隠せない
山城「…良く、無事だったわね」
霧島「2回も命を助けられるなんて」
北上「摩耶さんもこうやって素直に心配するなりしてくれれば良いのに」
摩耶「お前なぁ…!……いや…」
…わかってる
今の自分がどれだけみっともないのかを
摩耶(自分が生きることが目的で意味だったアタシと、どうしてコイツはこんなに違うんだ?
アタシじゃなくて北上なら…何かが違ったのか?)
摩耶「…助けてくれた事には礼を言う、ありがとう、だけどな、お前の命は一つだけなんだ、アタシらはお前を失いたくないんだ、わかるか?」
北上「わかんない」
…思わず言葉を失った
摩耶「なんでだよ」
北上「だって、正直足手纏いでしょ?…居たところで、囮にしかなれないよ」
山城「そんな事…」
摩耶「北上、なんでお前はアタシ達を守った?」
北上「……」
摩耶「お前を助けたからか?ならアタシはお前に助けられた、おあいこだ」
北上「違う」
摩耶「なら、最初に会った時に面倒を見てやったからか?それなら動けないアタシらを看病しただろ」
北上「それでもない…」
摩耶「じゃあ、なんだ?」
北上「……みんな、同じ目で見てくれた」
摩耶「同じ目?」
北上「私が目を覚ましてから、いろんな目を見てきたよ
でも、みんなと暁は、同じ目で見てくれた…最初こそ、憐れむような目だったけど、段々と変わって…他の人を見る時と同じ目になった…だから、私は…」
摩耶「それはな、お互いを認め合える仲間になったって事だ」
北上「仲間?」
摩耶「信頼できる存在のことだ、そいつが例え片手片足、ついでに目ん玉も無かろうが、仲間で有る事に変わりはないだろ」
北上「…そうなのかな」
摩耶「それだけ大事なやつを失いたくないって気持ちくらい、理解できるだろ」
北上「……うん」
摩耶(…アタシが言えた口じゃねぇのは…どうしようもねえか)
霧島「他のチームとは合流できませんでした」
大淀「そこは問題ありません、不可能だとは思っていました」
山城「……私達はどうすれば?」
大淀「艤装を合わせておいてください、戦闘の準備をした後戻ってきたら待機命令を出します」
山城「了解しました」
大淀「それから」
摩耶「その前に、ブタ箱に戻ってもいいか?」
大淀「北上さんのお世話係をお願いします」
摩耶「ふざけんな」
大淀「表立って動ける戦力は全て基地防衛、哨戒、出動準備に割り振っています、北上さんに会わせる事がプラスな方向に働くとは思えませんので」
摩耶「……」
大淀「お願いしますね」
天龍「ようやく着きやがった…クソ、修復材のおかげで傷はねえがクタクタだ…
しかし、あの暁とか言うガキいきなり敵基地襲撃させるとかイカれてんのか?」
那珂「まあまあ、上手くいってるんだしいーじゃん
敵の配置パターンの共有も早いし、
青葉「そうなんですか?」
那珂「うん、私達みたいな暗殺家業をしてた側からするとバックアップってすごく重要でね
勘違いされやすいけど、単独でスパッ!で、サッと帰る!なんて本当にごく稀、普段は綿密に計算して動く訳、それでもイレギュラーは起きるし、自分の状況を正確に把握するのも難しい
だから、複数人で動いた方がお互いのカバーもしやすいし
暁ちゃんはすごいと思うよ?」
天龍「…そこまでなのか?」
那珂「素人の考えた作戦がたまたまハマる事はあっても、それは運、
これはものすごく難しい力なんだよ、特に天龍ちゃんにはできないタイプだね!」
天龍「…一言余計だろ」
青葉「ところで…大丈夫なんですか?身体とか…」
那珂「…まあ、生体ユニットは使ってないから体は平気…それよりも…」
那珂さんが艤装を眺める
那珂「思ったより、かな…悔しいけど、これじゃあ意地以上の意味はない
北上さんはこれで戦果を出してたって言うけど、激しい戦闘中にブレの補正も無ければ体重移動の補助もなく良くやるよね、使いこなすにはどれだけかかるのかなぁ」
青葉「無茶をせず、本来の装備に戻した方が…」
那珂「…ダメだよ、これは譲れない、意地でしかないとしても、意地がないと戦えないんだよ」
青葉「…どうしてですか?」
那珂「今を乗り切るだけなら、なんとかなると思う
でも、明日は?その次は?どれだけ先まで戦えば、私は…私のために生きていいの?」
青葉(…そっか、ここで戦い続ける事は…)
夢を捨てて、自分の理由を殺して戦う事になる
ついこの間までの、アテのない旅とは違う
今は“公権力”の下で振るわれる“暴力”になってしまった
青葉(…逃げ出しても、誰も何も言わないのに
でも、これ以上失いたくないから、誰もここから離れられない)
…眼に見えない、それどころか存在すらしない鎖に縛られてる
だから、誰もこの人を救えない
青葉(…何を言っても、私じゃダメだ…何も、言えない…)
那珂「じゃあ、調整してくるね」
青葉「あ……どうしよう…」
天龍「オイ」
青葉「…なんですか」
天龍「お前に客だ」
天龍さんに言われた方向を見る
青葉「っ………え…?うそ…どうして…?」
…言葉を失ってしまった
絞り出した声も、かすかに音になるかどうかだっただろう
青葉「…荒潮、ちゃん…?」
一瞬誰だかわからなかった
あんなに綺麗だった髪の毛がところどころ抜け落ちて、残ってる髪の毛もボサボサ
目も落ち窪んで、頬もやせこけて…
年端も行かない少女がまるで、浮浪者のように…
荒潮「……」
青葉「ど、どうしたの!?なんでそんな…」
荒潮「…ごめんなさい」
青葉「え…?」
荒潮「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
青葉「あ、荒潮ちゃん!落ち着いて!?」
とは言っても、落ち着く様子はなくて
縋り付いて泣いて、謝り続けて…
青葉「ど、どうしよう…」
天龍「どうしようったって、コイツ、正気じゃ…」
霞「あー…こんなとこに居たのね」
荒潮「ぁ…ご、ごめんなさい…勝手に出歩いて…」
霞「遠くに行かないならいいけど、人に迷惑かけちゃダメよ、ほら、薬飲んで、これお水」
荒潮「……」
荒潮ちゃんが口を手で塞いで首を振る
霞「もう、大人しく飲みなさいったら…!」
青葉「…あの…?」
霞「あー、悪いわね、薬を飲ませないとなのよ」
青葉「薬…」
霞「心を壊しちゃったのよ」
青葉(……なんで…?荒潮ちゃんはお姉さん達と、幸せになる為に…何があったの…?)
青葉「……」
荒潮ちゃんの前に片膝をつき、目線の高さを合わせる
荒潮「……ぅ…」
青葉「荒潮ちゃん、久しぶり」
…私は、この子に何があったのか知らない
だから、私にできる事は…
青葉「私のこと、覚えてる?」
前と変わらず接すること
荒潮「ぁ…」
青葉「一緒に写真撮ったりしたの、忘れちゃった?」
荒潮ちゃんが小さく首を振る
青葉「良かった…ご飯は、食べた?」
荒潮「……」
青葉「…そっか、イヤじゃなければ…一緒に食べてくれる?」
荒潮「…うん」
食事をして、薬も飲んで荒潮ちゃんが眠った後聞いたのは、残酷すぎる話だった
会いに行ったお姉さん達はみんな亡くなってて、そのうえその末路を自身も味わった
犯罪の片棒を担いだ結果、待っていたのは地獄…
霞「亡くなったお姉さんのことを意識する度に苦しんでるわ」
青葉「……」
天龍「…青葉?」
青葉「私、わからなくて」
天龍「何がだ」
青葉「…幸せになろうとすることって、間違ってるんですか」
天龍「やり方の問題だろ、お前にクスリ運ばせてたんだろ?」
青葉「悪い事をしたら、幸せになれないと思いますか」
天龍「…報いは受ける」
青葉「……」
天龍「どこに行く気だ?」
青葉「朝霜ちゃんのところに行ってきます」
青葉(“報いは受ける”?…だったら……だったら私は、なんでまだ報いを受けてないんだろう
それは、私が大人だから、自分に降りかかる火の粉を払えて、狡賢く生きる知恵を持ってるから
小さな子には、まだ出来ないことが出来てしまうから)
…私は、どうしても人殺しだ
どう足掻いても、なんで言い訳しても、“悪い事”をしている
私はまだ、その報いを受けてない
青葉「……朝霜ちゃん」
朝霜「青葉サン!なンかあったか?」
青葉「ううん、何も、ただ様子を見に」
青葉(朝霜ちゃんも、荒潮ちゃんも、生きたくて、幸せになりたくて…手を汚して生きてきた
その先にあるのが、辛くて苦しい、不幸な未来なんて…)
朝霜「…?」
青葉「朝霜ちゃん、ここでの騒ぎが落ち着いたらどうしたい?」
朝霜「どうしたい、か…?」
青葉「…私は、少し落ち着いたら、ここから出ようと思ってる…朝霜ちゃんと、もう1人、少し、疲れちゃった子が居てね、その子と3人で、どこかに行きたい」
朝霜「…どこかって?」
青葉「安全なところ、戦わなくて良くて、ちゃんと仕事のできるところに」
朝霜「…いいのか?あたいは…」
青葉「もちろん、でも、朝霜ちゃんも学校に行って、自分の人生を頑張ってね?」
朝霜「……わかった、ついてくよ!」
青葉「ありがとう」
暁「引き取る…ね」
青葉「はい、途中で見捨てるような真似はしません」
大淀「いいんじゃないでしょうか」
暁「それはそうだけど…」
青葉「…大丈夫です、もう少しここに残って戦いますから」
暁「え?」
青葉「私は自分の役目を果たさないといけませんから」
大淀「…青葉さん…?」
青葉(私の償いの為に)