食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
青葉「…あの、どこに?」
大淀「工廠です」
大淀さんに連れられ、ゆっくりと歩く
青葉「……」
大淀「…青葉さん、私はあなたに謝らなければならない事があります」
青葉「なんですか、急に…」
大淀「大井さんがあんなことになったのは私のせいなんです」
青葉「…どう言う意味ですか」
大淀「私が、大井さんを攫い、深海棲艦に引き渡した…その結果があの惨事です」
青葉「……最初から、最後まで…全て話してください」
大淀(…激情に身を任せて殴りかかってくれれば、私も楽なのに)
大淀「…まあ、所詮は、馬鹿な私が勝手に暴走しただけの話です」
青葉「その原因を聞いてるんです」
大淀「……大井さんは、元々死んでいたんです、完全に死んでいたのを生体ユニットで無理矢理蘇生していた
彼女の体は全て生体ユニットで…それは限りなく深海棲艦に近いものだった」
青葉「そんな事が…あり得るんですか?」
大淀「事実、起こってしまったので、私は、大井さんをどうにして普通の人間にしようと思いました
北上さんの為に、私は…身勝手にも自分の罪滅ぼしに大井さんを利用することを決めました
…大井さんを、人間に戻す為に、縋った先が…」
青葉「…敵だった、と」
大淀「わかっていて縋ったわけではありませんでした、ですが…あまりにも愚かでした」
青葉「……そうですか」
…ため息も出ないな
青葉(…この人が言ってた通り、私とこの人はよく似てるんだと思う、ひたすらに、罰を求めてる
罰を受ければ、きっと、何か変わってくれると信じてる…そんなわけがないとわかっていても)
青葉「私達、似たもの同士ですね」
大淀「……ええ…良く似てるのでしょうね」
大淀(…理解者だからこそ、責め立てる言葉を発さない)
青葉(許せない気持ちがないわけがない、だけど、それでも、大淀さんのやろうとしたことは、理解できる
それに理由はどうあれ、大井さんを助けようとしたのだから、責め立てても仕方ない)
青葉「つらいですね」
大淀「……着きましたよ」
大淀さんが工廠の中に私を押し込む
北上「ああ、ちょっと手伝ってくれる?整備」
青葉「……?…わ、私に言ってるんですか…?」
明石「そこに工具あるから!早く座って!」
青葉「…あの、やった事がなくて…」
北上「教えながらやるから、とりあえずそこ、座って、大淀も」
大淀「えっ」
北上「どうせ暇でしょ?」
北上「これ、中身は結構簡単だからさ、まず外板を外す為に…」
説明しながら片手で器用に艤装が解体されていく
青葉「あ、あの、左手は…?」
北上「動きはするよ」
左手の義手が閉じて開いてを繰り返す
北上「…なんか慣れないんだよ、まだ、片手の方が早い」
青葉(ま、まあ…私たちが一つずつやってる間に、3つ同時進行してるし…)
大淀「やりましょうか」
北上「って言うか」
北上さんの声が抑揚のない冷たい声になる
北上「無駄口叩く前にさっさと手、動かしてよ」
青葉「は、はい!」
大淀(…初めてこんな対応されましたね…嫌われてた時でももう少し感情的だったのに)
明石(提督に納期の話された時みたいに心臓がキュッとなるからやめて…)
明石「あ、そ、そうだ、北上さん、そのー…」
北上「って言うかさ、明石さん遅くない?」
明石「えっ」
北上「あたしより遅いってどうなってんの」
明石(いやいやいや…片手で私より速い方が意味わからないんですけど…?)
明石「……えっと…汎用艤装は、あんまり触らなかったからかなぁ…と…」
北上「……ふーん」
明石(な、なんか胃がキリキリしてきた…)
青葉「き、北上さん、ここはどうすれば…?」
北上「ん…ああ、配線かわしながら中のネジ抜いて、そしたら外せるから掃除」
青葉「は、はい!」
大淀(北上さんらしくないですね…)
北上「……」
北上(…どうしよう、なんかちゃんと会話できない…
……ああ、これなら1人でやれば良かった…うーん…なんか…)
暁「お邪魔するわよ」
大淀「暁ちゃん?」
暁「ちょっと用事がね…あ、いたいた、北上さん?」
北上「……」
声をかけられた北上さんがフイッと顔を背ける
青葉(えぇ…?)
暁「…ああ、記憶戻ったばっかりだから混乱してるの?」
北上「…そんな事ない」
暁「それじゃあ、また人見知り?」
大淀「人見知り?」
暁「北上さん、昔極度の人見知りだったから、親しくない人の前だとこんな風に攻撃的になるのよ」
北上「…チッ」
暁「ほら、こんな感じに」
大淀(意外…)
暁「昔はどうしたかしら…ねえ?」
北上「……」
暁さんが無視を決め込む北上さんを横目に携帯を操作する
青葉(ふ、雰囲気が凍りついて…)
明石(逃げたい…)
暁「そろそろお昼だけど、どう?」
北上「時間無い、いつ攻めてくるかわかんないのわかってる?」
暁「だからこそ、食べられるうちに食べておかないと」
北上「うるさい」
暁「これ以上口答えすると無理やり連れて行くわよ」
北上「できないでしょ」
暁「…じゃあ本当に実力行使に出るから、お願い」
青葉(あ、あれ、誰か入って…)
摩耶「おう、行くか、メシ」
北上「げ…!?」
暁「よろしく」
北上さんが首根っこを掴まれ、引っ張られる
北上「は、離して!ちょっ!やめてよ!?」
暁「みんなも、一回休憩したら?」
明石「えぇ…と…」
大淀「じゃあ、お言葉に甘えて」
青葉「えっ」
大淀「…暁ちゃんは今見た通り、北上さんより立場が強いですから、従った方がいいですよ」
暁「そうそう、とりあえず何か口に入れましょ?スーパーで色々買ってきてくれたから」
北上「……あのさ、のんびりしてる時間無いんだけど…?」
摩耶「つっても、準備はあらかた進んでんだ、戦闘は民間人の避難が終わらなきゃ難しいだろうし、後は野となれ山となれだろ」
北上「…変わんないね、そう言うノーテンキなとこ嫌い」
摩耶「そうか、せっかく色々買ってきたんだ、さっさと食え」
北上「……」
青葉「あ、あの…向こうの空気感が…その…」
大淀「……終わってますね、険悪すぎます」
暁「そりゃあ、全部の記憶が戻ってきたばっかりなんでしょ?…嫌な記憶もたくさん思い出してる
今、北上さんにはケアが必要なはず、ホントは暴れ出してもおかしく無いと思うし」
大淀「…」
暁「でも、何よりも先に大淀さんに、青葉さんに、許すって伝えたのは…きっと変えたりしない
何よりも大事で、伝えたかったんだと思う」
大淀「でも…」
暁「混濁した記憶の中でも、ちゃんと選んでるはずよ、ただ情緒が安定してないだけ
当然でしょ?だって北上さんにとっては、13歳になるまでの記憶がなくて、そこから今までの記憶がほとんど欠けてたのよ?
成熟した心になるなんて、絶対無理、もう少し時間をあげて」
大淀「時間ですか」
暁「…北上さんは、私達の中では年長者だったから、その立場を押し付けられていたけど…
北上さんだって、子供なのよ、誰も導いてくれなかった、その役目にいた人は、みんな居なくなったから」
大淀「……」
北上「……」
おにぎりを一つ掴み、フィルムを口で破る
北上(…ちぇっ)
…うまくいかない、
摩耶「貸せ、ほれ」
摩耶さんがおにぎりを取り、フィルムを剥がして差し出す」
北上「……なんでパンがないの、不親切じゃない?」
摩耶「かもな」
おにぎりを受け取り、頬張る
北上(…何味だっけ、これ……駄目だ、なんか…舌がビリビリして…)
味がしない、食感はある、だけど…
食べかけのおにぎりを口元から離し、中身を確認する
北上(……これ、なんだろ、具がない…?…いや…)
摩耶「…ツナマヨ嫌いだったか?」
北上「……そんな事ないけど」
もう一口頬張る
北上(…駄目だ、色が良くわかんないや…)
摩耶「……北上」
北上「何」
摩耶「…お前がアタシを軽蔑してるのは、わかってる、これが終わったら大人しく、消える」
北上(…なんて言ってるんだろ、ボーッとする…)
摩耶「まあ、でも、戦ってる時に死んじまうかもしれねえし…先に言っとく
…こう言うのはおかしいとは思うが、あの時、お前に負けて良かった、ありがとな」
北上「…意味わかんない」
摩耶「自分じゃ、止まる事すら考えられなかった、間違え続けてることにすら気づかなかった
…たとえ、すぐ終わるとしても、ここにこうして居られるのは、あの時止めてくれたおかげだ」
北上「あっそ」
摩耶「……」
摩耶(許してもらうつもりは無い、でも、何か、少しでも、お前の心を軽くしてやるつもりだったんだがな
…わかってはいたが、やっぱアタシじゃ無理か)
摩耶さんが暁の方を見て首を振る
暁(…まあ、難しいわよね…)
暁「……はあ」
北上(…痛い…)
義手を見る
痛い、ジンジンと痛む、義足もそう、繋がってないはずなのに、そこに無いはずの腕が、脚が
北上「……」
左眼に当てられた眼帯をなぞる
…たとえこれを外しても光が差すことは無い
左眼を失ったけど、今のところ意外と違和感は感じてない
でも、これでどうなるのかはわからない
義手も、動く、思った通りじゃ無いけど、確かに動く
手脚として動かすにはまだ時間がいるだろうけど…
北上(……痛い)
ズキズキと痺れるように痛む、ジンジンと焼ける様な感覚もする
でも、どこか冷くて、寒くて、熱くて、痛い
義足に何かが触れた感覚がした
立ち上がって飛び退こうとしたけど、身体がうまく動かなくて、床を滑る
暁「あ…ごめん」
北上「……何」
暁「痛むの?」
北上「…いや」
暁「強がらなくていいのよ」
北上「強がってない」
暁「……」
暁がじっと、あたしの目を見つめる
…思えば、一番長い付き合いだったな
隠し事なんて、当然できるわけもないんだろうな
暁「…まだ怖い?」
北上「怖い…?」
…なるほど、怖いんだ
北上「…まあ、そりゃあ…そうか」
…死がダイレクトに存在してるせいで、恐怖をすっ飛ばしてすぐ横に死が居たせいで、怖いのか怖くないのかわからなくなってたのか
機械は淡々と、理解して、処理する
でも、私は…そうはできない
北上「……暁、大湊からみんな離れた時のこと覚えてる?…それぞれの家に帰れた時のこと」
暁「え?」
北上「…私は…うん、一口に言えば、要らない子だったんだと思う、お姉ちゃんの方を求められてた、私が帰った時、みんなガッカリしてた」
暁「…どうして…?」
北上「わかんない、覚えてる限り全部そうだったから、まあ、あの日も…お姉ちゃんの方が帰ってくると思ってたらしくてさ、私は、拒絶された」
暁「だから、私たちが戻った時には…」
北上「うん、ただ、私の居場所だって思えるのが、大湊だけだったから…だから、そうだね、この感情…」
暁の助けを借りて、立ち上がる
北上「これ以上失うのが怖いのは、当然なのかもね」
暁「……あなたは、ほんとは弱い人よ、人間はみんなそう、ほんとは弱いのに、強がって、無理をする…
でも、これ以上無理しなくていいの、ここで折れたって…」
暁の言葉を手で静止する
北上「ううん、まだ…強がらせてよ」
…私の夢は、美味しいものをたくさん食べて、幸せに暮らす事だ
まだ色んなものを食べてみたい
それに、もっと…
北上「…でも、助けは借りなきゃかな…薬ってある?何か、痛み止めとか…」
暁「やっぱり痛むのね」
北上「…多少ね」
暁「そこは強がらなくていいのよ!」
北上「……いやー…」
暁「だから、ここには敵なんていないんだから、強く見せる必要ないのよ?」
北上「……」
摩耶「ま、良いじゃねえか」
摩耶さんが暁の頭に手を置く
摩耶「昔の北上みたいで、可愛げがあるってことでよ」
暁「むしろ全くないから険悪なんだけど」
北上「……はあ…」