食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

2 / 157
一食目

やあやあ…北上様だよ

元気ない挨拶でごめん、だってお腹に穴空いてるからね、許してね

さて…なんっとか、ゴムボートを陸まで運んだはいいけど…

死にかけ一つに死体が二つ

 

北上「この重体の体には…荷が重いって…」

 

死にかけを力を振り絞ってゴムボートから引っ張り出す

 

北上「…ねぇ、アンタ誰…?何やってんの、そんなとこで…」

 

答える気力もないのか、返事はない

 

北上「…死ぬ?そのまま死んでも良いよ

あとで埋めたげるからさ……よっと…」

 

別のゴムボートに手をかけて、中身を探る

 

北上「…は…ははは…!やった…コレだけでやった甲斐がある…!」

 

缶詰のトマト、料理に使うようなやつだけど、構うもんか

プルタブを引っ剥がして、一口含む

 

北上「…ゴホッ…あはっ…は…!……ん?」

 

死にかけが、こちらをじっと見てる

…その目は、よく知ってる

飢えてる目、苦しい時の目だ

 

北上「…なぁんだ……お腹、減ってたんだ」

 

トマトを少し手に取り、死にかけの口に押し付ける

 

北上「食べなよ」

 

死にかけが必死に、弱々しく唇を動かしてるのに、トマトは減らない

トマトが多いんじゃ無くて…

 

北上(食べられないほど衰弱してるんだ…)

 

手に取ったトマトを口に含む

そして細かく、細かく噛み砕いて、死にかけの頭を抱き抱え、口に流し込む

 

北上「……ふっ…飲み込んで」

 

死にかけの頭を持ち上げ、飲み込ませる

 

北上「もっかいいくよ」

 

…何度か同じことを繰り返したあと、死にかけは泥のように眠ってしまった

正直死体と見分けがつかないと言っても過言ではないが、呼吸はしているのでよしとしておく

 

北上「…さて…駆逐達呼ぶ前に…アンタらもどうにかしないとね」

 

流石に死体を見せるわけにはいかない

お腹が減ってる時、人は弱ってるんだ

なのに、さらにショッキングな物を見せるのは良くない

 

北上「…北上様、ふぁいっおー…イタタ…」

 

穴を掘る体力なんてないから、その辺の人気のないところに死体の乗ったゴムボートを押しやって、それで良しとしておこう

 

観測者(オブザーバー)のみんなには黙っててもらいたいところである

 

北上「…して、コレからどうするかな…曙と睦月、如月くらいは呼ぶか」

 

…ちなみになのだが、あの基地には今、あたしを含めて7人の艦娘が生き残っている

元はもっといたけど、嫌気がさして出て行ったり、捕まえられたり、深海棲艦に腹立てて特攻した奴もいたなぁ…

 

閑話休題(それはさておき)

 

こんな凄惨な姿の北上様を見せるとなると、相当のストレスをかける

だから、呼ぶ相手は選ばなきゃならない

…と言うことで、ここで基地のメンバーを紹介しとこう

 

まずはあたし、そんで駆逐6、はい終わり…嘘

強がりの暁に、ちょっと不安定な曙、割と病んでる睦月と介護の如月、あとは日中はずっと寝てる早霜と、我慢しいの霞

 

みんなが満足に食べられないから、霞や早霜は極力食べようとしない

それをわかってるから、みんなも食べ物を前にしても気まずい雰囲気になる

 

北上「…でも、今日は違う」

 

深海棲艦は奴等の食料と一緒に、人間の食べ物も載せていた

これで今日はみんな、ご飯を食べられるんだ

 

頑張って、基地まで歩こう

みんなが待ってる…

 

 

 

 

北上「……んぁ……ふあ〜…ぁっ!?…いつつつつ…!?」

 

…ここは、私のベッド…?

観測者(オブザーバー)の諸君…どうやらあたしはテレポートを習得した…

ってそんな訳もなく…

 

北上「…や、珍しいね、早霜」

 

早霜「……」

 

…何も言わない…コレはかなり怒ってる…

そしてどうやら、全身手当てが済んでいる…

早霜がやってくれたのかな…包帯ぐるぐる巻きの腕とか、年頃の娘には厨二心をくすぐるものが…って違う違う

 

北上「あー、大丈夫だよ?ほら、怪我も思ったより浅いし、血に見えるかもだけどトマト缶を…」

 

早霜が食いちぎられた腕を掴む

 

北上「ぐっ…!………ほら…大丈夫だから」

 

早霜「…北上さん、何をしたの、まるで腕は引きちぎられたかのような歪な傷口、全身には細かな傷、火傷もあります、そしてお腹には裂傷…」

 

北上「いやー、爆弾が飛んできてさ」

 

早霜「深海棲艦とやり合いましたね」

 

北上「…まあね」

 

早霜「なんでそんなマネを」

 

北上「決まってるじゃん、みんなでお腹いっぱいご飯を食べるため」

 

早霜「……みんなに貴方は含まれない…とでも?」

 

北上「こうしてちゃんと帰ってきたじゃん」

 

早霜「自力では帰ることすらできなかった癖に…?」

 

北上「……ごめん」

 

早霜がぎゅっとあたしを抱きしめる

 

早霜「…私達をここに引き止めたのは、貴方、責任を持って」

 

北上「わかってるよ」

 

 

 

 

早霜に解放してもらったはいいけど、思ったより深手だった

深海棲艦を舐めてかかった訳じゃなくて、頭がちゃんと働かなかったからこんな結果になった…と言うことにしてほしい

 

北上「おっ」

 

曙「…出た」

 

如月「……その…」

 

食堂に入るなり冷たい視線に貫かれる

お腹の傷よりも痛い目線だ

 

北上「ごめんごめん、散歩のつもりがさ〜……あ、いやごめん、違うわ、なんで言えば良いかな〜…そう、向こうから襲ってきた!」

 

こっちから仕掛けたなんて言えば特攻と思われるだろう

そう判断したけど…コレも良くないな

 

睦月「…北上さん…」

 

北上「ごめんごめん睦月、ちゃんと生きてるよ」

 

曙「暁は、霞がついてる」

 

北上「そっか」

 

…さて、曙のいつもより2割り増しで釣り上がった目から逃げるのもそろそろやめにして、問題に取り掛かろうか

 

北上「やあ、死に損ないの」

 

如月と曙の奥の椅子に小さくなって座ってる死に損ないに声をかける

 

北上「…アンタ、名前は?」

 

阿武隈「阿武隈…長良型軽巡洋艦…阿武隈です…」

 

北上「へえ…見たとこ、チップも無いみたいだけど」

 

うなじをトントンと叩く

仮初の自由を得るにはここにチップを埋め込む必要がある

 

阿武隈「“首輪付き”じゃありません…留置所に居たんです…」

 

北上「暴れん坊だった訳だ」

 

阿武隈「深海棲艦に従順になるなんて…考えられなくて…」

 

北上「その結果があのザマ?…いや、まあいいや…曙、如月、睦月、少し出てくれる?」

 

曙「…そいつ大丈夫なの?」

 

北上「多分ね」

 

3人を見送り、奥へと阿武隈を誘う

 

北上「曙達は今はアンタのこと警戒してるけどさ、良い子達だよ」

 

阿武隈「…あの、何を」

 

北上「何をって?…ご飯を作るんだよ」

 

阿武隈「ご飯…」

 

阿武隈のお腹が鳴る

 

北上「…あんなに弱ってたのにもうそんなに元気なんて、安心だねぇ」

 

阿武隈「恥ずかしいです…」

 

食品棚から枯れ枝を取り出し、コンクリートの床の上に置く

 

阿武隈「え?」

 

北上「ライターライター…あ、コレもダメかぁ…拾い物のライターなんて長持ちしないのはわかってるけど…」

 

阿武隈「あ、あの…何を…」

 

北上「ご飯作るって言ったじゃん」

 

阿武隈「屋内で、焚き火…?」

 

北上「…あのさ、この基地、ガスも水も電気もないんだわ」

 

阿武隈「え……」

 

枯れ枝に火をつけ、大鍋に水を張り、缶詰を放り込む

 

北上「ま、アンタがどうするかは置いといて…今日はご馳走だ…!」

 

阿武隈「……あったかい…」

 

北上「ん…?」

 

…そう言えば、気になる事がある

 

北上「なんでさ、アンタ…深海棲艦に連れてかれてた訳?あんな衰弱してたのは?」

 

阿武隈「…裁かれる予定だったんです、深海棲艦の手で」

 

…つまり、戦争犯罪者扱いか

 

北上「3人だけ?そんな訳ないよね」

 

阿武隈「…順番に、ゆっくりと…みんな処分されることになってます」

 

北上「…はぁ…」

 

イカれてる

深海棲艦を認めて、艦娘を差し出して…

それで仮初の平和なんて…笑わせる…

 

北上「ちなみに、アンタどうするの?首輪付きじゃないなら上手くやれば…人間のふりして生きられるかもよ」

 

阿武隈「……」

 

北上「ここには武器も何もない、ただ艦娘が居るだけ」

 

阿武隈「でも、私たちがその気になれば…」

 

阿武隈のほほをつかんで黙らせる

 

北上「そこまで堕ちるつもりは無いし、あの子たちにそんなことさせる気もない」

 

阿武隈「…でも…」

 

北上「…お腹減ってるとさ、暗い方にばっか考えちゃうよね…よし、そろそろ良いかな」

 

熱々に温められた缶詰をトングで取り出し、並べる

 

北上「みんなー、ご飯だよ!…阿武隈、アンタがどうしてもその道を進むなら止めないけど、この子達は巻き込まないで欲しい、それだけ言っとくよ」

 

 

 

 

 

曙「1日に2食なんて、いつぶり?」

 

早霜「さあ?」

 

北上「ほら、火傷しないようにね…お、これよく詰まってる…何々?五目ご飯?お米だって!早霜、たくさん食べなね」

 

早霜「…子供扱いしないで」

 

北上「ほら、阿武隈も」

 

阿武隈「…どうも…」

 

北上「あたしのは…と………サバ味噌だ」

 

暖かくて、美味しい匂いが立ち込めて…

 

阿武隈「…シーチキンって…こんなに美味しかったっけ……」

 

北上「そりゃあ美味しいでしょ、サバ味噌には劣るだろうけどね」

 

阿武隈「む…シーチキンはこんなにジューシーで、塩気もあって美味しいんですよ!」

 

北上「こっちは骨までほろほろで甘じょっぱくじ〜っくり煮込んであるんだよ?

もう余すことなく美味しいね」

 

阿武隈「ぐ…う……」

 

北上「ほら、一口食べてみなよ、絶対こっちのが美味しいって」

 

阿武隈「そ、そこまで言うなら…!……ぁ…美味しい…」

 

北上「でしょ?」

 

如月「ふふ、またやってる…」

 

曙「ほっときなさい、それはそれとして…北上、一口よこしなさいよ」

 

北上「いいよ、そっちのサンマ蒲焼と交換ならね?」

 

曙「…いいケド」

 

早霜「私もください、ご飯が多くて食べきれないので」

 

阿武隈「…あ……」

 

 

 

 

 

 

北上「ふぃー…久々に食べたー…」

 

阿武隈「1人一つの缶詰を食べまわしただけでよくお腹いっぱいになれますね」

 

北上「胃が小さくなっちゃったからね」

 

阿武隈「……ところで、あの…遅くなったけど、助けてくれてありがとうございました」

 

北上「驚いた、お礼が言える良い子だとは思わなかったよ」

 

阿武隈「…あの、私を…ここに…」

 

北上「いいよ」

 

阿武隈「…良いんですか?」

 

北上「クドいのはみんな嫌いだからね」

 

阿武隈「…???」

 

かくして、新たな仲間を迎えた訳だけど、それは食い扶持(くいぶち)も増えたと言うこと

こうなると…あの缶詰も、一日一食を続けてもどのくらい持つんだろう?

 

北上「…ま、いいか…阿武隈、これからよろしくね」

 

阿武隈「はい」

 

北上「ちなみにさ、アレ私のファーストキスだから」

 

阿武隈「へ?…ぁ…ッ!?えぇぇっ!?今それ言います!?」

 

北上「顔を合わせるたびに思い出してね……ぽっ…」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。