食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
夕張「…ふー……海水蒸留装置なんて、よく知ってるわね…小さい子ばっかりなのに」
暁「昔に無人島に漂流した時のサバイバル術の講義があってね、寝てた北上さん以外みんな知ってたのよ?」
夕張「じゃあ北上は知らなかったんだ?」
暁「そう!私達が授業を聞いてなかったからお水も飲めなかったんだから!」
夕張「感謝感謝…ところで、その北上について教えて欲しいんだけど」
暁「何?何でもは答えられないわよ?」
夕張「あー…大淀さんとの関係についてなんだけど」
暁「…あー…」
暁ちゃんが困ったように笑う
どうやらコレは思ってたより深刻な問題みたいで、既に早霜ちゃん、曙ちゃんの2人に断られている
夕張「お願い!ちょっとでいいから教えて…?」
暁「…ちょっとだけよ?」
夕張「…いいの?」
暁「ホントは良くないけど…北上さんとは、1番長いし…私なら納得してくれると思うわ」
夕張(えっ…この子幾つ…?
見た目小学生低学年以下なのに私より年上とか…?怖くて聞けない…)
暁「…北上さんは、大淀さんと元々すっごく仲が良かったの…でも、深海棲艦がああなって、大淀さんはその日の内に出て行ったわ」
夕張「えっ…?いくら何でも早すぎない?」
暁「あの時はみんな驚いたけど…北上さんは特にショック受けてたみたい…
それで、しばらくして会った時には今みたいになってたの」
夕張「…何があったの?」
暁「誰も知らないわ…」
夕張「……」
暁「ねえ」
夕張「…何?」
暁「夕張さんは、死んじゃダメよ…絶対に」
夕張「…どう言う意味?」
暁「北上さんが唯一、プライドを捨てて頼れる人だと思うから…」
夕張「やっぱ、暁ちゃんって…大人びてるね」
…でも、今の私にそんな頼り甲斐があるのか
北上にとってそれだけの存在になれてるのか
夕張(…少しは、年長者の意地も見せないと…)
暁「大淀さんについて、あと一つだけ言えるのは…」
夕張「何?何か教えてくれるの?」
暁「今の阿武隈さんと同じような感じだったの、昔の大淀さん…
ずっと北上さんの後をついて行って、居ない時は自分が頑張るって張り切って…
妹みたいな感じ?」
夕張「あ!そう、私もそれ思ってた!」
暁「でも、それ本人の前で絶対言っちゃダメよ、凄く怒るんだから…あ」
大淀「どうも、楽しそうなお話ですね?」
…いつの間に、背後に…?
夕張「あ、あはは…どうも…」
大淀「明石さんの面会、しますよね?お迎えにあがりました」
夕張「えっそんないきなり…あー…いや、行きます…」
大淀「暁ちゃん、夕張さんお借りしますね」
暁「いってらっしゃい」
狭い車中に2人
こうなれば、周りの目は気にしなくていい
それに…北上は悪感情を露わにしていたけど…
夕張「……あの」
大淀「はい、なんでしょう?」
夕張「北上と何かあったの?」
大淀「ええ、でも昔のことです」
夕張「…そう」
大淀「それに、人の過去を無闇に詮索するのはプライバシーが無いですね」
夕張「そういうつもりじゃ…」
大淀「気をつけたほうがいいですよ、好奇心は猫をも殺す…と、言いますし、殺されるのは
夕張「…興味本位とか、そんな事で聞いてるんじゃない…としても?」
大淀「…と、いうと?」
夕張(やっぱり、食いついた)
やっぱり、大淀も心配なんだ
夕張「私さ、一緒に暮らし始めてほんの少ししか経ってないけど…それでもわかるくらいには不安定っていうか…
その、適切な言葉がわからないけど、少なくとも、そっちも感じるところがないわけじゃないんでしょ…?」
大淀「……なるほど、では心の底から北上さんを想っての事なんですね?」
夕張「誓ったっていい、元々命の恩人とも言える相手にツバ吐くような真似はしないから」
大淀「少し考えさせてください、貴方の面会が終わる時までに答えは出します」
夕張「…お願い」
私自身、変だとは思ってる
でも、一時は害になる存在として扱った私たちを助けるほどの甘さと、敵と
いや、深海棲艦への憎しみの深さはもはや残虐とも言える
夕張(艤装を使ってない所為だとは思うけど…無理に直接殺そうとしてるようなも感じた…
深海棲艦の手で大事な人を失った…?…よくある話、だから1番あり得る)
大淀「つきましたよ」
夕張「……うん」
…凄く、不思議だ
私には全く理解できないタイプ
だから、知りたいし、苦しんでるなら、私を助けてくれたように、助けたいとも思う
明石「夕張!」
夕張「明石…!その…すっかり元気そうだけど…!」
病衣は着ているものの、全然問題無さそうだ
すっかり顔色もいいし…ちゃんと治ってきてるのかな
夕張(でも、修復材使ってくれなかったんだ…優先度は確かに高くないんだろうけど)
明石「そっちはどう?楽しい?」
夕張「うん…まあ、凄く刺激的って感じかな…
退屈する事もあるけど、基本やる事は尽きないし、考えるよりは動いてる時間が長いし、あの車中泊生活よりは楽しいかも」
明石「妬ける事言ってくれちゃうなぁ」
夕張「そっちこそ、どう?」
明石「うーん…なんだろう…求めたものは何でも揃うかな、機材とか以外…でも、その分、退屈な生活…
あ、でもここの病院食は美味しいかな」
夕張「……」
腹の音が空腹を訴える
明石「…もしかして、朝から何も食べてない?」
夕張「……こっちは1日1食なのよ、明石…」
明石「え…?やっぱ、受け入れられてない感じ…?」
夕張「違うの…みんな1日1食なの…」
明石「……何故…?」
夕張「切り詰めないと生活ができないから…」
明石「…私ずっとここでいいや」
夕張(ムカッ)
明石の病衣をめくり、腹部に手を伸ばす
明石「うわっ!?や、やめっあはっ!あははは!」
夕張「うりうり…!ちょっと太ったんじゃない!?えぇ?!」
明石「だっ、だって!あははっ!」
夕張(……)
腹部を弄るのをやめ、自身の手を見つめる
明石「…夕張?」
夕張「…あそこにいる子達、みんな、あんなに痩せ細ってたのに…私達は……」
明石「……」
夕張「…ごめん、辛気臭くて」
明石「辛気臭い…か……それよりも、体臭がキツいんだけど、ちゃんとお風呂入ってる…?」
夕張「……明石、そんなもの存在しないのよ」
明石「」
夕張(絶句してる…まあ、私もそうだったけど)
夕張「それじゃ、そろそろ帰るね、何も持って来れなくてごめん」
明石「うん、また」
病室の入り口の隣の小窓が開き、いい匂いが漂ってくる
明石「あ、お昼ご飯…!夕張、代わりに取ってくれない?」
夕張「…お昼、ご飯…?」
…なんて事だ、目の前にある食事は今の私ではどんなに頑張っても手が届かないようなご馳走だ
このサラダも、ハンバーグも、お味噌汁も、白米すら…
夕張「……」
料理の乗ったお盆を手に取り、ベッドから少し離れたテーブルに置く
明石「…夕張…?あのー…私ここで食べるんだけど」
夕張「寝てばっかの明石はちょっとダイエットが必要よね?」
明石「え?」
夕張「半分だけ!半分だけだから!」
箸を取り、サラダに手を伸ばす
明石「あー!」
夕張「うわぁ…シャキシャキの野菜…キャベツってこんな味だっけ…トマトも甘くて美味しいし…
はむ………ハンバーグ……うわぁ…」
…確かに美味しい、間違いなく、ここしばらくで食べた物の中で1番
夕張(…でも、コレはダメ…ダメな美味しさ…ね)
明石「…夕張?」
夕張「食べちゃってごめん、明石、またね、次は何か持ってくるから」
明石「う、うん…?」
そそくさと部屋を後にする
明石(…ちゃんと、全部食べて行ってる……半分って話は!?)
大淀「そんなに慌てて、どうしたんですか?」
夕張「…なんとなく、北上を少し理解できたの」
大淀「というと?」
夕張「ほんとに少しだけ、全然大した事ないのは分かってるけど…
北上が、なんであの子達の為に頑張れるのか、それは…本当に何でもない事だけど、一緒に笑って、ご飯が食べられるから…それをもう失いたくないからだって」
大淀「そうですか」
夕張「…深海棲艦の手で、誰を失ったのかまではわからない、わかっても、きっとそれは北上が望んでる事じゃない…
だから、今は、聞くのをやめる、ただ、寄り添うことにする」
大淀(…全く、羨ましいくらいに素敵なお姉さんができましたね)
夕張「…雪だ」
窓の外に、しんしんと降り始める
大淀「夕張さん、北上さんをお願いします」
夕張「……」
この言葉の重みを、少しだけ、肌で感じてる
…だから、少し、答えるのに時間はかかったけど、迷いはなかった
夕張「…任せて」