食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
お鍋の締めはおじや派の北上様だよ〜
冷たいパックご飯なんかをそのまま入れて
沸騰させたら溶き卵を回しかけて、火を止めてから軽くかき混ぜて蓋をする、そして10秒待てば完璧!
ふわふわの卵が美味しいんだ、これが
……お腹減ったな…
北上「…マジ?来れないって?」
夕張「そう、4日は無理だって話だから、ほら、ビデオ通話」
夕張さんがスマホの画面をこちらに向ける
大淀『どうも、すみません、ヘリも車もしばらく動かせなくて』
北上「……ねえ、アイオワってか…アイツ、前やった海賊の1人だと思ってるんだけどさ、あの時例の外国人…やったの?」
大淀『それが、何処にも見当たらなかったもので』
北上(何で言わない…)
大淀『それと、そちらからの報告を聞く限り、上の人間もこちらでは不要と判断するでしょうから、来たところで処分でしょうね』
北上「…処分…?」
大淀『殺すんですよ、手っ取り早く…まあ、薬品や機材の実験の結果死ぬ…と言うのが正しいのですが』
北上「大淀…」
大淀『北上さん、最近優しく対応したからって勘違いされては困りますよ?あなた達は部下でもなんでもないんです。
制圧の命令が今は止まっているだけなんです、余計な事は考えないでいただけますか?』
…勘違いしてる訳じゃない
大淀『明石さんは利用価値がある、夕張さんにも…でも、阿武隈さんにはない、そのアイオワって方にも無い…
私は別にその人を助ける理由がないんですよ』
北上「…元から頼る気なんて無かったっての」
通話を切る
北上「クソッ…クソックソックソッ!」
夕張(…何でいきなりこんな事に…)
北上(どうしようどうしようどうしよう、アイオワは多分、すぐに死にはしない、食糧もイノシシでしばらくは持たせられる)
…でも、それは…本当なのか
明日にも崩れる安寧ではないのか
何の確証もないのではないのか?
アイオワが急に倒れたら?
肉が尽きた後はどうする?
北上(正直、アイオワを助ける理由なんて何もない…でも、それは夕張さんも、阿武隈も…みんな同じ…)
生きてたから助けた、それ以上はない
北上(どうする?…少なくとも、今のあたしらは何も知らなさ過ぎる…今の状況に甘んじ続けるのは…限界かもしれない
…受身の姿勢で居続けるのは…誰かを殺す事になる)
北上「…夕張さん、前に言ってた車の修理ってどうなった?」
この基地には使われてない車も、バイクも、自転車も、何でもある
でも、大淀からガソリンが手に入った事で…車が動かせる
夕張「あと1日はかかるけど」
北上「……できたら、できたらでいいんだけどさ、行きたいところがあるんだ、車じゃないと厳しいんだけど」
夕張「…どこに?」
北上「……艦娘辞めたヤツのトコ」
できれば…行きたく無かった、だけど、背に腹は変えられない
夕張(…ここをやめた子って事は…大淀ちゃんみたいな子って訳だ…どうしよう…運転できるのは私だけだけど…)
北上「…明日とは行かなくても、近いうちに行くことになるから、準備しといてよ」
夕張「わかった…」
…切り替えないと
北上「さて、そろそろ猪完全に解体するか…」
焦ってる姿は見せたくない
あたしは、もっと…
夕張「北上…?」
北上「…何」
夕張「…手を貸して欲しいときは、もっと頼ってね」
北上「え、何急に…」
夕張「……ごめん、なんでもない」
夕張(……)
北上「…さて、こうして解体した肉を全て持ってきた訳だけど」
霞「ドラム缶に水と一緒に入れておけば凍るわよ」
北上「食べきれない分はそうしようか、うーん…ホントならもっと美味しく食べたいんだけどな…」
霞「贅沢言っても仕方ないでしょ」
北上「……まあね」
でも、美味しく食べたい以上に、違うものも食べたい
飽きたとまでは言わないけど、これからしばらくこれしか食べるものがないと滅入るものはある…
北上(…あれ、そういや)
北上「ここに置いてた骨は?」
霞「曙と阿武隈さんが針に使うって持っていったわよ」
北上「…針?」
霞「釣り針でしょ」
北上「…あぁ!?え!あんな大きい骨で?何釣るのさ」
霞「加工するんでしょ」
北上「…見てこよ」
北上「おおー、やってんねー…」
工廠にも電気が使えるようになったことで復活したアイテムがあったらしい
阿武隈「見てくださいよ!研磨機で骨を削って、釣り針にしてみたんです!」
曙「骨針って言って、昔から使ってるものらしいわ」
北上「へえ、言い方的に阿武隈が知ってたんだ…よく知ってたね?」
阿武隈「え?あー…えへへ、たまたまですよ…」
…でも、この針やけに太いな
北上「もっと細くできないの?」
曙「さっき試したけど、簡単に折れるから無しね」
阿武隈「強度的にはこれが限界で…」
北上「ふーん…」
太さ1センチは無いけど…釣り針としてはかなり太い…まあ、仕方ないのかな
北上「また魚楽しみにしてるよ」
曙「任せときなさい!これなら大物もいけるわ!」
阿武隈「あ、そう言えば…早霜ちゃんがたんぽぽの群生地を見つけたみたいなんですけど…」
北上「タンポポ!?」
阿武隈「は、はい…えと…退屈だから雪かきをしてた時に、見つけたって…」
北上「タンポポかぁ…!いいねいいね、あれその辺の草より全然美味しいんだよねぇ…」
曙「え、タンポポは苦いでしょ」
北上「わかって無いなぁ、ほろ苦いのがいいんだよ」
阿武隈(…薄々わかってたけど、やっぱりみんな食べた後だったんだ…)
北上「タンポポにイノシシ肉、ご馳走だね」
…まあ、できることならこれが継続して手に入るとありがたいんだけど
北上(春までの我慢かなぁ…春ならその辺の草もたくさん食べられるし、動物も出てくるし…
たぬきとかウサギとか、次の春は絶対捕まえるぞ…!)
曙(絶対別の獲物のこと考えてるわね)
阿武隈(まだ足りないんですね)
北上「…お、いい匂い」
阿武隈「ホントだ…」
曙「…お肉の焼ける匂いってなんでこう…無条件に空腹を誘うのかしら」
北上「わかんないけど、わかる…」
阿武隈「…食べに行きます?」
曙「そうね…」
北上「おー…イノシシのタンポポ巻き…?」
タンポポの根や葉、を肉で巻いて焼いただけのものだけど
霞「緑が入るだけで印象だいぶ変わるわね」
北上「じゃあ、いくつかもらってくよ」
阿武隈「ここで食べないんですか?」
北上「まあ、助けた以上…責任があるからね」
曙「…ああ」
北上「つーわけでさ、その…もうしばらくここに居てもらうことになったから」
アイオワ「オーケイ、でも…その、何か手伝えたりとか…」
北上「…記憶が戻った時、あたしらに協力してくれりゃいいよ」
アイオワ「…オーケイ」
正直、この約束がなんの保証にもならないのはわかってる
だけど、この約束だけがアイオワをここに居させる理由になる
北上(…しっかし…どうしよう…追いかけてた深海棲艦なら何か知ってるのかなぁ…でも殺しちゃったしなぁ…)
アイオワ「ところで、その…」
北上「何?」
アイオワ「…ここって、ご飯は…1日1回なの…?」
北上「え、あ、うん、言ってなかったっけ、日によっては無い日もあるよ」
アイオワ「oh…」
北上「ま、食べなよ」
アイオワ「…食べ物のありがたみがよくわかるわね…」
北上「だねぇ…はぐ…」
今回の部位はバラ肉だからだろうか
サクサクとした脂身に、肉本来の甘み、タンポポの苦味と風味が程よい
北上「うまー…」
アイオワ「……」
北上「ん?…これ美味しくない?」
アイオワ「その…この緑の…何?」
北上「タンポポだけど」
アイオワ「たん…?その…これが苦くて…」
北上「まあ、アク強いからね…残したかったら残してもいいよ、あたし食べるし…でも、脅すわけじゃないけど…今日はもう食べるものないからね」
アイオワ「……あむ…」
アイオワがタンポポを口に運ぶ
北上(…ま、好き嫌いは良くないと言うことで…)
アイオワ「…苦い……」
北上「…美味しいんだけどな」