食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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二十食目

乗ってる原付の車種はスーパーカブの北上様だよ〜

えー、本日は大変お日柄もよく…

なんか違うな、こう…気まずい時の挨拶ってすごい難しいんだよね、第一声ってほんと緊張しちゃう…

 

 

北上「あー…どうしよう、やっぱり第一声はごめんなさいからかな…あーもう、わかんないよぉ…」

 

夕張「何を狼狽えてるかわかんないけど…揺れるから暴れないで…?」

 

拝啓観測者(オブザーバー)の皆様はお元気でしょうか

あたしは死にそうです、主に罪悪感で

今現在、夕張さんの修理した車で元同僚の暮らすところを目指しています

正直会いたくはないです

 

北上「やだなぁ…やだけど、仕方ないよねぇ……」

 

夕張(何でこんなに嫌がってるんだろ…)

 

 

 

夕張「…ここなの?」

 

北上「うん…」

 

たどり着いたのは、山間の村、街までは車で10分ほど、周りは田んぼや畑、そしてたまにある民家…

そして、その中の、特にボロい民家…

 

北上「…首輪付きは一応、都会に住むこともできるけど…仕事なんて無いし、暮らすためにはこういう自給自足もできるところに行くしかないんだよ…」

 

夕張「いや、知ってるけど…」

 

北上「…居ないと…いいけど」

 

夕張(だから、ほんとに何なの…?)

 

夕張「あ、あそこに誰かいるけど」

 

北上「…居る…!」

 

…夕張さんが指し示す方向に、1人…

そして、この騒ぎに気付いた…というか、あたしに気づいたそいつがこっちに走ってくる

 

夕張「え、誰…!?」

 

北上「わ…来た!?来んなって!」

 

春雨「え…あ、ごめんなさい…」

 

声に反応して春雨が止まる

 

春雨「あ、あの…北上さん、お久しぶりです」

 

北上「…久しぶり…その、来てごめん」

 

春雨「いえ、みんな喜びます!はい!」

 

夕張(…歓迎してくれてるみたいだけど)

 

北上「……」

 

春雨「その…あがりますよね?何もありませんけど、どうぞ…」

 

北上「……うん」

 

夕張(何この空気感…)

 

春雨に促されるままに家にあがり、居間に通される

 

春雨「あの…座って待っててください、とりあえず誰か呼んできます」

 

北上「ごめん…」

 

…春雨は行ったし、辺りに人の気配はない…か…

 

北上「……はぁ…」

 

夕張「…何、ほんとにどうしたの」

 

北上「あたしダメだ、ダメな奴だ、最低だ…」

 

夕張「何が…?」

 

北上「…ただでさえキツイ思いしてるみんなにさらに負担かけようとしてた…ホントに最低だよ…!」

 

夕張「あの…いい?」

 

北上「…何」

 

夕張「あの子達は、元大湊の…現首輪付き(やめた子)…ってこと?」

 

北上「そう…それで、留置所で教育受けて、模範的だったから、外の世界で暮らせるって権利を与えられた…

家とか畑とか、その辺は安くで貸してもらえるって…

でも、見ての通り、全然いい生活なんてできない、命懸けで戦ってきたのに、与えられるのはこの程度…」

 

夕張(それでも、普通に暮らせるだけ…幸せにも思えるけど)

 

北上「…この仮初の幸せ、羨ましい?」

 

夕張「今の私達の生活に比べたら…毎日食べられるのは幸せだと思う」

 

北上「そうかな…確かにそうかもね、でも…外にいるってことは、常に迫害されることなんだ…」

 

ここに居る子達は、みんな自分たちが作ったものだけを食べてるわけじゃない

少ないながらに野菜を売った収入もある、それで買い物もできる…

でも、艦娘である事は、差別の対象だ

 

それは艦娘として戦ったのが過去の話だとしても、一切関係ない

 

山雲「そうそう、その通り〜」

 

北上「山雲…」

 

山雲「山雲達が作ったお野菜は〜、お店に置いてもらえないから、自分達で売ってるの〜」

 

夕張「自分達で…?…それって…」

 

ようやく理解してくれたらしい

艦娘への“差別”は、国籍、肌の色、喋る言葉、それらの自分との違いからくる物とは違う

 

憎しみだ、或いは家族を奪われたものの、或いは友達を奪われた者の

そして、艦娘は…多過ぎた、身の回りの誰かが艦娘になった事で“消えた”人は、この国のどれだけを占めるのだろうか…?

 

だから、裁く“人”は…居ないに等しい

首輪付きになれば法の保護を受けられるけど、そんなの、無視される

丹精込めて用意した売り物を足蹴にされたとしても、何もできない

 

通り過ぎるたびに蔑みの目で見られる、ヒソヒソと何かを囁かれるたびにビクつかなければならない

とんでもないストレスだろう、どれだけ辛いか、想像するにあまりある

 

北上「…山雲…ごめん」

 

山雲「いいんですよ〜、頼ってもらえて嬉しいです」

 

夕張(…ようやくわかった、これは頼りたくない…

苦しいのに、嫌味一つなく力になろうとしてくれる様な子達に頼るのは…心が痛い…)

 

北上「ホントはさ…ホントはあたし達が力に…」

 

山雲「北上さん、私達は…大丈夫ですからね〜」

 

夕張(……あ、この子、知ってるんだ…?

…何かはわからないけど、何か、北上の根幹を…)

 

山雲「それで〜、何をして欲しいんですか?」

 

北上「…それは…」

 

北上(アイオワを…って、頼んで…良いの?)

 

…ここに来た理由は、アイオワの事だ

アイオワをあそこに置いておくのは、無茶だ、危険だし、アイオワのためにならない

…でも、ここに置いてもらっても、どうなる訳でも…

 

目の前にお茶が置かれる

 

春雨「どうぞ」

 

夕張「ありがと…」

 

北上「……」

 

すぐ横に夕張さんが居るのに、目の前に山雲が居るのに、春雨もいるのに

顔を上げれば、目が合う

だから、俯くことしかできない

 

北上(…誰かを救うために誰かを犠牲にするのは、大淀と同じだ…でも、あたしじゃどうしたらいいかわからない…)

 

山雲「…みんな頑張り屋さんですからね〜、北上さんのお願いなら何でも聞いてくれますよね」

 

北上「っ…」

 

春雨「頼れるのに、頼らないのは…それは、信頼がないからですか?」

 

北上「…違うよ」

 

春雨「私達を気遣ってのことなら…それは間違いです、はい」

 

山雲「確かに辛い事はたくさんありますけど〜、それでも、みんなでご飯を食べて、笑えたら…幸せな気持ちになれますから〜」

 

春雨「だから、私たちは北上さんにも笑顔になって欲しいんです、はい」

 

北上「……そっか」

 

…諭されちゃったな…

焦って、前が見えなくなってた

 

北上「頼りになるよ、ホントに…みんな」

 

山雲「どんどん頼ってくださ〜い」

 

北上「…じゃ、そうだな……野菜貰ってもいい?」

 

春雨「野菜、ですか?…やっぱり、そんなに食べるものが…」

 

北上「んーん、じゃなくて…美味しいもの食べる時は…みんなでがいいじゃん、山雲達も…遊びに来る?」

 

山雲「北上さん…」

 

春雨「誘ってくれてありがとうございます、でも…ここを離れたら、何が起こるかわからないので」

 

北上「そっか、畑を荒らされるのか…同じ人間のはずなのに、やってる事は害獣だね」

 

山雲「お金が貯まったら、電気柵を買うの〜」

 

夕張「…なら、ちょっと待ってね…」

 

夕張さんが財布を取り出す

 

夕張「私は…北上とあなた達の関係について何も知らないけど、一生懸命な頑張りには対価が必要だと思うの」

 

北上「だね…さすが夕張さん、財布持ってきてたんだ」

 

夕張「まあ、ちょっとね」

 

山雲「…受け取れな〜い」

 

北上「山雲、貰ってよ、あたしも山雲達を頼るから、あたし達のことも、頼ってよ」

 

春雨「…山雲ちゃん」

 

夕張「正直、ホントに大した額は入ってないの、でも少しでも、足しにして」

 

山雲「ん…ん〜…なら…」

 

春雨「ありがとうございます」

 

…艦娘だとお金を使うのも、大変だけど…

多分、山雲達は上手い使い方も知ってるはず

 

山雲「でも、ホントに野菜で良かったの〜?」

 

北上「うん、いい、それがいい」

 

北上(アイオワをみんなに任せるのは…アイオワの為じゃない、自分の為だ…そうじゃなくて、今あたし達ができることを見つめ直そう)

 

アイオワの事だけじゃない、安定した暮らしを得るために…差別から逃れるために

 

北上「とりあえず、今日は戻ろうか」

 

夕張「そうね」

 

春雨「もう帰っちゃうんですか?」

 

山雲「ご飯くらい〜、食べて行きませんか〜?」

 

夕張「…ご飯?」

 

北上「いいの?…そっちも厳しいでしょ」

 

山雲「山雲達も〜、北上さん達にいい所見せたくて〜」

 

春雨「豪華なものは出せませんけど、それでもよければ」

 

北上「…甘えさせてもらおうかな」

 

 

 

 

夕張「…わ……うどんだ…!」

 

山菜がたくさん入ったうどん…

 

北上「どしたの、うどんなんて」

 

春雨「小麦が余ってたので」

 

北上「へー、手作りか、すごいじゃん」

 

山雲「数少ない娯楽なんです〜」

 

そして、うどんにたっぷりと刻んだネギを振りかけて

 

山雲「あと〜、少し外れの山で採れた山芋〜」

 

春雨「山菜のとろろかけうどんです!」

 

夕張「…いいの?こんなに豪華なの…」

 

春雨「…材料費、小麦粉代と調味料だけですし、豪華というほどでは…」

 

山雲「これを豪華だと思える辺り、毒されてますね〜」

 

夕張「…あれ、普通の感性だとこれ豪華じゃないの…?」

 

北上「ご馳走である事には何も変わらないよ」

 

山雲「…最近は何を食べてるんですか〜?」

 

北上「虫を食べてしのごうとしてたんだけど、イノシシに横取りされたからそいつを捕まえて食べてるよ」

 

夕張「頭だけまだ放置して雪の中よね」

 

北上(…あ、ヤバ、あの口の中にまだ拳銃入れっぱじゃん…)

 

春雨「へー…思ったよりちゃんとしたもの食べれてるんですね、安心しました」

 

夕張「…ちゃんとしたもの…?」

 

山雲「てっきり〜、ミミズとか土を食べてるんじゃないかと〜」

 

夕張(そんな生活してると思われてるの…?)

 

北上「この前イモリ捕まえて食べたりしてたよ、あと私は1人でバッタとかカマキリとか」

 

山雲「……あはは…」

 

春雨「相変わらず…でしたね、はい」

 

夕張(あ、そんな前から…)

 

北上「そんな事いいからさっさと食べようよ」

 

夕張「いただきます…ずずず…んん?」

 

北上「…むぐ…?」

 

…このうどん、粉っぽい…

 

夕張(ちゃんと茹で上がってないのね…)

 

春雨「…美味しくなかったですか…?」

 

北上「いや、そんな事ないよ、うどんなんてなかなか食べる機会ないからさ」

 

夕張「そうね…最後に食べたのいつかしら…」

 

うどん出汁と具材は…

うん、しっかり味が染みて美味しい…

シャキシャキの山菜に、それを包み込み、喉越しをよくしてくれるとろろ…

 

北上「おいしいよ、みんなに食べさせたいくらいに」

 

山雲「それなら〜、持って帰りますか?」

 

北上「え、いいの?」

 

春雨「たくさん作ったので、大丈夫です、はい」

 

夕張「…なら、もらってく?」

 

北上「ありがたくいただくよ」

 

北上(こりゃ…帰ったらイノシシの肉で牡丹鍋だね)

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