食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
深夜の工廠
そして、そこに置かれた深海棲艦用の艤装…
それを…
ヲ級「……」
ガチャ、ギギ…
…ガコン
ヲ級(艤装ノ装着、完了…コレデ全テ揃ッタ…艤装モ、盗聴器モ…北上、ミンナ、サヨウナラ、ダ)
工廠の電気を付ける
ヲ級「っ……」
夕張「どういうつもりか、説明してもらえるかしら?
ヲ級「…ツイテナイナ」
夕張「っ!」
ヲ級の艤装から艦載機が飛び立つ
夕張(この狭い屋内で…!?ジャックして…)
ヲ級(許シテ……イヤ…死ンダラ、ミンナ怒レナイカ)
ヲ級「トツゲキ…」
夕張(間に合わない!)
飛んできた艦載機は発砲せずに直接の体当たり…
夕張「ぁが…!」
ヲ級「サッサト、大人シクシテ」
2、3度体当たりを受けた後、後頭部に直撃をもらう
夕張「ぐっ!?…くっ…ぁ…」
姿勢が崩れ、意識が揺らいだところをヲ級に担がれる
ヲ級「ゴメンナサイ」
海沿イノ海岸…ココカラ、盗聴器付キノ携帯ヲ投ゲ棄テル
ポチャン、ト小サナ音ガ鳴ル
ヲ級「コレガ合図」
夕張「……ヲ級…本気…?」
ヲ級「喋ルナ、人質」
夕張「ねえ、やめよう…?まだ間に合うでしょ…」
ヲ級「モウ、遅イ」
膝ヲツキ、敬礼ノ姿勢ヲトル
空母棲姫「…ホウ」
戦艦棲姫「アラ、ヤルジャナイ」
夕張(…何、コイツら…見たことない、データにも載ってない…未確認の深海棲艦…?)
ヲ級「動キニ感ヅイタノハコイツ1人デス、他ノ物ハ眠ッテイマス…ソシテ、艤装モ取リ戻シマシタ」
戦艦棲姫「フーン…意外トデキルノネ」
空母棲姫「…デハ、仕掛ケル」
夕張「何するつもり…!いや、あんなの私が…」
夕張(あ、あれ…接続…!艤装に接続できない…?!この距離ならできるはずなのに…)
空母棲姫ノ艦載機…ナンテ量…
夕張(…夜なのに、艦載機!?…え…?何、それ…)
ヲ級「……」
艦載機ヲ、発艦サセル
夕張「何、その目…」
北上「暁早く全員起こして!阿武隈!工廠は!?」
阿武隈「誰も居ません!ヲーちゃんも、夕張さんも…!」
北上(…あの音、間違いなく砲撃の音…!ここで戦闘が始まって、夕張さんとヲ級が消えた…)
北上「準備整えてから避難して…!アイオワもいるし早く逃げないと多分、ここはヤバい…!」
暁「北上さんは!?」
北上「確認しに行く!大丈夫、すぐ戻るって!」
拳銃と解体用ナイフ…コレしかないか
暁「……また、なのね」
空母棲姫「…ドウイウツモリ?」
ヲ級「申シ訳アリマセン」
ヲ級の手元の対空火器が、深海棲艦の艦載機を撃ち落とした…
ヲ級「ドウセ何ヲ言ッテモワカッテモラエナイデショウガ…
私ハ、深海棲艦ノ身デアリナガラ、人間ノ様ニ感情デ生キタイト思イマス」
私の手を縛っていた紐がヲ級に解かれる
ヲ級「巻キ込ンデ、ゴメン」
夕張「縛る事なかったんじゃない…?それに、攻撃する事も…事情さえ…」
ヲ級「何モ考エズ、逃ゲテ」
ヲ級の目の蒼い炎が揺らぐ
艦載機同士が撃ち落とし合う
戦艦棲姫「ドウシタノ、イイ勝負ジャナイ?」
空母棲姫「クッ…!アイツ、“覚醒”シテル…!」
戦艦棲姫「…ナンデスッテ?」
ヲ級(…落トス…一機デモ、多ク!…時間ヲ稼グ…!)
ヲ級の目の炎が大きく揺れて、さらに多くの艦載機が落ちる
夕張(…強い)
空母棲姫「クソ!私ガ、コノ私ガ、ヲ級如キト互角…!?」
戦艦棲姫「…ソロソロ、イイカシラ?飽キチャッタ」
空母棲姫「チッ…ヤレ!!」
戦艦棲姫「ハイハイ…撃テ」
怪物の様な艤装を連れている方と、目が合う
ヲ級「…ァ…」
夕張「うっ!?」
砲撃を受けた…?爆風に、吹き飛ばされて、身体中が痛い…
脚も折れてるし、視界は血まみれだし…
一体何が起きたの…それにあの威力、戦艦よりも…
夕張(…くっ…ヲ級は…?…倒れてる…眼の炎も消えて……って…)
戦艦棲姫「ヤッパリ艦娘ッテ不味ソウダシ汚イシ、何ヨリ弱イワ…
マサカ巻添エデ倒シチャウナンテ」
夕張(っ…新種が目の前にいるのに…身体が壊れてて動けない…!)
空母棲姫「ヲ級ハ殺スナヨ、貴重ナ“覚醒”個体ダ、連レ帰ル」
戦艦棲姫「デ、アノ基地ハ?」
空母棲姫「今カラダ…黙ッテイロッ!
………チッ…流石ニ気付カレテルカ、対空砲火ヲ受ケテイル」
夕張(対空、砲火…?)
戦艦棲姫「ハア…ダカラ空母ッテ嫌ナノヨ、弱クテ群レルカラ」
空母棲姫「黙レ…!…オイ、ヲ級」
戦艦棲姫「起キナサイ」
怪物の様な艤装がヲ級の頭を掴み、持ち上げる
戦艦棲姫「フフ…“覚醒種”…第2号ネ…特別ニ生カシテアゲル…サア、ソコノ艦娘ヲ喰ライナサイ」
夕張「うっ…」
空母棲姫に胸ぐらを掴まれる
頭をずらされ、無防備になった首筋にヲ級の呼吸が当たる
生暖かい風…そして、唇が触れる感触…
空母棲姫「食べロ、サッサト…!」
ヲ級「…夕張、ゴメン」
ポタポタと、熱い液体が滴る
ヲ級「私ジャ、皆、守レナカッタ…!」
夕張「……ヲ級…」
空母棲姫「…泣イテイル?何故ダ、オ前ハ深海棲艦!人ヲ食ワナイト死ヌノニ、何故拒ム…!」
夕張(…深海棲艦が、人を食べないと死ぬ…?)
…じゃあ、今まで、ヲ級はずっと…人を食べずに、飢えて…
空母棲姫「食エ!何故…ッ!」
ヲ級「…私ハ、人ハ2度ト食べナイ…!
辛ク暗イ感情ニ支配サレテ生キルノハゴメンダ…」
戦艦棲姫「感情?…コノ子、何言ッテルノカシラ」
ヲ級「ワカランダロウ、恐怖デ支配スル事シカ知ラナイ、オ前達ニ理解デキル訳ガナイ
…死ヌヨリ怖イ物ヲ知ッテイル私ヲ死如キデ
夕張(ヲ級…)
戦艦棲姫「…使イ物ニナラナイ」
空母棲姫「チィッ…!ドウシテ…フグッ…?」
空母棲姫の胸部から、刃が飛び出す
戦艦棲姫「エ…」
空母棲姫「ア…ァガ……!…ゴ…ゴポ、ガボッ…」
刃はドンドン、上へ上へ…
首の辺りで、体外へと振り抜かれる
よろけた空母棲姫が蹴り倒され、そして…
北上「うちの仲間に手出して…どうなるかわかってるよね」
戦艦棲姫「増援…!」
ヲ級「北上…何故来タ!」
北上「死ぬより怖い物、あたしもわかる気がする、だから来たよ」
夕張「…そうよね、仲間が死ぬなんて、そんな光景をまた見るなんて、もうゴメン…!」
飛んでる艦載機に接続する
夕張(やっぱり、コイツらについてる艤装が特別でも、艦載機やパーツは違う!)
空母棲姫「…グ…ガッ……舐メ…舐メルナァッ!!」
夕張「…っ!?…今、何…!?」
頭の中で、バチンッて音がして、接続が無理やり切られた…?
北上「こいつ、まだ生きてんの…?」
戦艦棲姫「仕方ナイワネ、皆殺シヨ」
空母棲姫「殺スッ!殺スゥッ!」
戦艦棲姫「貴女ハ少シ大人シクシテナサイ」
怪物みたいな艤装がヲ級の頭をギリギリと音を立てて締め上げる
ヲ級「ァガッ!?…グ…!」
北上「夕張さん!」
夕張「無理…!コイツらの艤装には接続できない!」
北上(マズイ、このままじゃヲ級が…!)
ヲ級「逃ゲテ…逃ゲロ…!」
北上「操作してるのはそっちか!この…!」
夕張「北上!待っ…」
飛びかかった北上が、怪物の様な艤装の大腕に吹き飛ばされる
夕張「……え…?嘘…北上?北上!」
…動かない、吹き飛ばされて、地面に転がって…
ヲ級「北上…ッ……嘘ダ、嘘ダ!」
戦艦棲姫「ヤッパリ脆イワネ、所詮ハ…アラ?」
ヲ級の目に再び炎が灯る
ヲ級「ヤレ!!」
ヲ級の頭を掴んでいた手が複数の艦載機の特攻で千切れ飛ぶ…
夕張(…自分の片腕、それに…頭部まで…)
自爆特攻…
右肩が千切れ、顔が焼け爛れ、髪は未だ燃えている
そして、眼の炎も
ヲ級「ヨクモ!ヨクモヨクモヨクモ!!
私ハ死ヌツモリダッタ!北上達ヲ守ッテ死ネルナラ、ソレデ良カッタノニ!!」
夕張(そんな…)
戦艦棲姫「ッ…!」
戦艦棲姫の従える艤装の怪物がヲ級に向けて巨大な拳を振り上げる
ヲ級「絶対ニ許サナイ!」
怪物の拳がまるで見えてないかの様に愚直な突進
そして怪物を無視して…
戦艦棲姫「ッ!」
戦艦棲姫に飛びつく
ヲ級「フーッ!オ前ナンカ!オ前ナンカ!」
噛みつき、殴り、引き裂く
その動きはまるで…
夕張(…北上と、同じ…?)
憎しみを、怒りをぶつけるように、徹底的に痛ぶる様に…
戦艦棲姫「ガッ…ァ!離セ!待テ、ヤメ…ウッ…アガッ!?」
ヲ級を何とか止めようと戦艦棲姫が伸ばした手を…
指を、2本まとめて噛みちぎる
戦艦棲姫「ウッ!ウァッ!ヤ、ヤダ!ヤダァァァッ!」
夕張「ヲ級!危ない!」
ヲ級「!」
怪物が、その大腕をヲ級目掛けて振り下ろす…
戦艦棲姫諸共、押し潰す様に…
ヲ級「ッ……脚、ガ…!?」
ヲ級の両脚が、潰されて…
ヲ級「ッ!?」
戦艦棲姫「ァッ……ウアァァ─────ッ!?」
耳をつんざく様な甲高い悲鳴が響く
戦艦棲姫「カ、カラダ!私ノ身体!痛イ痛イ痛イィィィ──!!」
夕張「み、耳が…!」
ヲ級「聞コエナイ…!痛イ…!」
耳を塞いでも、頭に響く
シェイクされる様に痛い…
夕張「っ!」
もう一度、怪物が拳を振り上げ、今度は横向きにヲ級だけを的確に殴り飛ばす
ヲ級「ァ…ァガ…?ッ…ァ…」
今度は大型のイ級の様な怪物が、ヲ級へと近寄る
空母棲姫「ク、ハハ…ハハハ!ドウシタ覚醒種!!情ケナイ姿ダナァ!アハハハ!」
北上に斬り裂かれたはずの傷が…無い
ヲ級「……ジャ、マ…スルナ…」
空母棲姫「再生ニ時間ガカカッタケド…コレデグチャグチャニ殺シテアゲルッ!」
夕張「…そっちが回復するなら、私だって…」
ヲ級「夕張…無理ダ、ソノ身体ジャ…」
…わかってるけど、それでも時間稼ぎくらい…
空母棲姫「ソンナニ死ニタイナラ、先ニ殺シテヤル!…グッ…?!」
近づいてきた空母棲姫に砲撃が直撃する
空母棲姫「誰ダ!?ドコカラ…」
ヲ級「……間ニ、合ッタ…?」
地面が揺れるほどの大量の足音…
大淀「急いで来たつもりが、少し遅すぎた様ですね…生きてますか?夕張さん」
夕張「大淀…って、そいつら…」
大淀を守る様に取り囲んでる兵士達が装備してるのは…艤装
夕張(あの兵士、艦娘だったの…?)
大淀「撃ち方用意」
空母棲姫「ナンダト…何故ダ!何故モウ中央ノ部隊ガ…」
大淀「あなた達が処分させた盗聴器にこんな声が入ってまして」
大淀が自身の携帯を操作して音声を再生する
ヲ級『…聞コエルカ、私ハ、ヲ級、北上達ヲ守ル為ニ力ヲ貸シテホシイ…今カラココハ戦場ニナル、私1人デ片ガ付カナイトキハ…北上達ヲ守ッテクレ』
大淀「罠かとも思いましたが、来て正解でした、対空班、対空砲火再び開始、空母隊、戦闘機を…
確実に殺しなさい」
空母棲姫「ソ、ソンナ…私ノ…イヤ!コンナトコロデ!」
空母棲姫が巨大イ級に呑み込まれる
夕張「なっ…!?」
大淀「総員逃すな、撃て」
兵士達が追いかけて撃ち続けるものの、巨大イ級も怪物も、あえなく海へと逃げ込んでしまった
夕張「…助かったの…?」
大淀「取り逃しましたが、その様です」
ヲ級「……北カ、ミ…」
北上の方へと這い寄るヲ級に兵士が一斉に銃口に向ける
大淀「放っておきなさい」
夕張(…ヲ級、身体が再生してない…いや、それよりもどんどん壊れて…)
大淀「……」
大淀ちゃんが倒れている北上に近寄り、口元に手の甲をあてる
大淀「呼吸がある、死んではいませんね…やはり簡単には死なない、流石です」
夕張「ホントに…!?北上は死んで無いのね!?」
大淀「ええ、しかし…」
ヲ級「…北上…」
立ち上がった大淀ちゃんが、憐れむ様にヲ級を見る
大淀「蒼い炎を目に宿した深海棲艦…またですか」
夕張「…また?またって、何?」
大淀「北上さんは深海棲艦と化した姉を目の前で失っています」
夕張「!…やっぱり、深海棲艦に…」
大淀「さて、しかし…苦しそうですね、楽にしてあげましょう」
大淀ちゃんが北上の懐から拳銃を取り出し、向ける
ヲ級「……」
夕張「ね、ねえ、待って?何を…」
大淀「次、この人を目の前で失えば…先輩はもう立ち直れませんよ、だってコレで3度目ですから」
夕張「…3度目」
そうだ、既に2回お姉さんを…
大淀「貴方も、この人が大事なら…大人しくここで消えてください、別れの言葉なんて呪いでしかないんですよ」
ヲ級「…北上ハ、助カルカ?」
大淀「ええ」
ヲ級「……イツカ、マ…」
ヲ級の眼から血が噴き出す
夕張「ホントに…撃ったの…」
大淀「本人も受け入れましたし、そうでなくても、そうするしかありませんでしたから」
兵士達が動かなくなったヲ級を持ち上げる
夕張「待って!お願い、待って!」
大淀「せいぜい私を恨んでください、憎まれ役は…慣れてますから」
夕張「待って…待ってよ…!」
ヲ級の亡骸が、海に落ちる
大淀「…明るくなってきた……夜明けですか、悪い夢はもう終わりです
…2人を病院へ運びなさい」
夕張「…私達…まだ、お別れも言えてない…」
結論から
死者は0名、北上改二に
基地は空襲による被害を微量ながら受けました
負傷者は北上改二、夕張改のみ、両名とも後述の評価点から、即戦力とする為修復材を投与しました
特に北上改二は内蔵部、脳へのダメージが強く確認されました
前回同様に記憶障害が出る可能性もあります
夕張改は両脚、左腕、
確認された深海棲艦の個体は2種共新種、高知能、言語能力も堪能で尚且つ高い耐久性と攻撃性、そして再生能力を持つ、非常に危険な個体です
これらを逃したのは失策といえます
しかし、深海棲艦の企みを看破し、未然に防げた点に
その為…我々は、一部”艦娘の再任用”を検討する必要があります
深海棲艦との対話は、積極的に行いつつも、知能があるからこそ、仮想敵としての段階区分を高め…
大淀「必要となれば、即座に戦争状態に入る準備が必要になります…こんなところですか」
…北上さんも、夕張さんも、みんなも、とりあえずは生きている
とりあえずは…
大淀「…さて、今日で一区切り…これで、ひと段落…としましょうか」
…明日から、もしくは今日から
再び殺し殺されの、命のやり取りの日々が始まるかもしれない
戦争は終わらない
大淀「…“皆さん”、それでは…また」