食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
やほー、北上様だよ
…あれ、なんか…みんな様子がおかしいけどどうしたの?
北上「…何?みんな、暗い顔して…」
向かいのベッドの夕張さんが憐れむ様な目でこちらをじっと見つめてくる
夕張「…みんなって誰?」
暁「そっとしといてあげて…たまにあるの」
夕張「うん…それもだけど」
暁「…人の持つ防御反応の1つだって言ってたわ」
夕張さんが顔を伏せる
北上「ところでさぁ、ここどこな訳?」
夕張「病院…怪我が酷いから、入院だって…明石の入ってるとことはまた違うみたいだけど」
北上「…あたし別に何処も悪くないんだけどなぁ…」
暁「…また、来るわね、基地…片付けないと」
夕張「うん…」
…みんな、どうしたんだろう…
なんとかして元気付けたいけど、そうもいかないだろうし…
夕張「記憶障害…?」
大淀「ええ、聞き取り調査の結果、空母ヲ級との関わりを全て忘失していました、身体に関しては…打撃によるダメージは修復済みです」
…まさか、こんな事になるなんて
夕張「嘘でしょ…?」
大淀「真実ですよ、何一つ嘘偽りはありません」
夕張「で、でもっ」
大淀「目を覚ましただけよかった、それで良いじゃないですか…
私はこれで失礼します」
夕張「…これから、どうすれば…」
大淀「さあ?…北上さんは、きっと何も変わりませんよ、ヲ級と出会う前からね」
夕張「……」
大淀「ただ…今のあなたたちを取り囲む状況は変化するでしょう」
夕張「え…?どういうこと?」
大淀「その時になるまではわかりません、私もどう変化するのかは知りませんから」
…これから、どうしろっていうの…?何が起こるっていうの…?
大淀「それと、その身体であまり出歩かないでください、修復材を投与したとはいえ、治りきってないので…」
夕張「い゙っっ!?」
大淀に太ももを軽く撫でられる
それだけで倒れそうなほどの激痛が走る
大淀「ほら」
夕張「……今ので、逆に、外の空気を吸いたくなったって言ったら?」
大淀「…ご自由に、今日は“貴方の日”の様ですね…杖は貸し出してますのでご自由に」
夕張(どういう意味?)
夕張「……ここ…」
病院から出て、ようやく理解した
ここは…私たちのいた場所からかなり離れている…
具体的に言えば“東京”だ
夕張「あれ、東京タワー?…嘘でしょ?赤と白の鉄塔とかじゃなくて…?」
…一体、どうなって…
大淀「あそこは危険でしたから、私達の管理下に置かせていただきます」
夕張「うわっ!?…ビックリした…急に出てこないでよ…」
大淀「それと、護衛をつけておきます、何かあったら彼女に言いつけてください」
1人の女性が近づいてくる
夕張「…どちら様で…?」
加賀「加賀です、よろしく」
大淀「ウチの隊員です……ああ、それと、貴方の生体ユニット…壊れてますので」
夕張「へっ!?」
大淀「骨がやられた時だと思われますが、重要な部分が損傷しているようです、直すのは相当先になりますのでご了承を」
夕張「…じゃあ、何かを触っても壊れたりとか…」
大淀「しませんよ」
…それはある意味、助かった…
私じゃ東京の街を歩いたら軒先の電子機器を片っ端から壊しかねない…
いや、多少オーバーな表現だけど
大淀「それと、加賀さん、今日の分の代金は領収書をもらうように、後で返済します」
加賀「わかりました」
夕張「…流石にお金あるのね」
大淀「見栄ですよ」
夕張「…うわぁ…凄い…」
生まれて初めて東京に来た…
佐世保時代も、私の生体ユニットの仕様上、あんまり大きな街には近づけなかったし、そうでなくても電子機器のコーティングが普及する前は市街地を歩いてるだけで周りの人のスマホを故障させた事があった
…それが、そうならなくて済む
ある意味、解放された様な気がしてくる
加賀「楽しそうね」
夕張「だって…こんなキラキラした街…今まで来た事なかった…!
北上達と行ったところだって…こんなに人は多くなかったし…!」
加賀「……そう」
ふらふらと歩き回る
杖をつきながらだから、人混みを避けて、なんとか駅までやってきた
夕張「…わ、ねえ、この下って何かやってるの?」
階段の方から、音楽が…
加賀「地下ライブだと思うけど」
夕張「行ってみたい!」
普段なら階段で降りられるのに、態々エレベーターを探すところから始まり、ようやく見つけたエレベーターで降りる
夕張(終わってないといいけど…あ!)
夕張「おー、やってる…って、アレ?」
確かに、歌って踊る女の子が1人…でも、人通りはあるのに…
…通り過ぎる人はいても、誰も…立ち止まりもしない
夕張「……」
加賀「ああ、成程」
もっと近寄って、じっと眺める
夕張「!」
こちらに気づいたのか、笑顔で笑いかけてくる
夕張「うわぁ…可愛い…何歳だろ」
加賀「オッサンくさい事言うのね」
夕張「うら若き20歳の乙女に何を…」
加賀「えっ年上?」
夕張「…いくつ?」
加賀「19だけど」
夕張(…そんなに発育良くて19…?私より大人びた雰囲気しておいて年下…?)
夕張「……あの子、25くらいだったりしないかな」
曲が終わり、アイドルの女の子がこちらを向く
那珂「聞いてくれてありがとー!」
夕張「え、あ、うん?」
距離が近い…っていうか、いつの間にか手を握られてて逃げられない…
那珂「今日はどこから来たの?今からどこかに行く途中?」
夕張「あ、あーえっと、たまたま通りがかりで…」
那珂「良かったら、この後のライブも最後まで聴いていってね!次でラストだから!」
夕張「は、はい…」
加賀「…はあ…」
人通りが多い中、路上に腰を下ろし、特等席のライブ鑑賞
まさかこんな事になるとは思わなかったけど
那珂「〜♪〜♪」
夕張「こんなに歌が上手いのに、どうして誰も…」
加賀「気づいてないの?…コホン、わからないんですか?」
夕張「年下だからって敬語にするのやめて…地味にクるから…
で、何が?」
加賀「彼女、艦娘ですよ」
那珂「〜っ〜♪」
その声が聞こえてか、一瞬音がズレた…
そう言えば、首に白いフリルのついたチョーカー…
いや、アレは“首輪”か
夕張「ふーん…そんなので差別的な目向けて…気にしなきゃいいのに」
加賀「私達だからそう思えるんですよ」
那珂「…最後まで聴いてくれてありがとー!」
夕張「すっごく上手だった、来れるかはわからないけど、機会があったらまた来るから」
那珂「え…?いいの?」
…艦娘だからって、固定客がついた事が無いのだろうか、意外そうに目を丸められる
夕張「……大きい声で言えないけど、私達もなの」
那珂「…へ!?そ、そーなの!?」
加賀「あまり大声を出さないでください」
夕張「…ごめんね、人間のファンじゃなくて…でも、すっごく楽しかった、初めての経験だったし」
那珂「そっか…ううん!ありがと!那珂ちゃんはね、毎週月水金でこの時間にライブやってるから……その、よかったら会いに来てね!」
夕張「那珂って言うのね、私は夕張、よろしく」
那珂「夕張…?え、あ…!あの、佐世保の…?あの、艤装による艦娘の負担軽減のプログラムとかを組んだ…?」
夕張「たはは…ばれたか、詳しいね」
那珂「そ、そりゃ…艦娘ならみんな知ってるよ…!」
…北上達は私の事まるで知らなかったけど
那珂「え、すごいすごーい!」
夕張「…せっかくだし、ご飯でもどう?加賀もいいわよね?」
加賀「構いませんけど」
夕張「だから敬語やめて…」
那珂「……あの、でも…2人は…その、“首輪付き”じゃ…」
…アイドルをやってるこの子にとって、首輪はそれほどのコンプレックスになる…当然か
夕張「私達は気にしないから、後は那珂次第だと思うわ」
那珂「…じゃ、じゃあ…ちょっとだけ!あ、着替えてきます!」
夕張「ごゆっくり〜」
加賀「……いいの?」
夕張「何が?」
加賀「残酷なだけだと思うけど…優しくしても、少ししたら貴方はあの場所に戻るんでしょう?」
夕張「それなら、車に乗って会いに行けばいいじゃない」
加賀「……」
夕張「それに…前までの、逃げてた私なら…こうは行かなかった、今は他人を見るだけの余裕がある…それって素敵な事じゃない?」
加賀「その結果がその身体ですか」
夕張「手痛いなぁ…あ」
那珂「お待たせしました!」
加賀「メガネなのね」
那珂「ギャップ狙いだったりして!」
イタズラっぽい笑顔が良く似合う、女の子…
夕張「ちなみに歳は?」
那珂「15です!」
夕張「っ……っ…そう…」
那珂(え、なんだかショック受けてる…?)
加賀「近いところだと…焼肉屋でいいかしら?」
夕張「アイドルに焼肉食べさせようとする?普通…もっと別なところの方が那珂ちゃんも…」
那珂「焼肉……」
…凄い顔してる…と言うか、この子もよく見たらかなり痩せて…
夕張「確かに、私もガッツリお肉食べるのなんて久々かぁ……匂いケアとかある?」
那珂「あ、は、はい!」
夕張「よし!そこにしましょうか!」
那珂「い、いいの!?」
加賀「そうね、いい判断です」
夕張(まあ、財布私じゃないから…いいか)
那珂「うわぁ…焼肉屋さんなんて…凄いなぁ…」
夕張(思えば私もあんまり来たことないかも)
加賀「すみません、とりあえずタンを5つ、ハラミ2人前とカルビ2人前を…
それとドリンクはコーラとメロンソーダ、後ウーロン茶で」
夕張「注文早っ…」
那珂「……あの、ところで…」
夕張「ん?」
那珂「なんで、那珂ちゃんに良くしてくれるのかなって…その…那珂ちゃん、別に売れてるわけでも、無いし…」
夕張「まあ…その、ねえ?」
加賀「困ったからって私に振らないでください」
夕張「…別に、大した理由なんてないの…ただ、たまたま私達はあの場所にいて、知り合えたからこうして一緒にご飯食べようってだけ…
それより、その…そっちはなんでアイドルなんてやってるの?」
那珂「好きだから…私の歌で笑ってくれる人が、それを見るのが、好きだから」
夕張「…そっか…素敵ね」
那珂「うん…ありがと…」
さっきまで歌ってた時とは全然違う…おとなしくて、ちょっとオドオドしてて…
夕張「頑張ってるのが、よくわかる」
那珂「え?」
夕張「私の仲間にもいるの、自分より仲間を優先して、痛い目を何度も見てる奴が…ちょっとそいつに似てるなって」
那珂「そうなんだ…」
夕張「応援させてね、その夢」
那珂「…うん!」
加賀「食事が来ましたよ」
加賀がタンを網に乗せる
夕張「…みんなに持って帰りたいな…」
加賀「焼肉弁当ならテイクアウトできると思います」
夕張「じゃあ、それあとで買わないと」
那珂「……」
…そっか
夕張「もしかして、誰か待ってる人がいるの?」
那珂「えっ?」
夕張「なんとなくそんな気がしてね、私にもいるの…よかったら、中ちゃんも、おみやの弁当持って帰る?」
那珂「そ、そんな…その…」
夕張「自分だけ食べる罪悪感は嫌よね、よくわかるもの…
何人なの?」
那珂「……2人」
夕張「加賀、よろしくね」
加賀「…わかりました、それより、焼けてますけど」
夕張「食べることしか頭にないの…?」
加賀「明日食べられる確証がないんです、目の前の食事を
貴方も食べないなら、知りませんけど」
那珂「…いただきます!」
夕張「いただきます…あむっ……んー…タンって薄いのに歯応えがあって…いいわよね」
加賀「そうですね…あ、すみません、ロースと豚バラ、それとハラミ追加で」
那珂「…お肉…お肉だ…!」
…こんなに嬉しそうに食べて…
夕張(…この子も、苦しいのね…)
夕張「ねえ、その…今の生活って、どうやって暮らしてるの?」
那珂「え?…その…国からの支給が…一応あって…それと、バイトで…」
夕張「バイト?雇ってくれるところなんてあるんだ…」
那珂「…人手不足だから…その、人目につかない裏方の仕事とかならたまに…でも、お給料は普通の人より少なくて…」
夕張「それって法律的にどうなの?」
加賀「残念ながら問題ありません、人としての扱いは受けられませんから」
夕張「そんな…」
那珂「国のおかげで、住むところと学費はなんとかなってるけど…生活するには全然足りなくて…」
夕張「学校に行けるのね…」
那珂「うん…でも、電気代、水道代とか…そんなの払ったり、学校で使うものとか…気づいたら、毎月のお金がいつの間にか…」
加賀「そもそも、東京で暮らすにはかなり少ない金額ですからね」
夕張「どこも大変なのね…」
那珂「…その、夕張さんの方は…?」
夕張「え?あー…その…」
加賀「聞かないであげてください、酷い思いをしたばかりのようなので
那珂「そ、そうなんだ…ごめんなさい」
夕張「ま、まあ!今度ね!ほら、お肉焼けてるから!」
…美味しいんだけど、味がしないなぁ…