食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
…薄暗い会議室で、沢山の視線を浴びる
コレが私の仕事、この世で1番嫌な時間
だけど、この仕事をこなさなくては…私は報いれない
大臣「それで、今回の件を軽く見ると危険だというのか?」
大淀「ええ、そうです、艦娘といえど、人権を失った訳ではありません、“人間に見放された”だけで、彼女達もみんな人間です
そもそも記憶や人格を喰らう化け物なんて存在しません、生体ユニットによるバグでしかない、だというのにこんな事態に陥った…
追い詰められた人は何をするかわかりません」
…今回の件に先輩が絡んだのはまずかった
そして、とうとう首輪付きにまで手を出された…これ以上は、もう待てない
大淀「さて、本当に首輪で艦娘は制御できるのかですが…答えは否
これ以上、力を持つものを押さえつけてはならない…共存しなくては、艦娘という存在は第二の深海棲艦と成り果てる」
脅威と共存するのはいつの時代も、変わらない
それが石の槍から弓矢、刀、銃火器、そして核兵器へと移り変わった様に
大淀「皮肉にも、深海棲艦のおかげで世界は平和です、なぜなら共通の敵がいて、それに気を配らなくてはあっという間に自国を滅ぼされかねないから
戦争開始直後に滅んだいくつかの国々の二の舞にならない為に、止むを得ず手を組み…そしてそれが歴史上最も平和な時を作った
なら、それ維持するために、早急に艦娘を再任用するべきでしょう」
今、この瞬間、手を進めなくては
大淀「大湊警備隊を横須賀基地に配置、私の管理下とします、それだけで…十分な抑止力です」
加賀「お見事でした、明日にも取り掛かることができるなんて、夢の様です」
大淀「遅過ぎたくらいですよ、自分が嫌になる」
…遅過ぎた、本当に遅過ぎた
私の守りたかったものは、もう
無事なのはほんの一握り…いや、それ以下だった
大淀「瑞鶴さんは?」
加賀「…寝込んでいます、殺人現場より
大淀「…理解すれば、いいのに」
加賀「理解…?」
大淀「
対人戦において最も重要なのは手が読まれない事、相手を怯えさせるんですよ」
加賀「怯えさせる…?…まさか、あそこで倒れていた男達全員が、怯えたと?」
大淀「北上さんの姿を見てどう思いましたか?
報告通りなら、顔面血まみれ、手には穴が空いてるし、肩も何かが貫通した跡…そんな姿で向かってくる獣の様な人間…
まるでゾンビですね、この時点で普通の人間は立ち向かう意志を削がれます」
加賀「まあ…確かにそうかも知れませんが…」
大淀「…聞き取り調査の記録を見るに、拘束されている状況から手痛い反撃、それも野獣の様なやり方…
何より痛みを恐れる気配がない、コレだけで恐怖の対象、それがにこやかに笑いでもしたら?
…とにかく惨たらしく攻め立てることで、相手を恐怖で支配する」
理性で本能をコントロールする、そして、相手の手の内を操作し、自身の次の手を予想させない
加賀「…そんな事が、本当に…?」
大淀「できてるから、生きて帰って来た…もちろん、全て計算づくとは言いません、でも、それをやってのける実力がある
だから不安定なんです、あの人に首輪をかけるなんて誰にもできない」
加賀「…それでも、川内って子にはやられたみたいだけど」
大淀「…“
大切な妹が攫われた怒りでね
そして北上さんの理性は川内さんの反応に圧倒された」
加賀「……」
大淀「しかし…首輪さえつければ、安心して生きられる…筈だったんですが…どうやら、そうもいかなくなりました
となれば、人間は再度認識を改めなくてはなりません
誰に守られていて、誰が敵なのかを」
北上「…また出て来たんだ、何の用?…ふざけた事言ったらこの身体でも捻るよ」
全身包帯巻きの痛々しいその姿でも、気迫は変わらず…か
大淀「ご安心ください、私はいつだって真面目そのものです、先輩の気にいる話かは別として…」
病室に険悪な空気が流れてしまう
4人部屋だというのに、迷惑だろうか
大淀「…ああ、そういえば、対面はあなたになったんでしたか、初めまして、お姉さんのご活躍はよく知っています」
神通「……」
神通さんがこちらに会釈をする
夕張さんは寝てる必要がなかったので退院した
北上「で、何」
大淀「待ってください、私はまだ他の方に挨拶が済んでいませんから」
この部屋は、北上さんと夕張さんのために用意したけど、元々4人部屋…
大淀(…よかった)
2人の私を見る目は、怯えでも、憎悪でも、恐怖でも無かった
と言っても、片方は視力を失っているから…声を頼りにこちらを向いているはず
大淀「久しぶりですね、その…大丈夫ですか?」
朧「あ…うん…」
響「…大淀さんなの?」
朧「うん、大淀さん…」
…2人は私を知っている、北上さんの事も
でも、北上さんは2人を認識できていない
記憶が欠落している
北上(…知り合い?)
大淀「響ちゃん、ここに居ますよ、わかりますか?」
響ちゃんの頬に手を置く
そして、それに小さな手が重なる
響「うん…わかる」
…この子は、視力を失っている
そして、もう1人は、目に見えないものの、臓器の故障
大淀「…辛い思いをさせて、ごめんなさい…」
響「……」
少し、響ちゃんの手が強張る
…思うところがあるのはわかる
そして、それが
大淀「…役者が揃いましたか」
病室の扉が開き、夕張さんと川内さんが入ってくる
夕張「…話って何?」
大淀「さて、今日はみなさんにあるお話を持って来ました、もちろん拒否しても構いません」
北上「なら、断固お断りだね」
夕張「北上!…とりあえず、聞くだけ聞こうよ…」
大淀「話は簡単です、貴方達全員、もちろんこの朧ちゃんと響ちゃんも、川内さん達も全員が対象の話です」
川内「…なんで?」
川内さんが手を腰に回した
いつ首を刎ねられてもおかしくはない
大淀「皆さんの安全の為の話、いや…全ての艦娘のためになる話です」
北上「もったいつけず、さっさと話しなよ」
大淀「皆さんは明日から横須賀基地の所属となり、そこで生活していただきます」
夕張「…はっ…?」
朧「よ…横須賀…?」
川内「横須賀って言えば…あの…?」
…横須賀基地、それは現在の日本においては自衛隊の基地であり、そして神奈川という首都に近い県に配置された基地
その基地の役割は、当然軍事的な意味もあるが、国民に対する展示などの役割もある
北上「…成る程ね…いいじゃん、利用されてあげる」
大淀「さすが先輩、わかっていただけると思いました」
そして、これは…深海棲艦の求めた艦娘の廃止に対する真っ向からの否定
コレこそが、ずっと待ち望んでいた反抗の機会
夕張「つまり…艦娘のイメージアップ、艦娘をもう一度世界に受け入れられる様にするって事でしょ…?」
大淀「皆さんの力で、もし艦娘が自由に街を歩ける世界になったのなら、きっと安定した生活も手に入るはずです」
川内「……それって、まだ安定した生活にはならないって事?」
大淀「その辺は追々、それでは、私は一度失礼します、やることは山積みですので」
病室を足早に去る
加賀「…良いんですか?正確に伝えなくて」
大淀「だって、ホントのこと言ったらみんな受け入れないでしょうから」
あとで提示する契約書の内容はこうだ
艦娘を備品として、横須賀基地に配置する
…つまり、雇用では無く、ただ配置するだけ
それでも…コレが踏み出すべき第一歩
大淀「ようやく、踏み出せた」