食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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三十食目

北上「…ひっろいなぁ…ここ」

 

ほんとにただの倉庫とは思えない広さしてる…

イメージで言うなら学校とかの体育館よりも広い

 

アイオワ「Hey!ここ凄いわ!」

 

霞「トイレの水が自動で流れるのよ!」

 

北上「…そいつはようござんした」

 

庶民的なことで喜んでるなぁ…

 

夕張「でも、ここほんとにすごいところよ、あったかいシャワーなんて久々に浴びたし」

 

それに関しては同意する

匂いが気になったら冷たい水を浴びるしかなかったし

 

北上「何でここ使ってないんだろ」

 

夕張「横須賀はもともと米軍と共用の基地だったんだけど、深海棲艦のせいで引き上げて以来このあたりは使われてないらしいわ

実際基地として運営してるのも南側の小さい区画だけらしいし」

 

今あたし達がいるのは、貉湾(むじなわん)のあたりに面する倉庫

横須賀基地ってかなりの範囲しめてるんだよね

ちなみに近くに艦隊司令部もあるらしいけどここも今は無人だって

 

北上「へえ…じゃあ多少自由は効きそうだね」

 

夕張「ね、中の資材とかは、ほぼ廃材だったりだけど…ツールバックとか、クレーンとかもあるし…これなら、多少は作業できそう」

 

北上「…とりあえず、床にそのまま寝るしかないのはどうにかしない?」

 

夕張「確かに、それは問題点だけど…大丈夫!今、早霜ちゃん達がそれの対応に出てくれてるから」

 

北上「川内達は?」

 

夕張「阿武隈ちゃん達を連れて片付けだって」

 

北上「…動けない子達は?」

 

夕張「霞ちゃんと曙ちゃん、それから暁ちゃん達が…」

 

北上「…そ」

 

夕張(……)

 

北上「散策しながら食べ物でも探そうかな…今何人になったっけ?

アイオワ、暁、曙、阿武隈、霞、如月、早霜、睦月、夕張さん、で、川内と神通って人と…あと2人…響と朧だっけ」

 

夕張「北上入れて14人か…そういえば、那珂ちゃんは来なかったのよね、大丈夫かなぁ」

 

北上「川内の妹だっけ、大丈夫じゃない?多分」

 

夕張「だといいんだけど…」

 

北上「……にしても、1人は目が見えない、1人は下半身不随、1人は喉がダメで1人は臓器系に問題がある…

三分の一がボロボロだね」

 

夕張(メンタル的にいえば、半数以上が問題を抱えてる…北上はその中でもかなりマズイと思うけど…自分では気づけてない)

 

北上「…あたしは…どうしようかな」

 

夕張「散策でもして来る?」

 

北上「じゃ、お言葉に甘えて」

 

…14か…何とも増えたね

こりゃ食べるのも大変だ

 

 

 

北上「んー…どうしよう、この辺の山とか入る?その辺の動物とかなら簡単に…」

 

こういう基地の敷地には大体ある、草木の生い茂った原生動物の住処になるスペース

そこに行けば基本的に人間に撃たれることもないせいで危機感忘れた獲物がそりゃあウジャウジャと

 

北上「お、ハクビシン?今のって」

 

大湊の方じゃ人前に姿なんて見せなかった

それがこんなに簡単に捕まえられる位置に来るなんて…

 

北上「うわっ!?」

 

こっちに何の警戒もなく寄ってくるあの獣は…

 

北上「…き、来たら食べるよ?…来ないでよ…?」

 

すぐそばまで近寄り、鼻をスンスンと鳴らして体をなすりつけてくる

そしてひと鳴き

 

猫「にゃ〜ん」

 

北上「……これは食べれないわ…」

 

…やばい、猫食べる人間なんてこの世にいるの?

犬も無理、あたし愛玩動物食べれるとしたらパンダかなぁ…

 

なんか、パンダって可愛い動物として見れないんだよね、何でだろ?

 

 

 

北上「……はぁ……猫と戯れてしまった…」

 

食べ物としてではなく、ただ()でる為に動物と接する

…何だか、懐かしいのに不思議だなぁ…

 

北上「…堪能したぁ……ん?」

 

…この基地の隊員…?

 

隊員「なあ、アンタ昨日来た艦娘だよな」

 

…なんか、気安いっていうか

恐れられてないっていうか…

 

北上「……艦娘嫌いじゃないんだ?」

 

隊員「ああわかるのか?」

 

北上「まあ…散々嫌われてきたからね」

 

隊員「それは辛いな、ところでさ、アンタのとこに…この人がいると思うんだけど」

 

写真を出してくる

…夕張さんの

 

北上(でも、なんか違和感あるな……

っていうか、学生服!…そっか、昔の写真?)

 

北上「アンタ何者?」

 

隊員「…その写真の人の家族だよ」

 

北上「家族…?家族!?」

 

隊員「ああ、だから、会いたいんだ」

 

…肉親…か…

ありえない話じゃないっていうか、あたしも親って名乗る人とかには会った

 

…でも、あたしを含め、知人と出会った人はみんな…

 

北上「やめた方がいいよ、忘れられてるから」

 

隊員「…よく言うよな、艦娘は人を記憶を喰らう化け物に喰わせて作るって…でも、俺はそんなの信じてないんだ

きっと思い出してくれるって思ってる」

 

北上「……本人と相談させて」

 

隊員「ああ、返事はいつでもいい」

 

辛い思いをするだけなのに

あたしなんて写真見せられて、泣きながら「わかる?わかるって言って!」って言われて、最後には知らない子の名前を叫びながら「──を返して!この人殺し!」だもんね

 

北上「…気が重いなぁ……」

 

…でも、もし夕張さんが受け入れられたなら…

 

北上「幸せになるチャンスだよねぇ……はぁ…」

 

足元の石を拾い、空に向かって投げる

別に何か望んでるわけじゃない

ただ、何かに気持ちをぶつけたかった…

 

北上「…はぁ………うわっ!?」

 

目の前にトンビが落ちてくる

さっきの石が当たったらしく、もうすでに息はない…

 

北上「……これは…不可抗力になるよね?」

 

 

 

 

川内「で、持って帰ってきたと」

 

北上「こういう鳥って獲っちゃダメなんなけど…その…死んじゃったし…」

 

夕張「反省してよ?…一応、横須賀に置いてもらってるんだから、そう言うの見られたらうるさいわよ」

 

北上「……で、これ食べたいんだけど」

 

夕張(あー、ダメだこれは)

 

川内「トンビを!?…嘘でしょ…?」

 

夕張「いや…カラスも食べたし…」

 

川内「…ヤバ」

 

北上「でも、明らかに獣臭いんだよね、ほら」

 

夕張「…すんっ…うわっ」

 

川内「これ食べるのあたしは反対だよ…」

 

北上「他に食べるものなんかあるの?」

 

川内「…奥に釣具があったから、釣りしてる、小物しかまだかかってないけど」

 

夕張「それと一応保存食の残ってる分がまだ…」

 

北上「……お給料でも出れば、買い物に行けるのにねぇ」

 

夕張「出るわけないでしょ」

 

川内「…そーだね」

 

夕張「…あ、先に言っとくけど…明日私の生体ユニットの修理だから、居ないからね?」

 

北上「え?修理するの?そのまま使えないまんまでいいんじゃ…」

 

夕張「ダメよ、故障した生体ユニットを放置したら体に悪い影響が出るの、それに…

生体ユニットが使えると、地味に便利だったりするのよね…テレビのチャンネル変えたり、レンジの温め設定したり…」

 

川内「使い方しょうもな…」

 

北上「って言うか、電化製品触れるだけで壊すって話は?」

 

夕張「離れてるとちょうどよく電波を飛ばせるから、逆に操作し易いの」

 

川内「ええ…?」

 

北上「……まあ、いいや、夕張さん、ちょっと来て」

 

夕張「うん?」

 

 

 

 

夕張「…家族…か」

 

北上「意外と驚かないね」

 

夕張「そりゃね、だって…うん、無い話じゃないもの、たくさんそう言う話は聞いたから」

 

北上「どうする?会いたくないならそう伝えるよ」

 

夕張「…いや、会う」

 

北上(大丈夫かな)

 

夕張「向こうが夕張を受け入れるかどうかわからないけどね」

 

北上「…“夕張”を?」

 

夕張「だって、もともと家族だからって今の私を否定されたらたまったものじゃないし?

…何より、私は…否定されたくないし、否定したくない…誰とだって、何とだって分かり合えるのかもって思ったから」

 

夕張さんがじっと何かを見つめる

 

北上「…?…あれ、その石、何?」

 

視線の先に、なんか、小さい積み石が…

 

夕張「…さあね?自然にできたんじゃない?」

 

明らかに人工的だし…接合部ボンド見えてるし…

 

北上「お墓?」

 

夕張(…結局、ヲ級に変えられたウチの1人なのかな、私も)

 

北上(仲間の何人かくらい…死んでても不思議じゃないか、そう思うとあたしはまだマシなんかなぁ…)

 

夕張「北上…何人死んだ…?」

 

北上「…さあ…覚えてないよ」

 

夕張「近しい人の死んだ数は?」

 

北上「…無いね」

 

夕張「…そっか」

 

夕張(…ヲ級、あなたの名前を調べて、ここに彫るから…もう少し待ってて)

 

北上「…あたし、コレ料理してくるわ」

 

ダメだな、今の夕張さん相手にあたしじゃ何もいえないや

 

 

 

 

北上「お、川内捕まえた」

 

川内「え、なに」

 

北上「トンビ、食べさせてあげる」

 

川内「…いや、いい…あ、離して…」

 

北上「はーい、逃さないよ」

 

 

 

川内「…何かを忘れてる?…ああ、生体ユニットの反応で?」

 

北上「うん、よくある話でしょ」

 

トンビの羽をむしり、熱湯に突っ込む

 

川内「まあね、それで記憶の半分無くなったみたいな事、たまにあるし」

 

北上「…特定の何かを忘れた子は何人か見た、あたしだって多分…何かは忘れてる、何かまではわからないけど」

 

川内「それを…代わりに聞いて欲しいわけ?」

 

北上「ここにくる直前までなんだよ、あの病院に寝てた理由もわからないけど…」

 

茹で上がったトンビ肉を骨から外し、手でほぐす

 

北上「とにかく、そのままにしてたら…いけない気がして」

 

川内「…忘れたってことは、思い出さない方がいいってことじゃ無いの?」

 

北上「だと思うけどね、それでもだよ」

 

トンビ肉を大きな野草で包み、火に突っ込む

 

川内「……北上、そろそろ離してくれない?」

 

北上「もう少ししたら完成だから待ってて」

 

川内「…食べたく無いなぁ…」

 

北上「まあ、正直これはあたしも美味しく無いと思う」

 

川内(それ食べさせるんだ?)

 

北上「でも、生き残るには味にこだわる余裕なんてないからね」

 

川内「……はぁ…」

 

焼けこげた草を剥がし、中で蒸し焼きになったほぐした肉を頬張る

 

北上「…むぐ…む……」

 

獣臭い…し、肉もなんだか…硬いし変な味がする

 

川内「…その反応見せられて食べるのってすごい勇気が…あっ!?」

 

喋ってる川内の口に放り込む

 

川内「……おえっ…げえぇ…」

 

北上「そんなに?」

 

川内「よく呑み込めたね…うえっ…無理……」

 

北上「臭いだけじゃん、それに草の匂いで多少マシになってると思うけど」

 

川内「相乗効果で2倍最悪…やばい…」

 

北上「…みんなには食べさせられないか…むしゃ…」

 

川内(え、まだ食べるの…)

 

北上「…夕張さんの事、頼んだよ」

 

川内「両方、ね」

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