食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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四食目

やっほー、北上様だよ

今日も元気に食い繋いでいこうか

と思ってたんだけど…

 

北上「何?人の家にズカズカ上がり込んでさ、あたしら相手に何の用?」

 

大淀「良いから黙って両手をあげなさい、そうすれば貴方を撃たずに済みます」

 

額にゴリゴリと銃口を突きつけられて正直痛い

今日は収穫がないせいでろくに食べてないから抵抗するのも気怠い

ちなみにサメの干し肉はあの後みんなで食べ尽くした

 

北上「……」

 

しかし、こうなると駆逐達はどうなっただろうか?多分大淀一人じゃない、部隊を連れてきてるはず、そうなると…

抵抗せず大人しく捕まっただけならまだ良い…

いや、睦月なんかは…パニックになる、それで暴れたりしたら…

 

北上「殺し合いになるのかなぁ…」

 

大淀「貴方が私に従えば、なりませんよ。

きっと睦月ちゃんも貴方なら抑え込める」

 

北上「…成る程、まだ突入はさせてないのか」

 

大淀「ええ、私一人で貴方を押さえてからゆっくりと他の方にもお話を聞くつもりです」

 

北上「……アンタらにとってあたしらは何な訳?」

 

大淀「容疑者です、殺人、強盗など、複数の罪が問われています」

 

北上「…従ったらどうなる?」

 

大淀「犯人役を一人差し出せば解決しますよ」

 

北上「舐めてんの?」

 

つまり、あたしらが無罪と知っての暴挙だ

 

大淀「…元同僚としての最大限の優しさです、ここに来たばかりの新人を一人差し出せば終わる」

 

突きつけられた拳銃を握って、立ち上がり、銃口を心臓に持っていく

 

北上「撃ちなよ、あたしが抵抗したって言ってさ…

確かに今死にたくはない、でも、仲間見捨てて生きるのはもう沢山だ」

 

大淀「……そうですか」

 

北上「そうだよ」

 

大淀「では、より難易度の高いことを頼まなくてはなりませんね」

 

北上「…あ…?」

 

大淀「貴方を雇います、北上さん、悪い話ではないですよ」

 

北上「……」

 

 

 

 

北上「つまり、前話してたタンカーやら漁船を襲う海賊の始末をつけろ…と」

 

大淀「そうです、もちろん犯人が貴方達ではないことくらいは知っています、でもこうして来たのは上からの指示でして」

 

北上「相変わらず“犬”やってるんだ」

 

大淀「ふふ……ワンッ!…コレで満足ですか?」

 

北上「ちぇっ…」

 

大淀「プライドでお腹は膨れませんよ、北上さん。

まあ、仕事を受けてくれたら代価は払いましょう、何が欲しいですか?

お金ですか?それとも土地ですか?家もつけましょうか、それとも…迫害されずに済む、艦娘であった記録の抹消……とか?」

 

…相変わらず人参ぶら下げるのが上手い…

服さえ着ていれば見た目の区別はつかない、背中の大きな手術痕さえ隠せば人として生きていける

 

艦娘としての記録も何もかも抹消されるのなら…

 

北上「ま、お断りだね」

 

大淀「でしょうね、貴方がここの子達を見捨てるとは思えませんでしたから」

 

北上「…でも、もう少し詳しい内容くらいは聞いてもいい」

 

大淀「海賊の始末…と言う名目でお話ししましたが、正確にはタンカーの…その中のある物品の護衛です、それ以外はどうなっても構いません」

 

北上「へえ?…それこそあたしに頼む仕事じゃないよね、軍隊はどこいったのさ、アンタの連れて来た特殊部隊は?」

 

大淀「こちらにも事情がありまして」

 

…どうにもきな臭い

 

北上「……ダメだ、そこまで臭い話には乗らない、まだ切羽詰まってないしね」

 

大淀「…まだ断る権利があるとお思いで?」

 

…そうくるか

確かに、駆逐達を人質に取られるのは…避けたいな

 

北上「…自分が何してるかわかってる?」

 

大淀「ふふ……ワン」

 

北上「……最低」

 

こいつ、相変わらず最低だ

 

 

 

 

北上「空調付きのリムジンカー…ってやつ?初めて乗ったよ、なんなら一生ここに住みたいくらい」

 

大淀「私のお抱えになれば、乗せてあげてもいいですよ」

 

北上「誰が…」

 

大淀「…さて、長丁場になりますし、スナックでもどうです?」

 

大淀が椅子の端に置いてあった袋をこちらに向ける

 

北上「先に食べて」

 

大淀「はい」

 

何の躊躇いもなく、中身をつまみ出して食べるあたり、毒物はない

いや、あたしを利用したいなら今は警戒しなくてもいいのはわかってるけど…

 

北上「じゃ、貰う……う…!?」

 

つまみ上げたものを見て思わず言葉を失ってしまった

 

大淀「おや…お嫌いでしたか?オケラ」

 

…虫を乾燥させたもの…?

コレが、スナック…?

 

大淀「割と今、コアな人気があるんですよ、昆虫食って呼ばれてます」

 

北上「コレが…人気…?」

 

あたしが生活に困窮してやむを得ず食べる様な、

そんな焼いた虫と同じレベルのものが…

 

大淀「ちなみにこの袋15グラムで大体1000円程です」

 

北上「な………」

 

全く、言葉も出ない…

ほんとにいやらしいことをしてくる、ここまで生活の差があるんだと教え込む為に態々…?

 

北上「…むぐ………マズ…」

 

…コレも、食べてみたら味すらしない

羽や脚が葉に挟まってくるだけで…美味しくない…

 

北上「よくコレにお金出すね」

 

大淀「まあ、興味が湧いたので」

 

…ほんとに嫌味な奴…

 

大淀「ではドライブスルーにでも寄りますか?好きなものを言ってください」

 

北上「要らない、気分悪くなって来たわ」

 

大淀「車酔いでしょうか?…ふふ…今日はやめておく、なんてことは無しですよ?」

 

北上「わーってるっての」

 

…でも、選択肢がなかったとはいえ、よくない道だ

このままじゃ飼い殺しにされかねない…

 

大淀「…と……携帯が…少し失礼します。

はい…ええ、私です………おや、そうですか、遅かったですか…

ええ、わかりました、大丈夫です、プランは変更しますが問題はありません」

 

…嫌な予感がする

 

大淀「護衛予定のパッケージが襲撃を受けました、今行ってもどうにもならないでしょうから…すみません、そこの蕎麦屋で止めてください」

 

北上「…あのさ」

 

大淀「ゆっくりお蕎麦でも食べながら待ちましょう、蕎麦、大丈夫ですよね?」

 

北上「……はぁ…まさか、店に入るつもり?」

 

大淀「ええ、何か問題でも?」

 

 

 

 

 

北上「……嘘だ…」

 

すんなりと席に案内された…

観測者(オブザーバー)のみんなには当たり前のことだろうけど、一つだけ言っておくよ

コレは絶対異常なこと、何が異常かって、本来なら閉め出されるのが当たり前なんだよ

 

大淀「すみません、天ざるひとつ…と、どうします?」

 

北上「…かけで」

 

大淀「遠慮しなくてもいいのに…では以上で」

 

…店員はよそよそしい態度を取ってた

多分艦娘だって気づいてる、でも追い出さないのか…

 

大淀「怖がらなくても大丈夫ですよ、私の前で貴方を追い出したりはできませんから」

 

北上「…流石、政府直属の人間は違うね…そんな権力を振りかざす真似して楽しい?」

 

大淀「少なくとも、隠れて生きることを強要されるよりは自由ですから」

 

北上「……だろうね」

 

…せっかく外で食べるご飯なのに、全然気乗りしない

あんなに憧れてた、久々なまともな食事なのに

全く嬉しくない

 

大淀「さあ、来ましたよ、食べましょう?」

 

北上「…いただきます」

 

…なんだかなぁ…

悔しいな…

 

北上「…ず…ずずず……もにょもにょ…」

 

…美味しい…わかってた、やっぱり美味しい

でも…悔しい……敗けた味がする

 

大淀「どうですか?ここ…結構お気に入りなんです」

 

北上「そう…いんじゃないの」

 

心のうちでは渦巻くものがあるのに、気づけば完食

虫とかよりは美味しかった…当たり前だけど

 

大淀「さて、お腹も膨れたところで仕事の話をしましょうか?」

 

北上「…わかってるよ…」


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