食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

50 / 157
三十一食目

やっほ〜、北上様だよ

好きな野草はたんぽぽとギシギシ、とくにたんぽぽは何処にでもあるし、目立つから良いよね

花から根っこまで食べられるし、すごくおすすめ

選ぶ時は若くて硬くない葉を選んだら苦味が少なくて、さらに美味しく食べたいなら茹でると良いよ、アクが抜けるから渋みもマシになるんだよね

 

北上「よし、こんなもんかな」

 

早霜「かなり取れましたね、たんぽぽ」

 

北上「だねぇ…あとは魚とか釣れてくれたら嬉しいんだけど…ここじゃ野ウサギもいないし、お肉がねぇ…」

 

早霜「あっちだと、リスクはありましたが、お肉が手に入りましたからね」

 

ホントなら、外のスーパーに買いに行く選択肢があるんだけど…

まあ、悲しい事に今のあたし達に現金はない

大湊のときみたいに…とはいかない、とりあえず…

 

北上(今は草とたまに釣れる魚で凌ぐしかない)

 

足元で飛び跳ねたバッタを捕まえる

 

北上「お、ラッキー」

 

早霜「…相変わらずですね」

 

北上「だって美味しいし」

 

早霜「……」

 

虫が美味しいと思って何が悪いのか

こうなったらイナゴの佃煮でも…

 

北上「…ん?」

 

……これは…

 

早霜「…誰か来ますね」

 

北上「川内…?じゃないか、じゃあ残りの1人の奴かな」

 

確か三姉妹だったはず

 

早霜「一応基地内部ですし、不法侵入になるのでは?」

 

北上「良いでしょ、別に…それにこっちは武器もないし、向こうが武器持ってたら逃げるしかないよ」

 

那珂「…あのー…」

 

早霜「はい、どちら様ですか」

 

那珂「これ…差し入れに…」

 

大きなエコバッグを押し付けられる

 

北上「…川内たちに会っていかないの?…いや、会えないか…」

 

那珂「……」

 

こちらを見る目が、一瞬鋭くなった

やっぱり予測は正しいらしい

 

北上「匂いでわかるよ、川内と同じだ、やる時は躊躇わないタイプでしょ」

 

那珂「なんの話ですか…?」

 

北上「復讐のために外に残ったんだよね、やめた方がいいよ、それ」

 

那珂「…そんな」

 

神通がやられた事、相当根に持ってる

当然だけどね

 

だから外で始末をつけたい訳だ

 

北上「成果はどう?」

 

那珂「…似たような事してる人達を捕まえはしたけど……何も、変わらない…」

 

北上「ならやめればいいのに」

 

那珂「…仕方ない、じゃん……私…アイドルなのに、歌って踊ってる時も、声をかけてる時も、ずっと…ずっとずっとずっと!頭をよぎるの…

お姉ちゃんが苦しんで、声を出せなくなって…

そんな中で、外でやりたい事を頑張るなんて…できないよ…」

 

北上「若いね〜」

 

感情の整理ができないお年頃かぁ

 

北上「せめて川内に会ったら?」

 

那珂「多分ボコボコにされる…かな……うん、間違いなくやられる…絶対怒っちゃうよ」

 

北上「あたしはもう少し優しいと思うけどなぁ…」

 

紙袋の中身を覗き込む

 

北上「…何これ、雑穀?」

 

細かいのがバラバラと…

 

那珂「…その、たくさん食べ物用意したかったんだけど…難しくて…それで、色々考えて…タネなら安くて、たくさん取れるかもしれないからいいかなって」

 

早霜(海沿いは農業に向いてないけど…)

 

北上「ありがとう、有効に使わせてもらうよ」

 

那珂「ハツカダイコンとか、その…収穫早そうなのとか入ってるから…その、役に立ててね…」

 

北上(…ほっといていいのかなぁ…)

 

あーいうタイプは引き下がらないし、納得するまでは終わらないけど…

 

北上(引き留めとかは、あたしには向いてないし…)

 

早霜「早速、植えられる場所を作らないと」

 

北上「あー、そうだね…っと」

 

…嫌いな香水の匂い…

 

北上「何、なんで来たの」

 

大淀「職務の一環で軽く見回りに」

 

北上「……」

 

大淀「それと、2つの仕事をお願いしようと思いまして、加賀さん」

 

加賀「はい」

 

加賀がスマホを差し出す

 

北上「…そういや、無くしたんだっけ」

 

大淀「海に捨てられたんですよ、仕事の内容は、1つ…那珂さんをここに定着させる事、2つ、海賊行為に手を貸している深海棲艦の討伐」

 

北上「…深海棲艦は嫌いだから、殺すのは構わないよ

でも、那珂は無理」

 

大淀「何も貴方1人で解決しろとは言いません、貴方はここの代表役…言い方を変えれば、“提督”や“指揮官”になるんですよ

あとはわかるでしょう?」

 

…つまり、そういうことか?

そうだとしたら…

 

早霜「き、北上さ…」

 

大淀に近寄り、胸ぐらを掴もうと手を伸ばす

 

北上「…邪魔しないでよ、加賀」

 

加賀「上司に危害を加えさせるわけにはいかないわ」

 

加賀があたしの腕をより強く握る

川内に刺された傷が開いたのか、肩がやけに熱い

 

大淀「…ふふ、早霜さん、怯えなくていいんですよ、北上さんは傷つけませんから」

 

北上「舐めた事…!」

 

大淀「一体何を怒っているんですか?

まさか、自分の身の回りにいる艦娘は役に立たないから、そんなところで指揮官なんかできない…とでも?

だったら自分1人でやってください、先輩」

 

北上「ふざけんな…!動ける奴らが支えて、ここで生きるのですらやっとなんだよ…!

なのに、死ぬかどうかわからないような仕事…」

 

大淀「任せられる相手がいないなら、貴方がやってください

何度も言いますよ、貴方に選択肢はないんです、全て私の手のひらの上なんですよ」

 

北上「っ〜…!!」

 

加賀「あまり、煽らないでいただけますか

この人を傷つけずに抑えるのは…難しくなってきます」

 

大淀「大丈夫ですよ、加賀さん相手に手を出す事はないでしょうから…海賊に関しては詳細を追ってメールしますので

ちゃんと報酬も用意します…が、あまりイメージの落ちる行為はしないでくださいね?」

 

北上「…武器は」

 

大淀「大湊の展示品の艤装を取り寄せています、あとは夕張さん次第でしょう…が、ケアは怠らないように」

 

北上「…チッ…!」

 

大淀「それでは失礼」

 

早霜「…北上さん」

 

北上「早霜…先戻ってて……あーあ…やっぱ血が滲んでるわ…」

 

 

 

 

 

阿武隈「夕張さん、頼まれてたもの置いておきますね!」

 

夕張「うん…ありがと」

 

曙「…根を詰めすぎじゃない?」

 

夕張「ちょっと今やらないといけなくて」

 

…嘘だ、とにかく今は意識をよそに向けたい

 

夕張「…すぐ終わるから」

 

嘘だ、こんなの完成するわけない

 

とにかく、私は…私は、自分のやったことを償わなければならない

 

夕張「……っ…はぁ…」

 

誰もいなくなった倉庫に溜息が響く

悲しくなる、私は違うと思っていた、寄り添うべき北上を内心差別的な目で見ていた、そして何より忘れてはいけない相手を忘れていた

 

夕張(…生体ユニットの強化実験、そして…完成させてはいけなかった、遠隔操作システム)

 

私の身体は私の実験に蝕まれ、私の記憶は私の実験に壊されていた

 

だから、私は…

 

夕張「…まずは、試作品」

 

生体ユニットに一切頼らない艤装を造らなくてはならない

それが、由良に対する償いであり、北上に対する謝罪であり、私の遺せる最大限だから

 

夕張(結局、幸せになる余裕なんてなかったんだ

私1人幸せになる、なんて無駄な心配、いらなかった)

 

細いワイヤーをバネのように巻いたり、引き金になる部分にワイヤーを通せる穴をつけたり

いろんな工夫を凝らしてみたけど

 

夕張「微妙な出来…そもそも、火力も足りない」

 

簡単な構造の単装砲

だけど、精度や威力がその辺の警察官の持ってる拳銃にも劣る

 

夕張(何より、火薬が足りない、少しはあったけど全然ダメ

機関部も作りたいけど、液体燃料もないし)

 

夕張「……どうしようかな」

 

硬い、コンクリートの床にごろんと寝る

冷たくて、温まった頭と首筋が気持ちいい

 

夕張「…あ」

 

北上「やっ…調子どう?」

 

夕張「最悪、主砲の試作品はできても、弾薬がね」

 

北上(…ここに来てたった数日で、その試作品ができてるのは凄いと思うんだけどな…)

 

夕張「火薬がダメ、有るもので代用してもちゃんと威力を出せない、燃焼剤も信頼性に欠ける

…でも、やれるだけはやるわ」

 

北上「火薬がダメなんだ?」

 

夕張「そう、ロクなのが無くてね」

 

北上「火薬庫じゃないの?ここ」

 

夕張「そんなわけないでしょ、北上はその辺詳しくないから知らなくても仕方ないけどね、燃料とか火薬が置いてある場所は電気を通さないの」

 

北上「…よくわかんないんだけど」

 

夕張「電気火花とかで着火したら困るから、電気が通らない建物に火薬とか、燃料を保管するの

野晒しなとこもあるかもしれないけど、普通は屋内か……あ」

 

北上「どしたのさ」

 

夕張「…ねえ、北上、ここ火薬庫なの?」

 

北上「いや、ちゃんとは知らないよ」

 

夕張「……地下!」

 

北上「地下?」

 

夕張「地下タンク!燃料を地下に保存することがあるの知ってる!?安全のためにね!

もしここがそういう施設なら、地下に…いや、この建物の中に地下への道はなかったから…!」

 

あるとしたら、近くにある建物!

そして、管理ができて、安全な場所…!

できれば取り出せる給油口を置ける場所が好ましい…!

 

北上「あ、ちょっと!どこ行くのさ!?」

 

夕張「艦隊司令部!どうせ誰もいないんでしょ!?」

 

北上「そうだけど!!……待ってよぉ…!」

 

倉庫を抜け、走り、艦隊司令部に入る

そして…

 

夕張「ビンゴ!!」

 

地下への階段の先、鎖と南京錠で鍵のかけられた重いドア

 

北上「…ここに火薬とか燃料があるの?」

 

夕張「わかんない、でも…あってもおかしくないでしょ!」

 

大きめのレンチで南京錠を殴り壊し…

扉を開けて…

 

夕張「…そうよね、そうよね!!

ここにあると思った…!」

 

北上「このドラム缶…全部?」

 

大量のドラム缶や一斗缶、電気もないからちゃんと中まで見えないけど…

 

夕張「これで、ちゃんとした武器にできる!!」

 

北上「…待って、どうもちょっと不味いみたいだよ」

 

夕張「へ?…あ」

 

この地鳴りみたいな足音は…

 

隊員A「動くな!そこで何をしている!」

 

隊員B「ここへの立ち入りは許可されてないはずだ!」

 

夕張「…あー…考えなしでゴメン」

 

北上「マジで、ほんとにマジで」

 

 

 

 

北上「って感じで、別に悪さしようとしてたわけじゃないんですよ」

 

隊員A「だとしても、燃料に手を出そうとしたのは事実だ、処分が出るまで待機していろ」

 

部屋に押し込まれて扉が閉まる

 

…はい、あたし、捕まりました

ここは独房か何か?

現代でもあるもんなんだねぇ…

 

北上「はぁ……」

 

ドアが少し開いて、菓子パンと紙パックの牛乳が置かれる

 

隊員A「食え」

 

北上「おお、イチゴジャムのコッペパン?凄い…

パンなんていつぶりに見たっけ…」

 

袋を開け、パンを口に含む

バサバサしたパンに、しっとり甘酸っぱいイチゴジャム…

 

北上(…ヤバ…最高に美味しいかも…)

 

北上「留置所とかに入ってたらずっとこれ食べれるのかな、そりゃみんな暴れてでも牢屋の中にいるよねぇ…

阿武隈なんて、留置所の方がご飯が美味しいって言ってたし…」

 

牛乳も久しぶりに飲んだけどこんなに甘かったっけ

 

北上(牛乳ってそもそも甘いんだっけ?…イチゴジャムと合わせるとイチゴミルクみたいでからまた美味しい…)

 

北上「…3食出るのかな、だとしたら普通に牢屋の方がいい生活できるんだけど…?」

 

だってこの部屋…毛布あるし

ちゃんと寝床もあるよ、簡単な作りだけど一応ベッドがある

あと机と椅子もある

 

北上(…あ、そもそも独房っていうか…ただの部屋だこれ)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。