食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
やあ、北上様だよ、今夜の海なんだけどさ、やっぱ暗くて冷たくて嫌になるね〜……って…!
なんでこんな裏稼業みたいな事してるんだよぉ…
あたしは何とか毎日食い繋ぐだけでいっぱいいっぱいなのに…
早く帰りたいなあ……
北上「…というかこの状況って…もしかしてあたし、生贄的な?」
さて、ここで状況を整理しよう
今の私は沖合に泊まったコンテナ船を目指している
単身、丸腰で
…何故か?
もちろんコレを言いつけられた時点で不満は口にしたけども、相手が全く聞いてくれない…
北上(多分これ新しい処刑の方法だよね、もはや)
本来はボートで接近して部隊の支援を受けながら乗り込むところなのに、泊まってるのをいいことに徒歩だし
せめて艤装も欲しかった
北上「ようやくついた…マジで人使い荒すぎ…さて…」
できるだけ静かに、船の壁の梯子を登り、船に乗り込む
北上「……ふぃー……目標は白いコンテナだっけ…白は一つしか詰んでないってのも本当なのかなぁ…」
しかし、これだけ大きいのに人の気配は無し…
船員は?まさか全員殺された…?
北上「っ…」
…男の悲鳴…いや、途切れ方的に…
北上「断末魔のが正しいか……急がないと」
コンテナが所狭しと並べられた船の甲板を隠れながら移動する
…ゲームみたいに武器が落ちてるのを期待したけど、そうもいかないらしい
北上「…あれは………居た…って…?」
拳銃を持ってさっき悲鳴がした方の様子を伺ってる人間…いや、艦娘…
わかってたつもりだけど、やっぱり海賊って艦娘がやってんだねぇ…
北上(気づかれずに近づいて、締め落とす…には…?)
あいにく向こうさんのいるところまで進むには、ある程度ひらけたコンテナの間を通るしかない
しかし、どうやら向こうも本気、警戒してる感が半端ない
一瞬視界の端にでも映れば気づかれるかな
北上(…となると…?)
履いていた靴を脱ぎ素足を甲板につける
北上「…よっと」
隠れてた艦娘の頭上を超えて、更に先に靴が落ちる
まあつまり、陽動作戦
そしてあんだけ警戒してたら物音がした方に嫌でも意識が向く
その間に近づいて…
北上「っ!!」
渾身の右ストレートでこめかみを殴りつけ、フラついたところを捕まえて締め上げる、もちろん、動かなくなるまで
北上「…ごめんね、おやすみ」
気絶した奴から拳銃と弾倉3つを奪い、警戒を解かずに進む
…ちなみに、拳銃を使うのは2回目くらいなので正直自信はない
北上(というか、なんでさっきの奴は艤装つけてなかったんだろ?)
てっきり海賊は艤装を付けてるとばかり…
北上「……うっ…」
悲鳴の正体を見つけてしまった…
コンテナにもたれかかってる船員の死体…しかも…
北上「…上半分がない……撃たれた?…いや、だとしたらこんな事にはならない…砲撃も音はなかったし……あ」
この死体の傷口、なんかおかしい…
北上「なんだろ……ぐえっ!?」
近づいてみようとしたら服がコンテナの突起に引っかかったせいで喉が…
北上「ひぇっ」
鼻っ面を弾丸が掠めた…
すぐさま物陰に飛び込んだけど、服が引っ掛からなかったら多分…着弾点は頭だった
北上(ってか、今撃ってきた奴も銃か…艤装じゃないってことは船員の可能性もあるのかなぁ…間違って殺されるのは避けなきゃ)
狙撃手の位置は方角だけわかってる
それに止まってたら他の狙撃手がいた時が怖い
北上(…というかさ、対人武器持った兵士がうじゃうじゃいるコンテナ船って…どこの国なんだか……ん?)
北上「あった…目標のコンテナ…!」
一つだけあるらしい白いコンテナ…でも…
北上(…やっぱ敵も到達済みか…人間の死体もそこそこあるな…
艦娘が人間襲うようになったら…世も末だね)
敵は2人、こちらに気づいてる気配はなく、コンテナを開けようと悪戦苦闘中らしい
…今しかない…
拳銃を向けて、静かに…静かに近づいて…
北上「…ッ!?」
片方が、頭を撃ち抜かれて崩れ落ちる
北上(狙撃!…しかも……)
振り返ったもう片方は…
北上「…深海棲艦が…人の服着て…!紛らわしいな!!」
狙撃を受けないように隠れ、残った深海棲艦に銃弾を撃ち込む
1発で死ぬわけがないから、執拗に、念入りに、狙撃を受けた方にも撃ち込んでおいた
北上(…で、コンテナは見つけたけど、肝心の海賊は深海棲艦?…いや、だとしたらさっきの艦娘は何?
…人間、海賊、深海棲艦の三つ巴に巻き込まれた?)
どの道、あの狙撃手の正体を暴かないとこの仕事は終わらないかもしれない
少なくとも、このままではコンテナには触れられないのだから
北上「…さて、登りますか」
コンテナを登り切ったらすぐにターゲットは見つかった
…まるで猫だ
視線を敏感に感じ、強い警戒で間合いに入ることを許さない
そんな、臆病なようで、強気なような…
北上「…まあまあ、そんな怖い顔しなさんなって…あたし北上ってんだけど…アンタは?」
加賀「……貴方、何者?」
北上「ありゃ、こっちの質問は無視?…まあいいや、あたしはあのコンテナを守りに来た…えーと…政府の臨時雇われ的な…」
加賀「首輪付き?」
北上「…そうじゃない、放棄された基地で暮らしてた…でも、人質を取られてる」
加賀「…なら、やるしかないようね」
ライフルを向けられる
北上「ちょっと待ってくれる?せめて、あのコンテナの中身…教えてくれない?
そんなに欲しい理由が知りたいなぁ…」
加賀「……あの中には、私たちの仲間の死体が入ってる」
成る程、それは固執もする
加賀「…ひっそりと死な事も、誰かに弔われる事も許されない……そんなのって、ひどいと思うけど」
北上「同情するよ、あたしはこんなバカな真似しないけど」
加賀「…そう、分かり合えるかと思ったけど」
北上「分かりあう必要はないね、アンタが分かればいいんだから。
だってそうじゃない?死んだ仲間のために死ぬの?バカじゃん」
あたしは絶対しない、まだ生きてる仲間を見捨てるくらいなら一緒に死ぬ
だけど…もう死んだら、死体に固執しても意味がない
北上「これ、見える?アンタの仲間から奪った銃…そいつ殺してないから生きてるはずだよ、深海棲艦に食われてなければね」
加賀「っ…!なんてこと…」
北上「あたしに構わず助けに行けば?攻撃しないって誓うよ、神にでも、仏でも、あたしの死んだ仲間にだって、あんたの好きなモンに誓う…!
無防備晒して仲間に連絡するでも何でもいい!すれば良いじゃん!それとも…死体のために死体増やすつもり?」
加賀「……そんな事…!」
北上「アンタがやらなきゃいけないことはさ、死体に固執する事じゃない、生きる事だ」
加賀「そんな綺麗事で…!」
北上「何が違うってのさ…!じゃあアンタは自分が死んだ時仲間にそうして欲しいわけ!?」
加賀「…そんな事……赤城さん…私は…!」
北上「ねえ、迷ってる暇があったら回収してあげなよ」
加賀「っ………聞こえる?…私よ……瑞鶴がやられてるみたいだから、回収してあげて……ええ、引き上げよ…」
…どうやら、わかってもらえたらしい
加賀「本当に撃たないなんてね」
北上「深海棲艦との戦争は、終わったと思う?」
加賀「…そんなわけないわ、戦争は終わらない…誰かの心の中に怨嗟の声が残ってる限り、終わることはないの」
北上「そういう話でもないんだけど、それもそうだね…じゃあ、とりあえず生きなよ、多分いつか…もう一回戦争しなきゃいけなくなる…
だから、そん時の為に生きて…次は失敗しなければ良いじゃん」
加賀「………そうね」
北上「ったはー…良かった、わかってくれて……安心したらお腹減ったなー…」
目の前にカロリーメイトが差し出される
加賀「食べるなら、あげるわ」
北上「おっ…ラッキー……ってフルーツ味か、これ苦いのがあって好きじゃないんだよね…」
加賀「食べないなら返して」
北上「ハイハイ、食べますよっと…」
箱から袋を取り出し、そして袋を破いてブロックを一つかじる
ボロボロとした甘いクッキーに爽やかな香り、そして苦味…
北上「んー…大人の味……」
加賀「食べながらでいいわ、聞いて頂戴…もし、貴方が助けて欲しいなら手を貸す」
北上「
加賀「…生きてる仲間を見殺しにするつもりは、私もないから」
北上「…んぐっ……ふー…そん時はよろしくね」
加賀「加賀よ、覚えておい…」
銃声、そして加賀が倒れる
また、この嫌いな香水の匂いだ
北上「……大淀ッ…!」
大淀「ふふ…はい、私です…私が撃ちました……安心してください、殺してはいませんよ、その弾は艦娘の機能を一時的に無力化する特殊なものです」
北上「何それ…そんなの…」
大淀「はい、最近完成したものですが、効果は間違いありませんよ、その過程でたくさん死人も出ましたが」
北上「ッ……大淀!!」
大淀「私は北上さんまで撃ちませんが…」
いつの間にか真上にヘリが近づいてきていた…
そして、ロープで兵士が降りてくる
全身防弾チョッキで…こっちの銃じゃ間違いなく歯が立たないような装備…
大淀「この人たちは貴方を撃つかもしれません、抵抗せず、そのままその人を引き渡してください」
北上「…たとえコイツを渡しても、コイツの仲間が…」
大淀「仲間?……ああ、もう制圧済みですよ」
北上「…大淀、アンタ、どこまで…!」
大淀「さて、この船は再び目的地に向かって進めます、到着したら飛行機で迎えに行きますので…引き続き警護よろしくお願いします」
北上「…クソッ!!」
あたしには、何もできなかった
もう残りのカロリーメイトも食べる気にならなかった
北上「…口…バサバサだ」