食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
青葉「お、お疲れ様でしたぁ!…ごほっ…」
…もう、すっかり深夜…か
青葉(今日の現場は長引いちゃったなぁ…もう日付変わってるし…)
まあ、私がミスした訳でもないし、仕方ない時は仕方ない
それよりも問題視すべきは食糧
青葉(残業代ってことで、いつもより千円多くもらえたけど…うーん、この時間じゃスーパーは閉まってるし、コンビニって少ないのに割高だし…)
手詰まり…というか、このままじゃ…
キュ〜クルルとお腹も悲しそうな音を立てている
青葉(お腹減ったなぁ…ここは、千円多くもらえたし、覚悟を決めて贅沢を…)
ゴツン
視界が真っ黒になり、火花が散る
青葉「…あぅ……」
意識も、真っ黒……
青葉「…あ…れ……?」
…いつの間にか、私、道路に横になって…
青葉「…ったた…」
痛む後頭部を押さえながら立ち上がる
青葉「……え…?…あれ、お、か…ね…が……」
無い
青葉(…ウソ…なんで……無い!?)
おかしい、どこを探しても無い、落とした?
どこで……
青葉「っ……そんな、なんで…?」
…まだ、今日の食事も摂れてないのに…
青葉(…帰ろう…)
青葉「ただいま」
何も食べずに、暗い部屋に入り、シャワーを浴びて横になる
そして、朝になれば…
青葉「行ってきます」
…相変わらず、静かな部屋
龍驤「…ん?おう!おはよーさ…ん…?」
青葉「あ…おはようございます…」
龍驤「…なんや、えらい元気ないな?寝れてないんか?」
青葉「……それが…」
龍驤「気絶して金落とした!?何やっとんねん!!」
青葉「ごめんなさい…」
龍驤「いや、ンなもんお前の金やからどうしようもないけど…
ったー……アカン、とりあえずいつものはやるから、気ィつけや!」
青葉「はい…ありがとうございます」
龍驤(毎日休み無しに働いとったらそら…疲弊もするわ…っても、青葉を自由にはできんしなぁ…)
龍驤「ほな、今日も頑張り」
青葉「はい…」
青葉(あ…いつもより、多い…)
熱々のたこ焼きはいつもより沢山
パックにぎゅうぎゅうに詰められていた
青葉(…良いのかな、いや…食べなきゃ…)
たこ焼きを口に含む
相変わらず、美味しい
青葉「…ふぐっ…うぅ……」
…私だって…そんなにバカじゃない…少し考えればわかる
わかってる、あのお金は盗まれた…
けど、警察に話したところで艦娘の話なんて信用してもらえないし、そもそも話を聞いてもらえないかもしれない
青葉(なんで…なんで、私が…!)
大井(…あれ、青葉……泣いてる?
…声をかけたいけど…この前拒絶したばっかりだし…)
アパートの扉を3回叩く
青葉「自転車、お借りします…」
「……好きにして〜」
青葉「それと、今日は、お札じゃないです、ごめんなさい」
袋に入れた100円玉10枚をポストからねじ込み、自転車を借りる
(…随分、暗いのね…?)
青葉(…今日も深夜…)
流石に、同じ事をやるわけにはいかない
今日は警戒しながら…
青葉「!」
前方から誰か…女性だ…人間の
ジッと注視してたら目が合う
「何か?」
青葉「い、いえ…」
「……艦娘ですか」
青葉「っ…」
思わず首輪を手で隠す
「…不幸そうな顔をしていますね?何か辛いことでもありましたか?よければ話を聞きますよ」
青葉「…私は、艦娘ですよ」
艦娘は…
「まるで生きてるだけでも不幸…とでも言いたげですね?」
青葉「…違いますか、いや…わからないですよね、あなたには…!」
「…そうですね、わからないですよ、あなたと私は違う人間なので」
青葉「…人間?」
「ええ、あなたも人間ですよ」
青葉「……私が…?」
…まるで、あの動画の人の様な事を…
女性が黒い髪を靡かせながら近づいてくる
「ところで、そこの電信柱の後ろ…あの子は、お知り合いですか?」
青葉「え?」
振り返ると、誰かが逃げ出して…
青葉(まさか…!)
思わず駆け出す
どうやら足は私の方が速いらしい、どんどん距離を詰めて…
青葉「捕まえた!」
両脇を抱えて持ち上げる
朝霜「はな、離せ!!このっ!」
青葉「暴れないで!待って!お話がしたいだけだから!」
朝霜「ウルセェ!離せっ!このっ!!」
「艦娘、駆逐艦…朝霜ですね」
朝霜「っ」
ぴたりと動きが止まる
青葉「…この子を、知ってるんですか?」
「最近この辺りで盗みを働いている艦娘が居るって、回覧板に名前と一緒に載っていましたから」
朝霜「…クソッ!離せ!こうなったら殺してやる!」
「かわいそうに」
女性がいつの間にか、朝霜ちゃんの正面に立ち、頬に手を触れる
「…随分と痩せ細っていますね、辛かったんでしょう?…食べられるものがなくて」
朝霜「…お前に、何がわかるんだよ…!」
「分かりませんよ、私は食べるに困ったことはありませんから、でも…思いやる事はできます
お二人とも、お時間はありますか?着いてきてください」
青葉「え?」
朝霜「どこに…」
女性の案内のもと、連れてこられたのは…
「すみません、他に深夜に入れる店を知らないので」
青葉「牛丼屋さん…すごい良い匂い…」
朝霜「…金、無ぇ」
「もちろん私が払います、すみません、大盛り2つと、小盛り1つあと、テイクアウトで大盛りを5つほど」
青葉(え、お、え?)
朝霜(コイツ、金あるんだな…)
青葉(…大盛り640円くらいする……それを、青森だけで7つ…?
…私の一日のお給料より絶対高い…)
運ばれてきた牛丼の小盛りを女性が取り、あとの2つを差し出される
「いただきます…あ、どうぞ?お好きに食べてください」
青葉「…ほんとに、良いんですか?なんで私なんかに…」
「代価を払いたいなら、あなたのお名前は?」
青葉「…青葉です」
「青葉さん、今あなたの個人情報をこの牛丼で買いました、以上です」
青葉「……いただきます」
箸でお米とお肉をつまみ、口に含む
青葉(あ…美味しい……)
温かいご飯なんて久しぶりに食べた
しかも、甘塩っぱい汁が絡んで…
青葉「はぅ……あれ?」
朝霜「……」
青葉(…食べてない…というより、テーブルの下…)
箸を持って…いや…
青葉「はい、これ…」
レンゲを差し出す
朝霜「……サンキュ…あぐ…んむ…あぐ…」
青葉(…お箸が持てなかったんだ…よく見たら、確かに…微妙な年頃…)
二桁には達して無い
そのくらいの子供…
そんな子が艦娘をしてる事例は何度か見たけど…
青葉(まさか、お箸も持てないような子もやらされてたなんて…)
朝霜「はぐっあむっ…むぐ…あぐあぐ…」
青葉「……ごめんね」
朝霜「…ん…?な、なんだよ」
青葉「負けちゃって…ゴメン…」
情け無い
情け無くて、涙が出る
朝霜「オ、オイ…」
「…あなたは前線で戦っていたんですか?」
青葉「…終戦直前に、配置されました…それまでは広報担当でしたけど…」
「それはさぞ辛かったでしょうね」
朝霜「……はぐ……別に、終わった事考えても仕方ねェだろ
あたいらは今、生きてんだ、申し訳ないと思うなら生きるのが、役目だろ」
青葉「…それは、確かに…」
「しかし、青葉さんはどうも優しすぎますね」
青葉「ふぇ?」
「…貴方、あの追いかける様子からして…この子に一度やられてるのでは?
なのに、その対応、あまりにも甘い」
青葉「…そう、ですかね…」
朝霜「……あたいも、正直ブン殴られると思ってた、ホントに捕まった時はビビってたぜ」
青葉「……だって、こんな子供相手に…」
「でも貴方も、決して裕福じゃ無いんでしょう?
どちらかと言えば困窮してるように見えました、身なりも綺麗とは言えませんし、洗濯も洗剤を使ってますか?」
青葉「それは…」
朝霜「やっぱ、そうなんだな…財布も持ってないなんて、おかしいと思ったんだ…ゴメン」
「でももう一度襲おうとしたと」
朝霜「ちがっ…!あ、アレは…その……ごめんなさい」
青葉「…良いんです、大丈夫、私は、なんとかなってますから」
朝霜「……」
朝霜ちゃんがうなだれる
「…ご馳走様でした、私は明日もあるのでこの辺りで、店員さん、お会計を、この人たちの分とテイクアウト分も」
青葉「あ、あの!」
「ああ、それと、朝霜さん、5つで足りましたか?」
朝霜「えっ」
「…居るんでしょう?何人ですか?もっと必要ですか?」
朝霜「……あたいと2人だけだから、こんなに要らない」
「なら、青葉さんも一つどうぞ」
青葉「あ、ありがとうございます…じゃなくて、その…」
「はい?まだ何か」
青葉「なんでこんなに良くしてくれるんですか?」
「特に理由はありませんよ、ただ目についたからです、全ての“人”が善良とは言いませんが、貴方は善良な人であり、艦娘だった
だから、救われるべきだと思った」
青葉「……あの、今更ですが、お名前は…」
「私から個人情報を買いますか?…いや、これは貸しにしましょうか、いつかまた会うでしょう、大淀です、それでは」
青葉「大淀、さん…覚えた、よし…」
朝霜「……変な人…人間なんだよな?」
青葉「…多分、首輪もないし、身なりもすごく綺麗だし…なにより、お金持ちみたいだし…」
朝霜「……その、青葉サン、改めてごめんなさい、あたいは…最低な事した」
青葉「ううん、大丈夫…でも、お金は…」
朝霜「……それは、返せない…」
青葉(…やっぱり、何かあるのかな…)
青葉「……なら、大淀さんみたいに、個人情報を3千円で買わせて?」
朝霜「…どういうのかに、よる」
青葉「今、どうやって暮らしてるのか、とか…
3千円も持って行った割に、ご飯も食べてないみたいだし…」
なにより、常習犯で収入を得ているなら、なぜ普段から食事を摂れてないのか
朝霜「……薬がいるんだ」
青葉「薬?…病気って、事?」
朝霜「…そうだ、薬を飲ませて、食事を摂らせないと、死ぬらしいんだ、だから、毎月沢山お金を用意しないといけない」
青葉「……確かに、働ける歳じゃないか」
朝霜「悪い事をしてるのはわかってる…でも、あたいには、他にお金を稼ぐ手段なんて…」
青葉「…どこに住んでるの?通ってる病院は?それと、病名とか…」
朝霜「……南にある工場の側、路地で暮らしてる」
青葉(家も、無いんだ…?!)
青葉「…よし、決めた…朝霜ちゃん」
朝霜「な、なんだよ」
青葉「私の家に来ませんか?」
朝霜「…はあ…!?」
青葉「もちろん、その病気の人も一緒に!
だって…工場のそばの路地なんて、病気も良くならないだろうし…」
朝霜「ま、待って、おかしいって、あたいでもわかる!何が狙いなんだよ!」
青葉「狙いなんか…」
朝霜(コイツ、頭おかしいんじゃ…)
青葉「…狭い部屋だけど、私は大丈夫だし、朝霜ちゃん次第
でも、今すぐに無理やり、なんて事じゃなくて…」
朝霜「……わかった、考える…あと、ん」
テイクアウトの牛丼を二つ押し付けられる
朝霜「…もう1人は、固形物が食べられねェから、やる」
青葉「そんなに…?」
朝霜「…ウン」
青葉(……思ったより、深刻な事なんじゃ…)