食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
朝霜「こんだけありゃァ…ひーふー…3日は持つかなァ?」
青葉「……」
私は…あの後、朝霜ちゃんをただ見送るのは良く無いと思い…
…つい、後をつけてしまってます
これも良く無い事だと思うけど…
青葉(でも、もう30分は歩いたけど…工場もいくつも超えたし、どのあたりまで…)
朝霜「…あ」
朝霜ちゃんが路地の入り口で立ち止まる
青葉(か、かくれなきゃ!)
慌てて物陰に入り込む
そして、朝霜ちゃんの前に、人影が二つ
青葉(2人?…いや、待って、アレは…)
男A「おう、遅かったやねえか」
朝霜「あ…ぁ…」
男B「今日の分はどないした?…なんや、それ、牛丼か?まさかそれになったってか?」
朝霜「ち、違…その……これは、貰って…」
男A「貰った?じゃあ金はどうしたんや?」
男B「まさか無いとか言わへんよな?スるなりなんなりできんだろうが!」
朝霜「ごめんなさい!ごめんなさい!!」
青葉(なに、これ…?)
バチンという音ともに、朝霜ちゃんが倒れ込む
男A「なんで飼って貰っとんか忘れたんか!?」
男B「使えねえな、ったく、グズが!」
鈍い音と、嗚咽
罵声、悲鳴
青葉「…こんなの…」
…首輪も無く、そして、重たいものを抱えて
たった2人で生きていた朝霜ちゃんが、こんなに苦しんでる…?
青葉(…お、おかしい…おかしい!こんなの、おかしい…!ダメだ、ダメ、絶対…っ)
うずくまった朝霜ちゃんと、目が合ってしまった
青葉「ぁ…」
お腹を蹴られ、頭を踏まれている、その子を、見て
…私は…私、は……
青葉「……」
…なんと言えば、良いんだろうか?
どう言えば、わかってもらえるのか、わからない
ただ、がむしゃらだった
朝霜ちゃんを守りたかったから
それで理解してくれる人は何人いるんだろうか?
青葉「っ……」
世間は、決してわかってはくれない
私を、許しては、くれない
青葉「…ぅ…あ……」
これは、
朝霜「……」
意識を失っている朝霜ちゃんを抱き抱える
そして、朝霜ちゃんが入ろうとした路地を進む
途中で、室外機にボロ布が敷かれた寝床のような場所があったので、そこに一旦寝かせて、私はその奥へと1人で進んだ
…そこから先は、私は何も見ていない
ただ…そこで、いくつかのものを拾った
そして、私は…それらと、朝霜ちゃんを抱えて、自分の家に戻り、シャワーを浴びた
朝まで、ずっと、静かに
流れ出た液体は、涙なのか、鼻水なのか、冷や汗なのか、それとも胃液なのか
もはやわからなかったけど
それが止まるまで、ずっとそこにいて、朝を迎えた
青葉「……
まだ意識が戻ってない朝霜ちゃんを、濡れタオルで拭き、傷の手当てをした
青葉「…ねえ、私、これからどうすれば…いいのかな?」
誰も答えてくれない
青葉「…わかってるよ、わかってる……」
もう一度シャワーを浴びて、吐いて、それから…
それから、家を出た
青葉「いってきます」
その日は死んだように生きていた
私は、もう、ダメだと思った
いつものようにたこ焼きを口に含み、仕事をして、スーパーでお弁当を買い、帰路に着く
…部屋の前に着いて、ようやく1人分で足りないと気付いたけど、食欲も湧かなかったのでそのままにして、玄関の扉を開いた
青葉「ただいま……あ」
朝霜「……」
まだ、眠っていた
病院に連れて行くべきだろうか
いや、それとも…昨日の事はどうすれば良いんだろう?
ああ、まずはどうすればいいんだろう?
青葉「…あ」
部屋の端の、スペースに置いた棒切れを見る
昨日回収したものの一つ
…それを手に取る
カシャカシャと音を立て、伸び、先端の刃が剥き出しになる
艦娘用の白兵戦艤装、知っている、この槍は…天竜型の龍田用艤装だ
…つまり、あそこにあったのは…
青葉「ぅ……」
片手で頭をガンガンと叩いて脳内の画像を消し去る
朝霜「…ぁ…れ…?」
青葉「朝霜ちゃん…?あ、起きた…!朝霜ちゃ……」
声をかけようとして、目を背けていた問題に気づく
…どう、説明すれば…?
私は、とんでもないものを見てしまったし、とんでもない事をしてしまった
…汗が、止まらない
朝霜「…龍田…さんか?龍田さん目ェ覚めたんだな!」
青葉「え?」
呆気に取られてる私に朝霜ちゃんが飛びつく
朝霜「良かった!ほんと、良かった…!」
青葉「まっ…て…朝霜ちゃ……私…」
…何が、起きて…
いや、そんなの…それしか、考えられない…
青葉(…壊れてるんだ、精神が…だから、認識が、おかしく…?)
…手の震えを、必死に抑えながら、私にしがみつく朝霜ちゃんを撫でた
私は…吐きそうだった
朝霜「そうだ!龍田さんに…って、あれ、そういやここ、どこだっけ…」
青葉「……私達の、お家…ですよ」
自分でもわかるくらい、声が震えていた
朝霜「…なんでこんな良いところに…?本当に、いいのかな」
青葉「良い、良いの、だから…もう、あんな所には…戻っちゃダメ、だから」
朝霜「…?…わ、わかった…」
朝霜ちゃんをお風呂に入れ、一息つく
冷や汗が止まらない
私が、代わりになる?…認識を誤っているなら、そのままにしておいて良いのか?
…もし、私が龍田じゃないと理解した時
朝霜ちゃんは、また1人に…?
青葉「……う…うぇっ…」
吐き気がする
…どうすれば良いんだろう、胸の下辺りがズキズキ焼けるように痛い…
コンコンコン
玄関を叩く音に思わず飛び跳ねる
今まで誰かが私を尋ねたことなんて無かったのに
青葉「…どちら様ですか?」
扉を叩いた人は、一体なんでここに…
「青葉さん、貴方にお話があってきました、扉を開けてください」
低く、抑揚のない冷たい声
だけど、知ってる声
青葉「…大淀…さん…?」
なんで、ここを…
迷っている間に、外から鍵が開けられる
青葉「え…?」
大淀「私は、“首輪付き”の艦娘を管理する立場にあるんですよ」
扉を開き、大淀さんが入ってくる
大淀「ここが国の貸している団地だと忘れましたか?
まあ、入居から日が浅いので、コピーの鍵の入手も容易でしたよ、青葉さん」
青葉「な、な…!?」
大淀「…少し、お話ししましょうか、朝霜さんに聞かれたくないことも、あるでしょう?
外に出てください」
大淀「コーヒー、飲めますか?紅茶が良いですか?」
青葉「…コーヒーで…」
缶コーヒーを渡される
蒸し暑い時期なのに、まだホットだ…
大淀「…さて、単刀直入に行きましょう、あなたの昨日の行動についてです」
青葉「っ…」
嘘だ、もう…
大淀「その首輪、GPSをはじめとした様々な機能が入ってるのは知ってましたか?
知らないわけ無いですよね、その旨の誓約書は読んでますもんね、つける前に」
青葉「……あ、れ…は……その…」
大淀「……」
青葉「…わかって、ます…私は、終わってるんです…よね、わかりました…に、逃げられないですもんね…」
大淀「おや、意外と素直ですね?」
青葉「……ごめんなさい、どうにもならないって、わかってたんです、つい、やってしまったけど…アレはもう…
ああ…ホントに、もっと…」
いつの間にか、涙が溢れてくる
青葉「ごめんなさい、やっちゃダメってわかってた、途中で止まるべきだった、朝霜ちゃんを連れて逃げさえすれば…ごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
大淀「なんの話かと思えば」
大淀さんが缶コーヒーの蓋を開け、一口飲む
大淀「逮捕でもされると思ってましたか?」
青葉「え…?」
大淀「私は貴方を利用しにきたんです、貴方には目撃者になってもらわなきゃいけないので」
青葉「…なんの、話を…」
大淀「機能、男2人が何者かによって殺されました、その犯人は…私達は、いや、国は“深海棲艦”である、と、断定しました」
青葉「え…?」
大淀「つい最近、伊豆諸島でも深海棲艦が島を支配していたのが発覚したばかり
これに伴い、政府は本格的に動くことになる…
なんて、ストーリーはどうでしょうか?」
青葉「…あ、貴方は、何者なんですか…」
大淀「さあ、なんなんでしょうね…
なんだって私は、こんなことしてるんでしょうか…
いや、忘れてください、で、どうですか?」
青葉「…よく、わからないです…私に、どうしろと言うんですか…?」
大淀「貴方は深海棲艦が暴れてたのを見たと今、ここで、この録音機の前で言えばそれで終わりです
貴方の仕事はそれだけ、如何ですか?」
青葉「……」
そう言えば、罪から逃れ、そして…
青葉「…あ、あの…」
大淀「はい」
青葉「……私、自主します」
大淀「…どういうつもりですか?
あなたが自主するメリットなんて何一つないでしょう?」
青葉「…メリットは、あります…
戦争が、始まらないで済む…それだけで私にとっては、メリットなんです…
もう、あんなに小さい子まで駆り出される戦いは…もう、二度と起きちゃダメなんです
その引き金を私が選べるなら、引きません」
大淀「……わかりました、なら、それはもう良いでしょう、朝霜さんにも話を聞くために、お部屋にお邪魔しても?」
青葉「…選択肢って、ありますか?」
大淀「まあ、ありませんね」
青葉「…どうぞ」
できれば、死にたくはないし
朝霜「あ!龍田さん!どこ行ってたんだよ!」
青葉「ぁ…」
濡れたままの朝霜ちゃんが飛びついてくる
大淀「龍田…?」
青葉「…すみません、ちょっとそこは触れないでください…朝霜ちゃん、タオルはそこにあるから…」
朝霜「お、なんだよ、大淀さんも居んのか!昨日はありがとなー!」
大淀「ええ、怪我してるようですが」
朝霜「んー、なんか起きたら怪我してた、多分寝床から落ちたんだよ」
大淀(…なるほど、そういうパターンか…)
大淀さんが少し顔を下に向ける
青葉「…あの」
大淀「少し、踏み込んだことを言っても良いですか?」
青葉「へ…?」
大淀「朝霜ちゃんに、首輪をつけましょう」
朝霜「く、首輪…?アタイに?!」
青葉「…何故ですか」
大淀「保護の為です、首輪の意味はよくわかっているはずです」
青葉「…わかってるから、何故ですか、と聞いたんです…!」
首輪をつけていると、国の管理下に置かれる事になる
それは即ち、
青葉「私だって、今生きてる艦娘が、なんのために生きてるかくらい…!」
大淀「落ち着いてください、あなたの気持ちを尊重した上での提案ですよ?」
青葉「どこが…!」
大淀「あなたは、引き金を弾かないと言った、なら、私も…引き金を引こうとは思いません、
青葉「…ほんとうに…?」
大淀「この件については、保証します
その上で首輪を付ければ、生活も保障される、如何ですか?
私の権限で、教育などを免除して首輪を提供しましょう、そうすれば、朝霜ちゃんが苦しむ未来を避けられる…かもしれない」
青葉「……何故、そんな」
大淀「理由は2つ、1つは、あくまでもこれはこの一件に対しての措置である点、今回の事は私の職業的に私にも責任があります
なので、私なりの責任の取り方です
そしてもう1つ、青葉さんは…私の憧れた人に似ていた…って所でしょうか」
青葉「憧れ…?」
大淀「…私的な事情ですよ…さて、と!」
大淀さんが私の肩に手をおく
大淀「どうしますか?あなたは、誰なんですか?」
青葉「え?」
大淀「事情は知っています、似たような事案は何度か見ました、私は理解した上で問いかけています、さて…
あなたはどちらの名前で、あの子に名乗るんですか?
墓標に刻む名を、決めてください」
青葉か、龍田か
…私の、名乗る名前…
青葉「……」
朝霜ちゃんの前に立つ
朝霜「…どーしたんだよ…?」
青葉「…私、は…」
酷な現実を伝える事が、正しいのか?
それとも、偽りの家族として、消えるのか?
青葉(どのみち、私は、逮捕される、それなら…)
青葉「朝霜ちゃん、私は…青葉、わかる?」
朝霜「何言ってんだよ、龍田さんは龍田さんだろ…?」
青葉「…もう、龍田さんは、居ない」
朝霜「な、なあ…ホントに、どーしたんだよ…?」
青葉「……ごめんね、酷いよね、でも…もう、龍田さんは居ないの、私は青葉で…」
朝霜「あー、そっか!普通に暮らす為に名前を変えんのか?そう言う事だろ!あたい頭良いじゃん!」
青葉「…違う!」
声を荒げた
朝霜「な、なんだよ、いきなり…大きい声出さないでくれよ…」
青葉「朝霜ちゃん、よく見て…!私は、青葉、龍田じゃない!
…今から、酷いことを言うけど、聞いて…受け入れて…!龍田さんは、もう…!」
大淀さんに肩を叩かれる
…つい、カッとなりすぎた
朝霜ちゃんも、泣いて…
朝霜「…ごめんなさい…」
青葉「……違う、朝霜ちゃんが謝る事じゃ…」
朝霜「わかってたんだ…」
青葉「え…」
朝霜「ここで、目が覚めて…龍田さんが居なくて…青葉さんしか、見えなくなった時、心が、すーって、冷たくなって…怖くなって…
アタイ、さ…龍田さんが…どうなったか…わかって…怖くって…」
大淀(…生体ユニットのせいではなく、自分の精神を安定させる為に、自己暗示をかけようとした…か
もし生体ユニットのせいだったのなら、決して理解できなかったでしょうね)
青葉「……ごめんね、ごめん…私も…もう、ここから…」
大淀「居なくなる必要はありませんよ」
青葉「…逮捕、しないんですか」
大淀「ええ、元々深海棲艦のせいにするつもりでしたので、あなたの痕跡は全て消しましたから…
まあ、こうなると、少し後処理が面倒ですが問題ありません、幾らでも改竄できます」
青葉「…ホントに、良いんですか、私は…!」
大淀「貴方が居なくなったら、その手癖の悪い女の子が野に放たれるんです、監督者として頼みますよ」
青葉「……」
大淀「何も罰を受けず、ずっとその事に苦しむ、これが1番の罰になるはずです」
大淀(気にするタイプでしょうからね、貴方も、永遠に忘れる事はできないでしょう
だから、ずっと苦しむ、苦しくなければ、落ち着かなくなりますからね)
朝霜「…青葉さん…」
青葉「……」
…もう、どうにも、ならないか…
罪を償えないのが、罰…
大淀「ずっと覚えておきなさい、以上です」
青葉「…はい」
これで、首輪付きが、この部屋に…3人
青葉(…がんばら、なきゃ…だよね…)
大淀「…ところで、一つ確認しても良いですか?」
青葉「え?」
大淀「そのクローゼット、開けても良いですか?」
青葉「…わかりました、どうぞ、挨拶していってください、きっと喜ぶので」
大淀(挨拶?)
朝霜(…なん、だ?)
大淀さんがクローゼットを開く
大淀(仏壇…名前は……衣笠?でも、この仏壇、何か…)
朝霜「…な、なあ、青葉さん、コレ…」
青葉「コレ、じゃないよ、衣笠って言うんです、ほら、ガサ…ふふっ、笑ってる…」
朝霜「…ぁ…あ…そういう…」
大淀(…道理で、病的に…甘い訳だ)
大淀「朝霜さん、如何やら貴方も、頑張らないといけないかもしれませんね」
朝霜「……わかって、る…」