食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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三十五食目

おーい、聞こえてる?

お、北上様だよ〜

なんか久々な感じだよね

こっちは上等な生活できてるよ、と言っても、まあ、食糧面的な意味では、ね

 

閑話休題(まあ、またあとで)

 

北上「ねえ、夕張さん、この木どうよ」

 

夕張「あっ、良い感じの杉ね、これもらって良いか聞いてきて」

 

川内「はいはい…」

 

北上「でも、木も全部管理してんのかな、勝手に切っていいんじゃない?」

 

夕張「そう言うわけにはいかないって、住ませてもらってるんだから」

 

川内「杉はいいってー!」

 

北上「ほら」

 

夕張「花粉症の元だからね」

 

北上「…なんか、言われたら鼻がムズムズしてきたような…」

 

夕張さんが慣れた手つきで木を切り倒す用意をし、チェーンソーを動かす

 

川内「周囲の安全よし!」

 

夕張「行くわよ!」

 

木がチェーンソーの振動で震えまくって…

 

北上「…ぶぇっくしょん!」

 

川内「くしゅん!」

 

夕張(花粉症なのは2人もか…ん?)

 

夕張「へっくし!…くちゅんっ!…っくしゅん!!

…あ、あれ?私は花粉症じゃ無いはず…」

 

川内「……いきなりなるよ、それ」

 

夕張「そんなぁ!?」

 

北上「い、いいからさっさと…っくしゅっ!くしゅん!…花粉が…っくしゅん!…早く終わらせてよ…」

 

夕張「わ、わかっくしょい!」

 

川内(花粉症の前には品も何も無いね…)

 

 

 

 

夕張「あー…目が痛い…涙止まんないぃ」

 

北上「ほら、濡れタオル、しばらく当てて…目ヤニ溜まってるから」

 

川内「なんか、痒くなってきたかも…」

 

北上「…はぁ…春はコレがキツイよねえ…」

 

とりあえず、切り倒した杉の木を加工する

 

皮を剥がし、切り分け、材木にして…

 

夕張「まあ、この辺の機材は使わせてもらえたから捗るし…いやー助かるわ」

 

川内「ねえ、コレ敷き詰めていいの?」

 

夕張「使ってないニス貰ったからそれも塗ったらね」

 

北上「コレでフローリングエリア完成かぁ…

いよいよ、お布団で眠れるわけだ…」

 

川内「感慨深いなぁ…」

 

夕張「…まだ完成してないけど、ホントに…ホントに、今まで頑張ってきてよかったって感じ…」

 

北上「んやー、いいよね、調味料も揃ってるから、何取ってきても美味しく料理できるの

春だから獲物も多くて…」

 

夕張「待って、北上」

 

川内「共用の器具で虫調理するのは金輪際(こんりんざい)禁止なの忘れた?」

 

夕張「あと何も知らないアイオワに食べさせようとするのもダメだから」

 

北上「いや、虫は食べられた方が良いんだって、今後生き抜く上でさぁ」

 

川内「悪いけど、あたし達は一日一食まともなもの食べたら満足してるから」

 

夕張「うんうん」

 

北上(一日3食食べたがってた川内がこんなこと言うなんてねぇ…)

 

夕張「…はあ……あははっ」

 

夕張さんがコンクリートの床に寝転がり、笑い出す

 

川内「どうしたの急に、怖いよ」

 

夕張「ホント、凄いなって…いろんなものが手に入った、来週には自衛隊との共同訓練も始まって、仕事ができるのよ?」

 

川内「え、初耳」

 

北上「あれ、言うの忘れてたっけ」

 

…まあ、仕事ができると言うことは、少ないながらお金が出るわけで

 

夕張「…凄く、ありがたいわ」

 

北上「ホント、子供のお小遣いに毛が生えた様な値段だから、まだ1日1食は維持しなきゃいけないけど…安定はしてきたよね」

 

川内「…もしかしたら、ここにくる前よりは良い生活…できるのかなぁ…」

 

夕張「可能なら、あの司令部も使わせて欲しいんだけど…」

 

加賀「資料くらいなら閲覧許可は取れるわよ」

 

北上「加賀」

 

…そう言えば、大淀の後釜には加賀がついた

 

夕張「それ本当!?…早速お願いして良い?」

 

加賀「申請はしておくわ」

 

川内「…っていうか、眼帯してるんだね」

 

加賀「あの後受診したのだけれど、どうも悪化する様だったから、摘出したの」

 

北上(…火傷、そんなに酷かったんだ)

 

夕張「義眼は?作るの?」

 

加賀「最新技術の結晶を貰えるらしいわ、いわゆるテスターね」

 

夕張「へぇ〜!それも気になるなぁ…」

 

川内「…ねえ、最近の夕張ってなんか元気だよね」

 

北上「向こうの家族関係がうまくいってるってさ」

 

川内「意外と、うまくいくケースもあるもんだね…」

 

北上「…幸せになってくれるなら、それはそれで良いんだよ、あたし達と別の道を行ってもさ」

 

川内「大淀は嫌がりそうだけどね」

 

北上「知ったこっちゃ無いよ」

 

川内「ところでさ、北上はなんで大淀嫌いなの?」

 

北上「え?…あー…なんでだっけな…」

 

川内「えっ」

 

北上「確か、その…あたしら置いて自分1人だけ…良い暮らしして…る、から?」

 

川内(…夕張には幸せになって欲しいって言っておいて…?

…やっぱ、ここは変だよね、北上に自分の忘れた記憶を調べて欲しいって言われたけど、うん、絶対変だよ)

 

北上「…まあ、良いじゃん、そんなこと」

 

川内(やっぱ、記憶の改竄(かいざん)で何か変になってない?)

 

 

 

 

 

 

夕張「…ようやく来れた、随分とかかったけど」

 

人事書類を手に取る

ずっと、コレが見たかった

横須賀は海外から来た艦娘の最初の受け入れ先になることが多いと聞く

だから、ここになら…

 

夕張(…ヲ級、ようやく名前、探せるよ…)

 

あのとき、みんなでカレーを食べた時、ヲ級はソーセージをカレー風味に味付けしたカリーブルスト

あれは、ドイツ料理だ

 

夕張(と言うことは、ヲ級は元はドイツ人である可能性が……)

 

夕張「あった!…ドイツ人、空母、横須賀着任記録!全部合ってる…!そして……やっぱり、死んでる」

 

…名前を見つけた喜びも、“死亡”と言う文字で…消え去った

わかってる、深海棲艦が(よみがえ)りのお伽話(とぎばなし)である以上

本人は死んでいるのが前提

 

夕張「…でも、貴方で良いのよね…?…グラーフ・ツェッペリン」

 

ようやく、石に名前を刻める

本当の名前で、呼びかけられる…

 

夕張「…遅くなってごめん、ホントの名前、見つけたから」

 

部屋に置いてある、革製のソファに体を投げ出す

…ようやく、ずっと果たしたかったことを…

 

やってみれば、あっという間で、実に簡単で…

 

夕張(……)

 

少し、ぼうっとして、ソファの正面にあったテレビに意識が向く

何を思うでもなく、それを点ける

 

テレビ『次のニュースです、先日見つかった遺体は、艦娘であると断定され、警察は捜査方針を改める様です』

 

夕張「…艦娘の、遺体か…」

 

…きっと、楽でも無い事件に巻き込まれて…

 

でも、それが頭にこびりついた

なんとなく、気になって仕方なくなった

 

夕張(…スマホ…持ってるのは北上だっけ、今は…新聞とか、届いてないし…)

 

夕張「あれ、あるじゃん、新聞…日付は……うわ、3年前…?」

 

見出しには大きく、横須賀艦隊破れる、とある

実戦じゃなくて演習みたいだけど…

 

夕張(あれ、でも横須賀に勝ったりしちゃダメなんじゃ…?)

 

夕張「…勝利したのは呉の艦隊で……活躍したのは、新人…予想外の勝利は…

引き寄せたのは、球磨型…?…軽巡、多摩………コレって…」

 

…可能性は、ある

同型艦の艤装を渡された別人じゃ無い限り…!

 

夕張「多摩は、呉に在籍してた?…じゃあ、もしかして…!」

 

人事書類を漁る

ここは中央だ、いろんな書類があるはず

 

夕張(どれ!?…これ?違う!…横須賀に勝ったら飛ばされる、あの噂が本当だとして…その先が大湊だったとして…!)

 

夕張「っ…?…“特定機密”…?……作成者、大淀…!」

 

資料を開く

 

夕張「…これ…は……」

 

…そこには、多摩の死について、その全てがあった

 

ツ級「酷イ…ネ?」

 

夕張「…由良、なんで、ここに」

 

ツ級「私ハズット夕張ト一緒ヨ?」

 

夕張「……そっ…か、わかった、“生体ユニット”に…」

 

ツ級「…ソウ、ゴメンネ、デモ、艦娘ノ脳ト“リンク”サセナイト、自我ガ無クナリソウデ、怖クテ…許シテ」

 

だから、あの時、あの島での戦い、頭の生体ユニットを一時的に壊した時、由良は消えたんだ

だから、他のみんなにはやらは認識されてなかった?

 

夕張「…許すも何も、ないわ、由良は…大事な友達だから」

 

ツ級「夕張…」

 

夕張「でも、ごめん、今はそっとしておいて…

私の仲間は、由良だけじゃないの…」

 

…こんなのを見て、とても、私は…

 

 

 

 

川内「来週の演習は5名編成の部隊か…」

 

北上「軽巡のみの編成で行こうと思うんだけど、まだ艤装もちゃんと手に入ってないじゃない?

拳銃とかなら支給されるらしいから、それを使おうと思ってて」

 

川内「弾は?」

 

北上「もちろん中身はカプセル塗料だよ、使う銃も…ほら、なんて言うの…?ソルトエアガンってやつ?」

 

川内「ソフト、ね」

 

北上「そんでさー、まあ、そんなオモチャじゃどうにもなんないし、メインは川内達に頼もうかな」

 

川内「…武器は?」

 

北上「拳銃とスポンジ剣、インクたっぷり染み込ませたやつね」

 

川内「…まあ、長さはそれなら自由か」

 

北上「長さ?」

 

川内「アタシは短刀だけど神通は太刀だからさ、長さ2尺8寸、だいたい85センチくらい?」

 

北上「刃渡だけで?持ち手なし?まともに使えんの?それ」

 

川内「ちゃんと使いこなしてたよ、大丈夫大丈夫

まあ、スポンジじゃ軽過ぎて使いにくそうだけどね」

 

北上「さすが白兵最強名乗るだけあるわ…島でも活躍して欲しかったけどさ」

 

川内「相手人間で殺さない様に加減してたんだよ?

それも超超超超〜多勢に無勢、武器もなかったしさぁ…」

 

北上「はいはい、悪かったよ」

 

川内「それでさぁ…色々作戦もあるんだけど、呉でやってた特攻戦術を…」

 

北上「それ大丈夫…?…ん」

 

川内「お米の匂い!」

 

霞「お疲れさま、今日はおにぎりだけど、良いわよね?」

 

北上「最高だよ」

 

川内「いただき!…はふっ…おいひぃなぁ…」

 

北上(炊き立てのお米なんて、前まで考えられなかったからね

しかも、海苔がまいてあって、具材も入ってる…)

 

川内「ん、これ鮭じゃん!当たりだね」

 

北上「えー、梅干しの方が良くない?…うん、ほら、これ」

 

霞「子供みたいなことで喧嘩しないの」

 

北上「…ま、確かにそれもそうだ、でも…そんなバカみたいなこと言える余裕できたんだね、あたしら」

 

霞「…そうねぇ」

 

川内「あむ…ふぅ…でも、コレじゃまだ30点だよ」

 

北上「なにが」

 

川内「幸福度的な…まあ、本当にさ、あたし達外で暮らしてた時…もう少しちゃんと食べてたから、そこまで行って90点かな」

 

北上「今でも十分幸せだよ…ほんとにね」

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