食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
大淀「…すみません、こんな夜に」
青葉「ここ、映画館ですよね?なんで誰もいないんですか?」
大淀「人気のない映画なんです、だから私は独り言を言いたい時、よく映画館に来ます」
朝霜「独り言…?」
大淀「…あの時の事は、今思い出しても、どんなに悔やんでも悔やみきれません
私が力不足なばかりに、とんでもないことになった…」
朝霜「……」
大淀「私には、特に親しくしていた先輩がいました、そして、その人には姉がいた…血が繋がってるわけではありませんがね」
青葉(私にとってのガサみたいな感じかなぁ…)
大淀「…その2人は、とても強かった、ただ、妹の方は…次元が違いました」
青葉「強すぎるって事ですか…?」
大淀「戦場把握の視野が優れていました、どう動けばどうなるかを理解し、感情をコントロールし、敵の気配を完全に察知していました
そして、味方の感情もね…だから、とにかく何をしても負けない」
青葉「そんな人いたんですか?」
大淀「ええ、私は…その人にずっとついていきました、そして、その人を中心に作戦を立てると…どんな作戦もうまくいった」
青葉(え?…大淀さんが艦隊指揮を?)
大淀「周りは気づいてなかったんですよ、あの人がどんなにすごいかを、近すぎて気づかなかった、だから私がもてはやされた
…私自身は、何もできない…だから、必死に、必死に色んな勉強をしました
拳銃の撃ち方から、艤装の整備、海流や気流の影響…とにかく、期待に応えたかった」
青葉「…それで」
大淀「ある日、私は、あの人の不調に気づかなかった…その日、たまたま調子が悪かったのに、作戦に出て行く姿を、見送ってしまった…それが、原因でした…」
多摩「北上、顔赤いニャ、本当に大丈夫かニャ」
北上「ヘーキヘーキ、大淀の前くらい、カッコつけたいしね」
暁「大事な妹分だから?」
曙「甘やかしすぎないでよ?」
北上「はいはい…」
睦月「北上さん!敵艦載機の反応があるにゃしぃ!」
響「いつもより少ないかな、やれるよ」
北上「んじゃあ…開戦と行きますか…!」
多摩「……」
大淀「その人の姉は、不調を見抜いていました
そして、周囲にも、なんとなく不安が
北上「多摩姉!前出過ぎ!暁!響!両脇から魚雷出して!とにかく退くよ!」
多摩「大淀!聞こえるかニャ!援軍を要請するから早く出してほしいニャ!」
大淀『今艤装を装備しているところで…!』
多摩「遅いニャ!敵は待ち伏せだった!このままじゃすり潰されるニャ!」
北上「焦らなくても良いから!とりあえずまだ距離はある、あたしが道を切り
多摩「そんなリスクは取れないニャ!北上1人が無茶をする作戦は間違ってるニャ!
大淀!こう言う時にお前が指示するべき、早く!」
大淀『っ…あぁ…!えぇと…!!』
響「左舷新手だ!」
北上(…このままじゃもたない…ほんとに全滅する、みんな砲撃もデタラメになってるし、動きが悪化してる
コレじゃあ時間稼ぎにもならない…だから、あたしがやるしか…)
大淀『た、多摩さん!多摩さんを先頭に敵の中心を突破してください!大きく迂回して、回収できるエリアに回収用の機体を要請します!』
多摩「それでいいニャ!」
北上「待ってよ!それじゃ多摩姉が…!」
多摩「北上!作戦に従うニャ!」
北上「っ…!」
大淀『北上さんは前方に魚雷を全て発射したら最後尾を!…正面の撃破数次第ではそこが1番危険になります!
私も現地に行きます、なんとか来てください!』
多摩(大淀!やっぱり1番ヤバい位置を北上に押し付けたニャ!?)
北上「なら、オーケー!あたしが主役だ!駆逐は複縦陣!多摩姉前行って!切り抜けるよ!」
多摩「…了解ニャ!」
北上が右半身の艤装から20発、そして、半回転しさらに逆からもう20発の魚雷を射出する
北上「…突っ込め!」
多摩「最大戦速!進行方向ようそろ!続くニャ!」
魚雷を追いかけるように、そして、魚雷をさけて逃げ出した敵の間を通り抜けるように…
艦隊は深海棲艦の間を戦いながら通り抜ける
北上「駆逐!右舷に魚雷出して!突っ込んでくるよ!」
暁「敵空母!」
曙「艦載機だけ落として!」
北上(…っ!不味い!直撃コース…!)
北上の魚雷発射管からさらに10発魚雷が上向きに空中に放たれ、一瞬盾のように砲弾を遮る、そしてそのうちの2つに敵の砲撃が直撃する
北上「つ〜…!…いったいなぁ…!…うげ……今ので、魚雷は切れたか…」
多摩「北上!大丈夫かニャ!」
北上「オッケーオッケー!でもこれ以上はヤバいかな!暁!曙!一回振り向いて!曳航ロープであたし引っ張って!」
北上(後ろは、あたしが抑えるしか!)
多摩(あんのバカ!カッコつけすぎニャ…!)
北上「2人で残りの魚雷もばら撒いて!速度も一回落とすよ!?」
北上が投げられた2本のロープの先端のフックを手早く艤装に引っ掛け、背中に向きに固定し、引っ張られる
北上(これで…!)
大淀「ここまでは、なんとかうまくいっていました、その撤退戦も、なんとか形になりました
しかし、たった1人で長時間相手をし続けるのは、不可能でした」
多摩「飛行機が見えたニャ!もう少し!」
巨大な細身の水上機、艦載機とかとは違う、救難機だ
北上「っ…そう…か、あれだと砲撃受けるのはヤバいね…!」
暁「全速で!進んで!早く!」
大淀『機体から視認しました!援護します!』
多摩「お前、後で殴ってやるニャ!」
大淀『後ででお願いします!』
北上(…あー、不味い…頭熱すぎる…鼻から血が出てきた…もう、ヤバい、ゴールできんの、コレ?
っ!至近弾…)
曙「うぁっ?!」
北上と曙をつなぐロープが、砲撃で切れる
北上(あ、まずい…)
北上がロープが切れた衝撃で転ぶ
多摩「北上!…全員乗り込むニャ!暁!援護!」
暁「わかってる!」
北上(…あれ…立てない…体、動かな…あれ…これが、沈む…って事…?)
曙「大淀さん!北上さんが…!」
大淀「わかってます!パイロット!すぐに出せる用意を!回収次第出して!」
多摩「暁!ロープ引っ張るニャ!」
暁「無理よ!両手が使えないの!」
北上(…あー…鼻血も止まんないし、なんか寒くなってきたし……)
北上「っ?……あー…誰…の、声?」
多摩「連れて行かせるかニャ!北上!しっかりするニャ!」
曙「2人とも!早く戻って!これ以上はもたないって!」
暁「誰かロープを!」
多摩「大淀!!」
大淀「はい!」
多摩(これ以上は、機体に近づかせるわけには…!)
北上(…あ、多摩姉…ダメな、顔してる…それは、ダメな時の…だよ)
大淀「北上さん!聞こえますか!北上さん!」
暁「多摩さん!北上さんはもう回収できるから!早く!」
多摩「…大淀!離脱させろニャ!…ここは、多摩が抑える…!」
大淀「…え…」
多摩「お前の失敗だニャ、もう2度と見誤るニャよ…!発進させるニャ!」
曙「無理よ!」
多摩「全員共倒れする気かニャ!行け!行くニャ!」
多摩が機体から離れ、敵の方へ…
大淀(…だ、ダメ…もう、絶対ダメ、どうすれば…わ、私は…私は…ダメだ、助けられな…)
大淀「…発進、させてください…」
…ハッチが、閉じる
誰も、大淀を責める様な言葉を発せなかった
大淀「見殺しにしました、確実に死んだ、私が死を選ばせた、実に最低な話です」
青葉「…でも、それは…」
大淀「誰も私を責めはしませんでした、その時はまだ、先輩も、何も言わなかった
…誰も、責めてくれなかった、人殺しとも呼んでくれなかった…だから私は、タガが外れてしまいました、だから…」
青葉(……今、気づいたけど…手、震えて…)
青葉「だ、大丈夫ですか?」
大淀「…今、思い出しても…あの時の感覚は……良くないものですね…」
大淀さんが立ち上がり、フラフラとシアターを出る
青葉(…明るくなって分かったけど、顔が真っ青…)
大淀「う…っ……」
急にトイレに駆け込んだと思ったら…
朝霜(めっちゃ吐いてる…)
青葉「だ、大丈夫ですか?」
…返事がない…
青葉「あ、あの…」
大淀「すみません…ご心配をおかけしました、大丈夫です」
フラフラしてるし、会った時とはまるで別人みたいにげっそりと…
青葉「…本当に…?」
大淀「……同情しないでください、マトモだった時の心境を思い出して、気持ち悪くなるんです、罵倒されたり、敵意を向けられてる方が、ずっと心地いい…
自分が罪悪感から逃げるために、辛く当たると分かっている先輩を利用してたあたり、私は……最低ですね…」
青葉「…あの」
大淀「青葉さん、なぜあなたにこの話を聞かせたか、わかりますか?」
青葉「…全くわかりません」
大淀「あなたがまともだった頃の私に似ているんじゃないかと思ったんです、もしくは先輩の影を見たとでも言えば良いのか
私は、あなたに壊れないでいてほしいと思いました」
青葉「……そうですか」
でも、さっきの話は殺したってほどじゃ…
大淀「殺してない、とでも言いたげですね、ちゃんと殺したんですよ、私は…もう1度、殺したんです…」
青葉「もう、1度…?」
大淀「…体調が優れないので、今日はこの辺りで」
青葉「あの、最後に一つ聞いて良いですか?」
大淀「どうぞ」
青葉「…艦娘なんですか?」
大淀「……お答えしかねます」