食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
……
山の奥、森の中、どれだけ走っただろうか?
あれからどこまで逃げたんだろう?
息をするのが、苦しい、背中を木に預けて、小さくうずくまる
怖い、いつ、何がくるかわからない
ああ、怖い、もう嫌だ…なんでこんなことに
カサッ
「!!」
…目の前をリスが通り過ぎる
リスが雑草をかき分ける音が、あたりに小さく響く
…心臓の鼓動が、早くなる
どんどん早くなる、酸素を求めて、息も荒くなりそうなのに、吸えない、吐けない
窒息しそうになる
居る、すぐそこに…
リスの音を聞いて、近づいて…きてる…
(違う違う、私じゃない!私は音を立ててないのに…!)
ドッ
隠れている木ごと吹き飛ばされ、最後に見たのは…私から随分と遠くにある崖、さっきまでいた陸地
浮遊感と恐怖を感じながら…滑落した
北上「…ねえ、お願い、車か何か…お願いだから、使わせて…今すぐに動かなきゃ…」
加賀「そう言われても、無理よ…私も動くなと釘を刺されてる、助けたくても…」
夕張「せめて、情報は入らないの」
加賀「……無いわ」
北上「…嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
山雲達は首輪までつけて、自由も何もかも捨てて、それでもなんとか幸せに生きたかっただけなのに…!
なんで何もしてくれないの!?国の指示に従って生きてたんだよ!辛くても何も反抗せずに…!」
加賀「公僕が全ての命を救えると思わないで」
北上「っ…この!」
加賀が殴りかかろうとした北上に拳銃を突きつける
加賀「大淀さんみたいな事はしたくなかったけど、仕方ないわね…こうする許可は貰ってる、行動を起こしそうなら、撃てとも言われてる」
有無を言わさず、引き金が引かれ、北上が膝から崩れ落ちる
夕張「っ……」
加賀「北上を止めるように言われてるの、悪く思わないで頂戴」
川内「……北上ってさ」
川内が北上を抱き抱える
川内「あんなに、感情を露わにするんだね、全然こんなイメージなかったよ」
夕張「…確かに、なかなかこんな姿は見ないわよね…」
夕張(というか…最近、めっきり……あれ、北上って…そう言えば、こんな…?)
…北上って、こんな感じだったっけ…?
加賀「…2人とも、いいかしら」
川内「なに?あたしらも撃たれるわけ?」
加賀「違うの、とても…北上や、北上の仲間の子達には、聞かせられないから」
夕張「…どういう話」
加賀「実は、ある程度の情報は得ているのよ…
山雲って子達を襲ったのは…主導していたのは、人間よ」
川内「…いや、意味わかんない、70億いる種族の名前出されてもさ」
加賀「最後まで聞いて、その子たちの住んでいる村の住人数名が、夜中にいきなり…そう聞いたわね
夕張「な…なんで?…まさか、近くに住んでたってだけで…?」
加賀「そこまではわかってないわ、でも、畑も家も焼かれて、現場はひどい有様、大淀さんから…北上には絶対に伝えるなと言われたのよ」
川内「…人を殺しかねない…か」
加賀「それで犯人を殺すだけで済めばいいけど、人間と艦娘、それが別の存在とハッキリ別れるきっかけになりかねない」
夕張「……加賀、それだとしたら、私も寝かせるべきだったわね」
加賀「今からでも間に合うけど」
加賀が向けた拳銃を掴み、スライドを少し押す
夕張「引き金、ロックしたわよ?」
加賀「……そもそも、撃つ必要はないみたいね、だって貴方、冷静みたいだし」
夕張「頭だけはね、でも、怒りはもう止められないくらい、グラグラだから」
川内(…コレは、ヤバいな…)
お互いの視線が銃に向き、そして、目が合う
加賀「ふふっ」
夕張「あはは」
つい愛想笑いしてしまったけど、もう止まらない…
同時に銃を強く引っ張る、が、当然抜けない
加賀(軽巡?これが…?なんて力!)
夕張(やっぱ銃は無理、なら
川内「そこまで」
夕張「っ」
加賀「……2本持ってたのね」
短刀の峰が、2人の首元に突きつけられる
川内「そっちこそ、2艇《ちょう》目を抜いてたら、殴らなきゃいけなかった」
夕張(…加賀、まだ隠し持ってた…?)
ゴツン
川内「あ、やば…北上放り出したから頭から…うわぁ…いたそ…血は出てないけど」
夕張「……意外と武闘派ね?」
加賀「あなたこそ」
川内「…次は刃の方を使うよ、薄皮一枚は、斬る」
夕張「見殺しにはしたく無い、北上の仲間は私の仲間でもある、し…それ以上に、実際に会ったこともある
あの子達も、幼くて、未来がある筈の子達」
加賀「見殺しにしろとは言わないわ、だけどね、無茶をされては困るの」
夕張「それはそっちの都合でしょ…!」
加賀「艦娘は公僕よ、公の幸せのために尽くす者、それが公の一部を殺すなんて、許されると思う?」
夕張「だとしたら!」
川内「っ」
加賀の手首を掴み、私のこめかみに拳銃を押し付けさせる
夕張「撃てば良い、私が間違ってると思うならね
それに、首輪をつけるという事は、その責務から外れた事を意味するんじゃ無いの!?」
加賀「予備隊になるだけよ、外れるわけじゃ無い」
夕張「…そういう考え、わかった、じゃあ艦娘は人だと思う?」
加賀「…わからないわ」
夕張「濁すな!!…逃がさないわよ、毎日頑張って、汗水垂らして必死に生きて、仲間と笑って、ご飯も食べて、これと人間との違いって何!?
私には、違いなんてないように見える、北上が私に言ってくれたみたいにね
そして、その“人間”を傷つけた!傷害罪、死んだ子が居たら殺人罪、そうでしょ…!
公僕として、犯罪者を…捕まえる」
加賀「……川内、あなたの意見は?」
川内「…夕張の言ってることの方が好きかな」
加賀「そう」
川内「でも今回は特別に加賀の味方をしてあげよう」
加賀「……」
夕張「どういうつもり?」
川内「加賀にも理由があるんだろうと思ってさ、言ってみなよ」
加賀「……もし、事件が起きれば…私達も危ういのよ、あなた達自身が危ういのは当然だけど、巻き込まれるのはゴメン」
夕張「そんな理由で!」
川内「まあまあ、わからなくもないし、あたしだって同感だ、ようやく落ち着き始めたなに、明日を棒に振るうなんて嫌、みんなそうでしょ」
夕張「っ…!だったら私1人でも!」
川内「…無理しなくて良い、無茶だよ、わかってるでしょ、何人が苦しむことになるか
それに…言いたかないけど、あたし達はその子達のこと何も知らないし…言って仕舞えば助ける義理もない…巻き込まれるのを止める理由もない」
…もっともだ、その通りだ
他人を心配するなんて、川内や加賀達からしたら御免だろう
だとしても、だとしても私は…
夕張(…動けないのが、こんなにも歯痒い…!)
春雨「っ……つぅ…」
…ここは、どこ?
確か、公衆電話で電話してる時に…何かが、飛んできて…
春雨「……ベッド…?…もしかして、病院?…えっと………あ、れ」
…動け、ない…?
いや、正確には、なんていうか…
表現の仕方が、わからないけど
力を入れてるのに…力が逃げてるっていうか…
春雨(……)
…恐る恐る、自分にかけられた布を捲る
春雨「っ……」
脚が、無い…?
なんで?…なんでこんな…事、に…
なんでだっけ…そうだ、帰らないと…帰ら…なきゃ…?
春雨「……あ…そう、か…」
…もう、帰る場所も何も無くなったんだった…
そう、全部、焼かれて…
もうすぐキャベツも玉ねぎも、収穫できそうだったのになぁ…
春雨「…どうして…?」
明石「ああ、よかった、目が覚めたのね」
春雨「…誰…?」
明石「初めまして、私は明石…って、思ったより取り乱さないのね、いやー、鎮静剤打たなくて済みそうでよかった…」
春雨「…あの、私の、仲間は…」
明石「……私は何も把握してないわ、私、ここから出ないから」
春雨「…ここは、病院じゃないんですか?」
明石「ここは研究施設、その…まあ、艦娘用のね」
春雨「……私は、どうなるんですか?」
明石「大丈夫、手当てが終わったら望むようにしてあげるから」
明石さんがベッドに乗せる机を出し、食事の乗ったプレートが置かれる
春雨「……」
お粥と、刻んだ蒸し野菜…
明石「ゆっくり食べてね」
スプーンで掬い上げて、口に含む
塩気の弱い、味のない粥…でも
春雨「…はぐ…あぐっ…」
明石「あんまり急いで食べちゃダメよ、2日も寝てたんだから、空っぽの胃にかきこむと良くないの」
春雨「え……ふつ、か…」
…私、2日も…?