食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
「……うぅ…」
足元がふらつく
もうこの1日で何度立ち止まり、座り込んだかわからない
滑落した時に打った身体が痛い
全身が痛い
今も追われてるのに、止まってなんていられないのに…
「…気持ち悪い……さっき食べたキノコのせい…?」
…それとも、虫か、何が悪かったのか
「……あ…音…?」
…ふらりふらりと、音の方に近づいて…
「…車…!高速、道路…?」
ここは、どこだろう…看板か何か…
「…長野…?…そんなに、遠くまで来たんだ……あ、サービスエリアまで…500メートル?……そう、だ」
春雨「…あの」
明石「ごめんねぇ、私も雇われだから、やれって言われたらやらなきゃいけなくて…ほんとはもっと伸び伸びした環境でやりたいんだけど」
両手を拘束され、椅子に座らせられる
明石「私だってできればやりたくないけど、この部屋、監視カメラまであるから…許してね」
春雨「……」
明石「…ほんとに、取り乱す心も無くしてしまってるのね、随分と…酷いことに巻き込まれた…
その、悪いとは思うけど、あなたには思い出して、話してもらわないといけないの、いい?」
春雨「…まだ、頭が、ぼうっとするんです…」
明石「薬の影響ね、今朝も強いのを呑んでもらってるから…痺れる感じがするでしょ」
春雨「はい…」
明石「…始めるわね、まず、何があったのか、覚えてる限り教えてくれる?」
春雨「……みんな、寝てる時でした、誰かが畑に火がついてるって叫んで…私達は、急いで向かったんです
そしたら、急に辺りが爆発して……あ、れ…なんで、あそこに…や、やだっ…やだやだやだやだやだやだ!」
明石「落ち着いて、落ち着いて?こっちをみて」
明石さんの顔が近づく
明石「落ち着いて、ゆっくりと呼吸をして…そう、上手、ゆっくりと、大きく吸える?難しいなら間隔を空けてみて
春雨ちゃん、私を見て、そう、安心して?」
春雨「はっ…はっはっ…はぁ…はぅ…」
明石「温かいココアでも飲んで」
マグカップに入ったココアを口に含む
明石「どう?美味しい?」
春雨「……わ、わかりません…」
明石(…もしかして)
明石「味薄かったかなぁ、じゃあこっちのチョコは?はい」
小さな包みに入ったチョコを、口に含む
明石「もし麻酔が効きすぎて味覚まで痺れてるなら、教えてね?調整するから」
…口の中で溶かす
じっくりと溶かす
舌にねっとりと絡んでくるけど…
春雨「あ、味が無いです…」
明石(味覚障害…と……コレは直接伝えるのはまずいかなぁ)
明石「薬を減らせば味覚は戻る筈だから、しばらくは我慢してね」
春雨「はい…」
明石(…それ、にしても…その時のことを思い出すとやっぱりパニックになるか…
どうしようかなぁ…とりあえず、聞き取りは続けないと…)
明石「襲ってきたのは、村の人間なのね?」
春雨「…わ、わかりません」
明石「わからない?」
春雨「…わからないんです…よく、思い出せなくて…」
明石「…そっか」
明石(時間はまだあるし、もう少し…ゆっくり…)
北上「…っ……んぐ…?」
寝て、た…いや、この気怠さ、覚えがある
それに、最後の記憶…
北上「っ!」
動けない、椅子に縛り付けられてる…両手、両足、腰まで縛られて…
加賀「目が覚めたのね」
北上「……今すぐ外さなきゃ、どうなっても知らないよ」
加賀「そう、でも仕方ないのよ」
北上「ふざけんな」
加賀「貴方がどんなに抵抗しても、ダメなものはダメなの、理解して
…何人を巻き込むつもりなの」
北上「巻き込むつもりなんかない、あたしは…!」
加賀「自分に首輪がない理由を想像したことはある?貴方達は非公式に雇われてるのよ
簡単に切り捨てられるようにね…1人の暴走で全員が切り捨てられる」
北上「……だとしても、あたしは…!」
加賀「気持ちはわかるわ、だとしても、貴方を止めなきゃいけないのよ、睡眠薬が欲しかったら言って、それじゃあ」
北上「…そんなもん飲む前に舌噛み切って死んでやる」
加賀「次は口枷を持ってくるわ」
加賀が居なくなったのを確認し、辺りを見回す
監視カメラは無い、背中は壁、やや隙間があるのは椅子の裏で手を縛るためか
親指をバンドで緩く締めて、さらに手首を手錠…
足回りは足首に手錠、腰は金属製の鎖
北上「さて、どう逃げ出すか」
…なんとしても、逃げ出して、探しに行かなくてはならない
しかし、窓もない、鉄製の扉が唯一の出口を阻んでるし…
北上(可能性としては、食事のタイミング?…にしても、誰も声をあげないわけ?
いや…みんなを混乱させないために伝えてないのかな、何にしてもここでの拘束が長引けば、誰かが動いてくれる筈…)
北上「…それまでは、眠るしかないか」
…ガンガンガン
鋼鉄の扉を何か固いものが叩く音で目が覚める
夕張「入るわよ」
北上「夕張さん…!よかった、夕張さ…」
夕張「ゴメン、無理」
北上「まだ何も言ってないよ」
夕張「要求には応えられないの、許して」
北上「……なんで?」
夕張「北上、みんなを守る為なの、今、動く事で…悲劇を繰り返すわけにはいかないのよ」
北上「納得できないね」
夕張「…私もそうだった、し…同じ気持ちよ」
北上「…はぁ……っ…はーっ…!
みんなそれだ!みんなそればっか!何言ってんの!?アンタらにあたしの気持ちなんか!」
夕張「見て、コレ」
夕張さんが首元の切り傷を見せつけてくる
夕張「川内とやり合ったの、加賀ともやり合った、私1人でも動こうとした、それくらい…あの子達を想った、衝動的に馬鹿なことをしようとした」
北上「……だったらなんで、そっちにいるの」
夕張「2日よ」
北上「2日?」
夕張「…2日、私も隣にいたわ、嫌でも冷静になるしかなかった、もう遅いって、何をするにも遅すぎるってわかるでしょ?」
北上「…待って、あれから、2日…?」
…それじゃあ、もうみんな…?
夕張「…だから、北上、バカな気を起こさないで、よく聞いて、私は、北上が出たら、ここを抜けるわ」
北上「…どういうつもりで…」
夕張「私がバカになる、犯人を探し出して、全員殺してくる」
…本気で、言ってる…?
北上「…それこそ、やめてよ…あたしの周りから、また一人いなくなるじゃん」
夕張「…ようやく冷静になれた?」
夕張さんが、イタズラっぽく、でも、悲しそうに笑う
北上「……悪い冗談だよ、ほんと」
夕張「でも、半分本気だったわ、見透かされて散々に説得されたから、とりあえず今は諦めたけど」
北上「…そっか」
夕張「それでも、ごめん、私は…北上や、ここにいるみんなが可愛いあまりに、山雲ちゃんや春雨ちゃんを見捨てた様なもの」
北上「…いつかは、仇を取るよ」
夕張「合法的な手段でね」
北上(…ゴメン、夕張さん…それはわかんないね)
夕張「…はぁ…想ってたより、あっさり納得してくれた…かな」
ツ級「夕張ガ思イ留マッテクレタカラ、ネ」
夕張「正直後悔も強いわ、でも、時間が経ちすぎた…覚えてる?佐世保の12時間ルール」
ツ級「…艦娘デモ、12時間ヲ越エタ時点デ死亡トシテ、自隊ノ捜索ヲ打チ切ルモノトスル…」
夕張「このルールで何人見捨てられたか、久しぶりに…悔しくて仕方ないわ」
ツ級「…ホントニ、諦メタノ?」
夕張「生存できるなら、誰かに保護されてるはずよ
そうじゃなければもう手遅れ、遺体の骨は警察が拾ってくれる、なら…私達はいつか、仇を取れば良い」
ツ級「……」
由良がそっと私を抱きしめる
夕張「…まるでほんとに触れてるみたい」
ツ級「私ハ、触レテルツモリ」
夕張「……そっか、やっぱり…そうよね」
「っ…ようやく、ついた…」
500メートルって、こんなに遠かったっけ…
サービスエリアにたどり着いて、潜り込める車に潜り込んだ
(…気づかれない、これで、気づかれ、な…い……)
…いつの間にか、私は…意識が、睡魔に…