食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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遅刻

大井「ねえ」

 

青葉「は、はい!!」

 

大井「紹介してあげるって約束なのに早速遅れて来るなんて、どういう了見(りょうけん)なの?」

 

青葉「ご、ごめんなさい!わざとというわけでは…」

 

大井「だったらもうはっ倒してるわよ」

 

青葉「はっ…たお…?」

 

大井「ぶん殴ってるってこと、青葉の性格上、わざとじゃないことはわかってるつもりだけど、1時間って…先方帰しちゃったわよ?」

 

青葉「す、すみません!すみません!」

 

大井「第一、20時なんて時間も非常識だし…何してたのよ」

 

青葉「…は、働いてました…」

 

大井「はあ?…副業だってのは知ってたけど、せめて休みの日に…」

 

青葉「…その、休みは、なくて…」

 

大井「……え?」

 

青葉「休みは、無いんです…休んだら、お金足りなくなるので」

 

大井(…思ったより、ヤバい娘の面倒見ようとしてたの?私)

 

大井「…そういう事なら、掛け合ってあげなくも無いけど…倒れるわよ、貴方」

 

青葉「え?…あー、大丈夫です、慣れてますから」

 

大井「…神戸はそんなに忙しい基地じゃ無かったと思うけど」

 

青葉「え?」

 

大井「……なんでも無いわ」

 

大井さんが一瞬目を伏せ、笑顔を貼り付けてコチラを向く

 

大井「仕事の説明をしてなかったわね、私もいくつか兼業してるけど、基本的に接客業よ

キャストにするかはまだ決めてないけど」

 

青葉「きゃ、キャスト?…何かの役なんですか?」

 

大井「そう、人を喜ばせる仕事」

 

青葉「……何をするんですか?」

 

大井「キャバよ」

 

青葉「…きゃば?」

 

大井「キャバ嬢、夜の仕事を希望したんだからわかってるんでしょ?」

 

青葉「…えっと……」

 

大井(…ほんとに…?…嘘でしょ…)

 

青葉「…その、何をする仕事なんですか?」

 

大井「キャバクラ、キャバレークラブ…大人の男が女に酒と接待を求めて行くとこ…

あーもう…現役の時“そういう”のも無かったわけ?…随分と良いところだったみたいね、貴方の居た神戸は」

 

青葉「…えっと…ごめんなさい」

 

青葉(…すごく怒ってるみたい…)

 

大井さんがスマホを操作し、画面を見せる

 

煌びやかなドレスに身を包んだ女性の写真がたくさん…

 

青葉「これが、キャバクラ…?」

 

大井「お酒は飲めるの」

 

青葉「…飲んだ事ないです」

 

大井「歳は」

 

青葉「は、ハタチです…」

 

大井「ならなんで飲んだ事ないのよ…!こちとら18のクセしてアルコールで肝臓いじめてるのに…!

後ついでにストレスで胃も…!」

 

青葉(あ、年下!?)

 

大井「現役時代からあったでしょ…お酒の付き合いとか…無かったの?」

 

青葉(ふるふる)

 

大井「…ホント、良い基地ね、羨ましいくらい」

 

青葉(すごく怒ってる……)

 

大井「……はぁ、青葉…ホント、恵まれてたのね…だから、あんな見ず知らずの子を養うみたいな御花畑な考えになるのよ」

 

青葉「…御花畑、ですか」

 

大井「…知ってるでしょ、最近は前よりも艦娘が生きてるだけで疎まれるのよ

なら、荷重になるのは、リスクでしかない…タイミングも悪かったわね」

 

青葉「……あ、はは…その…」

 

大井「優しいのは悪い事じゃない、でも、優しいと、自分を殺す事になるわ…

それは、戦争が終わった今も同じよね」

 

青葉「……」

 

大井さんが一歩私に近づき、肩に手をかける

 

大井「…優しいのは嫌いじゃないし、あのクソガ…朝霜ちゃんも嫌いじゃないわ

苦労してるみたいだしね…でも、貴方は自分の身を1番に考えなさい」

 

青葉「…は、はい…」

 

大井(…青葉が何を隠してるのかは知らない、興味もない

なぜ、神戸出身なんてウソをつくのかも問い詰める気はない……でも、だから、私は青葉を知りたい)

 

大井「…あれ、なに、その腰の棒」

 

青葉「へ?」

 

大井さんが腰に下げた槍を掴む

 

青葉「あっ」

 

大井「え?…きゃっ!?」

 

槍が展開する

 

大井「あ、あっぶな…なんて物持ち歩いてるのよ…!?」

 

青葉「こ、これには深いわけが…」

 

大井「っていうか!どうにかして!この伸びたやつ!」

 

青葉「あ、は、離せば縮みます!」

 

大井「え?あ!」

 

カラカラと音を立てて槍が地面を転がる

 

大井「…なにコレ、生体ユニット反応式の装備?

こんなの、見た事ないわ…なんで持ってるの?」

 

青葉「…朝霜ちゃんを育ててた人の、遺品です」

 

大井「あ…ごめん、余計な事聞いたわね、

 

青葉「いえ…」

 

槍を腰に下げ直す

 

大井「……自己防衛のできる武器があるのはいいわね、でも、言葉通りじゃなく、比喩的な意味の武器も必要よ」

 

青葉「…どういう意味ですか?」

 

大井「それが、お金なのよ…残念ながらお金があればこの世はなんとでもなるの」

 

青葉「…お金…」

 

大井「…何そんにしけたツラしてんの…!…稼ぐんでしょ!?…あーもう!仕方ない、初期投資よ!」

 

青葉「へ?」

 

大井「飲みに行くわよ!ついてきなさい!」

 

青葉「お、お金ないんじゃ!?」

 

大井「隠し財産があるのよ!黙って来なさい!」

 

青葉「あ、引っ張らないで!あー!」

 

 

 

 

 

青葉「うー…」

 

大井「そういう事だから、はい、あとよろしくね」

 

ベロベロに酔っ払った青葉を朝霜に押し付ける

 

朝霜「いや、そういうって…どういう事なんだよ…」

 

大井「アンタの為に働くって聞かないから、仕事紹介しようと思ったけど、缶チューハイ2本でコレよ、しかも5%」

 

朝霜「…マジか…」

 

青葉が玄関に倒れ込む

 

朝霜「…青葉サン、お願いだから無理すんなって…休んでくれりゃ、それで良いのに…」

 

大井(ふーん…そういう事)

 

大井「ねえ、青葉って何の仕事してるの?」

 

朝霜「…わかんね、でも、肉体労働の、土木…とか言ってたような気はする」

 

大井「……そう、給料は?」

 

朝霜「日に…1000円くらいかな」

 

大井「せっ…!?…何でその仕事してるのよ…!

首輪付きなら探せばアルバイトでももっと稼げるのに…青葉!起きなさい!青葉!」

 

青葉「うにゅえ…」

 

朝霜「や…やめろって…!しんどそうだろ…?」

 

大井「そんな事言ってる場合?アンタ、青葉の労働環境おかしい自覚あるんでしょ?

このままじゃ潰れることも、わかってるんでしょ」

 

朝霜「…わかって…る…」

 

大井(…待って、コイツ、こんな…)

 

大井「…ねぇ」

 

朝霜に手を伸ばした瞬間、朝霜が明らかに怯えた視線をこちらに向ける

 

大井「…虐待でも、受けてたの」

 

朝霜「ぁ…いや……」

 

大井「青葉!!」

 

寝ている青葉の胸ぐらを掴む

 

朝霜「ち、違っ…青葉さんじゃ…」

 

大井(…やっぱり受けてるんじゃないの…前育ててた奴も死んだって言ってたわね、だとしたらどの段階で?

何で青葉にここまで心を開けてるの?

……この娘、このまま、大人になってもいいの?)

 

朝霜にもう一度手を伸ばす

怯えたまま、じっと私の手の行き先を見つめている

怖いものから、目を離せないのだろう

 

朝霜「っ……?…」

 

大井「大丈夫、私は…敵じゃない」

 

朝霜の頭を、優しく撫でる

 

大井「…だから、必要なら、頼りなさい…青葉よりも甲斐性(かいしょう)はあるから」

 

朝霜「…い、いのか…?」

 

大井「……」

 

ジッと青葉を見る

 

大井「…青葉は数少ない、虫食べ仲間だから」

 

朝霜「なんだそれ…」

 

大井「あら、知らないの?バッタとかザリガニ、食べた事ないでしょ?」

 

朝霜「…無いけど」

 

大井「美味しいわよ、今度食べさせてあげる」

 

朝霜(要らねぇ…)

 

大井「…その顔のが、似合ってるわ」

 

朝霜「…ありがと」

 

大井「…青葉を寝かせないとね、布団どこ?」

 

朝霜「あ、そこに…」

 

布団を敷いて、青葉を布団に押し込む

 

大井「ん?」

 

青葉「…むにゃ…」

 

大井「コラ、離しなさい…あーもう」

 

青葉「ガサ…」

 

大井「…ガサ?……衣笠の…事?」

 

朝霜「…大井サン、なんか知ってんのか…?」

 

大井「知ってるも何も…私のが神戸にいたときの…同僚…姉妹型の鑑だとは思ってたけど…」

 

朝霜「…その人は」

 

大井「死んだわ、それも…出撃の時、私と同じ隊でね…

私達を守って、死んだの…」

 

朝霜「……ぁ…」

 

朝霜が、目を丸くして、こっちを…いや

 

大井「…っ」

 

…ついさっきまで、寝息を立てていた筈の人の目とは、思えない、真っ暗で、澱んだ眼を…いつの間にか向けられていた

 

青葉「……」 

 

大井「…あ…青、葉…?」

 

青葉「……違う………すぅ…」

 

大井(…ね、寝た…の…?)

 

朝霜「…あのさ、外で話したいんだけど」

 

大井「……ええ」

 

 

 

 

大井「衣笠の死を、受け入れられてない…ねぇ」

 

朝霜「…そっとしといてやって欲しいんだ

アタイも、もう…変な事言わないし、青葉さんには…これ以上辛い思い…して欲しくない」

 

大井「子供がそんな気使わなくて良いの」

 

朝霜「でもよ…」

 

大井(…とりあえず、一旦ほとぼりが冷めるのを待つか…酒で忘れてくれてたら、良いけど)

 

朝霜「……」

 

不安げな朝霜の頭に手を置く

 

大井「安心しなさいガキンチョ、青葉は私が何とかしてあげる」

 

朝霜「…ホントに?」

 

大井「アンタは良い大人に恵まれた事ないみたいだけど、良い大人はウソをつかないものよ、期待してなさい」

 

朝霜「…へへ、わかった」

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