食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
天龍「クソッ…龍田のやつ、影も形もねえ…どこに消えやがった?」
山雲「…えっと〜…その〜……ここ、どこですか…?」
天龍「…大阪の隣だ」
山雲「となり…?」
天龍「待て、地図見る……尼崎だとよ
…最後に龍田と連絡取れた時は、たしか大阪に居たはずなんだ、荒潮の事もある、とにかく龍田に会わなきゃならねえ」
山雲「なのに〜…どうして尼崎に…?」
天龍「古い馴染みがいてな、龍田の事も知ってるんじゃねえかと思って……あー…
どこだ?どこにいるんだ?」
山雲「どんな人ですか?」
天龍「衣笠って言って……あー…いや、そうだ、違う!
……クソッ…コイツも死んだんだった」
山雲「…亡くなった人、ですか」
天龍「悪い、忘れてくれ…
殺しても死なねえタイプのお節介だったもんでな…確か神戸の艦娘だ、尼崎に下宿持っててな、こっちに来る時にたまに遊びに行ってたんだよ」
山雲「へー…」
天龍「…死んだってのも、未だに信じられねえけど…戦争やってたんだ、死人くらい出て当たり前なんだ…
オレが、トチ狂ってるのかもな」
山雲(…みんな、どうしてるのかしら…)
天龍「……荒潮、どうなったんだ?
クソッ…無理矢理引き止めるべきだったのか?
あーもう、わかんねぇ…悪い山雲、ちょっと時間くれ…」
山雲「大丈夫です」
天龍(…龍田、ホントにどこ行ったんだ…
艤装の周波数も引っ掛かりやしねえ……いや、これか?)
青葉「へ…?く、クビ…!?」
龍驤「おん、なんや知らんけど、もう要らんてな
何したんやオノレは」
青葉「そんな!何も変な事はしてませんよ!」
龍驤(やろうな、単純に雇う理由無くなっただけやろうし)
青葉「…ホントに、もう現場はないんですか…?」
龍驤「無い、ちなみ言うとくけど、青葉の問題でクビになったわけやしウチももう面倒見たる義理も無い、自分で生きや」
青葉「そんな……どうしよう…」
青葉(…考えたくはないけど、やっぱり、荒潮ちゃんを間に挟まなくなったせいで…?)
龍驤「……青葉、そんなトコ突っ立ってんなや、邪魔やろうが」
青葉「へ…」
龍驤「商売の邪魔や言うとんねん!さっさと消えや!」
青葉「……すみません…」
龍驤(……)
青葉「…どう、しよう……昨日の現場の人、すごく機嫌が悪かったし、やっぱり私が何かした可能性も…
なら、直接謝りに行って…もう一回働かせてもらわないと…」
今の1日の食費は、前に買った調味料やお米を除いて400円ほど
でも、食べ盛りの朝霜ちゃんには少ない量だし、お米ももう直ぐ底を尽きる
…貯金はかなり貯まって、前の買い込みでほぼ0になったのに、今では7000円ほどある
青葉(…お米は買える、最悪、一週間は持たせられる
でも、ジリ貧……)
青葉「とにかく、現場を探して直接お願いに行くしか無い…!」
青葉「大井さーん…」
大井「青葉…?ってどうしたのよ!そんなに顔腫らして…」
青葉「仕事…クビになっちゃいました…」
大井「クビ!?なんでよ!」
青葉「わかりませんけど…「もうお前は用済みだ」って…」
大井(…わかりきってるじゃない…
運び屋としてしか、期待されてなかったって事…)
大井「……はあ…それで?」
青葉「…もう一回働かせてくださいってお願いに行ったら、用済みって言われて…食い下がったら、工具が…」
大井「なによそれ…信じられない…!」
青葉「…もう、私、どうして良いか…」
大井(…待って?でもこれってチャンスじゃない…?青葉に毎日働かせるのをやめさせるチャンス…)
青葉「…あの…?」
大井「晴れて収入無しね、今日は一旦パーっと行きましょ!」
青葉「へ?え?」
大井「大丈夫大丈夫!ちゃんと奢るし、仕事も紹介するから!」
青葉「あ、え?あ、ありがとうございます…?」
大井「さあ行くわよ!すぐ行くわよ!」
青葉「あ、ちょっ!?」
朝霜「…くぁ…あ……なんだよ急に押しかけてきて…あたい眠いんだよ…」
大井「良いから良いから!食べに行くわよ、外食!」
青葉「あの…やっぱり悪いですよ…」
朝霜(…なんか、今日の大井サン、機嫌良すぎて気持ち悪りぃ…)
朝霜「なんか良いことあったのか?」
大井「まあね、ずっと悩んでたことが一つ解決したって言うか!胸の支えが取れたって言うか!」
青葉(大井さん、馬券でも当たったのかな…)
朝霜「つーかいいのかよ、聞いたぞ、宝くじも舟券も全部ハズレたんだろ?」
大井「いいのよ!任せなさい!」
青葉「んー……」
朝霜ちゃんと顔を見合わせる
朝霜「んー……ま、夕飯には少し早いケド、青葉さんも早く帰ってきてるし」
青葉「うぐっ」
大井(…そういえば朝霜は知らないのよね)
朝霜「せっかくだし、ご馳走にならぁ!」
大井「よ、よーし、そうと決まれば行くわよ!」
大井「3人で!」
店員「申し訳ありません、お入れできません」
大井「え?」
朝霜(…あー…とうとう“引いた”か…)
店員「お客様はともかく、後ろの二人は、艦娘ですよね?」
大井(なん…そうだ、首輪…)
青葉「…大井さん、やっぱり私たち…」
大井「次よ!」
大井「…なんでどこもダメなの?前までここまで艦娘を危険視してなかったでしょ」
朝霜「最初の店が1番優しい対応だったな」
青葉「朝霜ちゃん、ちょっとジッとしてて…髪の毛に塩が…」
大井「首輪見るなりあんな反応…いや、最近のニュースの内容も悪いのかしら…
……どうしたら、いいの?」
青葉「あー…あの、まあ、今日はこれで…」
大井「ダメよ」
青葉「え」
大井「私の気が収まらないわ…絶対にダメ、そもそも、そんな首輪が悪いのよ…!」
青葉「首輪が、ですか…」
大井「それさえなければ判断できないわ
私は艦娘だって指摘されてないもの…でも…」
大井(…わざわざ艦娘ですと主張するバカ正直が、悪事なんかしないわよ…
普通のフリしてやった方がよっぽど効率的…ほんと、バカ正直なせいでまた損してる)
青葉「あの…」
大井「…別のお店、探してくるわ」
朝霜「なあ、そんな無理しなくても…」
大井「ダメよ、私は決めたの、決めた事は曲げないし、突き通すの」
青葉「…って言われても…」
大井「嘘つきにならない、私は、ダメな大人になりたくない」
大井(少なくとも、この
朝霜「…どうすンだ?」
大井「私に任せて、絶対に大丈夫なお店を見つけて見せるから」
大井(尼崎がダメなら足を伸ばして西宮?神戸まで行けば、私の行きつけに…)
青葉「ホントに、無理しなくても…」
大井「ちょっと待ってなさい!」
大井さんがどこかへと歩いていく
青葉「…どうしよう」
朝霜「…アタイ、歩き疲れたしちょっと寝る」
朝霜ちゃんが公園のベンチに横になる
青葉「…私も、少し休憩しようかな…」
…ゆっくりと陽が落ちていく
ぼんやりと時間が流れて……
青葉「…ふあ……ぁ…?」
…誰か、こっちに歩いてくる…?
間違いない、こっちを見てる
どんどん近づいて来て…
青葉(…誰?)
その人が、腰に手を回し、何かを取る
拳に握り込む様なサイズの何か…
青葉(…何か、マズい気がする…!)
青葉「朝霜ちゃん、起きて…起きてってば…」
…目覚めない
随分と深く眠ってる…
青葉(…とりあえず、巻き込まない様に…)
立ち上がり、朝霜ちゃんからやや距離をとる
青葉「!」
その人が握っていたものから、刃が…
というより、アレは…
青葉(天龍型の…それも刀の艤装…!?)
刀が振りかぶられる
青葉(来る!)
槍を手に取り、受ける構えを…
青葉(や、やっぱり無理!)
力負けが怖くて、飛び下がる
振り下ろされた刀が地面を削る
天龍「…やっぱり、その槍、間違いねえな…
オイ、オマエ…覚悟はできてるか?」
青葉「へ…?」
天龍「覚悟はできてんだろォなァ!!」
もう一度大きく振りかぶられた刀が襲い来る
必死に逃げて、かわす
2撃目、3撃目もかわす、とにかく必死に逃げる
天龍「オラオラオラ!!逃げてんじゃねェ!この卑怯モンがよォ!!」
青葉(こ、こんな街の真ん中の公園で襲うなんて…!この人、マトモじゃない!!)
あたりに人気がなくて、本当に良かった
この人をどうにかするのは無理だとしても、朝霜ちゃんだけでも…
天龍「チッ!…ざけんなよ、テメェ!!
いつまで逃げ回るつもりだ!ぶっ殺してやる!」
青葉(…大振りな攻撃ばかり、なら…スキはあるはず
タイミングを見て、朝霜ちゃんを連れて逃げる!)
天龍「…おォ…ようやくソノ気になったか?」
槍の先端を向ける
射程なら私の方が広い
できるだけ刺激したくないけど、とにかく…
逃げ出すチャンスを…
天龍「オイ!お前!」
刀を片手で持ち、こちらに向けられる
天龍「死ぬ前に教えてやる、オレの名は天龍、その槍の持ち主の、姉貴だ」
青葉「えっ」
…龍田さんの、お姉さん…?
天龍(…動揺して槍の先端がブレたな、龍田のことを知ってる…なら、殺せねえよな)
刀を両手で握り直し、天龍さんがこちらに駆ける
天龍「うおおおぉぉッ!!」
青葉(だ、ダメ!この人とは戦えない!)
青葉「待っ…」
天龍「待った無し!くらいな!!」
走りながら刀を地面に擦り付け、振り上げる
その挙動で舞い上がる砂が、視界を奪う
青葉(目がっ…)
天龍「その首…!ッ!?」
目の前で何かが爆発した…?
青葉「っ……こほっ…」
天龍「…他に仲間が居やがったか…」
大井「そうよ、2対1…刀を下ろさないと、撃つわよ」
青葉(大井さん…しかもあれは、主砲…?)
天龍「いいのか?こんな街中で」
大井「どの口が…」
朝霜「待った!」
朝霜ちゃんが2人の間に割って入る
天龍「朝霜!?」
大井「退きなさい!危ないわよ!」
朝霜「待ったって言ってんだろ!!戦う必要無え!」
青葉「……」
槍を収納し、腰に収める
天龍「…どうなってやがる」
朝霜「それはこっちのセリフだ!天龍さん!なんでこんな事になってンだよ!!」
大井「知り合い…?」
青葉「みたいですね…」
天龍「朝霜!龍田は!龍田はどうした!なんでアイツが龍田の槍を…!」
朝霜「……」
朝霜ちゃんが俯く
天龍「…くそっ!やっぱり…」
天龍さんがこちらを睨む
朝霜「違う!……殺したんだとしたら、アタイだ
アタイが殺した様な、モンだよ」
天龍「…どういう事だ、それは…!!」
青葉「違う!朝霜ちゃん、何言って…!」
朝霜「だってそうだろ!?…それに、今のあたいは、今度は、青葉さんにまで同じ道を歩ませようとしてるんだ…!
龍田さんだってそうだ!アタイなんかに優しくしなきゃ、自分の為だけに生きてれば…むぐっ」
大井さんが朝霜ちゃんの口を塞ぐ
大井「一旦落ち着きなさい…
場所を変えましょう、ここで話してたら、警察に捕まるわよ」
天龍「…たっぷり聞かせてもらうぞ」
青葉「…ええ」
場所を移し、電車の高架下に腰を下ろす
天龍「…朝霜は、抜きか?」
青葉「大井さんが見てくれてます…
思い出させるのは、あんまりにも酷です、手遅れかもしれませんが、1番ケアが必要なのは、今は朝霜ちゃんですから」
天龍「……」
槍を取り外し、差し出す
青葉「お返しします」
天龍「…あァ」
青葉「……朝霜ちゃんは、私と出会った時、強盗…というか、追い剥ぎの様なことをしていました
もちろん、悪いと知った上でやっていた様です
それほどまでに追い詰められていました、おそらく、それを始めた時点で既に」
天龍「…どのくらい前だ」
青葉「もう、1ヶ月以上になります」
天龍「…そうか」
青葉「なので、これは、現場の状況等を見た憶測になりますけど…いいですか」
天龍「……ああ」
青葉「……龍田さんは、朝霜ちゃんの面倒を見ているうちに、なんらかの病を患った、もしくは単純に栄養失調に陥り、倒れたと思われます
そこから、朝霜ちゃんの看護を受けていた様です」
天龍「…死因は?誰かにやられたって訳じゃないのか」
青葉「わかりません」
天龍「なんでだよ」
青葉「あまり、お伝えしたくないですが…発見した時点で、腐乱していました…」
天龍「っ……!」
青葉「…朝霜ちゃんが言うには、自分の食べ物をも削って、食べさせてくれていたそうです
なので、その恩に報いるため、朝霜ちゃんは…どんな手を使っても、食料を手に入れて、龍田さんに与え続けました」
天龍「…それで」
青葉「……良くはなりませんでした、おそらくはそのまま…でも、朝霜ちゃんにとっては、それしか無かったんだと思います
亡くなった後も、その行為を続けたらしくて…その……」
天龍「もういい」
青葉「…すみません」
天龍「なんてザマだ、なんてザマだよ
ええ…?龍田よ……なんで、オレを…頼らなかった…!なんでオレに…助けてくれって…言わなかったんだよ…!!」
青葉「……」
天龍「…オイ」
青葉「…はい」
天龍「なんで朝霜の面倒を見てる」
青葉「……なんで、ですか…?」
天龍「ああ、なんでだ」
青葉「……そうしなきゃ、と…思ったからです」
天龍「…そうか」
天龍さんが槍をこちらに差し出す
青葉「え?」
天龍「もっとけ……お前にやる、悪いが…朝霜を、頼む」
青葉「……はい」
槍を強く、握る
天龍「…すまねえな、事情も聞かずに斬りかかっちまった…オレは、ここで消える」
青葉「朝霜ちゃんに会わなくていいんですか…?」
天龍「…落ち着く時間がいるんだ、今会ったら、責めちまうかもしれねえ…
それに、ツレを待たせてる」
青葉「わかりました」
天龍「…じゃあな」