食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話 作:名無し
神通「……」
川内「ん?何、神通」
神通が刀を抜き放ち、切先を遠くに向ける
海に誰か降りたところだ…
川内「……夕張さん?…あれは…艤装?」
…機関部付きの、フル装備…
川内「まさか!とうとう完成した!?
確かめに行こうか!!」
神通(こくり)
堤防から飛び降りて海を走り、夕張さんに近づく
夕張「あ、川内に神通、お疲れー」
川内「ねえねえ!艤装できたんなら教えてよ!」
夕張「まだ完成したわけじゃない、理論的には使える試作品よ」
神通「……」
川内「神通も興味津々だね、でもそれ、何型の?」
夕張「…何型っていう
川内「…なんで?」
夕張「共通企画にしないといけないのよ、整備性の向上と、パーツの安定した供給のためにね
それに、みんなが同じ物を使っていれば緊急時の装備の受け渡しも容易でしょ?」
川内「でも夕張さんいろんな艤装使えるよね?」
夕張「全部に適性あるから
まあ、聞いた話だと北上は適正無視して無理矢理敵や味方の偽装使って暴れたことあるらしいわよ」
川内「ウソでしょそれ」
夕張「多分ね、そんな事したら処理が追いつかなくて潰れちゃうわよ…まあ、でも…」
神通(もしかしたら、と思えてしまうのが怖いところですね)
川内「で?どう?どんな感じ?」
夕張「速度が問題かなぁ…って思ってる
背負ってる機関部の温度を上げたら当然背中が焼けるでしょ?生体ユニットならその辺は上手くやれたんだけど」
川内「これはうまくいかないと」
夕張「いっそ電気式にしようかなぁと思ったんだけど、素材がね…」
川内「…主砲とかは使えるの?」
夕張「前回の作戦でこっそり持ち込んで試したけど、威力は問題なし、ただ、装填とかそのあたりが全部手動なのよ」
川内「うわ、めんど」
夕張「それと、反動も大きいから…駆逐艦の子達には少し扱いづらいんじゃないかしら」
川内「そこはいいよ、やるのはアタシ達だけ、でしょ?」
夕張「そうだけど、駆逐の子だと厳しいっていうのは、正式採用した際に一般の兵隊が扱うのは難しいってことでもあるの」
川内「筋力は十分あるでしょ」
夕張「使う筋肉が変われば慣れるまでに時間もかかる、扱いが容易であることが求められてるのよ」
川内(よくわかんないなぁ…そういうの)
夕張「艦娘としての仕事は、本当に大変なのよ
生体ユニットのサポートなしの普通の人間なら、数分の戦闘だって消耗が激しくてギリギリなんだから」
川内「そんなに?作戦の時は数時間はぶっ続けで戦闘区域にいるのに?」
夕張「…私たちの体が人間の平均を大きく上回ってるの、忘れないでよ」
川内「それで、普通の人が使える様にどうするの」
夕張「地上なら休み休みできるかもしれないけど、海上はそうもいかない…
船を別に同行させるにも、リスクが大きすぎる」
神通(確かに、流れ弾でも簡単に沈みかねない…でも、それが1番現実的な様な…)
川内「…もしかして、焦ってる?」
夕張「…今の海は深海のテリトリーだけど、それを認めてたら…アイツらはつけあがる、陸地ですら、もう進出されてる…
なんとか、するしかないのよ…いつ侵攻が始まるか、わからない」
川内「…そんなに切羽詰まってる?」
夕張「荒潮ちゃんからの聞き取りで、あの行為が少なくとも1年以上続いてるのがわかった
朧ちゃんと響ちゃんが捕まってた場所も、多分」
川内「あの時、一歩遅ければ神通も…か」
神通「……」
夕張「かもね、そしてそんな手口が2回見つかった」
川内「こりゃあ全国区でやることやってるね
深海棲艦根絶やしにしないと終わんないのかなあ」
夕張(…ほんとに、戦争しかないのかしら)
夕張「荒潮ちゃーん、大丈夫?」
霞「ああ、夕張さん…」
曙「何も変化なしよ」
…やはりダメか
夕張「荒潮ちゃーん、荒潮ちゃーん?」
荒潮「……」
…この子は今、何処を見てるのだろう
ベッドの上で、静かに何かを見つめてる
夕張(…あの自傷行為も、正気を保つためには仕方なかったのかもしれない
痛みでだけ、失った姉妹とつながれてたのかもしれない…でも…)
包帯で巻かれた頭をそっと撫でる
包帯の下には傷があり、触られれば当然痛い…
ハズなのに、無反応…
曙「痛覚がダメになってるんじゃないの?」
夕張「かもしれない、もしくは、もう自我が戻らないかもしれない」
霞「……どうするのよ」
夕張(国が引き取ってくれれば良かったのに…なんで丸投げするのよ…)
夕張「口に運べば、食べてくれるのよね?」
霞「…一応は」
夕張「しばらくはそれで面倒見ましょう…」
北上「ねえ春雨」
春雨「は、はい?」
北上「福島だっけ、あたしが交戦した場所」
春雨「えーと…?」
北上「なんであそこに大量に艤装があったのか
あたしずっと気になってるんだよね、ああいう場所他にもあるの?」
春雨「ごめんなさい、わかりません…」
北上(…錆び付いて使えないけど、生体ユニットが壊れてるなら、修理すれば普通の武器として使えないのかなぁ…)
北上「…にしても、お腹減った…」
春雨「…もう夜遅いですし、北上さんは何も食べてませんからね…」
北上「一応お金はあるんだよ、4000円だけ」
春雨「……食べます?何か…」
北上「高速料金にと思ったけど、まあなんとかなるか…
でも、もう遅いからどの店も閉まって……お、ラーメンとかどう?」
春雨「……」
北上(不満そう…あと開いてるのは、何処にあるかわからないけど、何処にでもあるハンバーガーショップと丼系か…
ならラーメンだ、絶対ラーメンがいい…!)
北上「は、春雨?ラーメン美味しいよ?」
春雨「…醤油ラーメン、あります?」
北上「あー、うん…多分あるんじゃない?」
北上(それで悩んでたの…?)
店員「いらっしゃいませー!そちらのカウンターにどうぞ!」
北上「うわ、混んでる…この時間でも忙しいんだ?」
春雨「開いてるお店ないですからね…」
指定された席に座り、パーテーションをどけてメニューを広げる
北上「…何が良い?」
春雨「醤油味玉薄めで!」
北上「私醤油豚骨大盛り、薄め固めで」
店員「あいよ!」
北上「はー…お腹減った……いい匂い…ん?」
なんだろ、ラーメンの匂いに混じって知ってる匂いが…
カウンターに置かれたパーテーションを覗き込む
北上「あれ、那珂じゃん」
那珂「むぐっ!?ごほっ…!え!?」
春雨「お知り合いですか?」
北上「んー、あたしのじゃないけど」
那珂(き、北上…!?…なんでここに…)
北上「何?こんな時間にラーメン?良い生活してるね、お互い」
那珂「…そ、そっちこそ…あの、なんでここに…?」
北上「んー、病院抜け出して来た、的な?」
那珂「……」
北上「大体合ってるから、そんな目で見ないでよ」
那珂「そんな包帯巻きの姿で言われたら疑えないし…なにより、那珂ちゃんは抜け出してまでラーメン食べようとしてるのに困惑してるんだけどな〜…」
店員「醤油味玉と醤油豚骨大盛りおまち!」
春雨「ありがとうございます〜」
北上「きたきた、いただきまーす」
那珂(…奥の子、誰だろ)
北上「ふー…ずず…んー……ちょっと脂っこい…」
春雨「そうですか?丁度良いですよ」
北上「豚骨だからなのかな?…でも、やっぱ空腹時に食べるのは最高だよね…はー…おいし」
那珂「……ねえ、その…北上…さん?」
北上「ん?」
那珂「お…お金持ってるの?」
北上「奢れるほどはないよ」
那珂「……」
北上(まさか持ってないとか…?)
春雨「んー…お肉美味しい…」
北上「ずずず……うん…おいし…」
那珂(…せっかく出会ったなら、助けてもらおう)
那珂「あの…食べ終わったら、時間ありますか?」
北上「えー…?どうする、春雨」
春雨「私は大丈夫です」
北上「ならいいよ、ちょっと待ってて」
那珂「ありがとうございます…」
北上「ふー、食べた食べた、お待たせ」
那珂「あ、じゃあ、出ましょう」
春雨「あ、お会計を…」
那珂「あ…も、もう払ってるから、大丈夫…」
北上「え?」
那珂「那珂ちゃんの奢りだよっ!」
…さっきまでのオドオドした態度と急変したみたいな良い笑顔…
北上(…やられたな、借りを作られた…)
北上「で、何さ」
那珂「…私と来て欲しいんです」
春雨「えっと…?」
那珂「私は、その…ほら、コレ見て」
那珂が首輪を見せつける
那珂「ここのお店は入れてくれたけど、今は艦娘っていうだけで激しい差別を受ける…
それこそ、最近は首輪付きなんて目に見えてわかる子は…ほんとに酷い扱いを受けてる」
北上「で?」
那珂「…私に、ついて来て欲しい…今、各地を回りながらライブをしてて…」
春雨「ライブ?」
北上「待って、前に会ったとき……あー、わかった!囮?」
春雨「へ?え?」
那珂「…首輪付きの艦娘だけを狙って拉致、そんな事例は前からあったんだけど
最近は輪にかけて酷い、私はそれを調査してる」
北上「っていうか、春雨、那珂は身内がやられたから復讐しようとしてるだけだよ」
那珂「……何を思われても仕方ないけど、もうあんなことができないようにしなきゃいけないから」
北上「…とりあえず、横須賀帰るから、それまでゆっくり考えさせてよ…春雨をどうするかって問題もあるし」
那珂「へ?」
北上「…言ったでしょ、抜け出して来たって」
那珂(…首輪付き以上に厄介な人に声かけちゃった…)