食うに困った艦娘が頑張って生きようとする話   作:名無し

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四十三食目

曙「霞、口開けさせて」

 

霞「ん」

 

荒潮の口に潰したおかゆを少しずつ流し込む

 

荒潮「……」

 

曙「…コイツ、ほんとに治るの?」

 

霞「さあね…でも、この子だって不憫な目にあった、被害者よ…誰かがついてないと、死んでしまう」

 

曙「脊髄のユニット本体だけ避けて食べられてるんだっけ?…最悪よね、ユニットが壊れなきゃしばらくは再生できるからってギリギリまでいたぶられて」

 

霞「深海棲艦に道理なんか期待してないけど…アイツら、なんなのよホント…」

 

曙「バケモノって単語で十分でしょ」

 

コンコンとドアを叩く音がして夕張さんが入ってくる

 

夕張「どう?」

 

曙「ダメ、うんともすんとも言わないわ」

 

霞「食事は摂るけど…自分では何もしない、言われた薬も飲ませてるけど…」

 

夕張「…聞こえてはいるわよね?前話したもんね」

 

夕張さんが荒潮の正面に立ち、顔を近づける

 

夕張(意識はある、でも、声を聞いても瞳孔が動かない…それに、私を認識してない?

…私じゃだめってことか…)

 

曙「どうするか決まった?」

 

夕張「まだ、それにしても…痛み痛みって割に、前触った時は無反応だったし…あれ?包帯は?もうつけてなくていいの?」

 

霞「全身治癒したわ、修復材が回ったのよ」

 

夕張「ならもう普通に活動できるのよね…

どうしようかなぁ…このままにしとくわけには…」

 

曙「なんとか動いてくれないものかしら」

 

霞「外の病院は?」

 

夕張「もちろん、受け入れ拒否よ」

 

霞「…どうするの?」

 

夕張「…治さなきゃいけない所があるとしたら、生体ユニット、もしくは脳…それか精神」

 

霞「治せるの?」

 

夕張「わからないけど、仕事だしね…」

 

曙「艤装も担当してるのに?無茶よ」

 

夕張「でもやらなきゃ、この子は生きることも死ぬことも出来ない」

 

曙「そうは言っても、でしょ…」

 

夕張「…試せる手段は全て試す、生体ユニットに関しては…特別な施設がいるから無理だけどね」

 

曙「手段って?」

 

夕張「ショック療法とか、色々とね…でも、その前に…思い当たる節を色々試すわ」

 

霞「思い当たる節?」

 

夕張「…これよ」

 

曙「作戦記録の冊子?」

 

夕張「さすが中央よね、この子の名前さえわかってれば、所属を特定するのも難しくなかった

神戸の荒潮、姉妹艦は3名、朝潮、大潮…」

 

荒潮「…姉さん…?」

 

曙「あ!?」

 

荒潮「姉さん…居るの…?」

 

夕張「荒潮ちゃん!聞こえてる?!」

 

荒潮「姉さん…どこ…置いていかないで…」

 

霞「死人に引っ張られてんじゃないわよ…」

 

夕張「……」

 

霞「え?」

 

夕張さんが荒潮の肩を片手で掴み、もう片方の手を振り上げる

そして…

 

曙「ちょっ!待っ…」

 

バチン

 

霞「……ビックリした、本当に叩いたのかと…」

 

…自分の手を叩いた…?

てっきりビンタするのかと…

 

夕張「そんなわけないでしょ、でも…漸く、私を見てくれた、わよね?」

 

荒潮「……え、え…?ゔっ」

 

夕張さんが片手で両頬を掴み、自分に顔を向けさせる

 

夕張「お目覚め?おはよう、聞こえてる?」

 

荒潮「……えっ、と…」

 

夕張「…荒潮ちゃん、私を見て、すぐに良くなる必要なんてないの、ただ、理解して、私たちはあなたの敵じゃ無いの」

 

荒潮「私、荒潮なんですか…?」

 

夕張「え?」

 

霞(記憶喪失?…いや、違う)

 

荒潮「だって、私、全部食べられて…なんで?

私はもう、私じゃなくて、再生された何かで…私は、何…?」

 

夕張「…落ち着いて、荒潮ちゃんは荒潮ちゃんでしょ?」

 

荒潮「……なんでですか?…私は…私って、何…?」

 

荒潮が手を動かそうと暴れる

拘束具がガチャガチャと耳障りな音を立てる

 

荒潮「嫌だ、こんな私、私じゃ無い!

気持ち悪い…!誰なの!誰なのよ!!」

 

夕張「…これは…手枷つけたままでよかった…って感じかしら…」

 

曙「言ってる場合?」

 

夕張「…荒潮ちゃん、あのね…薄っぺらいこと言うようだけど、人間生きてれば辛いことは…」

 

荒潮「私は、人ですら無いでしょう…?」

 

夕張「え?」

 

荒潮「だって、ほとんど食べられて、修復材で再生した体なのよ?…こんなの、人間って言える?

アンドロイド?サイボーグ?ゾンビ?なんでもいいけど…もう、人間じゃ無いの…」

 

夕張「いや、それは…」

 

霞(否定の言葉を並べるのは簡単だけど、それじゃなんの救いにもならない…)

 

荒潮「…ねえ、殺してよ…姉さんたちのところに行きたいの…死なせて」

 

曙「…いい加減にしてよ」

 

霞「生きてるだけ幸せだとは、思わないの?」

 

荒潮「…幸せ?…こんなの、地獄よ…

自分の体すら気持ち悪い、もう何も無いのよ…どんな思いで生きていけば…」

 

夕張「…もう、誰も残ってないの?

荒潮ちゃんにとって大切な人は、誰も残ってないの?」

 

荒潮「…大切な人…?」

 

夕張「荒潮ちゃんを想ってくれる人よ

もし居るのなら、その人のために生きて」

 

荒潮「想って、くれる人…?

私の事…を……大井さん…?それと…青葉さん…?」

 

夕張(良かった、居るんだ…)

 

夕張「…なら、軽々しく死んじゃダメよ、荒潮ちゃんと同じ辛さをその人達に味合わせるのよ?」

 

荒潮「…でも…」

 

曙「体が何?そんなの人間なんて4ヶ月で全身の細胞が入れ替わるのよ?

骨すらも4年あれば別の細胞になるらしいわ」

 

霞「へえ…じゃあ、四年経ったら別人ってこと?どう思う?」

 

荒潮「それは…違う話よ…」

 

夕張「再生治療なんて、ちょっと代謝が早いくらいに思えばいいのよ」

 

荒潮「…そう…」

 

 

 

夕張「とりあえずは一歩前進か…薬を強くするから、もう暫くよろしくね」

 

曙「良くなったんじゃないの?」

 

夕張「一時的に良くなったように見えただけ、厳しい言い方だけど、治ったと思っちゃダメよ」

 

霞「拘束具は?」

 

夕張「…外したくないわね、ヤケを起こされたらちょっと面倒だし…でも、厄介を押し付けるわけじゃないけど、近しい相手がいるなら…」

 

曙「大井に青葉ね」

 

霞「調べておくわ、まあ、今の所在なんてわかりっこないけど」

 

夕張「お願いね」

 

 

 

 

 

那珂「…あのー…」

 

北上「ん?…ふぁに(なに)?」

 

那珂「…な、なんでバッタ食べてるんですか…?」

 

北上「お腹減ったから」

 

春雨「そう言う人なんです、はい」

 

那珂「えぇ…?」

 

北上「春は実りの季節だよねぇ…ほら、つくしの塩茹でできたよ」

 

那珂(空き缶にお水入れて沸かしてる…)

 

北上「川ってこの辺ある?ザリガニとかいないのかな」

 

那珂「…あの…仮にも那珂ちゃん達アイドル…」

 

北上「生きるのが優先だよ」

 

那珂「そ、それはそうだけどぉ…!」

 

春雨「…北上さん、虫、私も食べます…!」

 

北上「おっ!いいよー、食べな食べな」

 

那珂「えっ…食べるの…?食べちゃうの…?」

 

北上「食べれるようになったんだね、いいことだー」

 

春雨「畑いじりしてた頃のおかげでしょうか…」

 

那珂「…な、那珂ちゃん…何か食べられるお店…」

 

北上「入店拒否されまくったからこれで我慢してるんでしょーが」

 

春雨「有名になったせいで首輪がなくても入れませんからね…」

 

北上「平和的活動してるの理解してくれないかなぁ」

 

春雨「……あ!」

 

北上「ん?どした?」

 

春雨「……い、いえ、なんでもないです!はい!」

 

那珂(絶対何か思いついてる…よくない方向で)

 

北上「…でもこの調子じゃ岐阜つくのは3日後くらいかなぁ…?ライブもせず、普通に歩いて今…どの辺?高尾山の横通ったあたりか」

 

那珂「線路に沿って進んでるから迷うことはないけど」

 

春雨「道もある程度は整備されてるので…」

 

北上「…物足りないなぁ」

 

那珂(20匹は食べてたのに…)

 

北上「流石に野生動物は捕まえられないし…いや、池があればカエルくらいは…あれはまだ楽なんだよね、捕まえるの」

 

那珂「か、カエルまで食べるの!?」

 

北上「え?カエルは初心者向けだよ?」

 

春雨「前に、大量の芋虫を焼いて食べてた時は気絶しそうになりました」

 

那珂「…っ……わ…ぁ……」

 

春雨(言葉失っちゃった…)

 

北上「…良いもの食べて育ってきたんだね」

 

那珂(お、おかしいな、一般家庭レベルのはずなのに…今まで食べてたものが急に恋しくなってきた…)

 

北上「いつの時代も節約は必要だからね、我慢してよ」

 

春雨(北上さんのは一線越えてます…はい)

 

那珂(うう…お腹減ったけど、言い出したら絶対虫食べなきゃいけない…昔の修行を思えば…うう…)

 

北上(……我慢してるな…これじゃダメだ…入れるお店探さないと…那珂潰れちゃうかなぁ…)

 

北上「ま、それは明日の話だ」

 

春雨「?」

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